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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第五章 ロングフェロー王都編

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第139話 クローネンブルクにようこそ②


「あの、すみません。まさか奥様とは知らず……」


 ディアナ=シュルトと名乗った女性の背中を見つつ、ミユキがおずおずと声をかけた。

 彼女は御者台に座り、慣れた手捌きで手綱を振るっている。


 まさか今からお世話になるお屋敷のご夫人自ら馬車を軽快に転がし、従者のように荷物まで積み込んでもらうことになるとは夢にも思わない。


「ううん、気にしなくて大丈夫だよ。私農家の生まれでね、馬の扱いは子供の頃からやってるから」


 そういうことを言っているのではないのだが、あっけらかんと馬車内の俺たちに明るく大きな声でそう答えてくれる。


「お姉さんはシュルト……センセーの奥さんって本当に? イメージわかないなー」


 レオナも一応敬称をつけつつ喋っているが、半信半疑のようだった。

 全く同意見だ。

 シュルト先生ことヨハン=シュルトといえば、ノルドヴァルト騎士学院のクエストにおいて幾度となく俺たちの邪魔をした教師だ。


 陰険な行動の大半はミューズのスキルで操られていたことによるものだが、正直未だに冷徹でクールなイメージは拭えていない。

 そんなシュルトの奥さんが、こんなに明るく活発な美人だとは、ドッキリか何かじゃないかと思えてくるのも無理はないだろう。


「よく言われるのよねー。私たち今年お見合い結婚したんだけど、あれで案外優しいところもあるのよ」


 苦笑いしながら気さくに語りかけてくれる。

 あのシュルトがお見合い結婚。

 世も末だと失礼なことを考えつつ、俺たちの困惑を乗せたまま馬車は王都を猛スピードで駆け抜けていく。


 王都の中心部に近づくにつれて、貴族たちの豪華な邸宅が見えてきた。

 帝都におけるアポロニアの屋敷周辺と比べると、歴史を感じさせる古さがありつつも、よく手入れされた重厚感溢れる屋敷が並んでいる。


「奥様は、普段からご自分で馬車を操縦なさるんですか?」


 俺の隣に座るミユキが、御者席のディアナに声をかけた。


「あーうん、そういう時もあるけどね。今日は御者が熱で寝込んじゃって。他の使用人も手が離せないから私が来たってわけ」


 手が離せなくても夫人自らは来ないと思うが。

 話しやすくて親しみやすい人なのでありがたいが、逆に反応に困る俺たち。


「あ、私のことはディアナさんって呼んでね。奥様とか気恥ずかしくって。私もヨハンも貴族じゃないし、気を遣わなくていいわよ」


 そう言って、ディアナはこちらを振り返って笑顔を返してくれる。


「ディアナさん、急に押しかけることになってしまってすみません。ご迷惑じゃなかったですか?」


 ティアは慌ててそう言う。

 使用人がバタバタしているというのは、十中八九俺たちのせいだろう。

 というか、ヴァルターの無茶振りでシュルト宅に一晩お世話になることになったのだ。


 言われた側のシュルトやディアナにとっては、準備を整えるのに大急ぎだったのではないだろうか。

 お構いなくと言っても、そうはいかないだろうし。


「ううん。こちらこそごめんなさいね、しばらく王都に滞在するんでしょ? 一晩だけじゃなくてもっと泊めてあげたいんだけど……」


 そういえばシュルトがヴァルターに言っていたのは「一晩だけ」との条件だった。

 俺たちはお世話になる側なので文句などあろうはずもないが、何か予定でもあるのだろうか。


「いえそんな。一晩でもありがたいです」

「ほら、私たち新婚だし……子供も考えてるし、ね?」

「な……なるほど、それは確かに」


 はにかむようなディアナの返答に、ミユキが顔を赤くした。

 まあお察しといったところだが、シュルトではあまり想像ができない。


 いずれにせよ、明日にはしばらくの滞在先も探さねばならなそうだが、とりあえず今日は謁見の準備が先決だ。


「今日はお城の夜会に呼ばれているんですってね。聞いたわよ、学院で起こっていた事件を解決したすごい冒険者さんだって」


 シュルトが言ったのだろうか。

 彼は"すごい冒険者"だなんて言い方はしなさそうだから、ヴァルターあたりに聞いたのかもしれない。

 

