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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第四章 騎士学校編

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第114話 潜入ミッション


 虫と梟の声だけが木々の間にわずかに聞こえる夜中の3時。

 アギトは部屋を抜け出し、仲間のバロックと共にノルドヴァルト騎士学院の敷地内を走っていた。

 目的は時計塔。


 昨日、生徒の一人であるモルガナ=エバンスが突如混乱したような言動を見せ、本日から休学していることを知った。

 彼女は時計塔を目指しており、聞きこみによれば時計塔にフラフラと吸い込まれていく生徒を見たという情報も後を絶たない。


 あの時計塔には何かある。

 

「鍵かかってるな」


 バロックは時計塔の扉にかけられた黒い鉄塊のような錠前を見て苦い顔をした。

 昨日まではかかっていなかったと思うのだが、モルガナの件が影響しているのかもしれない。


「破れそうか?」


 バロックは『罠解除』のスキルを持っているアギトに尋ねる。


「余裕余裕。まかせな」


 アギトはポケットから金属の細い棒をいくつか取り出し、錠前の中に差し込んでいく。

 自前のピッキングツールと器用さがあれば、こんな錠前は数十秒で十分だった。

 今回もその類で、ガコッという音を立てて分厚い錠前がいとも簡単に解錠された。


「相変わらず器用なもんだ」

「そりゃお互い様だろ」


 アギトはバロックと軽口をかわしながら、時計塔をもう一度見上げる。

 暗闇の中、風に揺れる枝葉の影が床に揺れる。

 アギトは一歩踏み出す前に、ちらとバロックを見やった。


「……んじゃ、行くぞ」


 静かに頷き、二人は時計塔の中へと足を踏み入れた。

 中に人気は無いが、警戒は怠らない。

 吹き抜けの時計塔内部の壁に、沿うようにして設置された階段を一歩一歩昇っていく。

 出入口から最上階まで一本道なので、ここで誰かと出くわすと逃げ場がない。

 隠れる場所もないため、アギトは急ぎ足で階段を駆け上っていった。


「気味悪ぃドアだなおい」

「……開けるぞ」


 最上階、時計塔の操作室へ続く扉は、錆びつき名札も読めないほど擦り切れている。

 バロックはドアノブを強く握り、ゆっくりと開いた。

 狭い室内には、時計の操作盤以外は特に何もない。

 

「蜘蛛の巣だらけだな。掃除くらいしろよ」

「もうちょっと綺麗だったらなー、女の子と一緒に来たかったなー」


 軽口を叩きながら、持ってきた懐中電灯で室内の調査を行っていく。

 アギトは壁際を丹念に触れていく。

 その後ろでバロックは、尖塔内部を見上げて蜘蛛の巣の多さに辟易していた。


「ちょっと尖塔の上、登れるか試してみる」

「おう、何かあったらよろ」


 バロックが壁の凸凹を利用して登れないかを試している。


「隠し扉でも出てきてくれりゃー話は早いのによ」


 アギト壁の石のスキマなども見つつ、おかしなところが無いかを調べていくが、直感的に何も見つからない気がしていた。

 某国の工兵として、さまざまな施設潜入や諜報活動を行っているアギト。

 経験上、怪しい場所にはそれなりの”気配”のようなものが感じられることが多い。

 それは構造上の違和感だったり、人を罠にかけようという悪意のようなものだったりさまざまだ。


 しかし、この時計塔にはそれがない。

 にも拘わらず、ずっと何かに見られているような嫌な感じだけは、時計塔に入ったときから首の後ろあたりに感じていた。


「あー……そういやモルガナちゃんがミユキちゃんに止められたとき何か言ってたよな。確か……報告だとか蜘蛛だとか、なあバロック?」


 ずっと自分ばかり喋っているのはいつものことだが、にしても相槌も説教も聞こえてこないことに若干の違和感もあった。

 アギトはふと背後で尖塔を見上げていたはずのバロックを振り返ると、そこには誰もいない。


「あれ? おーいバロック、どこ行った?」


 部屋の扉は閉まったままだが、気づかないうちに階段側に出ていたのだろうか?

 そう思ったアギトは扉の外に出て辺りを見てみるが、静寂と暗闇が広がっているばかりだ。


「おいおい……」


 常に飄々として物怖じしない性格に自覚のあるアギトの顔にも、わずかに焦りが見えた。

 バロックが自分に声の一つもかけずこの場を離れるとは考え難い。


アギトは再び部屋に戻り、バロックが見上げていた尖塔を懐中電灯で照らした。


「……なんなんだマジで」


 そこにはただ、大きな蜘蛛の巣があるだけだ。

 何かしらの現象に巻き込まれたことをようやく理解しつつ、アギトは一先ず部屋を出ることにした。

 バロックの安否は気にかかるが、ここで手をこまねいていても仕方がない。

 どう考えてもここは危険域だ。


 モルガナの言っていた”蜘蛛”という言葉が妙に頭をチラつく。

 自分たちはもしかすると、獲物を待つ蜘蛛の巣に引っかかってしまったのではないかと感じた。

 全く埃をかぶっていない新しい蜘蛛の巣を見ながら、アギトは急に背筋が寒くなってくる。


 丁度明日は剣闘大会。

 生徒も教員もそこにかかりきりになるはずだ。

 次は明るい時間、蜘蛛の巣や尖塔の調査ができる装備を整えてから訪れようと急ぎ時計塔から脱出するのだった。


お読みいただき、ありがとうございます。

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