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1-2:何様な如何様師

 神経質な静寂が酒場全体を包んでいた。まさかこの世界にもトランプが存在するとは思わなかったが、そんなことに感嘆している余裕はナユタには無かった。


「こいつは国際級の賞金首だからね。首を国に捧げれば一生遊んで暮らせるよ。その代わりそれ相応の──そうだね、おじさん達みんなの所持金全額を賭けてもらおうかな。イケナイモノを取引してたんだから、当然お金はあるでしょ?」


「おいちょっと待て、えーと……カシギ! 俺はそんな賭け事に参加するために来たんじゃ──」


 ナユタがこの世界に降り立って一時間足らずだというのに、賞金首になるようなやらかしをした覚えは無い。

 ナユタは不満を漏らすが、その口はカシギの人差し指一つで押さえられる。


「ちょっと暴れるのだけはよしてってばー。 暴れていいのはこのヒト達が()()()を働いた時だけ!」


 ナユタは暴れようなんて素振りは一切見せていないのにも関わらずカシギにわざとらしく釘を刺された。


 カシギの言う不義理とは勝負を受けないことを指すのか、イカサマを指すのか、負け金を払わないことを指すのか────またはその全てか。


 とにかくナユタが装う『絶望のデゼス』とやらの存在が脅迫そのものになっていることは理解した。

 まさかナユタが命の危機を感じる場面のはずが、立場が逆転するとは思いもよらなかった。


「さあ、おじさん達が勝ったらその額は軽く元金の一万倍以上! 当然乗るよね?」


 彼らはカシギの隣の男がデゼスではないことを知らない。命が惜しければ乗るしかない賭けなのである。


 このカシギという女子(おなご)、中々に卑怯だ。


 その挑発に対して最も大柄な客が全身の毛を逆立てながら立ち上がった。


「いいじゃねえか。オレが代表してその勝負受けてやる。この酒場を血の海にされるのは御免だからな」


 肩をバキボキと鳴らしながら二人の元へと近づいてくる。一歩近づく度にその寸法はより正確なものとなっていく。

 その身長はナユタの約二倍。三メートルは軽く超えていた。

 本当に自身の存在に恐れる理由があるのか疑わしいとさえ感じるその圧巻の威圧感に気がどうにかなりそうだった。


「言っとくが、負けて逃げ出すなんてのはナシだからな。デゼス、おまえならそれが出来るだろうけどよ」


 男はナユタを濁った目で睨む。

 どうやらデゼス氏とやらは逃げ足が早いらしい。


「そうこなくっちゃ! おじいさん、また『クリアマン』してくれない?」


 カシギは店主に声をかける。店主は何も言わずにカウンターから出てきて卓の横に付いた。

 クリアマンとはいわゆるゲームマスターのようなものなのかとナユタは一人納得した。


「さあ始めよう。命を懸けた大勝負を──」


 これを言うカシギ本人は命を懸けていない。




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□




「いえーい、大勝利っ!!」


 ポーカー勝負は盛り上がることも無くあっさり終わった。

 カシギは初手からオールイン。これにはナユタも冷や汗をかいた。そして男はその勝負に乗ってきた。恐らくハッタリと踏んだのだろう。


 カシギは(エース)のフォーカード。男は(キング)(エース)のフルハウス。結果カシギの勝利だった訳だが、その流れが不可解だった。


 はじめの三枚のコミュニティーカードにはAはたった一枚だけだった。

 何故初手オールインなんて奇行に走れたのか、ナユタには甚だ疑問であった。

 傍観者であるナユタでさえ理解が出来ていないのだから、当然もっと納得出来ない人物がいる。


「イ、イカサマだっ!!」


 もう一人の博打師である一際大柄な男が声を荒らげて立ち上がった。卓上のグラスが倒れ、床に転がり落ちると、格好のつかない音と共にその破片を散りばめた。

 ナユタもその男の声に同調してしまいそうだったが、そちらの肩を持てばナユタの命が危ない。


