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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第二章 刺客襲来編

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第40話 勇者と転移者


「――僕は、異世界から来た転移者なんだ」


 俺の放った言葉で、場を沈黙が支配した。

 足を組み椅子に座るティアと、手を膝の上で重ねこちらを見守るミユキ。


「……で?」

「え?」


 俺の告白に、ティアは首を傾げて真っすぐに見つめてくる。

 彼女の言葉に、俺は思わず訊き返してしまった。


「いやだから、異世界からの転移者だから何なの?」

「あ、え、えっと……俺、僕は記憶喪失って言ってたんだけど、記憶が無いんじゃなくて、二人に会ったときがこの世界のスタートだったというか」


 ティアの一見詰問しているようにも聞こえる素直な言葉に、俺はしどろもどろになりつつも事実を回答する。


「どうやってこの世界に来たの?」

「分からない。前世で突然倒れて、真っ暗な部屋にいたかと思えばそこには女神がいて、僕に権能の一部を与えるとか言ってそれっきりだ」


 ティアは俺が異世界転移者という部分を特に訝しんだりはしなかった。

 思っていたリアクションとは違ったが、俺も分からない部分が多すぎるので助かる。


「女神……」


 ティアはその部分が引っかかったようで、顎に手を当てるいつもの仕草で考えている。

 代わってミユキが小さく手を挙げた。


「異世界のフガクくんはどのような方だったんですか?」

「中身は一緒だけど……二人よりは本当は少し年上なんだ。30歳とちょっとで……まあ独身の普通の男だったよ」


 ここはちょっと濁した。

 今の関係性が変わってしまうのが、俺は怖かったのかもしれない。


「ああそう? じゃあもう少し年上のおにーさんに敬意を示した方がいいかな」


 ティアはからかうような笑みを浮かべた。

 俺は慌ててそれを否定する。


「い、いやいつも通りでできれば……。この身体は25歳みたいだし」

「言われなくてもそのつもりだよ。今さら変えろって言われてもね、難しいよ」

「は、はい。私もフガクくんがよろしければ、今のままの方がありがたいです」

「願ってもないよ」


 二人からはありがたい申し出があった。

 案外一番気にしていたのはここかもしれない。

 若い女性の二人旅に、アラサー男子の俺が混ざるのもちょっとなと思っていたからだ。


「黙っていてごめん。僕の力は女神から与えられたものだし、記憶喪失というのも嘘だ。

 ごめん……」


 俺は椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。

 ティアとミユキは視線を合わせて困ったような顔をしている。

 さて、俺はどのように断罪されることになるのか。


「あのねフガク、こういう言い方すると語弊があるかもなんだけどね……」


 ティアが言葉を選んでいるような素振りを見せた。

 何か言いにくいことを言われるのだろうか。

 俺は頭を下げたまま、チラリと彼女の方を見る。


「割と……どうでもいいかな。悪いんだけど」

「え?」

「いや、まずフガクが過去のことを覚えていないのは記憶を失ったからじゃなくて、そもそもこの世界に存在しなかったからなんでしょ? 理由が違うだけで特に何も変わらないんじゃない?」


 ミユキもうんうんと頷いている。


「まあ……それは」


 俺も自覚していたことだったので、ぐぅの音も出ない。


「薄情に聞こえるかもしれないけど、私はフガクの記憶を取り戻そうとするつもりも別に無かったんだよね。それどころじゃないし。だからまあ、あなたの記憶が無い理由はどうでもいい」

「……」

「なんなら却って安心したよ。突然記憶が戻って、実はあなたがとんでもない悪人だったり、私の敵だったりする展開は無いってことでしょう?」


 その言葉に、俺は顔を上げる。

 なるほどと思った。

 ティアは少し言葉を選んで話している印象はあるが、俺に気を使ってのことで、恐らく本当にどうでもいいのだろう。

 当然薄情とも思わない。

 ティアは俺のスキルに価値を見出して俺を旅に巻き込んだのだから。


「それから、前世のあなたがおじさんでもいいよ別に。今の身体は可愛いと思うし、中身は知らないけど、まあそれは誰でもそうだよ。

 心の中で何考えてるかなんて、分からない。今日まで一緒に過ごした普段のあなたは、そんなに嫌いじゃないよ」

「お、おじさんと呼ばれる年じゃないんだけどな……」

「あっそ? まあ私はそんな感じかな」


 これは素直に嬉しかった。

 いやおじさんと呼ばれるのは少し引っかかるが、この際いいだろう。

 このまま良い関係を続けられるなら、別にそのままでいいと受け取ることにする。


「嘘をついていたこと、気にしてたんだね。大丈夫だよ、私もフガクやミユキさんにまだ言えてないこといっぱいあるから」

「フガクくん、私も謝っていただく必要はありません。でも、せっかくなら前の世界でのフガクくんのことも、これからはもっと教えてくださいね」


 ティアは笑みを浮かべてそう言ってくれた。

 隣ではミユキも優しく微笑んでいた。

 

