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第17話 幕間 定時連絡

 ミランダはエルル北東の森でのクエスト終了後、拠点としていたゴルドール北部の街イルクウへと帰還した。

 すぐに宿を取り、マルク、ドロッセル、リュウドウの男性部屋に全員集まっている。

 

「あー、こちらミランダ。定時連絡だよ、聞こえるかい? 送れ」


 ミランダは、大き目のトランシーバー型通信機を手に持ち、向かって言葉を投げかけている。

 通信機の底部には光石が取り付けられており、外部と交信できる仕組みになっている。


「はいはーい。こちらドラクロワ。ボクだよー、ミラ元気ー? いやあこっちは雨続きで散々だよー。ゼファーも髪がまとまらないとかで機嫌悪くってさぁ……いった! 」


 ザラザラとした音と共に、明るい男性の声が聞こえてくる。

 当然顔は見えないが、場に似つかわしくないほどのあっけらかんとした口調だった。

 向こう側で何かあったらしく、何かがぶつかる音とドラクロワと名乗った男が痛そうに呻く声が聞こえた。


「このオカマ野郎相変わらずうるせえな……」


マルクが口元を引きつらせながら、通信機の向こうのドラクロワに呆れ返っている。


「キミには言われたくないよマルク。ボクはキミたちと久しぶりに話ができて嬉しいのさ。旅は楽しいかい? いいよねえ、ボクもたまには」

「エレナ、あんただけかい? 隊長か局長は? 送れ」


 ミランダは肩をすくめ、ドラクロワの話を途中で遮って平静なトーンで通信機に言葉をかける。

 マルクやドロッセルは苦笑い、リュウドウは仏頂面を崩さなかった。


「隊長は王都だよ。局長は後ろにいるけど、今手が離せないみたいだからそのまま喋ってくれるかい? 聞こえてるから」


「あいよ。こちらエルル北東の森でミューズから赤光石(しゃっこうせき)を回収。次の指示をよこしな。送れ」


ミランダの言葉に、通信機の向こうで何かしらのやりとりが行われているのか、少し間を空けてドラクロワが返答を行う。


「ご苦労様、追って別命があるまで待機だって。ゴルドール北部の山間は温泉街でしょ? みんなで行ってきたら?」


「悪くない提案だけどね、ここから何日かかると思ってんだい。まあ幸いイルクウはでかい街だ。せいぜいのんびりさせてもらうよ。送れ」


軽口を叩くミランダに、ドラクロワも小さく笑った。


「俺からも報告がある」


 ミランダの横から、リュウドウが割り込んだ。

 普段定時連絡の際は一言も喋らないことも珍しくない彼だが、どうしたことか。

 マルクとドロッセルも顔を見合わせて驚いていた。


「なんだいリュウドウくん。いやあキミの声を聞くの久しぶりな気がするよ。元気だったかい? どうだろう、今度戻ったときは親睦を深めにお酒でもどうかな。最近ゼファーと良いお店を見つけてね。そうそう、そのお店のお姉さんがなかなか可愛くて」

