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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第三章 狂気の勇者編

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第56話 群狼の谷へ③


 そこにいたのは、荒野と谷を埋め尽くすほどの青白い狼だった。

 俺たちは崖というよりはすり鉢状になった、なだらかな谷の上部にいる。

 まだ遥か遠くに見える魔獣の群れだが、青白い影が蠢く様は息を呑むほど不気味な圧力があった。

 奴らはこっちに向かって真っ直ぐに走ってきている。


 相対するAからEまでの部隊は俺たちよりも前方に配置されており、帝国の騎馬部隊が両翼から魔獣の群れを襲撃する。

 群れは分断され、帝国軍がそのまま敵を押し返す。

 さらに分断された狼の群れを冒険者が叩いていくという作戦だった。


 その混乱に乗じて俺たちF班は、群れのどこかにいる親玉個体『ビースト』、すなわちミューズを討ち取るのがミッションである。


「レオナ、『ビースト』は見える?」

「いやだめだねー。さすがに遠いのと、あいつらが走る土煙で奥の方まで見えやしない」


 望遠鏡を覗き込んでいるレオナに、ティアが問いかける。

 俺たちはあえてミューズとは言わず、帝国軍側の呼称である『ビースト』と呼ぶことにした。


 ミューズの呼称は俺たちにしか伝わらない可能性が高く、多くの冒険者や騎士達がいるこの戦場では情報の伝達に問題が生じるかもしれない。

 それに。


「フガクくん……彼が?」


 俺は少し離れたところにいるミラ隊、その傍にいるリュウドウに視線を送った。

 俺は移動してくるとき、ティア達にリュウドウからミューズについて訊かれたことを伝えた。


 ティアはやっぱりと言った口ぶりで、ひとまず様子見と告げる。

 ミューズの呼称は確かにフランシスカの関係者しか知らないが、それでもどこかで漏れたり、自分たちも会話の中で口に出していたため、冒険者間で伝わっている可能性もゼロではないからだ。


「うん……注意した方がいい。向こうも僕たちを探っている気がする」


 作戦会議のあと、俺はミラたちが離れた好きにティアに謝った。

 俺たちがミューズを知る者だと、リュウドウに情報を与えてしまったからだ。

 頭を下げる俺を、ティアはまるで責めなかった。

 むしろその顔には、こちらの背筋が薄ら寒くなるほどの冷酷な笑みが浮かんでいた。


「ミューズが秘匿された名前だって伝えてなかった、完全な私のミスだよ。むしろ、可能性の糸口が向こうからのこのこやってきてくれて感謝してるくらいだしね」


 と、いつものシニカルな態度で俺の肩をぽんと叩いてくれた。

 俺の心の荷は多少軽くなったが、それでも俺は自分の迂闊さに腹が立った。


「今は戦いに集中しましょう。反省と、これからの方針はそれから考えても遅くありません」


 ミユキも俺に優しく微笑みかけ、フォローしてくれた。

 俺も頷き、再び谷の方へと向き直った。

 

「しっかし、とんでもない数だね。さすがに全部倒すのは無理そうだ」


 レオナは腰に手を当て、うへぇとため息混じりにそう言った。


「そうでもないんじゃない? 結局この作戦は帝国軍1万と冒険者3000人の計13000人の戦力があるみたいだし、戦力は拮抗どころかこちらが有利だから」

「むしろアタシらいるのかなそれ」

「それだけ帝国軍も本気で討伐しようということでしょう。あ、始まったみたいですよ」


 ミユキの視線の先を見ると、遠くの方で土煙を上げて魔獣の群れに突っ込んでいく。


 ―――ォォォオオオオオオ!!!