「僕が『異世界転移者』だってこと、疑わないの?」

「正直そんな人聞いたことないけどね。いや、これ全部まるっきり嘘だったら逆にビックリするけど、冗談で言ってるわけじゃないんでしょ?」

「う、うん」

「じゃあいいよ。あなたがどこの誰であっても……私を裏切らないなら」


 最後は少し怖いトーンだったが、俺は普通に泣きそうになった。

 ティアもミユキも、俺の話を疑いもせず聞いてくれたうえで、特に問題ないと受け入れたようだ。

 俺の記憶があろうが無かろうが、ティアにとって必要なのは俺のスキルだ。

 もちろん、俺のうぬぼれかもしれないが、ある程度信頼関係も築けているから今はスキルだけでもないと思っている。

 だからこそ、俺は二人との関係性が壊れなかったことに安堵した。


「ただ気になるのは『女神』ね……名前とか、何か特徴は?」

「それが忘れちゃってて……見た目は何となく印象に残ってるんだけど? 夢を見た後みたいに曖昧なんだよね」 

「権能……スキルか……」

「そういえば、エフレムとかフェルヴァルムと戦っているとき頭が痛くなって、その時に出てきた女の人が女神に似てたかも」

「確かにフガクくん、一瞬動けなくなってましたもんね」


 ミユキがそう付け足した。

 エフレムとフェルヴァルムに共通点が見つからないが、果たして。


「エフレムは返り血が僕に付いたとき、フェルヴァルムはキスされて血を飲まされたときかな」

「キスぅ? っていうかフェルヴァルムって誰?」


 ティアが顔をしかめる。

 俺だってしたくてしたわけじゃない。

 フェルヴァルムは確かに美人だったが、それ以上に恐ろしすぎる存在だ。

 キスだって血の味しかしなかったし、こっちが舌に嚙みついてやったせいでキスというより噛みつき合いみたいなイメージだった。

 今だって思い出しただけで寒気がするほどなのだから。


「あ、その話は私がお話しようと思っていた内容にも関わっていまして……」


 ミユキがおずおずと語りだす。

 ティアは今度は彼女の方に視線を向けた。


「そっちに繋がるのか。とりあえず聞くよ。聞いたうえで整理しよう。ミユキさんは何?」

「はい……私は、『勇者』です」


 ミユキはその大きな胸に片手を当て、俺とティアに向かって宣言した。

 フェルヴァルムは自らを『勇者を殺す者』だと言っていた。

 つまり、ミユキは『勇者』で、勇者を殺すフェルヴァルムはミユキの敵だということか?


「『勇者』って何? 御伽噺(おとぎばなし)に登場するあの『勇者』?」


 ティアは俺同様に、特に疑ったり否定することも無く話を掘り下げていく。

 俺は彼女のこういうところを素直に尊敬した。

 俺だったら、頭の中でぐるぐると考えが駆け巡って何を訊けばいいか分からなくなるし、「そんな馬鹿な」とかのアホみたいなリアクションをしそうだからだ。


「分かりません。でも、フェルからは幼いころにそう言われました。確かに、私のスキルの中には『勇者』の名前があります」


 ミユキがそう言うと、ティアは無言で俺を見た。

 確認しろということなのだろう。

 俺はミユキのスキルを開いてみる。


―――――――――――――――

▼NAME▼

ミユキ=クリシュマルド


▼AGE▼

26


▼SKILL▼

・怪力 SS

・■■の武技 A

・■■の瞳 B+

・対■■■■■■適正 B

・■■■■肉体 B

―――――――――――――――


「ごめん、隠れて見えないや。どれが勇者のスキルなの?」

「『勇者の武技』と『勇者の瞳』です。それ以外は私もフガクくんと同じように、教会で見ても全ては確認できませんでした」


 そういえば、各個人のスキルは教会に行けば見られるとか言っていたな。

 どういう風に見えるのか、今度教会を訪れてみよう。


「ん?」


 今気づいたが、彼女の顔の横にあるステータス画面を開くための「ー」が点滅している。

 何事かと思い、もう一度開いてみる。


―――――――――――――――

▼NAME▼

ミユキ=クリシュマルド


▼AGE▼

26


▼SKILL▼

・怪力 SS

・勇者の武技 A New!

・勇者の瞳 B+ New!

・対■■■■■■適正 B

・■■■■肉体 B

―――――――――――――――


 ミユキがスキルを明かしたからだろうか、彼女のスキルの読めなかった部分が明らかになっていた。

 確かに、彼女のスキル名には『勇者』の文字がある。

 

