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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第四章 騎士学校編

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第120話 暗闇の使徒②


 アルカンフェルは、ヴァルターと共にシュルトに連れられて時計塔の最上階を訪れた。

 扉を開けると、シュルトの証言通りそこには女性の右腕が落ちていた。

 細長い指の先にはピンク色の爪と、手首に金色のブレスレット。


 確かに、保健教諭のアストラルのものだ。

 触れてみると、その質感は紛れもなく人間の腕で、切り落とされて時間が経っているのか冷たく固まっていた。


「今朝アストラル先生を見たかい?」


 ヴァルターが二人に問いかける。

 アルカンフェルには今日アストラルを見かけた記憶は無いため、「いいや」と返した。

 シュルトも同様の反応を示す。


「今朝から見ていませんね。しかし、その腕が彼女のものだとして、残りの身体はどこへ……」

「ヴァルター、この部屋には間違いなく隠し通路などは無いのだな?」


 アルカンフェルはヴァルターに問いかけると、彼は淀みなく頷いた。


「無い。構造図も残っているしね」


 その言葉を聞き終わるのを待たず、アルカンフェルは壁に回し蹴りを放った。

 ドゴッ!!という鈍い音と共に、壁を構成する煉瓦などの石片が空中に放り出されて陽光が差し込んだ。


「何をしているんですかアルカンフェル先生! ここは国の文化財でもあるのですよ」

「……確かに無いようだ」


 アルカンフェルは蹴って砕け散った壁の厚みからも、確かに隠し通路が無いことを確認する。


「やれやれ……。まあ老朽化も進んでいたし、さすがに建て直しの話も出ているからいいが、蹴る前に一声かけてくれ」

「……ああ、そういえば先ほど、ティア=アルヘイムが尖塔の上部を見上げていましたね」


 シュルトはそう言って、尖塔の内部を見上げている。

 アルカンフェルも倣うが、そこには大きな蜘蛛の巣がいくつかあるだけで特に変わりはない。

 しかし、ヴァルターは何かに気付いたようだ。


「暗くて分かりにくかったが、こうして見ると不自然じゃないか?」


 アルカンフェルが壁を壊したことで光が差し込み、今は尖塔上部まで詳細に見ることができた。

 とはいえ何もないことには変わりなく、ただ眼下に見下ろす校舎の屋根が視界に増えただけだ。


「……何がです?」

「埃をかぶっていない、新しい蜘蛛の巣だな」


 アルカンフェルの言葉に、ヴァルターは頷く。

 新しく蜘蛛の巣が張られること自体はおかしくはないが、いくら何でも綺麗過ぎると思った。

 虫がかかった様子もなく、かといって宿主の蜘蛛もいない。

 何より、色が青白く見えた。


「……調べてみよう」」


 ヴァルターは腰に携えていた剣を抜き、腰を屈めて勢いよく飛び上がった。

 数m上にある蜘蛛の巣に軽々と剣の切っ先が届いたかと思われたそのとき。


「っ……!」

「ヴァルター!」


 蜘蛛の巣が一瞬薄く青白い光を放ったかと思えば、ヴァルターがその場から消えてしまった。

 アルカンフェルたちの表情にも驚きが浮かぶ。


「これは……」

「追うぞ!」


 アルカンフェルは、原理は分からないがヴァルターがどこかへと連れ去られたのだということは理解できた。

 魔法の類か、あるいは何者かによる別のスキルか。

 アルカンフェルも助走をつけ、蜘蛛の巣に向けて飛び上がり、指先がそれに触れる。

 瞬間、身体がどこかへと引っ張られる感覚を受けた。

 そして。


「……なんだここは」


 気づけば、時計塔の中とは違う別の空間に放り込まれている。

 そこは暗闇に包まれていた。


「来たかアルカンフェル、これを見てくれるかい」


 ヴァルターの声と共に、何も見えない真っ暗な空間に明かりが灯る。

 彼はポケットから懐中電灯を取り出して辺りを照らしている。

 ようやく、自分が窓の無い石造りの部屋の中にいることを認識できた。


 やはり蜘蛛の巣がキーとなってどこかの空間へと移送されたようだ。

 埃っぽくかび臭い空間で、石壁や床の様子から古びた倉庫に見える。

 しかし、アルカンフェルの視線はヴァルターが照らし出したモノにくぎ付けとなった。


「繭……?」


 そこには辺り一面ビッシリと、2m近い大きな青白い繭が20個以上鎮座していた。

 

「はっ!」

 

 ヴァルターは剣を振るい、繭の表面を切り裂く。

 すると、中からドサリと何かが転がり出て来た。


「……モルガナ=エバンスか?」

「みたいだね。どうして彼女がここに……」


 そこにいたのは、2日前にアストラルに預けられたという女生徒、モルガナだった。

 意識が無く、制服はところどころ溶かされたように破れて、皮膚も一部が赤く(ただ)れている。

 ヴァルターは彼女の傍らに膝をつき、脈を取った。


「……息はあるが、状態は良くない。ここがどこかは分からないが、まずは出口を探そう」

 

 ヴァルターはモルガナをそっと横たえると、周囲の壁に懐中電灯を向けていく。

 広い空間だが、石造りで人の手も入っていることを考えると、出口くらいはあるだろうと考えているようだ。


「この繭すべてに生徒が入っているのか?」

「かもね。とにかく2人では時間がかかるから人手を……」

「その必要はありませんよ」


 二人の眼前に、時計塔から同じように蜘蛛の巣を通って追いかけて来たシュルトが立っていた。

 その口元には挑発的な笑みが滲んでいる。


「シュルト、驚かせないでくれ。緊急事態だ。とにかく出口を探そう」

「待てヴァルター」


 シュルトは明らかに様子がおかしい。

 アルカンフェルはヴァルターを制し、シュルトに鋭い獣のような視線を向けた。


「……あんたがこの繭を創ったのか?」


 シュルトという男は、ヴァルターの弟子のひとりだと聞いている。

 皮肉と冷笑が特徴のような彼でも、ヴァルターのことは慕っている。


 荒唐無稽(こうとうむけい)な質問だとは分かっているが、アルカンフェルの胸には嫌な予感が渦巻いていた。

 明らかに敵意のようなものが向けられているからだ。

 その言葉に、シュルトの雰囲気を感じ取ったヴァルターも押し黙った。


「私が? まさか」


 冗談めかして大仰に両手を広げて肩を竦めている。

 その仕草が、かえって彼への不信感を強めることになった。


「では”必要は無い”とはどういう意味だ」


 アルカンフェルの言葉に、シュルトは自らの胸の前で人差し指を立てて上に向けた。


「――”彼女”に聞いてみては?」


 言われ、暗がりに包まれた天井に視線を向ける。

 そして、アルカンフェルの視界はそこで暗転した。

 最後に見た光景は、暗闇の中からこちらに向かって伸びてくる青白い”糸”のようなものだった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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