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魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~  作者: 裏の飯屋
第四章 騎士学校編

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第97話 入学①


 俺たちは無事合格していた。

 試験日から二日後、騎士学校の校門前に張り出された番号を見て俺たちは飛び上がった。

 比喩でも何でもなく、志望校に合格した受験生の喜びだ。


 というわけで、今日からはノルドヴァルト騎士学院の生徒となった俺達。

 現在は合格発表から1週間後、先日試着した制服を購入して身にまとい、正々堂々と正門から学内に入ろうとしているところだ。


 しかも。


「驚いたよ。まさかフガクが”次席”合格なんて」


 ティアの信じられないという呟きは、本日朝から3回目である。

 ちなみにティアは首席だそうだ。

 「義姉さんに勝った」と言って朝からご機嫌で、宿の近くのカフェでちょっと豪華な朝ごはんをご馳走までしてくれた。


「ちっ、アタシももっとド派手にやっときゃよかった」


 いや、君が首席とか次席を取れなかったのは相手に対して「ザァコ♡」だの「バァカ♡」だの言うからだと思うよ。

 メスガキムーブは騎士道的にNGだ。


「っていうか次席で良かったよ。代表スピーチは首席だけだもんね」


 まあどうせなら首席を狙いたかったところだが、さすがに筆記ではティアには勝てない。

 ミユキが職員室で聞いた話によれば、なんと彼女の筆記の成績は満点で、これは長い学院の歴史上でも数人しかいないとのこと。

 頭のできが違うんだなと感心した。


 なお、俺たちは既に宿を引き払っている。

 今日からは学生寮に泊まることになり、ミユキも学院の敷地内に教員用の宿舎があるらしい。


 学費はしっかり払ったが、もちろんウィルブロードの王室持ちだ。

 貴族も多数通う名門だけあり、授業料もかなり高額らしく、割と金持ち冒険者の俺たちでも貯蓄が一気に吹き飛ぶためだ。


「やめてよ緊張してるんだから」


 ヴァンディミオン大帝との謁見でも緊張してなさそうだったのに、不思議なものだ。


 前庭では、既に新入生らしき生徒たちが噴水前で談笑していたり、会話をしながら校舎に入っていったりと賑わいを見せている。


 なお、今回の編入試験の合格者は全部で24名。

 全2クラス分である。

 編入とは言うが、クラスは全て編入生のみで構成されるので実質新規入学だ。


 前庭を通って校舎に入り、そのまま3階の講堂へと向かう。

 その入り口前の長い廊下では、ミユキがお出迎えをしてくれた。


「ご入学おめでとうございます」


 にこやかに、入っていく新入生たちに挨拶をしている彼女。

 男女問わず一部の生徒は頬を染めてその出で立ちに見惚れていた。

 ミユキは、俺たちの姿を見るなり手を振ってくれた。

 今日もノースリーブのブラウスに、黒いタイトスカートの女教師ルックが眩しい。


「いよいよですね」

「うん、ミユキさんもがんばって」


 今日から俺たちは生徒と教師という立場になるため、今までのように四六時中一緒にいることはできなくなる。

 その分生徒間と教師間、それぞれ広く学院の情報を集められる利点はあるが、正直寂しかった。


「ミユキさ……先生」

「なんですか、フガクくん?」


 ここが日本ならどう考えても校則に喧嘩売っているとしか思えない頭の俺が、清楚で可憐な先生と見つめ合っている様はどう映るのだろうか。

 俺は、ミユキに素直な気持ちを伝えておくことにした。


「しばらくミユキ先生と一緒にいられないと思うと寂しいよ」

「ふふ、後でこっそり逢いましょうか」


 口元に人差し指を当て、ウインクをしてくれるミユキ先生。

 だがミユキは少しだけ頬を染めて、視線を逸らした。

 彼女にしては珍しい攻めた冗談と、その仕草に胸が跳ねる。

 

