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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第四章 騎士学校編

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第124話 混沌の騎士学院③


 ティアはレオナと共に学院内を駆けていく。

 混沌の坩堝と化した学院内だが、冷静に見ると敵の行動はある程度わかってきた。


 まず、新たに生徒を操ってけしかけてくる様子は無い。

 これは、ミューズが能力で生徒を操れる数には限度があるのか、操るには特定の手順が必要だという仮説が立てられた。


 攻撃方法は糸で絡めとり無力化する程度。

近づけば蜘蛛の脚でも戦えるのだろうが、基本的には糸をまき散らすくらいしかできないでいる。


 ただ、時計塔の上からこちらの動きが丸わかりというのが厄介だ。

 事実、バロックをかわしても何人かの生徒はティア達を追ってくる。

 レオナではなくティアを追ってきているので、やはり赤光石を狙っているのは間違いなさそうだった。


「待て!!」

「ここは通さんぞ!」


 生徒2人と教員1人が、またもティア達の前に立ちはだかる。

 

「んっとにキリないなー!」

「あとちょっとなんだけどね」


 再び武器を構えようとしたときだった。


「おいお前ら! あの化け物を倒しに行くんだろ!」

「ここは僕らが引き受ける」

「君たちは先に行きたまえ」


 エイドリックとラルゴ、ユリウスの3人が駆けつけてくれた。


「3人とも、どうして」


 ティアは驚きの表情を浮かべる。

 確かに、操られている生徒は上級生が多い。

 これは、前々から徐々にミューズが生徒の眷属を増やしていたためだろう。

 だが、彼らは無関係といえば無関係だ。

 すぐに逃げても誰も文句は言わないのにとティアは思った。


「さっきそこでカーラさんたちに聞いてね。君らがアレをどうにかするんだろう」


 エイドリックが剣を構えてメガネに触れながらそう言う。

 その視線の先には、時計塔の上から学院を見下ろすミューズがいる。


「僕らは騎士道を学びに来てるんだよ? みすみす逃げるなんて選択肢はハナからないのさ!」


 ユリウスとラルゴが2人の男子生徒を、エイドリックが女性教員と切り結びながらそう叫んだ。

 ティアは少しだけ胸が高揚するのを感じた。

 なるほど確かに編入試験を通っただけのことはあると、クラスメイトたちを心の中で褒め称えた。


「頼んでいいの!?」 

「ハッ! ムカつくが、今はお前らの方が強いからな! あのバケモンの首は譲ってやるよ!!」


 ラルゴが大柄な先輩生徒をぶっ飛ばしながらそう言った。


「悪いけどお願い! できれば無事な人を連れて学院の外まで避難して!!」

「ああ、そうするよ!」


 ユリウスの返事を背中に聞きながらティアはレオナと共に駆けていく

 ティアはここは彼らを信頼して託すことにした。


 別に自分たちだけが特別なわけじゃない。

 強さを誇示するためにここにいるわけでもないし、彼らの力を見下す気なんか毛頭ない。


 彼らも、愛しい義姉がそうだったように、騎士としての何たるかを学ぶためにここに来たのだ。

 むしろ、その精神は自分たちよりもよほど備わっているのだと思えた。


 だからこそ、この無益な戦いは速やかに終わらせなければならない。


「ティア、あれ……」


 そしてティアたちは、ついに時計塔の前にたどり着く。

 あとは扉を開けて登るだけとはもちろん行かない。

 何故なら。


「やはり来ましたか、ティア=アルヘイム」


 シュルトが、時計塔の前の最後の門番として立ちはだかった。

 おそらく彼も、ミューズの眷属として操られているのだろう。


 ただ、彼の場合はもしかしたら黒幕だったりするのかもしれないと思った。

 扉は再び黒い鍵で施錠されているが、こうなってはもう扉から入る必要もない。

 どちらか一人でも、窓を割って中に入ればいいのだから。


「おい陰険クソ眼鏡。そこどいてくれますー? アタシたち、上の化け物退治に行かないといけないんですー」


 レオナがわざとらしく挑発する。

 シュルトはピクリと反応した。


「君達は退学も生ぬるい。この時計塔を墓標にするといいでしょう」


 眉間にシワを寄せ、黒い手袋をはめた手で眼鏡を押さえてレオナを睨みつける。

 その手には、細い白銀の剣が握られていた。


「ティア、アタシがこの眼鏡を叩き割っとくから、あんたは」

「いいえレオナ。ミューズを倒すのはあなたよ」


