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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第二章 刺客襲来編

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第47話 ミューズ/スライム

 俺たちの目の前に現れた偽物のミユキは、おそらくスライムでありミューズだ。

 俺は『魔王の瞳』を発動して敵のステータスを覗き見る。


―――――――――――――――

▼NAME▼

ミューズ/スライム


▼SKILL▼

・メタモルフォーゼ A

・分裂 A

・液体移動 A

・硬質化 B+

・内包捕食 B

・ヒーリング SS

―――――――――――――――


 やはりそうだ。

 スライムらしきスキルで埋め尽くされており、聖女の権能である『ヒーリング』も持っている。

 名前からして、『メタモルフォーゼ』のスキルがこの変身能力のことだろう。

 

「ティア、ミューズだ!」

「でしょうね。こんな喋る魔獣他にいないし」


 ティアがミューズを見据えたまま呟いた次の瞬間。


「ティアちゃん、私を無視しないで。悲しいです」


 そんな風に(うそぶ)いて、ミューズはミユキの顔で邪悪な笑みを浮かべながらティアに肉薄する。

 すぐさま彼女の腕が硬質化のスキルにより青白い刃と化し、ティアに振り下ろされる。


「ティアちゃん下がって!」


 ガキィィィイインッッッ!

 ミユキの剣がミューズの刃を受け止める音が響いた。

 しかし、ミューズは怯むことはない。

 そのまま刃を振るってミユキを押し返す。


「っ……!」


 俺もミューズの背後から斬りかかるが、まるで後ろに眼があるかのように回し蹴りが飛んでくる。

 どうにか受け止めたが、この動きは完全にミユキのものだ。

 このミューズは、見た目を模倣できるだけでなくスキルまでミユキそのものになっているのだ。


「フガクくん大丈夫です、二人がかりなら倒せます! 私が言うんですから間違いありません!」


 ミユキは自分の実力を正しく把握している。

 ミユキとフガクで協力すれば、自分のミューズを倒せると言ってくれているのだ。

 俺でもミユキの模倣体を打倒しうるだけの力があるというその言葉に、内心少し舞い上がった。


「分かった!」

「ちっ、うっとうしいですね……!」


 ただ相手のミューズもそれは分かっているようだ。

 二人がかりで来られることを嫌うのは当然だろう。


 待てよと思った。

 そういえばレオナは何をしているのだ。

 彼女が援護してくれれば十分勝機が―――。


 俺がチラリとレオナに視線をやるのと、ティアがレオナに飛び掛かろうとするのがほぼ同時だった。

 瞬間、レオナはミユキに向かってナイフを投げつけていた。


「えっ……!?」


 驚きの声を上げるミユキ。


「愚かですねッッ!」


 レオナのナイフがミユキのふくらはぎを掠めた。

 ティアがレオナに飛び掛かったおかげで、直撃を免れたのだ。

 だが、その一瞬のスキをつき、ミューズの刃がミユキの胸を袈裟懸けに切り裂いた。


「ぐぅっ……!」


 硬質化した青白い刃に血が滴っている。

 すかさずミユキに刃が振り下ろされようとするが、寸でのところで俺が間に入り銀鈴(ぎんりん)で受け止める。


「レオナ……! 何してる……!」


 俺が叫ぶ。

 しかし、レオナは俯きその口元を真っ赤に引き裂いて嗤っていた。

 すぐ近くでも、レオナに飛び掛かったために倒れこんだティアが忌々しげに彼女を見上げていた。


「ククク……くはは………! あーはっはははは!!」


 まさかの裏切りか? いや違う。

 そんな感じじゃない。


「バァァカ! アタシはレオナじゃありませーん!」」


 どう見てもレオナにしか見えない、小ばかにした笑みを浮かべる。

 そして彼女の体がゲル状に変質していく。

 青白く体がうねり、姿形が変わっていった。


「残念ですが、模倣体は2体まで分裂できるんです」


 ミユキ型のミューズもそちらへと歩いていく。

 ミユキは切り裂かれた胸元を押さえながら、その光景を見据えていた。

 やがてレオナだったミューズとミユキ型のミューズは隣に並んでこちらに邪悪な笑みを向けた。


「くそっ……!」 


 分かっていたのに。

 こいつに『分裂』のスキルがあることを。

 俺は、ミユキ型のミューズの隣に立つ、俺の姿をしたミューズを見て歯噛みした。


「なるほど、スライムだもんね。分裂くらいするか」


 ティアはミユキに駆け寄り、胸元にヒーリングをかけながら言った。

 どうやらレオナは、はぐれた俺と合流したときから偽物にすり替わっていたらしい。

 では本物のレオナはどこに行ったのか気になるが、いないものは仕方ない。


 確かにおかしいとは思っていたのだ。

 先ほど大量のスライムがいた通路を走る際、レオナは武器を抜かなかった。

 水路の入口では気軽にナイフを投げてスライムを仕留めていたのにだ。

