第81話 光導列車②
帝都から光導列車に揺られること2時間ほどが経過し、窓の外の延々と続く草原や荒野の景色にも飽きてきた俺たち。
途中、帝都南部にある大きな街『バリフ』に停車した。
帝都とティズカールのちょうど間くらいにある中継地点で、交易都市として栄えているらしい。
お土産としてガストン氏から渡された昼食のサンドイッチをみんなで食べ終え、人の乗り降りを眺めながらのんびりと座っていたときのことだ。
「っぶねー! 乗り遅れるところだった」
「お前が女に声ばっかかけてるからだろ」
前方から、二人の男が乗車してくるのが見えた。
一人は金髪の髪を後ろで結んだ軽薄そうなイケメンで、青い瞳に笑みを浮かべながらドカドカと歩いてくる。
もう一人は、ウェーブがかった茶色の短髪の男。こちらもかなりの男前だったが、真面目そうな見た目で金髪に振り回されてるんだろうなと一目で分かる表情を浮かべていた。
二人とも金の刺繍が施された黒いジャケットを羽織った騎士風のいで立ちで、腰には細身の剣を帯びている。
「わりーわりー。けど可愛い子には声をかけといた方がいいだろ? 各地に寝床があった方が旅費も浮くしさ」
「お前経費なんか気にしたことないだろ」
同僚の悪友同士といった感じの二人は、通路を挟んで俺たちの隣の席に座った。
暇を持て余して何となく彼らを横目で見ていると、金髪の方と目が合ってしまう。
「ん? ああごめんねうるさくってー。っていうか君たちみんな可愛いねー。特に白黒頭の君、その髪すごくチャーミングだよ」
と言いながらウインクされたので俺の背筋にゾワゾワと悪寒が走る。
いい加減女に間違えられるのも慣れてはきたが、男に口説かれるのだけは本気で勘弁してほしい。
「やめろアギト。すみません気にしないでください」
「ああいや、全然」
「えっ!男!? マジで!? くそっ、早く言ってよー! 俺、今ちょっとキュンとしたじゃん!」
アギトと呼ばれた金髪の方が身を乗り出して目を丸くし、茶髪が額を押さえて天を仰いだ。
俺の声を聴いて、ようやく男だと分かってくれたようだ。
まあ俺の声は男としては高めだが、女性にしては明らかに低いので喋れば気付いてはもらえる。
「やめろ。失礼だろ」
茶髪の方がアギトを嗜める。
何か変なのに絡まれたなーと思いつつ、ティアをチラリと見ると、指を顔の横でクイッと曲げた。
「一応ステータス見とけ」の合図だ。
「いいですよ、よく言われるんで」
というわけで、俺は頭をかくふりをしながら、鳥肌を立てさせやがった金髪チャラ男の方からチェックする。
――――――――――――――
▼NAME▼
アギト=グラスランド
▼AGE▼
25
▼SKILL▼
・工兵A+
・RFTA B
・斥候 C
・罠解除 C
・諜報 B
――――――――――――――
工兵とあるので、どこかの軍人、あるいは軍人上がりの冒険者なのかもしれない。
確かに一見スラリとした体躯だが、明らかに鍛えられた肉体だ。
続いて茶髪の方も見てみよう。
――――――――――――――
▼NAME▼
バロック=レブナント
▼AGE▼
25
▼SKILL▼
・工兵 A+
・RFTA B
・爆弾作成 C
・諜報 C
――――――――――――――
「ばっ……!」
爆弾の文字に、俺は思わず声をあげてしまいそうになるのを、慌てて口を押さえて留める。
ティアからのギロリとした視線が痛い。
「どうした? ば?」
チャラ男ことアギトが怪訝そうな顔で俺を見ている。
「ば……ッキバキなんですよ僕の腹筋! ほ、ほら触ります?」
自分でも無理があると思いつつ、俺はシャツをまくり上げて白い肌に6つに割れた違和感バリバリのシックスパックを見せつける。