「おそらくフランシスカを発見した」


 ドラクロワのマシンガンのように飛び出てくる世間話をまるで意に介さず、リュウドウは必要なことだけを告げる。


「……へえ」


 ドラクロワの声が、ワントーン下がった。

 リュウドウは無表情で言葉を続ける。

 ミランダたちにも予想外の報告だったため、3人は彼の言葉に聞き入っていた。


「リュウドウ君……彼女をどこで?」


 少し間を空けて声が返される。

 ドラクロワではなく、別の男が喋った。

 落ち着いた声色だが、冷たく底冷えのするような声だ。


「ミューズを狩りに来ていた」

「フランシスカって……森のどこにいたんだい?」


 ミランダは不思議そうに首を傾げた。


「間抜けめ。お前が酒をくれてやった女だ」

「ティアかい! い、いやでもあの子はティア=アルヘイムって名乗ったよ……」


 ミランダは狼狽えてリュウドウを見据えた。

 自身の失態を晒されて焦っている。


「偽名だろう。馬鹿正直にフランシスカと名乗るわけがない」

「そりゃそうか……」


 リュウドウがくだらないとばかり、かぶりを振りながら言い放った。


「何故彼女がフランシスカだと分かったのだ?」


 リュウドウの言うことを理解できず、ドロッセルも言葉を返す。


「仲間の男にミューズを殺したのはお前かと尋ねた」

「ああ、なるほどね……すまない、あたしの失態だよ」


 ミランダは頭を抱えてため息をついた。


「あん? どういう意味だよ」


 マルクはミランダが納得する様子を見ても、腑に落ちずにいた。


「ギルドではミューズという呼称は通っていない。ミューズを知っているのは俺たちか、あるいは」

「フランシスカの研究所にいた連中だけってことさね」

「なるほど」


 リュウドウとミランダによる解説に、マルクも頷いた。


「とはいえ、フランシスカ側が漏らしている可能性もある。確実とは言えないがな」

「でもよ、それだと相手も同じように考えるんじゃねえの?」


 マルクの言うことはもっともだとミランダも思った。

 ミューズの名前を出したリュウドウやその仲間である自分達に対して、今後警戒を強めるかもしれない。


「かもな。だが、それもまた可能性の話だ。核心には至らないだろう。俺たちは奴らをマークだけしておけばいい」


 それもまた一つの事実。

 追われる立場であるティアからすれば、結局は何もできないのだ。

 逃げても立ち向かっても、リュウドウたちにフランシスカの正体を確信させることに繋がるのだから。


「悪かったよ局長。あたしのミスだ。今からでも追うかい?」


ミランダは額に汗を浮かべながら尋ねる。


「気づかないのも無理はない。この程度の失敗を咎めることもない。そして彼女を追うかどうかだが……今はやめておこう」


 極めて冷静な局長の言葉に、一同は息をのむ。


「何故だ」


 リュウドウが眉間に皺を寄せながら訊いた。


「彼女がミューズを追うなら、また君達とかち合う可能性もあるだろう。君達の任務は今は赤光石だ。敵対するにはまだ早い。フランシスカは別の者に任せよう」


 男の声は、ひどく淡々としており、何の感情も感じさせなかった。

 ミランダたちの上司にあたる人物なので、一同は彼の言葉の続きを待つ。


「ふむ、別の者とは?」


ドロッセルが尋ねる。


「君達はゴルドールにいるのだったね。では暗殺者ギルドに依頼してみよう」


「えー! 局長やめたほうがいいよー! 頭おかしい連中しかいないから、本当に殺しちゃうよ? 死んじゃったらまずいんでしょ? そのフランシ」


「あの狂った聖女は死を超克する力を持っている。死にゆく定めを超えてこそ価値があるものだ……死ぬというならそれも興味深い」


 ドラクロワの言葉を遮り、平坦な口調で局長と呼ばれた男はミランダ達に告げる。

 理知的な声の奥に宿る狂気が、室内の空気を張り詰めさせる。


「――問題はない。『災厄の三姉妹』には、まだ二人もいるのだから」


 そして局長は、ミューズ討伐の尖兵である彼女たちに新たな指示を飛ばした。


「君たちは引き続きミューズを追ってくれたまえ。ハウザーには私から伝えておこう。セレスティアについては追って連絡する。以上だ」


 プツッと、定時連絡の更新が途絶えた。

 反応の無くなった通信機に向かって、ミランダが告げる。


「了解だよ、ガウディス局長」


<TIPS>

挿絵(By みてみん)

読んでいただき、ありがとうございます。

次回より新章に突入します。

より世界に広がりが見え、フガクたちの旅はより危険なものへとなっていくので、ぜひお読みください。


モチベーションにもつながりますので、もしよろしければぜひ評価や感想などいただけますと幸いです。

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