 ものぐさな奴だから気にも留めなかったが、あれは武器を抜かなかったのではなく、抜けなかった。


 ミユキのミューズもそうだ。

 剣は腰に帯びているように見えるが、あれは見た目がそう見えるだけで実際の剣ではない。

 だからこそ奴は剣を使わずに腕を硬質化している。


「なるほど……私たちに偽物の姿で接触してきたのは、触れて"情報"を得るためだったわけね……」


 ティアが言うように、地下水道内でわざわざ俺たちに接触し、味方の姿で迫ってきたのは、俺たちの姿を模倣するためだったのだろう。

 多分、この水道にいたスライムはほぼこいつの体の一部だと予想できた。


 少なくとも、入口で最初に倒したスライムはその可能性が高い。

 俺たちは全員あのスライムの死骸に触れているし、特にレオナは直接体表に触れている。

 触れた場所や時間、量などによって模倣の精度が上がるのだろう。


 俺に迫ってきたミユキの言動が単調だったのは、入口で俺がスライムに触れたのはせいぜい衣服くらいだったからだ。

 ミユキもティアも靴底程度でしか触れていないから、完全な模倣体にはならなかったのだろう。


「最後の大量のスライムはダメ押しの情報収集だったってことか」


 そしてこいつの能力はおそらくこうだ。

 基本的にはスライムの性質を持っており、身体をゲル状することができるため斬撃の効果は薄く、核を壊す必要がある。


 俺たちの姿になれるのは分裂しても2体までで、同じ模倣体にはなれない。

 それができるならミユキを2体並べるのが間違いなく最強だからだ。

 わざわざ俺やレオナの姿で戦うことはない。

 ミユキを2体並べて俺とティアを早々に始末し、二人でミユキを倒せばいいのだ。


「ティアちゃん。ミューズは多分、武器のコピーや2体以上同じコピーはできないかと」


 コピーできるのは本人の見た目と身体能力などのスキル。

 例外はあるのか分からないが、武器はコピーできない。

 いや、正確にはできるのかもしれないが、身体を硬質化した方が強いということなのだろう。

 また、本人とほぼ同じ能力にはなるが、本人よりも強くなることもない。

 つまり、勝機は決して失われていないということだ。


 こんなところだろう。

 そして俺の前にはミユキと俺のミューズが立っている。


 ―――つまり『勇者』と『魔王』がそこにいる。


 だが所詮は俺の模倣体だ。

 ミユキに比べれば大したことはない。

 俺より弱くはないかもしれないが、俺より強くもないなら倒せない相手ではないはず。


「フガクくん、私の偽物は私が引き受けます……だから」

「うん、"僕"は僕が倒す」


 俺とミユキはそれぞれの相手に向かって歩き出す。

 相手も、俺たちそれぞれの前に歩み出た。


「私の相手は私ですか。いいんですか? フガクくんと楽しく過ごすチャンスですよ?」

「ふざけないでください。私はこんな状況でそんなことを考えるような女ではありません」

「そうですか? ”私”はこういうとき感情で選ぶタイプです」


 一瞬にして、ミユキの剣閃がミューズの首を跳ねた。

 その断面図は青白い透明で、やはり彼女が人間でないことを示している。


「あら、怒りましたね。わかります。”私”は怒りを抑えようとするくせに、激情家ですもの」


 首がそう告げて、ゲル状になって再び体に戻っていく。

 何事も無かったかのように、ミューズの跳ねられた首は元通りにミユキの顔を形成した。


「そうですね。大切な人たちを守るためなら、いくらでも怒りに身を任せます」


 再びミユキとミューズがぶつかっていくのが、横目に見える。


 そして俺は、眼前に対峙する俺を睨みつける。

 俺のミューズは、真っ赤な瞳で俺をニヤニヤとねめつけていた。

 俺の顔くせにムカつく視線だ。


「やあ僕。君はこう考えているね。”俺になら負けるはずはない”って」

「ああ、所詮お前は僕だ。ミユキさんに比べれば足元にも及ばない」

「それはどうかな?」


 ゴッ……! 

 と、奴の足元からプレッシャーがあふれ出た。

 バチバチと雷鳴のような音が辺りに轟いている。

 なんだこれは。


「さあ、いくぞ」


 相手の俺は白黒の髪を靡かせ、低い姿勢で俺の横を通り過ぎるように走り抜ける刹那に、硬質化させた足の刃で俺を斬った。

 奴の後ろ、尾を引くように雷が追いかけていく。


「ぐっ……!」


 今何をされた?

 俺の姿をしたミューズが恐るべき速度で横を駆け抜け、俺を斬っていったことしか分からない。


「フガク!」


 ティアは後ろからホーリーフィールドを俺に展開している。

 多少のダメージ軽減や速度を殺すことには繋がるかもしれない。

 

「”僕”は自分の力をまるで理解していないようだ!」


 バヂッ……!と奴の足元で雷が爆ぜる。

 あんな力、俺にはない。

 まだ奴には隠された力があるというのだろうか。

 ミューズは雷をまとって俺に肉薄してくる。

 奴の剣戟を受けるので精いっぱいだ。


「なんだ……お前は僕のはずだろ!」

「そうだ! 僕はお前だ! だって僕は『魔王』だろう!?」


 雷速の一撃が俺を薙ぐ。

 俺の全身が奴によって切り刻まれていく。

 何をされている?

