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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第一章 ゴルドール帝国編

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第19話 トラブルメーカー

 馬車を飛び降りた俺とミユキは、街道の隅で何やら揉めている連中のところへと急ぐ。

 一人の女性を数人の冒険者風の男が取り囲んでいるのが見えた。


「だからよー、俺たちが送ってやるって言ってんだろ」

「そうだぞ。この辺は夜になるとブラックハウンドが出る。一人では危険だ」

「結構ですー! 私は一人でも大丈夫ですから!」


 ミユキと共にそちらに駆け寄ると、4人の冒険者風の男が、若い女性に詰め寄っているところだった。


「ちょっとちょっと! 何してるんですか!」

「ああん?」


 人相の悪そうな男達だが女性も気が強そうで、口論になっているようだった。


「た、助けてください……!」

「てめ……!」


 すると、女性が俺の腕に抱き着き、助けを求めてきた。

 ダークブラウンの長い髪に鮮やかなオレンジ色のインナーカラーが特徴的な、20代前半くらいの可愛い女性だった。

 ブラウンのドレスに黄色い宝玉の付いた長い杖を携えており、冒険者というよりも魔法使いという印象を受ける風体だ。


「えっと……どういう状況ですかね?」


 確かに男達の人相はすこぶる悪い。

 が、しかしだ。

 男達は旅の荷物も持っているようだし、一方的に悪者扱いできそうな雰囲気でもなかった。

 俺は右腕の柔らかい感触をできるだけ気にしないように、平静を装って質問する。


「何だお前ら、関係ねぇ奴はすっこんでろ!」

「しかし揉めていらしたようなので……」


 ミユキも相手を刺激しないように丁寧に応対する。


「その女がこんなとこ一人でうろついてやがったから、近くの宿場まで送ってやろうかって言ってたとこだよ!」

「だからいらないって言ってるでしょ!」


 危ない、有無を言わさず斬りかからなくてよかった。

 どうやら冒険者たちは親切心からこの女性に声をかけたが、彼女もまた事情があるようでそれを拒んでいたらしい。

 まあどちらにも非は無さそうなので、俺とミユキは視線を合わせて臨戦態勢を解いた。


「ったく勝手にしろよ! 魔獣に襲われてもしらねえぞ」

「大丈夫ですー! 自分の身くらい自分で守れますー! ナンパなら他所でやってくださいますかー?」

 

 俺の腕にすがりついたまま、女性は舌を出して男達に悪態をついている。

 冒険者たちはチッと舌打ちをしながらその場を後にして、街道の方へ戻っていった。


「危ないところを助けてもらって、ありがとうございました!」


 彼らの背中を見送った後、未だ俺の右腕にくっついている女性は笑顔でそう告げた。

 別に危ないところなど無かった気もするが。


「あの……まず離れましょうか。あなたは?」


 ミユキが女性の腕に手を添えて俺から引き剥がす。

 もう少し感触を楽しんでも良かったが、何となくミユキの視線も痛かったので諦めよう


「私はリリアナっていいますー」

「よろしくお願いします。私はミユキと申し」

「お兄さんすごいかっこいいですね! お名前なんて言うんですかー?」

「えっと……フガクです」


 ミユキの自己紹介を遮って、リリアナと名乗ったその女性は、再び俺に距離を詰めてきて上目遣いで見つめてくる。


「へぇー! 素敵なお名前ですね! あ、私シェオルに向かう旅の途中なんですけど、フガクさんはどこに行くんですかー?」


「えっと、僕たちは帝都に……」


「えー! 本当ですかー!? 奇遇ですねー! あのー、女の一人旅は危険なのでご一緒させてもらえませんかー?」


 何かすごいグイグイ来るんだが。


 前世で20代の頃に、友人に人数合わせで連れて行かれた合コンでこんな感じの女がいたな。

 友人の一人が大手の商社勤めで、高年収だったからかやたらと女性陣の食いつきが良かった。


 そのうちの一人が、こういう甘ったるい声で友人に迫っていた記憶がある。

 あれ、ってことは俺今モテてる?

