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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第二章 刺客襲来編

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第46話 地下水道の怪異②

 ティアはミユキとともに、地下水道の合流地点で待機していた。

 特に何事もなく到着してから15分ほどが経過し、さすがにおかしいと感じているところだ。

 水路にはろ過された水が流れており、その水音で何かが起こっていても声が聞こえてくることはないだろう。


「さて、どうするか」


 ティアは呟く。

 ミユキも本来彼らが来るであろう通路の方向を見つめている。

 照明はあるものの、通路の向こう側まで見渡せるほどの光度はない。


「あ、ティアちゃん。来たみたいです」


 ミユキの声にそちらを向くと、暗がりからフガクが一人で現れた。


「フガク、遅かったね。何かあった?」

「ごめん。大量のスライムがいて、駆除してる間にレオナが水路に流された」


 淀みなくフガクがそう言う。

 ティアはそれを聞いて訝しげに首を傾げた。


「それで、レオナは?」

「大丈夫。先に行けって言うから、とりあえず二人と合流することにしたんだ」


 水路を挟んだ反対側の通路にでも流されたのだろうか。

 ティアは、フガクがレオナを放ってくる判断をするのは意外だったが、本人がそう言ったのなら頷けないことはない。


「ティアちゃん、戻ってレオナと合流しましょうか」


 ミユキからの提案に、ティアは昨日ギルド経由で入手した地下水道の構造図に目を通す。


「いえ、この先で合流できるはず。先を急ぎましょう」


 レオナはこの地下水道に入ったことがあるようだし、敵も今のところ多くはない。

 別行動でも大丈夫だろうとの判断だ。


「こっちよ。着いてきて」


 ティアは再び通路を歩きだす。

 すると間も無くして、ドンっと言う壁を叩くような音が聞こえて慌てて振り返った。


「フ、フガクくん……?」


 そこでは、フガクがミユキの肩の横に手をつき、壁ドンをしていた。

 ティアは顔をしかめる。


「フガク、状況を考えて。何をしてるの」

「ミユキさん、すごく可愛いよ。君は素敵だ」

「えっ……? えっ……?」


 ミユキは顔を真っ赤にして狼狽えている。

 ティアは頭を押さえてかぶりを振る。

 ここ何日かでフガクとミユキの仲が近づいているのはティアも承知のうえだが、さすがに状況が状況だ。

 フガクはそこまで空気の読めない男ではないと思っていたが、買い被り過ぎだっただろうかとティアは辟易する。


「ミユキさん。君は可愛い……もっと顔を見せて」

「だ、ダメですフガクくん……今はダメです。せめて帰ってからにしましょう? ね?」


 帰ってからならいいんかよとティアは思ったが、さすがに見てられない。

 頭でも引っ叩いてやろうと近寄っていくと、ついにフガクはミユキの腰に手を回し、顎に手を添えてクィッとやっている。

 フガクよりミユキのほうが10cm以上身長が高いので、イマイチ様にはなっていないが、何か腹は立つ。


「ミユキさん。可愛いよ……」


 フガクはミユキの腰を強く抱き寄せ、二人の唇が近づいていく。

 そして


「フガクちょっといい加減に」

「違いますね」


 さっきから"可愛い"しか言ってないフガクに多少の違和感を感じていたティアの言葉を遮るように、ミユキがポツリと呟く。

 そして次の瞬間、彼の顔面に向けて思い切り拳をぶち込んだ。


「え?」


 仰け反ったフガクの延髄に、ミユキはそのまま一回転して長い脚でハイキックを叩き込む。

 今の今まで壁ドンしていたところに、フガクの体が叩きつけられ、液体のようにドロリと溶けた。


「やはり偽物でしたか」


 ミユキは壁に付着した、先ほどまでフガクだったモノを見ている。

 ティアは、ミユキが殴ったときは怒ってフガクに制裁を加えたのだと思ったが、どうやら違うらしい。

 いくら怒っても、ミユキがフガクにあそこまですることはないだろう。


「どうして分かったの?」


 見た目も声もどう見てもフガクだった。

 ティアは、自分だったら気づけたのか怪しいところだと思っている。


「フガクくんはあんなエッチなことしません」