 眼前に立つその小さな背中に向けて、ティアを告げる。

 レオナは一瞬振り返って驚きに満ちた視線でティアを見た。

 そして、胸元から赤光石の入った袋を取り出し、レオナに投げて寄越す。


「ティア……これ」

「私より、レオナの方が可能性が高い。任せたよ」


 ミューズはその石を狙ってくる。

 それを持っていれば、ミューズとは確実に向かい合って戦うことができるだろう。

 ティアは、自分たちの命運をレオナに預けたのだ。


 そしてティアは、腰から下げている水色の意匠が施された美しい剣を抜いた。


「レオナ行って! 必ずミューズを”殺しなさい”!!!」

「……その依頼、引き受けた!」


 そう言ったレオナの瞳には、一切の迷いも恐れもなかった

 そしてレオナは腰のバッグに石の入った袋をしまい込み、時計塔へと駆けていく。

 シュルトが行く手を阻もうとするが、ティアはシュルトの剣を鞘で受け、肘で払いのけた――その隙に、レオナが窓を叩き割って中へと滑り込む


「ちっ!」

「シュルト先生、私も退学でいいです。でも……アレは倒していきますね!」


 ティアにしては珍しい挑発。

 正直、シュルトにこれまで何度も邪魔されて腹が立っていたのだ。

 その恨みは、ここできっちり清算させてもらう。


「ふんっ、ティア=アルヘイム。君では私の相手は無理だ」


 瞬間、シュルトは身体を左右に振り、視界から消える。

 ティアの視線から一瞬外れた隙をつき、その切っ先でティアの腹に刃を突き立てる。


「うっ……!」


 ティアも咄嗟に身体をよじってかわすが、シュルトの動きは想像以上に早かった。

 細い切っ先の剣はさらに追いかけてくるようにティアの首元を狙っている。


 カンッ!と、咄嗟に弾いたものの頬を剣がかすめた。

 血が滴るのを気にする余裕もなく、ティアは背後に飛んで間合いを開けようとするが、シュルトには通用しない。


「君は確かに優秀だが、私を甘く見過ぎだ!」


 ティアはシュルトが弱いなどとは微塵も思っていない。

 彼はヴァルターと同じ『剣帝流』というスキルを持っていることを、フガクから聞かされていた。


 彼もまたヴァルターの弟子のひとりだ。

 名門のノルドヴァルトで教員を務める彼が、剣を持って襲ってくることの意味は理解している。


「ぐっ……!」


 ティアが間合いを開けようとしても、蛇のように執拗に追ってくる。

 シュルトは想像よりもかなり強いのだ。

 そして、ティアにはフガクやミユキ達のような、人知を超えた戦闘能力は無い。

 このままいけばジリ貧となってやられることは目に見えていた。


(まずい……ミューズを倒すまで私が持つか……?)


 シュルトの猛攻はティアの身体を薄く刻んでいく。

 ティアは紙一重で攻撃を逸らしてはいるが、長くはもたないだろう。

 勝機がかなり薄いことをティアは肌で感じていた。


「残念でしたね、ではさようなら」


 シュルトは背後に飛ぼうとしたティアの足の甲を靴の踵で踏みつけた。

 バランスを崩し、倒れそうになるティアに向けて、鋭い輝きを放つ刃が振り下ろされる。

 その瞬間だった。


 ドシュッ……!!


 ティアの脇腹を金色の槍が掠め、シュルトの太ももに突き刺さった。

 

「なに……?」


 シュルトは槍が飛んできた方向に視線を移す。

 その瞬間、ティアは転がって距離を取った。

 そして、そこにいた人物を見て驚愕する。


「まったく、何事ですかこれは。私を巻き込まないでいただきたい……」


 月光に、プラチナ色の髪をなびかせて悠然と歩いてくる、人形のような女性。

 まるでこの惨劇すらも、退屈しのぎの余興のように――。

 ゆっくりと、スカートの裾を翻さないよう、近づいてきた。


 彼女がシュルトに向かって投げつけたのは、金色の魔槍『ブリューナク』。

 ティアに心底嫌そうな視線を向けて、剣を携え現れたのは、金槍の魔女エフレム=メハシェファーだった。


「またお姉様に叱られたらどうしてくれるんですか」

「エフレム……なんで」


 冷たい視線でティアを一瞥するエフレム。

 ティアは思わず問いかける


「特に理由はありません。ただ、状況を見て貴女の方に”理”がありそうだから、それだけです」


 だが、その目は明確な敵対対象としてシュルトを捉えていた。

 思いも寄らぬ援軍に、ティアは少しだけ勝機が見えてきたのを感じ取った。


お読みいただき、ありがとうございます。

モチベーションにもつながりますので、もしよろしければぜひ評価や感想などいただけると幸いです。

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