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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第一章 ゴルドール帝国編

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第31話 She will marry me②


 ミユキは、フガクの見事なカウンターに心の中で喝采を送った。

 隣では、アポロニアとビクトールが驚きながらその光景を眺めている。

 

「フ、フガクはあんなに強かったのか……? 見かけにはよらないものだな」

「王子の振りだって決して遅くはねえ。なのにあの坊主、真正面から剣をかわしてそのまま懐に潜り込む動きに迷いが無さすぎる。なんだあの動き」


 驚く二人に、ミユキは心の中でフガクを誇らしく思った。

 「あれが私のパーティメンバーです」と、声高らかに教えてあげたい気分だった。


「フガクくんの今日までの戦闘経験はそう多くありません。彼は自分の実力をまだ見誤っているんです」

「ミユキ……」


 ミユキはフガクと会った日から、今日に至るまでに戦った相手のことを思い浮かべた。


 最初はベヒーモスだ。

 クエストの難易度はAランクで、はっきり言って並みの冒険者が太刀打ちできる相手ではない。

 それが群れを成して襲い掛かる中、彼は拳一つでベヒーモスの一頭を吹き飛ばし、ミユキを驚かせた。


 次はブラッドボアだ。

 こちらはさほど強力な魔物ではないが、真正面から突進を受けるのは人間業ではない。

 なのに、彼はそれを正面から受け止め、脳天を一撃で突き刺して仕留めた。


 次はミューズだ。

 ミユキが彼の前に引きずり出したとはいえ、あの魔物の危険度は間違いなくSランク。

 知能があり、凶悪なスキルを備えていた。

 それを彼は、たった一人で難なく撃破した。


 あの時の光景をミユキは忘れないだろう。

 自分よりも小さな、華奢な青年が巨大で恐ろしい魔獣を蹂躙していく姿を。


 その次は見ていないが、数十匹のワイルドバニーとグランドバニーを一人で討伐したらしい。

 ワイルドバニーは強い魔獣ではないが、30匹を相手に一人で戦うのは正気の沙汰ではない。

 グランドバニーも、ベヒーモスに相当する強さの魔獣だ。


 そして昨日戦ったエフレムとデュラン。

 人獣一体の彼女らは、ミユキでも苦戦を強いられる相手だ。

 それを彼は、まともにぶつかり合ってこそいないが、エフレムの腕を斬りつけて槍を落とさせた。

 あのまま戦闘を続けていたら、最後にはどうなっていたか分からない。


 ミユキは、フガクは実はまだ全然底が見えないほど強いのではないかと思っている。

 彼のスキル『精神力SS』が関係あるのかは分からないが、戦闘経験が薄い割には戦いに迷いがない。


 恐怖は動きを鈍らせ、死を自らに引き寄せる。

 ミユキもそれを痛いほど思い知らされる経験をしたことがあるのだ。

 フガクの場合、怖がってはいるのかもしれないが、恐怖を抱えたまま確実に足を前に踏み出せる人だと感じていた。


 それは、決して誰にでも持ち得る精神ではない。ミユキがフガクの強さに一目置いている理由がそれだった。


「んじゃあの坊主は、今まで戦ってきた相手が強すぎて、自分の実力をちゃんと分かってねえってことか?」


 呆れたようにビクトールが言う。


「はい。自分では絶対分かってないと思います」

「教えてやればいいじゃないか」


 アポロニアも訝しげに告げる。

 ミユキは苦笑いして首肯した。

 確かにその通りなのだが、ミユキはもう少し黙っておこうと思っている。


「自覚するしかないと思いまして……それに……」


 ミユキは、あのミューズとの戦いから、彼の言葉を聞き、彼の戦う姿を見ると、自分の胸の奥が高鳴るのを感じていた。


 この気持ちが何なのかは分からない。

 だが、記憶を失い、何も分からない世界の中で懸命にもがこうとする彼の姿は、美しいものだと思えた。

 その姿を見て、自分も恐怖に打ち勝つ強い心を得られるのではないかと錯覚するほどに。

 だからミユキはもう少し、彼のひたむきな姿を見ていたいと思うのだ。


「それに、なんだ?」

「いえ……」


 ―――フガクさんかっこよくないですか?