 それはどうかなとティアは思った。

 まあ確かにフガクにしては積極的過ぎるし、若干腹立つムーブだったので違和感があったことは確かだ。

 語彙も可愛いと素敵しか無かったし、ミユキのことになると若干アホになるフガクでも、本来はもっと馬鹿みたいに言葉を並べて彼女を褒め称えるだろう。


「フガクが可哀そうになってきた」

「? それよりティアちゃん、これは……」

「うん、間違いなく敵だね。ミューズかは分からないけど」


 仲間に化けて近づき、あんなことをしてくるなんてと思っていると、ティアは再び違和感を覚えた。


「なんで偽物のフガクはあんなことしたんだろう」

「あんなこととは?」

「ミユキさんにキスしようとしたこと」

「あっ……」


 ミユキは再び顔を赤くしている。


「……そ、それはほら。私たちを撹乱しようとしたんですよ」

「何のために?」


 ティアはじっとミユキを見つめる。

 その視線に、ミユキも考え込むような仕草を見せた。


「確かに、何のためでしょう……? そんなことをするより、私を攻撃した方が早いですよね」


 ティアは頷く。

 同時に、相手の目的がいくつか思い浮かんだ。


 一つは攻撃手段を持たず、本当に撹乱が目的の場合。

 仲間同士の不和を招き、内部崩壊を企てている可能性だ。

 これも無くはないと思った。

 ミユキは確かに動揺していたし、ティア自身も苛立ちを覚えた。

 ただ、あまりにも遠回し過ぎやしないだろうか?

 愉快犯的で邪悪な敵なのかも知れないが、正直その程度ならあまり脅威ではないようにも感じられる。


 二つ目は、キスをすることに意味がある場合だ。

 口内を通して相手の体内に何かを入れようとしている可能性がある。

 例えば寄生能力があるとか、毒を体内に注入しようとしているなどが考えられるだろう。

 直接の攻撃手段を持たない敵であれば、あり得る話だ。


 そして三つ目。

 触れること自体が目的だった場合。

 相手に触れることで何かしらの能力が発動する、あるいは体表からやはり毒性のある物質を注入するなどが考えられるだろう。

 

 このケースは厄介だ。

 ミユキはすでに相手に触れられてしまっている。

 ティアは、この手の嫌な予感は多くの場合当たっていることも知っていた。


 そして何より胸がひどく騒めく。

 誰かに見られているような、あるいは生存本能が危険信号を発しているのだろうか。

 ここには、確実にミューズがいる。

 そんな予感がした。


―――


 俺とレオナが水路を歩き始めてほどなく、ミユキとティアを発見した。

 今度はちゃんとライトも持っている。


「ミユキさん! ティア!」

「あ、来た。今度は本物でしょうね?」


 ティアが警戒しながらこちらを見てくる。

 この様子だと、彼女らの前にも偽物が現れたようだ。


「敵は僕らに変身するスキルを持ってるみたいだ。二人は大丈夫だった?」

「ええ、普段よりかなり腹立つ感じのフガクが現れたよ。ミユキさんの身体触りながらキスしようとしてた」

「えっ」


 俺の時の逆のようなパターンだな。

 ミユキを見ると、恥ずかしげに俯いてる。


「で、でもフガクくんは私にそんないやらしいことはしないので、すぐに偽物だってわかりました!」


 それはどうかなと俺は思った。

 ただ、壁にぶちまけられた敵らしきもののシミを見るに、ミユキに”いやらしいこと”をしようとした偽物の末路は悲惨だったようだ。

 俺は複雑な思いに駆られたが、とりあえず今は置いておく。


「僕のところにミユキさんの偽物が出た。レオナにはティアの偽物が現れたらしいよ」


 ティアの偽物は見ていないので、どんな感じだったか俺も気になるところではあるが。


「へえ、ちなみにフガクのところに現れた偽のミユキさんはどんな感じだった? キスされそうになった?」

「い、いやキスは無かったかな。でも服を脱いで迫ってきて……」

「服を……!? 迫って……!?」


 ミユキは肩を跳ね上げて驚いた。

 まあ自分の偽物が知らないところで全裸になろうとしてたら嫌だろうなとは思う。


「フガクはミユキが下着を着けてないなんておかしいしもっと良い匂いがする! って言って見破ったんだよねー」


 フォローしているようで、俺を背中から斬りつけているレオナ。

 さっきそれはミユキに言うなって自分で言っておきながら余計なことを。

 ミユキはもう限界と言いたげに恥ずかしそうだった。

 

