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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第三章 狂気の勇者編

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第52話 緊急招集①

「復讐は必ず、正しく行われなければならない――」


魔獣ひしめく戦場に響くのは"聖女"の慟哭

そして"勇者"の狂気が、聖餐の幕を開く


新章狂気の勇者編、開幕


挿絵(By みてみん)



 リリアナの旅立ちから1週間ほどが経過し、俺たちにも穏やかな日常が……なんてことはなく忙しない毎日を過ごしている。


 俺たちはあれから帝都でいくつかのクエストを受託したが、ミューズとの遭遇に至るクエストはなかった。

結局帝都にいる時間はほとんどなく、多くをクエストで指定された場所で過ごすことになる。


 そして現在俺たち4人は、ゴルドール帝国の南部にある渓谷地帯、通称『神域の谷』にやってきている。

 今は使われていない街道に馬車を走らせ、いくつかの吊り橋を越えたその場所には多くの冒険者たちが集まっていた。

 遠くに山脈を望む荒野で、峡谷ほどでないまでも高低差の大きい地形が広がっている。


 帝都から3日ほどかけて訪れたその場所では、ギルドが大規模なキャンプを展開していた。


「あー、遠かったー」

「休憩できる場所も無かったですもんね」


 馬車から地面に降り立ち、レオナが伸びをしながらそう言った。

 ミユキも大剣を携え、続いて荷台から降りてくる。


「とりあえずギルドのテントを探しましょう」


 ティアは周辺の地形図などを確認しながら、ひときわ大きな赤い屋根のテントへと歩を進めていく。

 俺はそれに続きつつ、辺りを見回した。


 エルルのクエストで利用したキャンプに比べると5倍くらいの規模がある。

 そもそも俺たちは何故ここにいるのか。

 

 ギルドから危険度Sランクの緊急依頼があったからだ。

 最近、ゴルドール南部にて魔物の大群が発生し、動きが活発化しているため大規模な討伐隊を結成。

 俺たち冒険者はそこに組み込まれるのだ。

 もちろんゴルドール帝国軍も派遣されている。


 敵はいずれも(かお)の無い青白い狼だという。


 確実にミューズであると認識した俺たちは、ギルドの討伐部隊に参加。

 こうして神域の谷を訪れたわけである。

 

 俺たちは到着報告とテントの割り当てをもらうため、ギルドのテントの中に入った。

 慌ただしく職員たちが通信機のようなものに向かって声を荒げている。

 どこかと連絡を取り合っているようだ。 


『新たにバリフ、ティズカール側の街道封鎖。魔獣の街への侵入は現在確認できていない。大型個体はこちらで未確認。帝都方面へ向かっていると推測される』

「了解。引き続き監視を頼みます」


 通信機の向こうからはザラザラとした機械音声が響いてくる。

 何やら大変なことになっているらしい。

 ティアが長机を置いただけの簡易な受付前に立つと、女性職員が疲れた顔で俺たちの方を見た。


「ティア=アルヘイム以下4名。冒険者ランクはB。討伐隊参加のために到着しました」


 ティアは淡々と女性職員に到着報告を行った。

 職員は、何やら書類に文字を書き、ティアに渡す。


「はい、確認しました。あなた方は第二陣"迎撃班"に編入されます。テントは第三キャンプ区のC-7。周辺には同ランク帯の冒険者が集中していますので、情報共有は密に行ってください」