 何日か前、リリアナからの問いに、ミユキは答えそびれた。

 あの場では答えられなかったが、今、誰も聞いていないところで、答えてしまおう。


「はい、私もそう思います……」


 真意は分からないが、今、目の前で自分のために戦ってくれているフガクの姿を見て、ミユキは微笑みを浮かべて呟いた。


―――


「ようしそこまでだ。王子、立てますか?」


 倒れ伏した王子は、起きあがろうとするも思うように身体が動かないようで、ビクトールが手を差し出す。


「ちっ! 一人で立てる!」


 王子は手を振り払い、どうにか一人で立ち上がって俺を睨みつけた。

 フラフラだが、その目からは闘志は失われていなかった。


「ふん、やるではないか……。確かに木剣であれば俺は死んでいたやもしれん」


 プッと口から血を吐くと、奥歯がコロリと転がっている。

 ちょっとやり過ぎてしまっただろうか。


「これは借りにしておく。クリシュマルド殿は持っていくがいい」

「うん、王子様も、まさかこんなに立ち上がってくるなんて。正直怖かったです」


 俺は、王子の元まで歩み寄り、右手を差し出した。

 殴り合いの喧嘩をしたら、最後は握手と相場が決まっているのだ。


「ふん……!」


 王子は俺の右手を握り返し、二人の間には奇妙な友情のようなものが生まれるのを感じた。

 若干の悪ノリから始まった決闘であったが、存外爽やかに終われて気分が良い。


 相手もそう思っているようで、俺たちは見つめあって互いに笑みを浮かべあう。

 そんな俺たちの様子を見て、周りの男たちも大いに沸いたのだった。

 

「何を見せられてるんですか私は……」


 俺は王子の元を離れ、ミユキの近くへと戻る。

 銀鈴を俺に手渡しながら困惑の表情を浮かべていた。

 あれ? 男同士の友情が生まれた美しいシーンだと思うのだが、全然刺さってないぞ。

 まあ勝ったからいいだろう。


「ミユキさん……言われた通り、僕が勝ったよ」

「は、はい」


 ミユキと目が合うが、頬を赤らめ、恥ずかしそうに視線を逸らされた。

 何かを言うか言うまいか迷っているような仕草だ。

 そして彼女は、振り絞るように口を開く。


「じゃあ……す、するんですか? その、結婚……」


 おずおずと、消え入るような声でミユキが言った。

 それを聞いた俺の返事はただ一つだ。


「なんで? しないよ?」


「……は?」

「え?」


 いやさすがにしないだろ。しないしない。

 そういうのはまず付き合ってからだし、そもそもミユキだって嫌だろう。

 王子からミユキを守るための方便だったが、ミユキを混乱させてしまったようだ。

 

「あれはほら、ミユキさんを諦めさせるにはああ言うのが手っ取り早かったと言うか……」

「い、いえ。そうですか……まあそうですよね……」


 俺たちの間に何とも言えない微妙な空気が流れる。


「よかったよかった。これでミユキさんと旅を続けられるし、ティアにも怒られずに済むよ」


 ミユキは腑に落ちないという表情をして首を傾げている。

 あれ? 俺がおかしかったのだろうか。


「フガク、見事だったな。君があそこまでやるとは正直思っていなかった」


 アポロニアが俺たちのところへやってくる。

 肩をポンと叩かれて褒められた。

 

「王子大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、そこまでヤワな方ではない」

「あのー、ソレスさん」

「ん? どうしたミユキ」


 アポロニアが話していると、ミユキがスッと手を上げて発言する。


「実は私……先ほどヴァンディミオン大帝陛下からお願いをされまして」


 ミユキの声のトーンが若干平坦なことに違和感がある。

 こういうときのミユキは、少し怖いのだ。

 俺は嫌な予感がしつつも、彼女の言葉の続きを待つ。


「ああ、そうだな。私はティアたちを待たせているから行かねばならないが、その間に君たちは訓練を……」


 アポロニアの言葉を遮るように、ミユキは満面の笑顔を浮かべて告げた。


「実は私、皆さんのお尻を破壊するよう言われましたので、ぜひ実行したいと思っております。フガクくんも、参加しますよね?」


 何となくだが、怒っている気がする。

 いつも通りの穏やかな笑みを浮かべているが、これは絶対怒っている。

 普段温厚な人ほど、怒らせると怖いのだ。

 俺はミユキを極力刺激しないよう、肋骨をわざとらしく押さえながら応える。


「え? あ、でも僕肋骨もヒビ入ってるし……」

「参加しますよね」


 最後まで聞いてもくれなかった。


「……はい」


 何やらミユキの背中には黒いオーラが見え隠れしている。

 それに大帝はそこまで言ってない!

 尻を蹴り回せと言ったのだ

 それだってものの例えというか、本気で尻を破壊しろと言うわけないだろう。


 だが、ミユキのにこやかな微笑みは、俺に一切の口答えを許さず、ただ首を縦に振らせるのみだった。


 結局その後、俺も王子も他の兵士たちに混じって訓練に参加するハメになる。


 わずか1時間程度で、すべての兵士がミユキによってボコボコにされるという、騎士団長も苦笑するしかない惨憺たる光景が訓練場に広がるのだった。


<TIPS>

挿絵(By みてみん)

お読みいただき、ありがとうございます。

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