「あなたたちはどっちも(こじ)らせてるんだね」


 ティアのドン引きの視線が突き刺さるかと思ったが、意外にも生暖かい眼で俺たちを見ていた。


「どうする? とりあえず奥に進む?」

「そうだね。敵の目的がキスの線は消えたけど、もう少し様子を見たいところだし」


 キスが目的の敵ってなんだよと思いつつ、みんな特に反対しなかった。

 危険性はあるが、実際まだ直接的に攻撃を受けたわけでもなければ、敵の正体に検討もつかない。


 もう少しこの地下水道を探る必要があった。

 俺たちはそれから小一時間通路を歩きまわり、ろ過設備も近い奥深くへと進んでいった。

 ところどころスライムや小さなネズミなどを見かけたが、さほどおかしなところはない。

 このまま行けば、帝都内にある浄水場に辿り着くはずだ。


 すると、途中の通路を曲がったとき、俺たちは驚愕した。


「うげっ、なんだこれ」


 レオナが顔をしかめた。

 無理もない、ある通路から先、壁から天井まで一面にスライムがびっしりと這っていたのだ。

 個人的にはスライム単体の透明でゲル状の見た目にはあまり嫌悪感は無いが、さすがにこれだけの量がいると若干ぞわぞわする。

 海の中に大量のクラゲを見たときの感覚に近いかもしれない。


「大量発生っていうのはここのことかな」


 ティアも少し嫌そうな顔をしているが、通路は何とか通れそうだ。

 奥へ奥へと吹き抜けていく風を背中に感じながら、俺たちは前に進む。

 構造図によると、この先には地下水道内の水量などをコントロールする操作室があるようだ。

 俺は周囲のスライムを警戒しつつ、ミユキ達に続いて内部へと侵入していく。

 すると、周囲のスライムが俺たちに一斉に襲い掛かってきた。

 スライムが俺たちの手足にまとわりつくが、ダメージ自体はほぼ無いに等しい。

 顔などに張り付くと窒息したり視界を奪われる恐れはあるが、脅威とまでは言えないだろう。


「みんな走って!」


 ティアの声に従い、とにかく奥に向かって走る。

 手足にくっついているスライムはゲル状で、手でも掴むことができた。

 冷たくブヨブヨとした質感が気持ち悪いが、俺たちは体からスライムを引きはがしていく。


 先行するミユキが剣を抜き、落ちてくるスライムを薙ぎ払って内部の核を斬りながら走ってくれている。

 また、俺も後ろから追ってくるスライムを銀鈴で薙ぎ払いつつ前進する。


 やがて俺たちは、通路の奥にあった扉から操作室に滑り込んだ。

 体に着いていたスライムをひと通り取り除いていく。


「あーキモかった」

「あの場所だけスライムが多かったのは何故なんでしょうね」

「ボスが近いってことじゃない……たとえば、ほら」


 操作室の中は広々とした空間で天井も高いが、特に操作用の機械などは置いていなかった。

 廊下と同じく薄暗く、錆びた資材が部屋の端にいくらか積まれている。

 奥にもう一つ扉があるので、ここは前室のようだ。

 先ほど見た構造図では、あそこから地上の浄水場に繋がっている。

 しかし、俺たち全員の視線はある一点に注がれていた。


「みんな、待ちくたびれたよ」


 俺たちの前には、ティアがいた。

 いや、ティアの偽物だ。

 ただどう見ても本人にしか見えず、いつもの微笑を口元に浮かべてこちらをじっと見ている。


「ティアちゃんの偽物……?」

「最悪の気分だわ。自分の姿とそっくりな別人に会うと死ぬっていうけど、死因は憤死でしょうね」


 ティアは不快そうに眉を潜めている。


「お前は何者だ……!」

「フフ……フフフフフ……! 何言ってるの? 私はティアでしょ。ああそれとも……」


 目の前のティアは突如不気味な笑い声をあげた。

 次の瞬間、彼女の顔や体がブヨブヨとゲル状に蠢き、その姿形を変えていく。


「……こっちの方があなたの好みですか? フガクくん」 


 俺たちの目の前には、ミユキの偽物に姿を変えた敵が立っていた。

 ゲル状の体を自在に変え、俺たちの知る仲間の姿で眼前に立っているこいつは何だ。

 いや、もう大体検討はついた。


「やっぱりお前は……スライムか」


 俺は思い違いをしていた。

 この地下水道に蠢くスライムを誰かが操っていたのではなく、こいつ自身が凶悪なスライムなのだ。

 俺の問いかけに、偽物はミユキらしからぬ凶悪な顔で笑った。


お読みいただき、ありがとうございます。

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