「あなたたち楽しんでるでしょ」


 ティアが呆れたようにため息をついている。


「何を? プレイを?」


 レオナの発言に、ティアもそこまでは言ってないと言いながら講堂の中に入っていった。

 ようやく調査を始められることに、俺もミユキもちょっと浮かれてるのかもしれない。


「じゃあねミユキさん、またあとで」

「はい、行ってらっしゃい」


 ひとしきり先生と生徒という関係性を楽しんだ俺は、ティアに続いて講堂に入る。

 劇場のように、後ろに行くほど高くなる座席が、前方のステージを取り囲んでいる。


「おう。首席に次席、お前らはやる奴だと思ってたぜ」


 3人並びの席を見つけて座ると、そこにはアギトとバロックの姿があった。

 二人も似合わない制服姿で、アギトは俺を見つけるといつものチャラチャラした感じで挨拶をしてくる。


「やあ。二人とも合格したんだね」

「俺もビックリだよ」

「確かに、アタシが言うのもなんだけどよく受かったよね」


 実技試験で、レオナにこてんぱんにやられたらしいバロックが受かったのは意外だった。

 ただアギトはあれでかなり実力者っぽいので、同僚のバロックも合格レベルには達していたということだろう。

 そう考えると、割と試験官たちの見る目はあるのかもしれない。


 よく見れば、ティアにボコボコにされていたラルゴや、俺が少し可哀そうなことをしてしまったユリウスなども合格している。

 徐々に入ってくる生徒たちを眺めていると、俺の何席か前にふとどこか既視感のある女生徒が座った。


「ん?」


 プラチナブロンドの髪に、黒いカチューシャをした西洋人形のような顔立ちの美少女だが、どこかで見たような……。

 その女生徒と一瞬目があったが、向こうは慌てたように前を向き、サラサラの髪が流れる後頭部しか見えなくなった。


「私代表挨拶あるから行くね」

「ああ、うん頑張って」

「期待してるぜティアちゃーん」


 俺やアギトの声援に、ティアも親指をグッと立てる珍しい仕草で答えてくれた。

 何だかんだと彼女もいつもと違う自分を楽しんでいるのかもしれない。


 さあ、いよいよ騎士学校に潜入できた。

 ここからが、俺たちのクエストの本当の始まりだと、俺はぐっと拳を握り背筋を伸ばした。

 ふと見ると、レオナがこちらにこっそり拳を突き出して白い歯を見せて笑った。

 俺もそれに拳を合わせ、これからの学院生活に臨む覚悟を決めた。


―――


 入学式を終えた後、俺たちは校舎2階にある教室に移動する。

 ティアのスピーチは大変素晴らしかった。

 学院に入学することの喜びと、ここまで育ててくれた両親、出会った全ての人々への感謝。

 そして騎士として研鑽を積み、誇り高く生きることへの誓い。

 もはや非の打ち所の無い、究極に当たり障りの無い挨拶だったように思う。


 ただ、コネを最大限活用して入学し、両親もおらず、クエスト解決次第さっさとおさらばしようとしているので、実は相当皮肉の効いたブラックなスピーチなのだが。


 首席なうえにとんでもなく美人ということで既に衆目を集めているティアと、次席の割に大して注目されていない地味眼鏡の俺。

 既に1位と2位の差をありありと感じながら、俺は教室に入って名札が置かれた席へと座る。


 既に俺の斜め後ろの席には、一人の女性徒が座っていた。

 そう、先ほど講堂で見かけたプラチナブロンドの女子だ。

 彼女とバッチリ目が合ってしまったので、俺は一応挨拶をしておくことにする。


「はじめまして。僕はフガクって……あれ、君……」


 口元を引きつられて、とんでもなく嫌そうな顔をしている彼女。

 俺はものすごく見覚えがあった。

 いや、それどころから殺し合いもした仲だ。


「エフレムッッッ……!?」

「ど、どなたでしょう。私は通りすがりの魔女です……」


 汗をだらだら流し、顔を真っ赤にしてプルプルと震えながら俯くエフレム=メハシェファーがそこにいた。

 いや、驚きはしたが何でそんなに屈辱的な顔をしているのだろう。

