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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第四章 騎士学校編

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第125話 神罰の迅雷<プルガトリオ・ライラプス>


 アギトはバロックの関節を極め、地面にうつ伏せに押さえ込んでいた。

 周囲ではカーラとクラリスが他の生徒の邪魔が入らないよう警戒してくれている。


「大人しくしやがれバロック!!!」

「離せ……アギト!!」


 何度も訓練で手合わせしてきたが、白兵戦ではアギトの方が一枚上手だった。

 とはいえここからどうするかを一瞬考えた。

 とりあえずカーラたちにロープか何かで縛ってもらうかと思ったそのとき。


「油断大敵だぞ……!」


 バロックは指先から小さな炸裂弾をポンッと放った。


「なっ……!」


 バロックの捨て身の一撃なのか、元々の彼なら取りそうにないその戦法に、アギトの思考に一瞬の空白が生まれる。

 威力のほどは分からないが、吹き飛ばされ、体勢を崩すのは避けられない。

 アギトの青い瞳の中に爆弾が躍ったその瞬間。


「ウォーターアローッ!」


 魔法が弾け、さく裂弾に命中。

 小さな爆発とともに水煙が舞い、地面には浅い穴が穿たれた。

 そして


「おりゃぁあっっっ!!!」


カーラが訓練用の槍を振り抜き、バロックの首筋に叩きつけた。


「うぐっ……!」


 そしてバロックは昏倒。

 ようやく動かなくなった。


「死んでないよね?」


 カーラはおそるおそるバロックの顔を覗き込んでいる。

 アギトはニッと歯を見せて笑った。


「こんくらいじゃこいつは死なねぇよ! 二人も助かったよ、ありがとな!」

「どういたしまして。……ねえ、これ何だと思う?」


 クラリスが、辺りを警戒しつつ近づいてきて、バロックの首筋を指差した。

 首筋に2cmほどの赤い円が浮かび、そこから青白い糸が一本。

 まるで神経のように、空中に伸びかけては霧散していた。


「……んー?」

「ほんとだね。なんだろ」


 アギトは、敵が蜘蛛であることと、バロックの異常行動から、この糸が何かしら原因であると判断した。

 

「とりあえず切っちまおう!」


 そう言って、アギトは腰から抜いた剣で糸を断ち切った。

 すると、一瞬昏睡しているバロックの身体がビクンッと跳ねて再び動かなくなった。


「だ、大丈夫? もうちょっと確かめてからの方が」

「元々無かったもんだし大丈夫だろ。ほら、脈もあるし」


 アギトは念のためバロックの腰や懐から爆発物を回収しつつそう言った。


「どうする? レオちゃんたちの手助けに行く?」

「そうだなぁ……」


 正直アギトは自分でも、ミユキやフガクの領域のバトルは無理だと思っていた。

 助けに向かって意味があるのか疑問を持ったのだ。


「あ、ほら、少しずつ避難が始まってる!」


 カーラの声に、正門の方へと向かう生徒たちの姿を確認できた。

 上級生や教師、警備員たちが誘導しているようだ。

 誘導する者の中には、フガクと剣闘大会で戦ったサリーの姿もあった。


「おっしゃ、俺らも行くか」


 ここは変に加勢して足手まといにならない方がいいかもしれないと思ったアギト。

 バロックを担ぎ上げようとしたその時。


 ドガァァァァアアアアアアアンンンッッッ!!!!!!!!


 正門のさらに向こう――

 巨大な爆発音が轟き、灰色の煙が空に昇る。

 続いて、石が崩れ落ちるような轟音が学院中に響いた。


「な、なに!?」


 アギトは、クラリスたちとともに慌ててそちらに走っていく。

 すると、正門から見える丘の下、大河ヘルム川にかかる巨大な石橋が、見るも無残に崩れ落ちているところだった。

 爆弾か何かで橋が破壊されてしまったようだ。

 川を挟んだ反対側には、セーヴェンの街から何事かと人が集まってきている。


「ねえ、ここから向こうに避難するにはどうすればいいんだっけ?」


 呆然とするカーラの声が虚しく響く、


「数キロは歩く必要があるな……」


 周囲には、立ちすくむ生徒や教員たちの姿が見える。

 爆弾といえばバロックだが、これも彼の仕業なのだろうか?


