第59話 黒鉄の暗殺者①
青白い顔無し狼と冒険者が入り乱れ、砂塵舞う谷で、俺は暗殺者ルキと対峙していた。
そもそもこいつは何で俺を狙ってきたのか。
『トロイメライ』から差し向けられたアサシンなら、レオナのようにティアを狙う者じゃないのだろうか。
もちろん、彼女の元にこいつを向かわせるつもりなど無いのだが。
「どういうつもりだ。僕がお前と戦う理由なんかないぞ」
俺は銀鈴を構えながらルキに問いかける。
その隙に、スキルも確認してやろう。
――――――――――――――
▼NAME▼
ルキアン=ダラス
▼AGE▼
25
▼SKILL▼
・鉄葬拳 SS
・格闘 S
・暗殺 B+
・諜報 B+
・暗器 C+
――――――――――――――
同い年かよと突っ込みたくなった。
こいつといいリュウドウといい、同じ年月を生きてきてどうしてこうも違う人間になるのだとため息が出てくる。
もうちょっと人と仲良くできないもんかね。
ルキはゴキゴキと肩を鳴らしながら、禍々しい黒鉄の爪を装着した爪をガチャガチャと動かす。
「あー? そうだな……別に理由なんざありはしねえが、オマエが一番面白そうだからだッ!!」
ルキは血を蹴り、宙に舞い上がった。
掌を開き、五爪が俺を引き裂くように振り下ろされる。
俺はそれを後ろに飛んでかわし、ルキに向けて銀鈴と薙ぐ。
「ふざけるな! んな理由でこのクソ忙しいときに相手なんかしてられるか!」
しかし、こいつは俺の一撃を手甲で受け止める。
キィィイイン!! という金属同士がぶつかる高い音が戦場に響いた。
ルキは口元に歪んだ笑みを浮かべたまま、俺に対して固いブーツの底を叩きつけるような蹴りを繰り出す。
レオナ同様、体術に優れているが、体格もよく動きもさらに鋭い。
レオナが身軽さを活かした蜂のようなアサシンだとすれば、こいつは虎だ。
一撃一撃が重く、当たれば俺の体格ではぶっ飛ばされる。
「いいやしてもらうぜぇぇえ! お前はあのクソガキをヤったんだってな! あいつをブチ殺せるのは『トロイメライ』でもオレくらいのもんだ!」
鉄の拳が、俺の脇腹に突き刺さる。
巨大なハンマーで殴られたような痛みが全身を駆けぬけていく。
「ぐっ……!」
こいつは強い。
レオナはアタシより弱いなんて言ってたが、とんでもない。
こいつは体術だけならミユキとも渡り合えるレベルだ。
「おいおいおいー! こんなもんで終わってくれんなよ可愛い子ちゃんッッ!」
「フガクだ馬鹿野郎!!」
俺は横なぎに襲い掛かる奴の爪を身を屈めてかわし、脇腹を切り裂きながら横を走り抜ける。
「ハァッ! そうこなくっちゃなっ!」
ルキは嬉しそうに凶暴な笑みを浮かべながら、まるで野球のアンダースローような構えで、黒鉄の爪を開きながら俺に向かって振り上げてくる。
――まずい
直感的にそう思いながらも、よけきれないと感じた。
「―――『鉄葬拳<絶脈斬>』ッッッ!!!!」
大地が抉れるのと同時に俺の腹から胸を通り、顎に至るまでを悪魔の爪が切り裂いていく。
体の前面から血が噴き出る熱さを感じながら俺は冷や汗を流した。
こんなものが直撃したら、まともな人間は一瞬で血まみれどころか即死だ。
だが俺は、もうまともな人間は辞めたのだ。
「『神罰の雷』―――!!」
バヂィッ!
と、俺の足元で雷が爆ぜる。
ティアからは使うなと言われたが、いいや使うね。
ここで使えなければ、何のために手に入れた力だ。
こんなところで、わけのわからない理由で殺されている暇はない。
「こっちも本気で行く……!!」
雷と化した俺の脚は、ルキの向こう側に光の軌道を敷く。
ジジジッ!という俺の脚と大地を焼き焦がしながら、俺は一筋の閃光となって駆け抜けた。
「なっ……んだそりゃ!!」
ルキは驚愕の表情を浮かべた。
目視すら困難な速度で、自らの首元を狙った剣が通り過ぎていくのだ。
だが、恐るべきことに、ルキは俺の『神罰の雷』にわずかながら対応した。
咄嗟に首を横に交わし、わずかに首の皮膚を切り裂くに留まる。
血がドプドプと吹き出しているようだが、奴は顔に狂ったような笑みを貼り付けてまるで怯みもしない。
ならば、何度でも行く。
足から全身に上がってくる激痛をこらえながら、俺は奥歯を噛み締めてもう一度雷と化した。
ティアのホーリーフィールドが有る無しでは、ここまで痛みが違うのかと、俺はガチガチと鳴る奥歯を、無理やりに押し留める。
そして俺は再び宙を走る。
今度は胴体を引き裂くべく、雷鳴を引き連れて俺の体が迸った。
だが。
ガギィィイイイイイイインン!!!!
雷が地を焼き、鉄が空を裂く――そんな激突だった。
ルキは戦闘センスの塊なのかと、俺がもはや賞賛の声をあげたくなるほどの速度で対応している。
奴の黒鉄の拳が俺の銀鈴を受け止めた。
「チィッ!!」
だが、やはり完全に受けきることはできなかった。
俺の速度をある程度は殺したが、俺は奴の脇腹から胸元にかけて切り上げる。
再び奴に血を流させてやった。
これだけ血の気の多いやつだ、少しは血を減らせと思いながら、すぐさま振り返る。
すると。
「フガクゥッ……!! お前最ッ高に面ッ白ェ……!!!」
奴は血をまき散らしながらこちらに飛び掛かってくる。
以前までの俺なら「なっ!?」とか言って驚愕していたことだろう。
だが、それくらいはやる奴だと思っていた。
こいつは正気じゃない。
だが――それならそういう奴と思って対応するだけだ。
ルキは悪魔の拳を開き、俺の頭上から叩きつけるように真下に振り下ろす。
瞬間、ルキが息を詰めた。
また、何かがくる――!
「―――『鉄葬拳<地獄落とし>』ッッッ!!!!」
バヂッ!と、拳が来る前に俺は奴より宙に飛びあがる。
俺が今の今までいたところは、まるで小さな隕石でも衝突したかのような有様で、地盤が割れている。
そんなんで頭を殴られたら弾けて無くなってしまうだろう。
ルキの視線がこちらを見上げる。
俺は銀鈴を振り上げ、奴の脳天に向けて思い切り振り下ろした。
「お前―――いい加減にしろよ?」
「カァッ! 最高だなお前ェッ……!!」
ルキは叫びながら拳を振り上げる。
一瞬頭の中から消えてしまっていたが、ティアやミユキは大丈夫だろうか。
レオナは無事ティアの元に戻れただろうか。
そんなことが頭の片隅をちらつくが、今はこの変態を片付ける方が先だ。
俺は自らの中に流れる魔王の血なのかエネルギーなのかが、冷たく俺を高揚させていくのを感じた。
そして再び俺たちの刃と爪が激突する音が荒野に響く。
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