 この雷をまとった攻撃が、俺の力だとでもいうのか。


 またか、と俺は思った。

 先日レオナと街中を追いかけっこしたときと同じだ。

 俺の中の発想が、常識、余計な知識が、俺の力を制限している。

 奴は確かに足元に雷を発生させているのに。


 きっとこいつは俺の情報を正しく読み取り、俺の中にある力の片鱗を振るっている。

 俺の中にはきっともうあったのだ。

 ミユキのように、『勇者』のように。

 人知を超えた力と渡り合えるだけの力が。


「『神罰の雷(プルガトリオ)』。お前の中に眠る力の一つだ」


 そう告げ、バチンッと爆ぜる音と共に奴は俺の前から姿を消す。

 どこへ消えた。


「フガク! 上!!」


 ティアの声にハッとなった俺は、視線を動かすよりも早く銀鈴を構えた。

 ガギィィィイイインッッッ!と、刃を受け止める高い音が響く。


「さすがは"僕"。受けなきゃ死んでたよ」


 思い出した。

 先日フェルヴァルムとの戦いのさ中だ。

 俺は一瞬だが彼女よりも早く動き、その肩を銀鈴で貫いた。

 あのとき、俺は自らの足元にバチバチと何かが弾ける音を聴いた。

 それが、奴の言う『神罰の雷(プルガトリオ)』の発動した音だったのか。


「でも無駄だよ」


 刃を受け止められたミューズは、それでも笑みを崩さず体を一回転させ地に伏せ、再び

神罰の雷(プルガトリオ)』を発動する。

 再び俺の両足を刃で切り裂いていった。

 俺は膝をつき、銀鈴でどうにか身体を支える。

 ティアのホーリーフィールドがあるおかげで何とか持ちこたえているが、無かったらもう倒れているかもしれないと思った。


 ズシャァァァァァアアアア!!!と、奴は床に靴底を滑らせながらブレーキをかけている。

 なるほど、身体を雷と化して駆け抜けるが、俺の体では制御が難しいようだ。

 プスプスと奴の足元から黒い煙が上がり、足先から脛までバチバチとした雷を帯びている。


「ティア……頼みがある」


 奴から目を離さないままに、駆け寄ってきて俺にヒーリングをかけてくれるティアに声をかける。


「何?」

「僕にヒーリングのコツを教えてくれ……」

「……え?」


 ティアは目を丸くしている。

 そんな目で見るな。

 別に相手の強さにビビッて自分でも回復をしたいわけじゃない。


「あいつは……僕の知っている以上のことは知らないはずだ」

「う、うん……」

「あいつは僕が必ず倒す……頼むティア。ヒーリングのやり方を、いや、ヒーリングの時に何を考えているかを教えてほしい」


 俺と奴は全く同じようでいて、案外違いは多い。


 スライムと人間であること。

 奴は首を斬られても死なないが、俺は死ぬ。 

 俺は自分の中にある情報をうまくまとめて昇華できないが、奴はできている。

 それによって奴は俺が使えない能力を使いこなしているのだろう。

 同じ能力を持っているはずなのに、今のところ俺よりも奴の方が強い。


 だが。


「心の中にイメージを描くの。傷を癒し、あなたを癒すことを。具体的にどう傷が塞がるのか、塞がった後の傷はどうなっているのか。祈るように願って、指先に意識を集中するんだよ」


 ティアの言葉を聴きながら、俺は瞳を閉じる。

 きっと同じだ。

 リリアナもエフレムも、魔法を発動する時はみな祈るのだろう。

 ただそこに、あるはずの無いものを喚びだすために。

 

「分かったよティア、ありがとう」

「何か分ったかい? じゃあ、いくよっ……!」


 俺と奴の決定的な違いはもう一つある。

 それは何か。


 奴の足元に雷が迸る。

 バヂヂッという爆ぜる音をあげながら、奴は再び俺めがけて走り抜ける。


 それは。

 俺にはもう、負けて折れているだけの時間は残されていないことだ―――


 バヂィッ……!

 俺の足元で雷が爆ぜた。

 『魔王』の権能が、その真の力の片鱗が、俺の中で目覚めようとしている。

 焼けるように、足が熱い。

 足の筋肉が弾け飛びそうだ。

 だが、俺も祈り、願うのだ。

 ただ目の前の敵を斬るために奔ることを。

 

「来いよ『魔王』。俺の使い方を教えてくれ!」


 此方から彼方へ。 

 雷が路を結ぶイメージを描き、俺はそうして一筋の雷鳴になる。

 魔王の雷で、立ち塞がるものを貫くために。

 雷速で迫る俺の顔をしたミューズに向けて、俺は足から吹き飛ぶようにして駆け抜けた。


<TIPS>

挿絵(By みてみん)

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