「ありがとうございます。話の流れで国王陛下にお会いできることになったので」


 ティアが俺たちを代表して答える。


「衣装も手配してあるから、バッチリ任せといてね。ヴァルターさんからもよろしく頼むって言われてるから」


 冒険者の格好で問題ないと言われていた帝都とは異なり、貴族も参加する晩餐会の場に呼ばれているのだ。


 ある程度フォーマルでTPOをわきまえた服装をする必要があるのだろう。

 実際普段の格好で行って大丈夫なんだろうかと心配していたので、助かる申し出だ。


「何から何までありがとうございます」

「どういたしまして。みんな可愛いから、私も気合い入るよ」


 俺もディアナに礼を伝えておく。

 そして馬車に乗ること15分ほどで、シュルトの屋敷に到着するのだった。


―――


 シュルトの屋敷も、俺の想像より遥かに立派だった。

 ディアナが「貴族ではない」と言っていたため、ちょっと大きめのお宅くらいのイメージだったが、とんでもない。


 アポロニアの大豪邸とまではいかないが、噴水のある前庭に、白い壁と緑の屋根がお洒落な3階建てのお屋敷だ。


 使用人も数名で出迎えてくれて、俺たちは一旦それぞれの個室に案内された。

 昼食には早い時間なので、まずは衣装の準備を行うとのこと。


「フガク様。恐れ入ります、衣装室の方へご案内いたしますので、こちらへどうぞ」


 俺はトランクを部屋に置く。

 外套を脱いだところで、すぐに部屋に案内してくれたのとは別のメイドが迎えに来た。

 ちなみに他の3人とは今回も部屋は横並びだ。


 4人そろって衣装室へと向かうのかと思っていたが、男女別に行うとのことで、まずは俺かららしい。


 2階の衣装室に案内されると、そこにはディアナと、2名のメイドが待ち構えていた。

 傍らにはドレスやスーツなどのフォーマルな衣装がズラリと、移動式のハンガーラックに並べられている。


「改めてシュルト邸にようこそ。今晩はせっかくの夜会だし、かっこよくしてあげるね」

「よろしくお願いします」


 わりと女性に間違えられることの多い俺としては、ディアナがスーツやタキシードを見繕ってくれているのは新鮮な体験だ。


 てっきりドレスでも着させられると思ってたから。

 俺は言われるがまま、メイドが持ってくるジャケットを羽織らせてもらう。


「フガク君。君は髪型が目立つから、衣装は抑えめの方が良さそうね」


 メイドさんが俺の腰回りや袖などをメジャーで採寸していく。

 夜までに大急ぎで丈を詰めたりしてサイズ調整をしてくれるらしい。


「夜会に出るのは初めて?」

「はい。ディアナさんはよく行かれるんですか?」

「知り合いに誘われたり、主人の仕事柄たまーにね。でもさっきも言ったけど、私は貴族じゃないから、多くはないかな」


 にしては衣装が数多く用意されており、明らかにレオナのような少女向けの服もある。

 俺達のためにわざわざこんなに用意してくれたのだろうか。


「あ、私王都で仕立て屋をやってるの。ここにあるのは商品なのよ」


 俺の視線に気づいたのか、ディアナはハンガーラックのドレスたちを手で指し示しながらそう言った。


「なるほど、それでヴァルター先生はシュルト先生のお宅を」


 何故ヴァルターが自分の家でなく、シュルトの家に泊まるよう手配してくれたのか、ようやく合点がいった。


 王様に会うのだからある程度ちゃんとした格好をしなければならないが、ここなら衣装にも困らないというわけだ。


「そういうこと。まあヴァルターさんは奥様を早くに亡くされて、今は独り身だしね。……うーん。そっちのブルーより、黒の方が合うかも。こっちに替えてくれる?」

「かしこまりました奥様」


 メイドさんが俺を着せ替えながら、ジャケットやシャツを次々に持ってくる。

 仕事でやっているだけあって手慣れなものなのか、ディアナは俺が着る服をパッと見てアリナシを即座に判断していった。


「あ、それからありがとうねフガク君」

「え? 何がですか?」

「ヨハン、うちの主人のことあなたたちが助けてくれたんでしょう?」


 学院でミューズの眷属にされていたシュルトを、俺たちが助けたことを言っているのだろう。

 詳しい事情は分かっていなさそうだが、ディアナはペコリと頭を下げた。


「そんな。成り行きでそうなっただけです」


 実際、シュルトを助けようと思ってやっていたわけでもないし、ミューズを倒した結果そうなっただけだ。


「ここのところ忙しくて帰ってこれなかったから、君たちが事件?を解決してくれて感謝してるのよ。ヨハンも、君たちを丁重にもてなすよう言っていたわ」


 あのシュルトがそう言ったのだとしたら、誇張でも何でもなくツンデレ眼鏡だ。

 俺はなんだか気恥ずかしくなり、曖昧に笑みを返した。


「うーん、いいわね。これでいきましょう。ちなみに、他の3人の子たちだと誰かと恋人だったりしないの?」

「……はい?」


 結局、シンプルな黒のスーツに決まった。

 あとはパンツの丈を調整するだけだが、メイドに促されてカーテンで仕切られた更衣スペースに入る際にそんな質問が投げかけられる。


「な、なんでそんなことを?」


 もちろん恋人などではないが、傍から見ているとやっぱりそう見えるのかもしれない。

 レオナはさておき、ティアやミユキは年も近いので、そんな男女が同じパーティにいれば男女の仲と思われても仕方ないだろう。


「あの子たちのドレスの色とか、合わせたりしてもいいかなーって思ったの。その様子じゃ違うみたいね。実はどっちかのこと好きだったり、いい感じの仲だったりしない? お姉さんに教えてよー」

「……無いってことにしといてもいいですか?」


 咄嗟にミユキの顏を思い浮かべる俺。

 が、それを指摘されるのも照れ臭いので、俺はそう答える。


「あら、色々複雑なのかしら。オッケー、じゃあそれも踏まえてあの子たちのドレスを選ばないとね」


 楽しそうに笑みを浮かべるディアナ。

 俺は男だし、夜会だとエスコートとかしないといけないんだろうか。


 俺は更衣室に入りながら、ティアやミユキのドレス姿に想いを馳せつつ、無作法にならないようにしなければと急な不安が押し寄せてくるのだった。


<TIPS>

挿絵(By みてみん)


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