 騎士達の雄叫びか、それとも狼の遠吠えか、こちらまで聞こえてくる咆哮の残響が、俺たちに戦闘が始まったことを告げている。


「我らも向かうぞ!!」


 俺たちの前方にいるウィルが声を上げた。

 俺たちは帝国軍右翼の後ろから敵後方に周り、本命の撃破に向かうのだ。


 前方にいるAからE班たちも、分断されつつある群狼たちの討伐に走り出していた。

 ここまでくればもう状況は止まらないし引き返すこともできない

 俺は走りながら腰の銀鈴に手を添え、いつでもそれを抜き放てるよう心の準備を整えていく。

 

「緊張されてますか?」


 隣を走るミユキが、穏やかに俺に問いかける。 緊張か、言われてみればしているかもしれない。

 戦いにはそこそこ慣れたとは思っているが、命のやり取りが始まると思うと、多少震えもある。


「大丈夫だよ。ミユキさんは?」

「はいとても。でもフガクくんもティアちゃんも、レオナもいますから、あまり怖くはないんです」


 緊張はするけど怖くはない。

 なるほど俺もそんな感じだ。

 あれだけ強いミユキでも緊張するのだと思うと、少し身体が軽くなるのを感じた。


「まあ心配すんなってフガク。ビビってたらアタシが背中を蹴り飛ばして引きずり起こしてやるからさ」


 レオナまでそんなことを言ってくる。

 その獰猛な笑みは、とても16歳の少女が浮かべるような可愛らしいものではない。

 獲物を狩り獲る猛禽類のような表情だ。

 そんなに緊張してるように見えたかなと、俺は苦笑する。

 ふと見ると、少し向こうには土煙と共に走り抜けていく青白い狼たちの姿が目視できた。


「しかしまあ不気味だな」

「ねー、なんであんな面になるんだろうね。ていうか見えてんのかなあれで」


 レオナと軽口を叩きながら、俺はその姿を確認する。


 体長は1.5mほど。

 青白い体毛、鋭く尖った牙に血のように真っ赤な鋭い爪が禍々しくギラついている。

 そして何より、その顔面には両目が無い。

 顔の無い異形の狼が何千匹も目の前にいる光景は、おぞましいを通り越して圧巻ですらあった。


 そして次の瞬間。

 顔の無い狼たちが、一瞬にしてその顔をこちらに向けた。

 俺たちに対してか、あるいは移動中のF班を見つけたからかは分からない。


 だが、明らかに眼の無い狼たちは"こちらを見ていた"。


「エンゲージ!!! 左翼より魔獣! やむを得ん迎撃する!」


 ウィルの叫び声が班内に響き渡る。

 精鋭部隊の数はおよそ300人。

 間にはD班がいるにも関わらず俺たちに向けて一直線に走り抜けてくる。

 例え、仲間の狼がどれほど討たれようと、何一つ怯むことなく群れは進撃する。

 まるで、一つの意思を持つ生き物であるかのように。

 視認できる範囲に狼が近づいたことで、俺はスキル

『魔王の瞳』を発動する。


――――――――――――――

▼NAME▼

フェイスレスファング


▼SKILL▼

・クロムゾンクロウ

・狩猟

・群体

――――――――――――――


 なるほど、群体というスキルが怪しいと思った。

 群れをひとつの身体のように動かすといったところだろうか。

 名前だけではどんなスキルかは正確にはわからないが。


「来るよフガク!」

「わかってる!」


 ティアの声に、俺は銀鈴を抜き放つ。

 ミユキも大剣を構え、レオナは白兵用のナイフを抜きながら腰の投げナイフにも手を添えている。


 すでに俺たちの班側面から狼たちの突入が始まり、冒険者たちと交戦が始まっている。

 鋭い動きでこちらに狼たちが走ってくる。


 俺たちは、敵の喉元に喰らいつく前に、魔獣の大群との戦闘を行うことになった。

 その時俺は、ティアの大きな胸元に、服の裏から赤い光が灯っているのを見た。


「ティア、それ……!」

「え……?」


 ティアの胸元に仕舞い込まれているのは、この前地下水道でシェリアの体内から出てきた赤い石だ。

 ティア自身も気づいていなかったようで、胸元から小さな袋に入れて首にぶら下げていたそれを取り出す。

 その深く鮮やかな赤い光は、俺たちの血みどろの戦いを示唆するかのような不吉な輝きを放っていた。


挿絵(By みてみん)

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