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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第一章 ゴルドール帝国編

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第24話 魔女と聖女の攻防

 俺は木にもたれかかった首や背中にわずかな痛みを感じつつ、ティアの声がかかる前に目を覚ました。

 仮眠は5分でも効果があるというが、実際頭はスッキリしているしその通りなのだろう。

 この世界や大陸に四季があるのかは定かではないが、気温も過ごしやすく、外で寝ても特に寝苦しさは感じなかった。


 寝ぼけ眼のまま辺りを見渡すと、隣の木でリリアナが口を開けて涎を垂らしながら眠っている。

 反対側では、ミユキも馬に積んでいた毛布にくるまって静かに寝息を立てていた。


 だが、ティアがいない。

 俺はシーツ代わりにしていた外套を再び羽織り、立ち上がる。

 20mほど離れた場所にある、湖のほとりに薄っすらと月明りに照らされたティアの姿を見つけた。


 彼女の手元には、仄かに青白く輝く白い鳩のような鳥が止まっている。

 まるでお伽話のような光景に、俺は思わず見とれた。

 ティアは心底嫌がるのだろうが、先日も思った通り、彼女の言動や一挙一動は正しく聖女のようだ。


「フガク、もう起きたの? 疲れてない?」

「うん、少し寝たらスッキリしたよ。ティアは? っていうか鳩?」

「私も大丈夫。これはスキル見たから知ってるでしょ? 精霊召喚だよ」


 確かに、先日確認した彼女のスキルの中には、「精霊召喚 D」の文言があったと記憶している。

 マスコットから聖獣まで多様な精霊を使役したり、お友達になっていたりと、俺の知る聖女のイメージでも精霊は結びついている。


「ま、私が使役できるのはせいぜいこの子たちくらいなんだけどね」


 ティアが手元の青白い鳩を慈しむように撫ぜ、その足元にメモのようなものをくくりつけた。


「何してるの?」

「例の待ち伏せ対策」


 ティアがいたずらっぽく笑い、鳩は仄かな光を放ったまま真夜中の星空へと飛び立っていった。

 エフレム達の部隊が、帝都の近くで待ち伏せしていることはほぼ確実だ。

 ティアは先ほど対策すると言っていたが、それがこの鳩なのだろうか。


「ティアはすごいね」

「何急に。口説いてる? ミユキさんだけじゃ足りないの?」


 ティアは怪訝そうに顔をしかめ、一歩後ずさった。


「口説いてないよ! ミユキさんも!」


 俺の名誉のために言っておくが、俺は二人に命を救ってもらったことを心の底から感謝しているし、そういう目で見たことは一度もない。

 いや、少しは見ている。

 が、それ以上に俺はティアとミユキに対して尊敬の念を持っているのだ。

 なぜか。


「ティアは旅の準備をしてるときから、こんな状況になるまで全然変わらないなって思っただけだよ。

 自分のためだって言いながら、ずっと誰かのために行動してる。

 まるで……」


 俺の中でのティアの印象は、一貫して「大胆かつ周到」だ。

 次に何をすべきか、自分はどう在るべきかに迷いがなく、俺たちを導いていく。

 必要なことを必要なだけ行う人だ。

 ティアは当たり前のようにやっているが、それが当たり前ではないことを、俺もおそらくミユキもちゃんと分かっている。

 だからこそ彼女は。


「……フガク、その先は言わないで」


 声色は静かだったが、ほんの少しだけ瞳が揺れた気がした。


「ああ、分かってる」


「別に、大したことじゃない。私は戦いじゃミユキさんやフガクほどは役に立たないしね。役割分担の話だよ」


 そういえば、と俺はティアの腰に下がっている淡い水色の装飾が特徴的な剣を見る。

 一度も抜いているところを見たことがないが、何か曰くつきの剣なんだろうか。

 おそらくそうなんだろう。

 ティアの一挙一動にはすべて意味があるように思えてくる。


「ティアちゃん、フガクくん、ここにいたんですね。起きたらいないので心配しました」


 すると、ミユキも目覚めたようで背後の林から声がかかった。

 さすがに夜中で少しひんやりするからだろうか、いつものノースリーブではなく白いジャケットを羽織っている。


「おはようミユキさん。といってもまだ夜中だけど」

「あの問題児は? まだおねむかしら?」

「気を張ってお疲れだったのでしょう。まだ寝ておられます」


 クスクスと笑うミユキ、月明かりが湖畔を照らす静かな夜に、こうして3人で並んでいるのも不思議な気分だ。

 しかし、感傷に浸ってばかりもいられない。

 そろそろ俺たちも帝都に向けて歩を進める必要がある。

 すると


「ちょっとー! なんでみんないなくなっちゃうんですかー!