 アギトは遠くに見える時計塔の尖塔上部で、獲物を決して逃がさないと言いたげにミューズが嗤っている気がする。

 自分たちの命運は、あの化け物退治に向かったティアたちにかかっているのだと理解した。


―――


 俺は脚に宿した雷と共に、はじけ飛ぶように駆け抜ける。

 アルカンフェルは最初と同様に、直線上にいる俺を捉えるべく突っ込んでくるが、当然予想の範疇(はんちゅう)だ。

 俺が五指を開いて放つと、周囲に放電されて新たな雷の道ができた。


「遅い……!」


 アルカンフェルは俺を捉え、その大木のような足が俺のみぞおちへと叩き込まれる。

 

「ぐゥっ……!」


 苦悶の表情へと変わる俺は、胃の内容物を全て吐き出しそうになりながらも決して立ち止まることはない。


「先生――!!!」


 俺は全身に力を込め、祈る。

 全身を雷へと変える『神罰の(プルガトリオ・)雷霆(ケラウノス)』を一瞬だけ発動させる。

 俺の神経に火花が咬みつくような痛みが走り、全身から白光がほとばしった。


 それは刹那の瞬間のできごとだ。

 皮膚がひび割れ、蒸気が立ち昇る。

 全身が引きちぎれるかのような痛みとともに、人体の焼ける匂いが鼻の奥をついた。

 このままいけば眼球は沸騰し、四肢は弾け飛んで俺は肉体の形を保てなくなるだろう。


 だが、瞬間俺は稲光を四方へと解き放った。

 四方へ迸った白雷が空間に道筋を刻み、まるで天の筆で描かれた結界のように交錯する。

 そして俺は――


「アァァァァああああッッ……!!!」


 身体が雷に引きずりまわされるように、俺はアルカンフェルに向けて剣を薙ぐ。

 雷の鳥かごのように、アルカンフェルを取り囲んだ縦横無尽の斬撃が迸った。


「見事だ……だが、まだ浅いッッ……!!」


 しかし、アルカンフェルは俺の知る中でも最強の人間だ。

 閃光のような一撃すら読み切り、手刀で俺を地面へと叩きつけた。


「が……ッ……はァッ!!」


 俺は背中から地面に打ち据えられた。

 全身を巡る衝撃が、俺の意識を刈り取ろうとする――

 

 ここで意識を手放したら終わる……!

 

 俺は誰に言われるでもなく、一瞬の思考の中でそう思った。

 いかにミユキとてヴァルターとアルカンフェルの二人を相手にするのは無理だ。

 俺はここで、必ず、アルカンフェルを倒さなければならない……!


「終わらせるぞ……!!」


 まるで空手家が瓦割りをするかのように腕を引き、拳を握るアルカンフェル。

 それを頭にもらえば、俺の頭部ははじけ飛んで倉庫の石畳を赤く濡らすだろう。

 振り下ろされる核弾頭のような拳が俺の顔面を砕こうかという瞬間。

 

「―――……終わらせないッッ!!」


 バヂヂッッ!!!