ミユキが両手で口元を押さえて目をそらしたのが横目に見えた。
「おお、確かに。っつかすげー傷だな、大丈夫か?」
そうまじまじと見られても恥ずかしいのだが。
デュランに殴られようやく完治が近い肋骨に、ルキやらリュウドウやらにエグられまくってズタズタの脇腹周辺を見て、アギトは心配そうに眉をひそめている。
「あの、ナンパなら他所でお願いできますか?」
見かねて、ティアがはっきりとそう言ってくれる。
『爆弾作成』スキルのことは気になるが、今は話すわけにもいかない。
とりあえずティアに差し向けられた刺客ではなさそうだが、怪しいといえば怪しい二人組だ。
「いやごめんごめん! そんなんじゃねーんだ。まあでもほら、旅は道連れとか言うだろ? 俺はアギトで、こっちがバロック。君たちどこまで行くの?」
アギトがティアの冷たい視線をまるで気にしない様子で、軽薄なトーンで喋り続ける。
バロックの方は頭を押さえてため息をついている。
「だからナンパは他でやれっつーの。アタシらみんなこのフガクの女なんでー、無駄でーす」
レオナが適当なことを言ってあしらおうとしている。
ちなみに俺の名誉のために言っておくが、もちろんみんな俺の女などではない。
「マジでっ! うらやましー! おいフガク、どこでこんでな美女たち捕まえたんだよー。俺にも教えろよー」
身を乗り出して俺の方をガシッと掴みながら切実な面持ちでそういうアギト。
やかましい奴だ。
男版のリリアナみたいだと思いながら、俺は曖昧に笑った。
「アギトいい加減にしろ。悪いな、俺たちはセーヴェンまで行くところなんだ、君たちも見たところ冒険者のようだが、もしかして騎士学院に?」
「どうして?」
意外にもティアがバロックに食いつく。
この世界の人にとってセーヴェンといえば騎士学校なのかもしれないが、だからといってピンポイントで示してくるのを不思議に思ったのだろう。
「いや、この時期のセーヴェンは騎士学院の編入試験だから。この列車にもそれっぽい奴を何人か見かけたし」
言われ、ティアが顎に手を当てて思案し始める。
確かに、アポロニアからも騎士学校についてはチラリと聞いている。
ティアの義姉のミクロ―シュという人も通っていたようだし、無関係ではないが
「ええ、実はそうなの。あなたたちも試験に?」
ティアはどう答えるかを一瞬考えたようだったが、
「ああ。なら現地でも会うことになるな」
「んだライバルかよー。つーか何フガク? オマエ女連れで試験受けに行くの? ハーレムでも作ろうとしてんの?」
「い、いやあ……」
ティアの考えが分からないので、俺は曖昧に笑ってやり過ごす。
これぞ前世で生粋の日本人だった俺が、30年以上かけて習得したスキル『愛想笑い』だ。
どう答えたらいいか分からないときに使うと無難にその場をやり過ごせる効果がある。
「ね、フガク! みんな一緒に学校に行けるの楽しみだね!」
ティアははつらつとした笑みを浮かべている。
俺はよくもまあそんな純粋な幼馴染っぽく笑顔を作れるもんだと感心しながら、とりあえず彼女に乗っかることにした。
「そ、そうだね! アハ、アハハハハ……」
というわけで、俺はここから国境までのあと何時間かを、適当に相槌を打ちながら過ごすことになる。
ティアの意図はアギトとバロックと離れられる国境の街まで分からないが、少なくともこの騎士学校が、俺たちの新たな旅路の最初の目的地になりそうだった。
<TIPS>
お読みいただき、ありがとうございます。
モチベーションにもつながりますので、もしよろしければぜひ評価や感想などいただけると幸いです。
評価は下の「☆☆☆☆☆」から行えますので、よろしくお願いたします。