 置いてかれたのかと思って泣きそうになったじゃないですかー!」


 問題児もすぐに半泣きで現れた。

 泣きそうというか泣いている。

 荷物も馬も放ったまま、杖一本だけを持ってドタドタと駆け寄ってきた。


「ごめんごめん、置いていったわけじゃないよ。ちょっと出発の準備をしてて」


 俺とティアは視線を交わして笑った。

 ミユキがまあまあとリリアナをなだめすかしながら、元の場所へ戻っていく。

 俺たちもそれに続いた。

 まだ空が明るくなるには幾分時間があるが、俺たちは行動を開始する。


―――


 そして未明から帝都へ向けて歩みを進め始めた俺たちだが、意外にも旅は順調だった。

 街道を外れるともはや人に出会うこともなく、たまに魔獣を見かけたが素通りできる距離だ。

 

ティアが地図を確認しながら先導し、時折川べりなどで休憩を挟みながらおよそ30時間が経過した。


 帝都はもはや目と鼻の先。

 遠くに要塞のような城壁と、高い壁に囲まれた街が見えてきたとき、ついに俺たちの前にエフレムが姿を現した。


「待ちくたびれました。」

「あー、もう少し帝都に近づきたかったけど……来ちゃったか」


 マンティコアのデュランに騎乗し、金色の槍を携えて、漆黒の鎧をまとった戦乙女が立ちはだかった。

 彼女の背後には3騎の騎士が控えている。

 ティアの呟きに、彼女らの背後にある帝都までの距離を目測するが、さすがに走って逃げきれる距離ではないだろう。


「もう1度言います。リリアナ=デイビスを引き渡しなさい。悪いようにはしません、仲間になりたいだけです」


「いやですー! 大体、そんな上から来る人と仲良くなれるわけないでしょ! そこをどいてください!」


 リリアナは俺の背後に隠れながら、エフレムに向かって啖呵を切った。

 体の位置がそこじゃなければ恰好がついたのだが。

 エフレムはリリアナを見据え、冷たい目をして言い放つ。


「大丈夫、お母様と話をすれば、きっとあなたも我々の想いに賛同します。皆そうなりました」


 エフレムの透き通った瞳からは、こちらに有無を言わせないプレッシャーが感じられる。

 ”皆そうなった”とはどういうことだろうか。

 その“皆”というのは、自らの意志でエフレムたちの仲間になることを選択したとでもいうのか?


「な、なにそれ。怖いんですけど」


 もはや戦いは避けられない。

 すると、俺の隣でティアが突如物騒なやり取りを始めた。


「ミユキさん、後ろの馬奪えるかな? 」

「可能ですが、騎士らしき方々はどうされますか?」

「絶対殺しちゃダメ。後々遺恨を残すから」


 相手にも丸聞こえなので、一気に場の空気が張り詰めた。


「何を言っているの……やはり抵抗する気ですか?」


 エフレムですら、信じがたいと言いたげにティアとミユキを交互に見据えている。


「ティアちゃん、行きます!」


 ミユキが相手の虚をつくように地を蹴り、一足飛びでエフレムの背後の騎士に飛び掛かった。

 すかさず剣を抜く騎士だが、時すでに遅し。

 ミユキの蹴りが騎士の頭部にさく裂し、メキャッ!という兜が凹む音と共に落馬する。


 デュランに載ったエフレムが、馬に飛び乗ったミユキを金色の槍で突こうと襲い掛かった。

 

 ガギンッ!という音が荒野に響く。


 俺が二人の間に飛び込んで銀鈴で槍の穂先をずらしたのだ。

 ミユキには当たらなかったものの、俺の頬をエフレムの槍が掠めていった。


「来なさいリリアナ!」


 ティアが俺たちの荷物を積んだ馬に飛び乗り、リリアナを引き上げる。


「わ、私馬に乗ったことないです……!」

「いいから適当にしがみついてなさい!」

「は、はいー!!」


 鞍がないが手綱は付いているので、ティアは巧みに馬を御しながら、帝都へ向けて走り出す。

 ティアが何をしようとしているのかは分からないが、帝都まで辿り着けば何かが起こるという確信があった。

 リリアナが喚きながら馬にしがみついているのを見送りながら、俺はエフレムを追いかけた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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