 再び雷が俺の神経を灼くような衝撃として迸る。


「ぐっ……!」


 獣のごとき光の尾が、アルカンフェルの鋼のような拳を弾いた。

 俺の身体もまた、仰向けのまま跳ね上がる。


 『神罰の雷(プルガトリオ)』は、ただ閃くままに駆け上がるだけの技ではない。

 それは紛れもない"魔王の技"なのだ。

 俺の全身から放たれる、破壊を巻きちらす雷鳴の嘶きが、俺の周囲を覆いつくす。


「……来るかッ……!」 


 アルカンフェルの叫びと共に、天球に、世界が閉じるような雷の(とばり)が下りる。

 俺の身体は血液が沸騰するかのような灼熱に軋みながらも、まだ動く。

 拳撃を凌ぎ、俺は右へ、左へ、爆ぜる力に突き飛ばされるように跳ぶ。


「お前には驚かされる……!」


 アルカンフェルは口元にわずかな笑みを滲ませた。

 その笑みには、慢心も油断もない。

 ただ純粋な戦士としての歓喜だけが宿っている。


 肉体が刹那の戦場を走り、炸裂音が二人の間を切り裂いた。

 こちらが詰め寄れば、向こうは“予兆”を見切るかのごとき直感で迎え撃つ。

 剣を振れば、手刀がそれを逸らし、踵で体勢を崩される。


 すべてが寸前のところで外されていく。

 掛け値なしの達人だ。


 この空間を切り裂く閃光の嵐に、対応しようとしている。

 俺は師に、心からの尊敬と賞賛を送る。

 しかし。


「まだだ……!」


 俺は足元に雷を集め、視界を一瞬白く塗りつぶすような輝きを撒き散らす。

 だがそれでも、アルカンフェルは目を細めた。


「見えているぞ」


 彼の膝が、再び俺の脇腹を打ち抜いた。


「がっ……!」


 肺が潰れたかと思うほどの激痛。

 血反吐を吐きながら、それでも俺は倒れない。

 このまま負けるわけにはいかない……!

 俺が倒れないことが、ミユキを、ティアを、レオナを守り、この学院の悪夢を終わらせる絶対条件なのだから。


 黒く塗りつぶされそうな意識から現実にしがみつくように、俺は奥歯をギリリと噛んだ。


 稲妻の痛みが肉体を何度も貫き、砕け散る前に放たれる。

 放電、放熱、爆裂。

 自分という肉体を、もはや器とすら思わなくなっていた。


 捨て身という言葉では生ぬるい。

 まさに命と意識を削りながら、相手を破壊する悪夢のごとき絶技だ。

 けれど俺は、ここで終わるわけにはいかない。


「ねじ伏せる……―――!!!」


 そうして俺は、瞬く綺羅星のような処刑場の中を駆け乱れる、一羽の雷鳥になる。

 抜いた銀鈴は、光から光へ白銀の線を引く。

 奔る雷刃が舞い――己すら追えぬ“雷の亡霊”と化して吹き荒れた。


「ォォォオオオオオオオッッッ……!!!!」


 アルカンフェルですら、こうなった俺を捉えることはできない。

 結末は俺が朽ち果てるか、彼が崩れ落ちるかのどちらかだけだ。

 彼の防御態勢すら無意味とあざ笑うかのような、雷咆の連撃。


 これが、『神罰の雷(プルガトリオ)』の次なる姿――

 

 雷の檻の中を、閃光が乱舞する。

 俺の姿がもはやそこにあるのか疑わしいほどに、光と炸裂音が木霊する。

 静まり返る空気の中、ただ心臓の音だけが脳髄を叩いていた。



「―――『神罰の(プルガトリオ・)迅雷(ライラプス)』ッッッ!!!!」



 ズシャシャシャシャシャシャシャシャッッッ!!!!!

 

 皮膚を焼き焦がし、切り刻み、血まみれの骸へと変える魔王の断罪。

 空間を裂いて一撃ごとに、アルカンフェルの防御の縫い目を切り裂くように。


 音すら遅れて響く沈黙のあと、ようやく破壊音が世界を満たした。

 『神罰の雷(プルガトリオ)』の真価を発揮したその姿は、より禍々しく恐怖すら与えるほどの威力を見せつけた。


 そして俺は、肩で息をし、口から血反吐を垂れ流しながら地上へと舞い戻る。

 一瞬、世界が止まったかのように感じられた。

 風も、音も、すべてが遠のく。


「……よくぞ……完成させた」


 最後にそう告げ、血まみれの顔で俺を見据えながら、アルカンフェルは膝から崩れ落ちて倒れた。

 

 そして俺もまた、きっと勝者とは到底思えない姿をしているのだろう。

 かろうじて地面に足を突き立てるように立ち、ボサボサの髪の間から倒れていくアルカンフェルをぼんやりと見ていた。


「ありがとうございます……先生」


 俺はヒリつく喉からかすれた声を絞り出した。


「あなたのおかげで、僕はまた強くなれた……」


 そして、俺は膝から地面に崩れそうになる身体を、

 地に突き刺した銀鈴を杖のように頼り踏みとどまる。

 だが恐るべき師アルカンフェル、彼は果たして本気だったのか。

 どこか俺を導くような素振りを見せていた彼に、まるで誘われるかのように高みへと至った。


 それでも勝利は勝利だ。

 アルカンフェルは地に倒れ伏し、俺はギリギリのところでこうして立っている。

 俺は、五体がかろうじて無事なことを確認しながら、またティアに怒られそうだと自嘲するのだった。


お読みいただき、ありがとうございます。

モチベーションにもつながりますので、もしよろしければぜひ評価や感想などいただけると幸いです。

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