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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第二章 刺客襲来編

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第43話 いざダンジョンへ①

 翌日、俺は思いっきり熱を出した。

 いよいよ体が限界を迎えたということだろう。

 あれから帰ってきたアポロニアに事情を説明し、苦い顔をされたが一先ず理解も得られた。

 また、レオナは本人が狭いところが好きなのか、そのまま本人の希望で下級使用人室を寝床として使わせてもらっている。

 ガストン氏は「そういうわけには……」と言っていたが、わざわざもう一部屋用意してもらうのも悪いと思ったので丁重に断った。


「うー……痛いー……」


 俺は高熱による体の節々の痛みと、折れた肋骨やフェルに削がれた傷などの痛みの両方に苛まれ、ベッドの中で唸っている。

 看病は意外にもリリアナが買って出てくれた。

 今は俺のベッドの横で水差しを取り換えてくれている。


「フガクさーん、大丈夫ですかー? 知恵熱ですかね」


 馬鹿にしてんのか。

 俺はツッコむ気力もないので特に何も言わずゴロリと寝返りを打つ。


「ごめんリリアナ。みんなと街に行ってもよかったのに」


 とはいえ看病してくれるのはありがたいし、話しているだけでだいぶ痛みも紛れる。

 ティア、ミユキ、レオナの3名は今日も街に繰り出している。

 本当は今日みんなでギルドに行き、ミューズにつながりそうな依頼は無いか探しに行く予定だったのだ。

 残念ながら俺は熱でダウンしたので、クエストのチェックとレオナの当面の生活用品の用意をお任せした次第である。


「いやー……あのメンツは正直私もちょっと怖くてですね」


 渋い顔をしているリリアナ。

 分かる。

 基本的にはマイペースなリリアナだが、ティアには弱いしミユキとは何かウマが合わない。


 加えて昨日自ら鈍器で撲殺しかけた自称"超天才暗殺者"までいるのだ。

 魔女ということを除けば一般市民であるリリアナからすれば、ちょっとばかし命の危機を感じるであろうメンバーだった。

 ちなみに昨日の晩餐時にはレオナとリリアナが顔合わせをしたが、レオナは特に気にした素振りもなかった。

 リリアナはビビり散らかしていたが。


「フガクさんたちは明日からクエストですかねー」

「目ぼしいのがあればね」


 リリアナには、俺たちもいずれシェオルに向かうことは言っていない。

 目的地が同じだと知ったら、俺たちの旅に同行するとか言いかねないからだ。

 いや、同行自体は構わないと思う。

 何だかんだとリリアナは馴染んでいるし、俺たちもリリアナの扱いにはもう慣れた。

 単純に危険だからだ。

 特にゴルドールを出たあとはロングフェローを抜けることになり、エフレムたちの本拠地に近づく可能性がある。

 せっかくティアが旅を安全に送れるようお膳立てをしたのだから、リリアナにはこのまま知らせないでおこうという話になったのだ。


「ん? なんですかー?」


 俺がリリアナを見ていると、その視線に気づかれる。

 彼女はベッド脇でガストン氏に借りて屋敷書庫の本を読んでいたが、難しかったのか直ぐにテーブルの上に放り出していた。

 今はナイフでリンゴを剥いてくれている。


「なんでもないよ」

「私が可愛いからって見とれてたら、ミユキお姉さんに怒られますよー。二人は恋人同士なんでしょ?」

「……なんて?」

「え、違うの?」


 また盛大に誤解をされている。

 いやまあ、ミユキは綺麗で優しくて素敵な人だとは思うが、あまりに俺とは釣り合わない。

 今は運命共同体のようなものだが、それとこれとは別で、向こうにも選ぶ権利というものがあるだろう。

 俺はあくまで彼女の強さに憧れ、現代風に言えば彼女を”推している”だけの男でしかない

 みたいなことをリリアナに告げると、俺のために剥いてくれたはずのリンゴを食べ始めた。

 普通に自分で食うために剥いていたようだ。


「むぐむぐ……そんなことないと思いますけどねー。まあ私はあの人全然良いと思わないですけど。確かに綺麗だけど、ちょっとお高く止まってるっていうか。清楚気取ってるっていうか」

