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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第三章 狂気の勇者編

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第72話 新世界へ



ギルドへの報告を終えた俺たちは、帝国軍の本営テントでウィリアムやビクトールたちと向かい合い、最終会議に臨んでいた。


「つまり、あの魔獣は『ミューズ』という呼称で、お前たちはそれを討伐するための旅を続けているということだな?」


 正面に座るビクトールが問いかけ、ティアが頷いて応じた。


「はい。元々はレッドフォートの研究所において、"ヴェロニカ=フランシスカ"と"アンドレアル=ガウディス"という2名の共同研究によって生み出されたものでした」


 ティアはミューズの出自を初めて公にした。

 これまではあえて伏せてきた情報だが、もはや隠す必要はないと判断したようだ。

 ただし、“人口の聖女”という正体だけは伏せてある。

 あくまでも、フランシスカ研究所が偶然生み出した怪物ということにした。


 セレスティア=フランシスカが生きていることはバレているが、いたずらに広めることもない。

 聖女=天使の力を軍事利用しようと考える国があってもおかしくはないからだ。


「……なるほどな。レッドフォートで孤児を使った非道な研究が行われていたという話は聞いていたが、ティア殿がそこの出身だったとは」


 ウィルも少し驚く素振りを見せたが、フランシスカ研究所の問題が発覚して断罪された件は海を挟んだこちらの大陸にも情報としては届いているようだ。

 それがミューズという怪物を生んだということまでは、知られていなかったらしい。


「お前たちは既に5体のミューズを討伐してきたらしいな。ギルドを通して白い肌をした人型の魔獣の情報は集まっている。

 これまでも同一の種族の可能性は検討されていたが、この目で見るまでは正直信じられなかった」


 ビクトールも腕組みをしながら、困惑するように深く頷いた。

 俺がパーティに加わって倒したミューズは今回で3体目だが、それ以前にミユキとティアは2体のミューズを討伐したと聞いている。


 ビクトールの反応は無理もない。

 ミューズは個体ごとにあまりにも形状が異なるため、実際あの白さと不気味さを見るまでは元が自分たちと同じ人間だとは信じられないだろう。


「既にこの地を去ったミランダ=ガラドリエル以下3名の冒険者たちは、何らかの目的でミューズが持つ『赤光石(しゃっこうせき)』という赤い石を狙っているというわけか」

「はい。『赤光石』によってミューズが変異した実例もあります。彼らが軍事利用あるいやミューズ研究の再開を企てている可能性は否定できません」


 俺たちが情報を帝国軍に提供するのは、今後の情報収集を加速させるためだ。

 ウィルブロードにいるらしきティアの支援者たちに情報を集約し、ガウディスやリュウドウたちを討つための備えを行っていく。


 しかし、相手はバルタザル国立研究所という、国レベルで本件に関わっている可能性がある。

 そのため、今度は決して逃がさぬようあらゆる方面から包囲網を敷いていく必要がある。

 

「ティア殿、君はウィルブロードの“聖庁”の支援を受けていると考えてよいのか?」


 そのあたりのことは俺も今だによく知らない。

 隣に座るティアを横目で見ていると、彼女は真意の読めない微笑みのまま頷いた。


「はい、シグフリード第一王子殿下にご支援いただいています」


 ビクトールが核心を突くように問うと、ティアは微笑を浮かべたまま頷いた。

 彼女の口から初めて出た王子の名。それが意味するものの大きさに、場が一瞬、静まり返った。

 逆隣に座るレオナなんか理解できているのだろうか。

  

「ほう、次期国王か。心強いだろう」

「はーい質問。『聖庁』って何?」

 

 すると、レオナが元気よく手を挙げて質問を投げかけている。

 そうやって素直に「分からない」と訊けるのは偉いと褒めてやりたい。

 俺なんか聞きたくても割り込めなかったので、むしろありがたいと耳をそばだてる。


「ウィルブロード皇国は王室、つまり政府と、国教を管理する"聖庁"の2つに権力が分散してるんです」


 ミユキがティアの代わりに答える。


「じゃあティアはその聖庁の人ってこと?」

「まあそうだね。私は聖庁の元警護兵ってところかな。ヴァンディミオン大帝と過去に会ったことがあるのもシグ……えーと、王子と一緒にゴルドール帝都に連れられてきたことがあるからなんだよ」


