第82話 ロングフェロー入国①
愛想笑いと与太話だけで地獄のような3時間を過ごし、俺たちは無事ティズカールに到着した。
アギトやバロックの経歴を探ろうと思ったが、彼らは軍から勉強してこいと言われてきたと言って、多くを語らなかった。
それ以上にアギトが俺たちのことを俺のハーレムパーティだと思っているらしく、質問攻めにしてきたことで取り付く島もなかったのだ。
三人に均等に愛情を注げるのか? 寝るときはどうしてるのか? それぞれのどこが好きなのか?
知らんがなと言いたくなるのをこらえ、ニヤニヤしているレオナにムカつきながら適当な答えを並べるのに苦心した。
ティアやミユキはフォローしてくれたので事なきは得たものの、なんだかみんな最後は俺の狼狽える姿を楽しんでいた気がする。
「あー……ようやくついた」
「ご苦労さまでした……その、大変でしたね」
ミユキの労いを受け、俺はゲッソリしながらティズカールの駅に降り立つ。
駅に降り立った瞬間、俺の頬を爽やかな風が撫でた。
国境の街らしく、ホームには異国風の衣装をまとった旅人や兵士の姿も目立ち、警備の厳重さを感じた。
先ほどまでいた帝都とはまるで空気が違う。
ホームの片隅では、荷物検査を受けている商人風の一団が揉めているなど、ここが境界線の街であることをひしひしと感じさせる。
白い外壁に囲まれた駅舎は石造りで、光石の照明が淡く揺れていた。
観光地とは違う、実務的で簡素な雰囲気が漂っている。
俺たちは、そんな風景を横目に見ながら、ロングフェロー行きの列車に乗り換えるべく、国境管理局の列に並んだ。
カウンターには、ロングフェローに向かう観光客や冒険者の姿があり、手続きには少し時間がかかりそうだった。
アギトたちは翌朝の便らしく、駅を出てようやく別れることができた。
そこで俺たちは、列に並びながら情報整理に入る。
「スキルはそんな感じで、工兵、諜報、爆弾作成あたりが気になったかな」
俺はアギトとバロックのステータスをティアに伝えた。
「騎士学校は色々な国の軍人や冒険者にも門戸が開かれているから、不自然とまでは言えないけど……」
ティアはアギト達が本当にただの軍人なのかを判断しかねているようだった。
「ティアちゃんはどうして騎士学校の試験を受けると言ったんですか?」
俺も一番そこが気になっている。
ミユキの質問に、ティアは微笑を浮かべて答えた。
大体こういう顔をしているときは、お得意の皮肉が飛んでくるのだ。
「二人は昨日の夜こっそり抜け出してイチャイチャしに行ったから知らないだろうけど、アポロニアさんから言われててね。騎士学校で最近少し問題が起きてるって」
「す、すみません……」
「別に責めてないけど? なかなか帰ってこないから色々察しただけだけど?」
「な、なにもないよ何も!」
昨夜も最後まで情報収集に余念が無かったティア。
それなのに俺とミユキは屋敷を抜け出してベンチに並んで手を繋ぎながら座り、小一時間夜景を眺めていただけだ。
まあチクリと言いたくなる気持ちも分かる。
ウィルの命令という言い訳が通じるわけもない。
ちなみにまったくの余談だが、こっそりパーティ会場に戻ったらティアからポンポンと肩を叩かれて頷かれた。何その反応。
「わかったわかった。脱線させたのは私だね、ごめん。で、騎士学校に行かないって答えたら、行く必要が出たときに困るでしょ。だからそう言ったの」
「行く必要なかったらどうすんの?」
レオナの言葉に、ティアは肩をすくめる。
「彼らにもう会うこともないからどうでもいい」
確かに。
頭の回転が速いのか、口から出まかせが上手いのか、ティアの機転に関心しつつ列を進んでいく。
「ティアちゃん、騎士学校の問題というのは?」
「アポロニアさんの話では、行方不明者が出てるみたい」
行方不明というと、確かに少しきな臭い。
エルルや帝都地下水道など、ミューズが出て来たクエストは必ず行方不明者がセットになっていたからだ。
「それは……なるほど、ミューズかもしれませんね」
「まあセーヴェンのギルドに行けばクエストがあるかもね。それに、騎士学校には正直行ってはみたいし……」
ティアは珍しく言葉に詰まったようだった。
「ミクローシュって人のこと?」
俺はあえて真正面から訊いてみた。
空気を読んで触れなくてもよかったのだが、ティアは話したいのではないかと思ったのだ。
ティアは一瞬驚いた顔をしたが、優しく微笑んで頷いた。
「うん、私の義姉さん。昔騎士学校の思い出なんかも聞いたことがあるから。ごめん、さすがに勝手すぎるけど」
ティアははにかみ、申し訳なさそうに言った。
「そんなことないですよ。クエストでなくても、見学くらいはできるかもしれません。お義姉さんを感じられるような何かがあるといいですね」
「だね。どうせティアの私情全開の旅なんだし、好きなとこ行けばいいじゃん」
ミユキもレオナも、もちろん俺も、そんなこと今さら気にしてどうするんだとティアの背中を押してやる。
願わくば、美しい思い出だけが眠る場所であってほしいものだが、どうなることやら。
そんなこんなで無事出国手続きを終えた俺たちは別の光導列車に乗る。
車両内部は先ほど乗ったものと同じだった。
ちなみに出国の手続きは、旅の目的や冒険者歴を軽く聞かれた程度だった。
荷物の中身も見られたが、ポーションと着替えくらいしか入ってない。
レオナのトランクには大量のナイフが入っていたため一瞬、係員の目が細くなったが……Bランクのそこそこ実績ある冒険者ということで何とかスルーされたらしい。
かくして俺たちは、紆余曲折ありながらも無事ゴルドールを出発してロングフェローに入国できることになった。
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