「おいおい陰口かよ? 何でそんなにミユキさんのこと嫌いなの?」


 ミユキとリリアナはどうにも初めて会ったときからウマが合わない。

 誰だってそういう人間の一人や二人いるだろうが、二人は会話も必要最低限くらいしかしていないのは俺にも分かっている。

 ミユキもリリアナに嫌われているのを分かっているようで、自分から積極的に話そうとはしていないようだし。


「陰口じゃないですー本人にも言ってますー」


 余計ダメだろ。

 そりゃ仲良くなれないわと思っていると、リリアナはリンゴを食べながら何かを思い返しているような素振りを見せた。


「でも確かに何ででしょうね。嫌いってほどでもないですし、悪い人じゃないのも分かるんですけど……」


 リリアナも不思議そうにしている。

 俺に聞かれても知らんよ。

 合わない相手というのはそういうものなのかもしれないが。


「いった!」


 リリアナが2個目のリンゴを剝いていると、指を切ったようで痛そうに顔をしかめた。

 ジワリと血が出てきており、それを指で舐めとっている。

 何やってんだか。


「タオルがそっちに……あ」


 痛む身体を起こしながら、タオルを渡してやろうとしたとき、俺の中で一つの仮説が生まれた。

 魔女の血だ。

 もしかすると、魔王の血を引く魔女は、勇者に対して嫌悪感や威圧感のようなものを感じるのかもしれない。

 エフレムがどう感じていたのかは分からないが、今後他の魔女に会ったときの反応で検証できるかもと思った。


「ねえリリアナ、血を舐めたらダメかな?」

「は? 変態ですか? ミユキお姉さんに言いつけますよ」


 リリアナが指を咥えながら、嫌悪感丸出しの顔で俺を見た。

 もちろん俺の趣味や性癖の話ではない。

 エフレムの血が俺に触れたときに、魔王らしき記憶がフラッシュバックしたことを思い出したのだ。


「あ、ごめん舐めなくてもいいんだった。ちょっと僕のこの辺に着けてみてくれない?」


 フェルヴァルムには血を口内に流し込まれたが、よく考えたらエフレムにはそんなことされてなかった。

 慌てて俺はエフレムの返り血が跳ねた自分の頬を指差し、リリアナに再度お願いをしてみる。


「いやだから変態ですってそれは。やですよ」

「あれ? あ、じゃあ唾液とかでもいいよ。試しに。この辺に着けて。いっそのこと舐めてくれても」

「変態だって言ってるでしょー!!」


 あれ?おかしいな。

 リリアナが椅子から飛び跳ねて後ずさり、涙目でドン引きの表情を見せていた。

 何がいけなかったんだと思いつつ、俺はベッド脇に置いてある果物ナイフに目がいく。

 リリアナの血液がわずかに付着しており、俺はそれを手に取った。


「フ、フガクさん……そこまで私の血を……なんで?」

 

 リリアナは顔を青ざめさせているが、もう放っておこう。

 俺はナイフに付着した血を指につけた。

 瞬間。


「うっ……!」


 俺はエフレムやフェルヴァルムと対峙したときに起きたのと同じ現象が起こるのを感じた。

 脳の奥に黒い稲妻が走り、バチバチと俺の脳内を映像が駆け巡る。

 全身の毛穴が開き、冷たい霧が肺に流れ込むような感覚――


「フガクさん……ちょっと私にはその趣味は分かんないです。私……部屋戻りますねー……」


 フラフラと部屋を出ていくリリアナの声を聴きながら、俺は体を折りたたむようにして意識の奥へと沈み込んでいった。


―――


「ティアー。次あれ買ってー」


 ティアはミユキ、レオナと共に帝都の街を歩いていた。

 レオナは両手に串焼きと焼き菓子を持ち、食べ歩きながら次の店をティアに指差している。


「自分で買いなさいプロ暗殺者。お金もらって仕事してるんでしょ」


 ティアは片手で頭を押さえながら苦い顔をし、ミユキも苦笑している。

 アポロニアの屋敷を出ることかれこれ1時間。

 真っすぐギルドに向かうつもりが、レオナは途中に屋台を見つけては買い食いをし、お洒落なショップを見つけてはショッピングを楽しんでいるためなかなかたどり着けない。

 普通に歩けば15分もかからないところだ。

 