 俺の知らない話が次々と飛び出してくる。

 ヴァンディミオン大帝と顔見知りだったのはそういうわけか。

 大帝も王子がどうとか言ってたし、ティアとウィルブロードのシグフリード王子に繋がりがあるからだったんだな。


 そういえば、リリアナが「王子を紹介しろ」とか、いつだったか言っていたような気もする。


「とりあえず、ミューズの件は各ギルドに伝達する。情報があればウィルブロード側にも伝えるようにしよう」


 ウィリアムがそう言ってくれた。

 また、俺たちがリュウドウたちと私闘と行ったことは、向こうから吹っ掛けられたこともありお咎めは無しとなった。


 さらに、今回は戦果も大きく、一様に冒険者ランクがアップすることとなっている。

 今の俺たちのランクはこんな感じだ。


 フガク:D→Cランク

 ミユキ:A→Sランク

 ティア:B→Aランク

 レオナ:C→Bランク


「やっと俺もCか……」


 この中だと俺が一番ランクが低い。

 Bランクくらいまで行くと堂々と名乗れそうなのだが。


「Cランクはもう一人前の冒険者ですよ。しかも冒険者になってまだ1ヶ月弱です。ウィルブロードに着くころには、フガクくんSランクになっているかもですね」


 ミユキは励ますようにそう言ってくれたが、それってウィルブロード到着までにあと何回か死ぬような目に遭うってことだろうか。

 勘弁してくれと思いつつ、ランクは俺が強くなれば自然と付いてくるだろうと今は気にしないことにした。


「しかし、クリシュマルド殿はついにSランク冒険者か。名実ともに英雄だな」


 ウィルは自分のことのように、誇らしげにいった。

 単純に『人喰い』の強さに魅せられた一ファンといった表情で、ミユキに笑いかけている。


「いえそんな……! 皆さんのご支援があってこそです」


 恥ずかしそうに手を振りながら、ミユキは謙遜していた。


「ふっ、謙虚も過ぎれば嫌味だぞクリシュマルド殿。貴殿は今回のクエストで多くの騎士や冒険者を救ったのだ、胸を張れ」

「は、はい……!」


 ビクトールの言葉に、ミユキはピシッと背筋を伸ばして頷いた。


 俺たちは、Sランク冒険者ミユキをリーダーとするパーティとなった。

 もちろん実態はティアが完全にボスなわけだが、見栄えを考えてティアがそう提案したのだ。

 Aランク冒険者と、Sランク冒険者では影響力がまるで違うとのこと。


 帝国とギルドが結集してかからなければならない高難易度クエストにおいて、数多の冒険者や騎士たちが苦戦を強いられる中、敵の主力個体を一人で屠るという英雄的活躍を見せている。


 ミユキ=クリシュマルドは、『人喰い』の逸話だけでなく、今回のミューズ討伐で大陸各地に名を轟かせることだろうとウィルも言った。


 もちろん作戦に参加した多くの人々との共通の戦果でもあるわけだが、それでもミユキ抜きであの破壊的に強いミューズを撃退できたかと言えば疑問は残る。


「お前たちはSランク冒険者のパーティだ。もはや受けられないクエストはないが、その分衆目を集める存在だ。今回のような私闘は起こさないようくれぐれも注意してくれよ」


 ビクトールからも釘を刺された。

 もちろん好き好んでそんなことするつもりはない。


 またぶっちゃけた話、報酬も4人でかなりの額をもらっている。

 一気に金持ち冒険者になった俺たちが、旅の路銀で困ることは当分無いだろう。


「もちろんです。この度はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 ティアの丁寧な謝罪に、ビクトールもウィルも顔を見合わせて笑い飛ばした。

 

「素直だな。まあいいさ。それと、これは単なるお節介だが、当然Sランク冒険者は他人からのやっかみや憧れの対象にもなる。十分に注意した方がいい」

「はい。肝に銘じておきます」


 ミユキは頷いた。もっとも、彼女は身をもって理解しているだろうが。


「余計な話だったな。それより、お前たちはこれからどうするんだ?」

「ウィルブロードに一度戻ろうと思います。ロングフェロー経由で、途中ミューズと遭遇すれば討伐も行いますが」


 ロングフェロー王国といえば、ゴルドールの西にあり、ウィルブロードの南にある国だ。

 エフレム達『回帰派』と呼ばれる、魔女の本拠地である『フレジェトンタ』もロングフェローにある。


「こちらからもロングフェロー側のギルドに話を通しておこう」

「助かります」


 というわけで、これにて俺たちの報告会は無事終了と相成った。

 リュウドウ達の件があるのであまり勝った気はしないが、冒険者ランクも上がって報酬も稼いだ。


 あとはここからの旅路でどれくらい消えていくのかというところだが。

 現実的な話、クエスト自体は大成功というのが今回の結果となった。

 