 女性職員はスラスラと俺たちに説明を行っていく。

 俺には言っていることは良く分からないが、ティアはうんうん頷いているのでお任せしておこう。


「あと、初動作戦の説明が今夜の20時から本部テント前で行われます。それまでに準備を整えておいてください。敵は昼夜を問わず移動しています。油断しないように」


 ギルド職員は最後の言葉だけ、顔を上げて強く言った。


「……どういう状態なんですか?」


 思わず聞いてしまった俺の問いに、職員は一瞬だけ口を噤んだが、やがてぽつりと答えた。


「第一陣がほぼ壊滅状態で戻ってきました。……約130名のうち、生存者はわずかに10人。指揮官も行方不明のままです」

「!」


 魔獣の大群には数で対抗できると思っていたが、現実は甘くなかったようだ

 だからこそここまでの大規模展開されることになったのだろうが。

 俺たちの間にも緊張が走る。


「怖がっても敵が弱くなるわけではないわ。とりあえずテントに荷物を置きましょう」


 ティアの言葉に従い、俺たちがテントを出ようとすると、入れ違いに見たことのある顔ぶれが入ってきた。


「相変わらず肝が座ってるねぇティア」


 長いプラチナブロンドの髪を揺らしながらそう言ったのは、先日エルル北東の森でも出会ったミランダ達だった。


「ミラ……」


 ティアの表情は読めないが、少し警戒している気配があった。

 彼女たちも今到着したのだろう。

 その後ろに仲間らしき男たちが2人と、リュウドウがいる。


「君は……リュウドウさん、だったっけ?」


 俺はリュウドウに話しかける。

 深緑の髪で片目を隠した寡黙な男で、瞳の色が俺やティア、ミユキと同じ赤色だったことで印象に残っている。


 先日の森では、「ミューズを殺したのはお前か」と声をかけてきた。

 俺の質問にリュウドウは感情の読み取れない鋭い瞳でこちらを見ている。


「そういや、あんた達例の森で喋ったんだっけ? リュウドウから声を引き出しただけでも大したもんさ」


 からからとミラが笑いながら、俺の背中をバンバン叩いた。

 相変わらず陽気な人だ。

 しかも喋ったというほど喋ってないし。


「ああ、紹介しとくよ。こっちがマルクでこっちがドロッセルだ」


 ミラは後ろにいた二人の男達を紹介してくれた。

 茶色い髪を逆立てた男がマルクで、オレンジのメッシュが入ったロン毛に長身の男がドロッセル。

 盗賊と魔法使いといった風貌だった。


「この白黒頭がフガクで、こっちがティア、んでそっちのでかいのがミユキ、んで……ありゃ、新顔だねお嬢ちゃん」

「アタシはレオナだよ、よろしくお姉ちゃん」

「でかいの……」


 ミラは仲間たちに俺たちの紹介もしてくれている。

 ただミユキは紹介のされ方に若干納得が言っていない様子。

 俺が何と声をかけてフォローするか迷っていると、二人の男が俺の前に立った。


「おうフガク。マルクだ、よろしくな」

「ドロッセルだ。少年、いい髪色のセンスだな」

「あ、はい。こちらこそ」


 俺は代表してマルクとドロッセルと握手をする。

 マルクは思ったより握る力が強いが、ニッと笑って愛想の良い兄ちゃんという感じだ。

 ドロッセルは少し変わり者といった感じだが、リュウドウに比べればまともそうだった。


「ミラ、話はまたあとで。荷物を置いてきていいかしら」

「おっと悪い悪い。あたしらもギルドに到着報告しないとだ」


 ここはまだギルドのテントの中だ。

 広いから他の冒険者たちの邪魔にはなっていないが、さすがに外でやった方がいいだろう。


 ミラ達は受付へ、俺たちは外に向かって歩き出そうとしたそのとき。


「待て」


 リュウドウが声をあげた。

 俺たちだけでなく、ミラ達も彼に視線を移す。

 リュウドウはその冷徹な瞳で真っ直ぐ俺を捉えている。


「俺は名乗った覚えはない。何故、俺の名を知っている?」


 しまった。

 ついこれをやってしまうから、スキルの覗き見は危険なんだ。

 正直に話すべきか逡巡していると、ティアが柔らかな笑みで代わりに答えた。


「ミラが酔ってお仲間のこと色々話してくれてたよ。覚えてないの?」

「え? そうだったかい? いやぁ、あの時のブラッドボアは美味かったからねぇ。つい酒が進んじまってさぁ」


 ミラは照れくさそうに頭をかきながら言った。


「ったく一人だけずりーよなあ」

「……まあいい」


 リュウドウは特に追求はしてこなかった。

 俺たちはそのまま自然な流れでテントの外に出る。

 ついやってしまったと、俺は無言で反省の意を示す。


「フガク、気をつけて」

「ごめん」


 テントを出て少し歩いたところでティアが俺を咎めた。

 わかっている。

 迂闊な真似をするかと言っているのだ。

 レオナとミユキは一旦視線を交わし合って首を傾げた。


「ティア、どういうこと?」

「彼らはバルタザルの冒険者……あの国の研究所と関係がある可能性も考えておくべきね」

「ティアちゃんの仇の、ですか?」


 ミユキの確認にティアが頷く。


「フガク、次に彼らに会ったらスキルを確認しておいて。何かやってるって気取られないように」

「うん、分かった」


 ティアの言おうとしていることは何となくわかる。

 彼らと戦いになる可能性があると言っているのだ。

 一見すると気の良い冒険者たちに見えるが、俺にはそれがかえって底知れなさとして感じられた。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

第三章の開始となりますのでよろしくお願いいたします。

また、隔日投稿を予定していましたが、1話の中の場面転換ごとに話数を区切って毎日投稿に切り替えます。


モチベーションにもつながりますので、もしよろしければぜひ評価や感想などいただけると幸いです。

評価は下の「☆☆☆☆☆」から行えますので、よろしくお願いたします。

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