「えー。人に奢ってもらった方が美味しいじゃん。ね、ミユキいいでしょ。買って買ってー」

「え、えーと……ではあと一つだけですよ?」

「ほーい」

「ミユキさん甘やかさない!」


 ミユキがポケットから財布を取り出し、飲み物を買ってやろうとするのをティアはすかさず止める。

 この調子ではギルドに着く前に日が暮れる。

 帝都ではアポロニアの屋敷に世話になっており、風呂もあれば洗濯までしてもらえるので、ありがたいことに滞在費が丸々浮いていた。

 しかし、こんな風にお祭りで旅費を使うのは無駄遣いもいいところだ。


「これからまだあなたの旅の用意もしないといけないんだけど? 言っておくけど、自分でお金出してよ。あなたは勝手に着いてくるんだから」

「固いこと言わなくていいじゃん。心配しなくても、今朝ちょっと抜け出して部屋からトランクとか着替え取ってきたし。大体のものはあるよ」


 いつの間に勝手なことを、とティアはため息をついた。

 彼女を放っておいて大丈夫なのだろうかと心配になるが、今のところこちらに害を与えてくる素振りはない。

 本当に旅の仲間として同行するつもりのようだ。


「あ、せっかくだしパンツだけ買いに行っていい? 旅は下着を新しくすると良いってジンクスがあるの知ってる?」

「知らないし。買いたければあとで勝手に行って」

「せっかくだから一緒に選んでよー。ほら、3人でおそろの下着にしない? ミユキ、エロいやつにしたらフガク喜ぶよー」

「み、見せませんから」

「レオナ、私たちとあなたに同じ商品があるとでも? 自惚れるんじゃないわよ」

「そりゃそうだ」


 かなりご立派なティアとミユキに対して、レオナは年相応の少女と言う印象を誰もが抱くだろう。


 ミユキとは身長差も30cm以上あるのだ。比喩抜きで大人と子供だ。


 サイズ違いも無くはないかもしれないが、もちろんお揃いの下着なんてお断りだとティアは付け加える。

 レオナはケラケラ笑いながら姦しく歩いていく。

 ティアは既にげんなりしており、この先が思いやられるなと思った。


 とりあえず、次のクエストでレオナの実力を測らねばならない。

 即戦力にはなりそうだが、前衛向きでもなさそうだ。


「レオナ、あなた冒険者の経験は?」

「あるわけないじゃん。あ、でも洞窟とかダンジョンの奥に逃げてた標的を捕まえに行ったことはあるよー。1週間くらい迷って死にかけたけど」


 楽しそうに先行きが不安になるようなことを言っている。


「あなたは斥候・盗賊系のスキル持ちよね。そのあたりは期待していいの?」


 ティアはフガクから聞いたレオナのスキルを書いたメモをポケットから取り出す。


――――――――――――――

▼NAME▼

レオナ=メビウス


▼AGE▼

16


▼SKILL▼

・暗殺 A

・投擲 A

・短剣術 B+

・格闘 B+

・器用な指先 B+

・身軽な肉体 B+

――――――――――――――


 斥候のスキルはないが、手先が器用そうなのである程度は役割を持てそうだと思った。


「んー、どっちかというとやっぱり暗殺系だと思うよ? ただ罠の解除とかは得意かも」


 レオナは串焼きをかじりながら言う。

 やや前衛に寄っているが、パーティのバランスとしてはさほど悪くないとは思った。

 

「ダンジョンに潜ってみましょうか」

「ダンジョン……ですか」


 ティアは頷く。

 ダンジョンは大陸各地に存在し、魔獣の巣窟となっている迷宮や洞窟などのことだ。

 中には廃墟と化した城や塔などに魔獣が棲みついてダンジョン化しているところもある。

 人の手が入りにくく、貴重な宝が眠っている場合もあるので、冒険者の中にはダンジョンを潜ることを専門にするトレジャーハンターなどもいるほどだ。


 ティアの目的は宝ではないため、ミユキとダンジョンに潜った経験は片手で数えるほどしかないが、レオナのスキルがあればやりやすいかもしれないと思った。


 ミューズがダンジョンの奥深くに隠れている可能性も十分にある。


「いいんじゃない。お宝もあるかもだし、ちょっとワクワクするよね」

 

 レオナも気楽にそう言っている。

 何ならフガクも同じようなことを言いそうだなとティアは思った。

 ただ準備は相応に大変なのもダンジョンの特徴だ。

 何かあっても当然救助などは期待できず、落盤などの事故も多い。

 中にはガスが溜まっていて松明などで火を点けてドカン!そのままダンジョンが無くなったなんて笑い話もあるくらいだ。


 何より水場が少ない。

 つまり、道中水浴びで体を洗えないのだ。

 それはティアにとって死活問題だった。


「とはいえ、クエストの内容次第ね」


 ティアたちはようやく帝都の冒険者ギルドのひとつに到着した。

 帝都はエルルなど他の街と比べてもかなり大きいので、ギルドも複数ある。

 レオナが所属する『トロイメライ』は、その中でも比較的治安の悪い地区にあるとのことだ。


「帝都のギルドは大きいですね。設備も豪華です」

「人も多いね。これなら目ぼしいのもあるでしょ」


 ギルドは3階建ての大きな建物で、カウンターの数もエルルより多く7つあった。

 人が多ければ依頼の数も必然的に増えるため、掲示板には所狭しと依頼書が並んでいる。


「レオナ、冒険者カードは?」

「あるよー」


 ティアはレオナ訊くと、どうやら仕事で使うこともあるようで、持っているらしい。

 Cランクという文字が光っていた。


「結構。ミユキさん、そっちから見てくれる?」

「分かりました」


 掲示板もひと際大きいので、探すだけでも骨が折れそうだ。

 ミユキと手分けして、端から順に見ていくことにする。

 レオナも適当に依頼書を眺めているようだ。


「猫探しに飲食店の給仕手伝い……以外と大したのが無い。っていうか依頼が多すぎる」


 ティアは頭をかきながら、一つ一つ目を通していくが、明らかに不要なものを弾いていくだけでも大変だった。

 ミユキも同じような印象で、困惑顔で一つずつ見ている。


「これは明日も来ないと難しいかもしれませんね……」

「はいこれ。ダンジョン、あったよ」


 レオナはそう言うと、ミユキに1枚の手配書を差し出す。

 もう見つけたのかと、二人は驚きその手配書に目を通した。


「すごいですねレオナ」

「仕事柄ね。大勢の中から一つの探し物をするのは得意なんだ」


レオナの言葉に、ティアとミユキはなるほどと頷いた。


「これは……」

「ああ、これはあるかもですね」


 二人はその手配書を見て、目を合わせて頷き合った。


お読みいただき、ありがとうございます。

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