―――



 その後俺たちはキャンプを去り、帝都に戻るためギルドが手配してくれた馬車に乗り込んだ。

 帝都までは3日ほどの道のりで、今のうちに今後の方針を決めるパーティ会議を開くことにした。


 本来ならこのままロングフェロー王国に向かいたいところだった。

 しかし、アポロニアへの挨拶や旅支度などもあるため、一度帝都に戻るのだ。


「さて、まずは改めてみんなごめん。私が取り乱して迷惑かけたね」


 ティアは全員の前で頭を下げた。

 俺たちは全く気にしていないが、彼女なりのケジメというやつだろう。

 

「大丈夫ですよティアちゃん。こういうのはお互い様です」

「そうそう、むしろティアも人間だったんだなってちょっと安心したくらいだよ」


 ミユキが柔らかく笑いかけ、レオナも冗談交じりにそう言う。

 ティアは照れたように微笑んで返す。


「ありがとう。それで早速なんだけど、これからの方針を説明するね。まず私たちは一旦帝都に戻って、旅支度を整えたうえでロングフェローに向けて出発する」


「長旅になりそうだね」


 俺は地図の位置関係を思い浮かべ、ロングフェローとの距離を脳内で計算する。

 馬車に何日揺られて腰を痛めることになるのかと、少しげんなりした気分になっていると――


「帝都から国境の街"ティズカール"までは『光導列車』が出てるから、数時間で着くよ」

「え、そうなの?」


 予想外の単語に思わず聞き返した。

 『光導列車』という響きからすると、鉄道のようなものだろう。

 ただ、ここまで馬車と徒歩で移動してきたせいか、そんなインフラがあるとは想像していなかった。


「列車なんてあったんだね」

「主要都市や物資の集積地みたいな要地にはね。だからエルルには無かったでしょ」

「"ティズカール"からはどうするの?」


 続いてレオナがティアに問いかける。


「国境越えの列車に乗り換えて、セーヴェン』という街に向かう。帝都出発から翌日にはもうロングフェローに着くよ」


 馬車にずっと乗っているのは腰が結構辛いものだ。

 しかし、どうやら今回は馬車地獄からは解放されそうだった。


 もっと各地に鉄道網を張り巡らせてくれればいいのにとも思う俺。

 ただ街道を少し逸れれば魔獣も出るし、険しい環境の地域もあることを考えると、インフラを維持するのも楽ではないのだろう。


「んじゃまたとりあえずギルド巡りで情報集めって感じ?」

「どうだろう。今回でミユキさんはSランク冒険者になったから、非公開情報を回してもらいやすくなったし、それ次第ってところかな」


 目的地はロングフェロー王国の『セーヴェン』。

 この世界の列車に乗るのは初めてで、俺は少しだけ胸が躍っていた。


「ミユキさんはその『光導列車』っていうのには乗ったことあるの?」

「いえ、実は私も初めてで、ちょっと楽しみなんです」

 

 そう言ってミユキは照れたように笑っている。

 列車が日常の足として普及しているわけではないのは、確かなようだ。


「それから、ロングフェローに行く前にみんなに絶対に覚えていて欲しいことがあるの」


 ティアの声のトーンが少し変わった。

 これまでの緩い空気で流れていた俺達に、ピリッとした緊張が走る。


「覚えててほしいことって?」

「ロングフェローはそんなに危険な国ということも無いはずですが……」


 レオナとミユキが立て続けに問いかける。


「ロングフェローには、絶対に敵対してはいけない相手が4人いる。『三極将』と"魔女メルエム=メハシェファー"よ」


 メルエム=メハシェファーは、エフレムが「お母さま」とか言っていた『回帰派』と呼ばれるヤバい魔女団体のトップのことだろう。

 一方で、『三極将』という名前は初めて聞く。

 ティアの言葉に、ミユキやレオナは聞き覚えがあるのか「ああー」という反応をしている。

 そんなご存じみたいに言われても俺は当然知らない。


「ティア、『三極将』って何?」


 名前は何となく強そうなイメージがあるが、そんなにヤバい連中なのだろうか。

 俺は素直にティアに訊いてみる。



「"ミハエル=ヴァルター"、"オーギュスト=ガレオン"、そして"エリエゼル=メハシェファー"。

 ……ロングフェロー軍属の三人の将兵のことだよ」



 ティアの表情は真剣そのものだった。

 そして俺はまだ、ティアが「戦ってはいけない」と言った意味を正しく理解していなかった。


 ――この『三極将』と魔女が、今後の俺たちの旅路と戦いに大きな影響を与えることを。


お読みいただき、ありがとうございます。

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