 

「申し訳ありませんが、それは難しいです。それにリリアナさん、あなたは先ほど彼らの誘いを断っていたではないですか」

 

 ミユキが横からリリアナをやんわりと諌めている。

 だがリリアナは聞いているのかいないのか、ミユキを一瞥もせず俺を見つめていた。


「えー、だってあの人たちかっこよくなかったし。それに男4人と一緒なんて何されるか分かんないしー」


 散々な言われようだ。

 確かに強面な連中だったが、本当に親切心で言っていたのかもしれない。

 まあ仮にそうでも、見知らぬ男4人と同行するのは女性にはなかなかハードルが高いとは思うが。


「リリアナさん、あの方達は親切であなたに声をかけてくれたのではないですか? もちろん選択の自由はあなたにあります。ですが、あれだけ無碍に断ったのですから、さすがにそれはムシが良すぎるのでは……」


「ていうかあなたに言ってないんですけど。お姉さんだったらオッケーしてました? してたんだ。お姉さんは知らない男4人から声かけられてそのままホイホイ着いて行っちゃうんですねー。さてはビッチですかー?」


「……」


 すごい。

 ミユキと出会ってから初めて彼女の口元が引きつるのを見たぞ。


「そうですね……。確かに私でも断っていたでしょう。しかし申し訳ありませんが同行は」


「ねえフガクさんいいでしょ? 帝都まででいいから! 私、カッコいいナイトみたいな人と旅するのが夢だったんですー」


 ミユキの言葉など聞く気もないようで、リリアナは俺を一点狙いで媚び媚びのおねだりをしてくる。


「ああ……嬉しい申し出だけど。僕はミユキさん達と先を急ぐから、ごめんね」

「えー……」


 半泣きになってきたミユキを見かねて、俺もきっぱりと断っておく。

 すまないね。

 確かに可愛い女子から頼られるのは満更でもないが、俺はそれ以上にミユキやティアとの穏やかでハートフルな旅路を望んでいるのだ。

 どう考えてもパーティ内に不和を呼びそうな彼女との同行は避けたいところだった。


「ぐすん……ひどいです……私、本当は男の人が怖かっただけなのに……なのにこんなところに一人で置いて行かれたら…

…どうしたらいいか……ぐすんぐすん」


 おいおい、次は泣き出したぞ。

 だがまあその手には乗らない。

 俺は踵を返してミユキと共にティアの待つ街道へと戻ろうとする。

 後ろから、リリアナのすすり泣く声がいつまでも響いていた。


「私……どうしよう……このまま夜になったら魔獣に食べられるかも知れない……。もしかしたら野盗の慰みものに……お母さぁん……ぐすんぐすん」


ーーー


「で、連れてきたのね」


 馬車に戻った俺たちがことの経緯を説明すると、ティアは額に手を当てて苦い顔をした。

 もちろん隣にはリリアナがいる。


「ごめんなさいティアちゃん。さすがに放置もできなくて……」


 十中八九嘘泣きなわけだが、実際一人旅が危険であることは事実だ。

 あのまま放置して本当にリリアナが言うようなことになったら寝覚めが悪い。

 俺もミユキも、ティアに素直に謝ることしかできなかった。


「はじめましてー! ティアさんですね。リリアナですー! 仲良くしてくださいね」


「ああ……はいはい。ティアよ、よろしく。帝都までだからね。それ以降は自分で何とかして」 


「かしこまりでーす!」


 ティアににこやかに挨拶しているリリアナ。

 その様子を見て、ミユキが耳打ちをしてくる。


「なんだか私の時と違いませんか? 私、彼女に何かしましたか?」

「してないと思うけど……。まあティアはうちのパーティのボスだしね……」

「そういうことですか……」


 わざとやってるのかと思うくらい実に嫌な女のムーブをしている。

 これに騙されるやついるのか?と思いながら俺はリリアナのトランクも馬車に積んでやった。

 せっかく和やかな雰囲気だったのに、馬車の空気もピリつきそうだと若干不安になる。


 もはや覗き見する罪悪感も薄れたので、スキルを確認してみることにした。


ーーーーーーーーーーーーー

▼NAME▼

リリアナ=デイビス


▼AGE▼

22


▼SKILL▼

・火魔法 B

・水魔法 C

・魔女 B +

ーーーーーーーーーーーーー


 見た目通り、魔法使い系のスキルを持っているようだ。

 そういえば、この世界に来てまだ実際に魔法が使われるところを見ていないな。

 そして、俺はリリアナのスキルの中に気になる文言を見つけた。


「魔女?」

「え、なんですかー?」


 リリアナがこちらを振り向く。

 俺の呟きに、御者台の上でティアが目を見開き、やがて大きくため息をついた。


「リリアナだっけ? あなた魔女なの?」

「あ、はい。そうですよー?」


 甘ったるい声色でそう答えたリリアナ。


「最悪ね……」


 明るく振る舞うリリアナとは対照的に、ティアはまたも頭を抱えた。

 俺たちは帝都までの旅路のほんのスタート地点で、トラブルメーカーを拾い上げてしまったらしい。


<TIPS>

挿絵(By みてみん)

読んでいただき、ありがとうございます。

モチベーションにもつながりますので、もしよろしければぜひ評価や感想などいただけると幸いです。

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