 エフレムだって入学しててもおかしく……おかしく……。


「あれ、君26歳じゃなかったっけ?」

「ひぃっ……!!」


 ビクンッと肩を跳ね上げるエフレム。

 確かに俺の記憶が正しければ、ミユキと同い年だったはずだ。

 大人のお姉さんといった感じのミユキとは違い、年齢不詳の美少女然とした容貌なのでなかなかそうは見えないが。


「ちぃーっす! お、美少女発見! 俺アギト、君名前は? めっちゃ可愛いねお人形さんみたいだ」


 軽薄極まれりといった具合に、エフレムの隣の席にアギトが座った。

 さらに。


「あ、私フガクの隣か。あれ? あなたもしかしてエフレムじゃない?」


 俺の隣、すなわちエフレムの前の席にティアが座った。


「……この屈辱、これに耐えよということなのですねお姉様……!」


 エフレムは膝の上で拳を握りしめ、肩を震わせながらブツブツ何か言っている。

 どうやら彼女は、何やらのっぴきならない事情で学生をやる羽目になっているようだ。


「エフレム、あなたのお姉さんのことなんだけど」

「お、お姉さまの話は今しないでください……!」


 唇を引き結んで声ををあげたエフレム。

 取り付く島もないと、ティアが肩をすくめたとき、教室の扉がガラリと開いた。

 そこから、ミユキとヴァルターが入ってくる。


「みんな席についてくれるかい。ホームルームを始める。号令はそうだな……とりあえず首席のティア=アルヘイム君。君にお願いしよう」

「はい。起立!」


 言われ、ティアが号令をかけると教室内にいる12名の生徒が一斉に席を立つ。

 

「礼!」

「「「よろしくお願いしますっっ!」」」

 

 大半が一様に30度ほどの角度で礼をしているが、俺やレオナのように軍隊経験の無いものは周囲に倣って慌てて礼をした。


「うん。着席」

 

 ヴァルターが着席を促すと、全員がさっと席に座る。

 この辺りの動きを見ていると、ここが規律を重んじる騎士を養成する学校だということを思い知らされる。


「改めて、今回クラス担任を務めるヴァルターだ。よろしく頼む。それから、副担任としてクリシュマルド先生についてもらう」


 ヴァルターの後ろに控えていたミユキが一歩前に出て笑顔を浮かべた。


「はじめまして。副担任を務めますミユキ=クリシュマルドと申します。皆さんが楽しい学生生活を送れるようにがんばりますので、よろしくお願いしますね」


 いや、騎士学校だから楽しいが最初に来るのはどうだろう。

 多分俺が「学校とはめんどくさいこともあるけど今思えば楽しいもんだよ」みたいな話をした所為だ。


 ほんわかした雰囲気で喋っているが、聞いている生徒側はぽかんとしており、ティアも俯いて笑いをこらえていた。

 ヴァルターも若干苦笑い気味ではあったが、とりあえずミユキの自己紹介は終わった。


「例年であれば10名程度のクラスなんだが、今年は特に優秀でね。少し人数が多いが誇らしく思うよ。それではこれから注意事項などを簡単に説明していく」


 そこからは学院についての説明が小一時間ほど続いた。

 さほど厳しい校則は無かったが、時計塔は老朽化して危険なので教職員以外立ち入り禁止。

 21時以降は寮からの外出禁止で23時に完全消灯だ。


 朝は8時半にホームルームが始まり、大体16時ごろに授業が終わる。

 その後は自主学習や鍛錬の時間で、馬術や剣術の研究会に参加する者もいるという。

 土曜日の授業は午前中で終わり、日曜日は休みなので外出は自由だが、門限は20時と定められているらしい。


「それでは今日はここまでにしよう。明日から授業が始まるから、みんなよろしく頼む」


 本格的な授業は明日からとなり、本日は午前中で終了となった。

 いよいよここ、ノルドヴァルト騎士学院での生活が始まった。


<TIPS>

挿絵(By みてみん)

お読みいただき、ありがとうございます。

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