「ティア、勇者が登場する御伽話ってどんな話なの?」

「御伽噺というか、歴史の話だよ」


 ティアの話の概要はこうだ。


 かつて人類と魔族が戦いに明け暮れていた時代。

 『勇者』と呼ばれた人物が、魔界シェオルで『魔王』と魔族たちを討伐し、地上に平和を取り戻したという内容だった。

 しかし、『勇者』は戦いの中で傷つき地上に戻ってくることは無かった。

 今もシェオルで傷を癒し、再び人類の危機のために眠りについているという伝説。


 何ともファンタジーなお話ではあるが、ほぼファンタジーみたいな世界であるこの世界においては歴史の1ページのようだった。


「この世界では子供が学校で教えられるお話です。悪い魔王とその一族を、勇者一行が倒すという勧善懲悪のストーリーですね」

「まあ400年も昔のことだからね。本当のところは分からないけど」

「どういうこと?」

「勇者は魔王とその同族、つまり亜人や魔女なんかも全部滅ぼしたんじゃないかってこと」


 確かに、この世界にはエルフやドワーフ、リザードマンといった、ファンタジー世界にはつきものの亜人の姿が見当たらない。

 ティアの口ぶりでは、亜人はかつて存在したということになるが。


「それで? ミユキさんが『勇者』っていうのはどういう意味? 生まれ変わりとかそういうこと?」


「私も詳しくは分かりませんが。少なくとも私には生まれつき、かつて『勇者』が持っていた権能の一部がスキルとして継承されているようなんです。もちろん、私は『勇者』を見たこともなければお会いしたこともありません。フガクくんのように記憶が頭を何かが過ぎるということもありませんし……」

「フェルヴァルムというのは?」


 俺も最も気になっている部分に話が移る。

 真っ白な修道服に身を包んだ、白髪の女だ。

 明らかに異質な雰囲気を纏っており、話している言葉もはっきり言ってよく分からなかった。

 ただ一つわかるのが『勇者を殺す者』と名乗ったことだ。


「シスター・フェルヴァルムは、私が育った修道院のシスターでした。元はどこかの国の軍属だったようですが、私を戦場で拾うなり退役してシスターになっています」

「拾った?」


 俺は思わず口に出して問いかけた。

 センシティブな話だっただろうか。

 ミユキは特に気にする素振りを見せずコクリを頷く。


「私はハルナックの南方にある村で生まれたのですが、子どもの頃に村が戦禍に巻き込まれて両親は亡くなったんです。そこをたまたま通りがかったフェルに救われ、ゴルドール北部にある修道院で育てられることになったんです」

 

 ほとんど覚えてないんですけどねと、ミユキは少し寂しそうに笑った。

 壮絶な生い立ちを語るミユキだが、特に辛い記憶という雰囲気ではない。


「ですが、私が13歳か14歳のころです。突如私はフェルから命を狙われるようになりました。

 最初は彼女も混乱していたようですが」

「ちょっと待って。わざわざ命を助けたのに、ミユキさんを殺そうとするの?」


 ティアの疑問はもっともだ。

 もともと情緒不安定なのか、あるいは別の理由があるのか。


「分かりませんが、彼女も自分の行動が理解できていなかったようです。そして私は命の危険を感じ、修道院を出ることになりました」


 ミユキの補足によれば、アポロニアはその頃にはすでに修道院を出ていたようだが、ミユキや他の子どもたちにとっては姉替わりの存在だったらしい。


「幸い、スキルのおかげで戦うことに苦労はありませんでした。私はすぐに親切なギルド職員の方の勧めで冒険者になっています。はじめは、何度かパーティを組むこともありました」

「傭兵っていうのは?」


 俺もミユキに尋ねてみる。

 ミユキは傭兵から冒険者に転向したのだと思っていたが、逆だったようだ。


「フェルは、私がどこに逃げても執拗に追ってきました。何度逃げても追ってきて、私の当時の仲間も殺されています。私はその頃には、彼女を見るとどうしても怖くて身体が動かなくなってしまうので、戦場に身を隠すようになっていったんです」


 なるほど、それで傭兵か。

 ミユキによれば、冒険者よりも素性を問われにくく、足取りを追われにくかったらしい。


「それが功を奏したのかは分かりませんが、それ以降今日までフェルに遭うことはありませんでした。

 また冒険者に戻った矢先、ティアちゃんに雇われたという流れです」


 本人がどう思うかは分からないが、俺は正直ミユキに同情した。

 彼女は産まれてすぐに両親を失い、助けてくれたはずのシスターが自分の命を狙って追ってくる。

 そんな逃亡生活を10年以上も続けているのだ。


「ただ妙なのは……今日フェルは私を"連れていく"と言っていました。少し目的が変わったような気がしています……」

「今の話を聞いてもその人のことはあまりピンとこないわね。ミユキさんを何故殺そうとするのかも分からないし」


 確かに、フェルヴァルムが何らかの理由で錯乱してミユキを追い詰めるようになったとしか思えない。

 『勇者を殺す者』が、 "何故勇者を殺すのか" が重要なのだ。

 そもそもミユキが『勇者』というのもイマイチ理解できない。

 だが俺は、考えながらある一つの言葉が頭をよぎった。


「『魔王』……」

「え……?」


 ティアとミユキがこちらを見る。

 その御伽噺の『勇者』とミユキに何らかの関連性があるなら、あるいはフェルは『勇者』の仇敵である『魔王』の関係者なのではないだろうか。


「フェルヴァルムは……『魔王』なんじゃないか?」


 俺の何の確証もない呟きは、意外にも二人の胸に深く突き刺さったようだ。

 俺たちの間には奇妙な沈黙が流れる。

 知らぬ間に核心に触れてしまった俺は、二人の視線を受けながら冷や汗を流すのだった。


<TIPS>

挿絵(By みてみん)

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