「言い訳は見苦しいよおじさん。はい、有り金全部出して! 全員!」


 カシギは徹頭徹尾非情であった。その癖にこやかにしているものだから、余計に人の神経を逆撫でする。


 苛立ちに侵された男の右腕が不自然な程の膨張を見せた。そのままカシギが差し出した手を乱暴に掴み、細い首に手をかけた。

 カシギは宙ぶらりんで、声にならない掠れた声を漏らしている。


「いいか、今回の賭けはチャラ、無効だ。反論は……無いな?」


 男が少し力を入れればカシギの首はパスタのようにポキリと折れてしまうだろう。

 男もカシギと張り合えるほどに卑怯なやり方をする。


「デゼス! おまえが何か変な動きをすればこのオトモダチの命は無いぜ?」


 そんな脅しがなくともナユタは抗えるほどの力を持ち合わせてはいない。

 しかしここでみすみす相手の要求を呑んでしまえば命の賭け損だ。


 俺も男を見せる時が来た。


 ナユタが男に一歩近づく。


「おい! 寄るんじゃねえ!」


 もう一歩。


「いいのか、これは脅しじゃねえ、本気だからな!!」


 もう一歩。


「もう知らねえ、やっちまうから──」


 男が言い終わる前に、男の腕からカシギが落ちた。

 否、()()()()()

 ナユタの目にも止まらぬ内に男の両肩が外されていたのである。


「わたくしも、店が血の海になっているところは見たくない」


 そういって、その老人は男の首にフルーツナイフを当てた。肩を外したのは店主であった。年齢に似合わぬ飛蝗(バッタ)のような俊敏さで、一瞬にして男を制圧してみせた。


 カシギが床に倒れ込んだまま咳き込んでいるのを見てナユタが駆け寄る。


「おい、大丈夫か!?」


「ワタシが死んでもいいの!? あほ!!」


 カシギはお門違いな怒りをナユタへとぶつけた。こればかりはナユタも受け入れ難かったらしい。


「俺悪くねぇだろうが!! つーか俺的にはあんたが死のうと生きようとどうでもいいし!? 俺が死ななきゃなんでもいいわ!!」


「うわひっどいのねひっどいのね!? ワタシのおかげで大金が得られるっていうのに!!」


「結果論でモノを語るんじゃねぇ!! 危うく俺の首が飛ぶとこだったろうが!!」


 二人は着地点の見えない言い争いに没頭する。我を忘れて文句を言い合い、罵り続けた。


「御二方、そろそろこちらに戻ってきてはいかがですか」


 店主が二人に声をかける。しかし両者ともに二人の世界に生きることに必死らしい。

 店主はその馬鹿馬鹿しい光景にため息をつく。


「こちらの勝ち金、わたくしがいただいてしまいますよ」


「ワタシの!!!! 金ェっ!!!!」


 勝ち金という単語がまるで自分の名前かのような反応を示し、カシギは大量の皮袋の乗った卓に跳ねて飛びついた。店主に向けて唸る姿はさながらサバンナに生きてきた野生動物。


「……冗談ですよ。そのお金はあなた方のものです」


「当然!……ってあれ、おじさん達は?」


 二人が口喧嘩している間に店内は空席だらけになっており、ナユタとカシギと店主、たった三人だけになっていた。


「皆様とっくにお帰りになられましたよ。ありったけのお金を置いて」


 店主は床のガラス片を広い、カウンターの奥へと戻る。もふもふとした尻尾を揺らしているが、それに意味があるのかは不明である。


「うっひゃー! これで向こう二ヶ月は賭け放題!」


 カシギは品の無い表情を浮かべながら金貨を指で弾く。

 賭けで得た金を更に賭けに使おうという発想に迷いがないあたり、相当な博打狂(ギャンカス)なのだろう。


「おい、俺の取り分はどうなったんだよ」


「あー、忘れてた。じゃあ二割あげる」


「二割!? せめて半分ずつだろ!!」


 命を賭してまで得た金をなぜ八割も持っていかれなきゃいけないんだ。なんなら俺は今一文無し。この世界での金の価値は不明だが、五割でも物足りないくらいだ。


「二割も、でしょ!! 賭けに勝ったのはワタシでしょう!?」


「俺がいなきゃその賭けも成立しなかった訳だが?」


 再度二人はいがみ合う。


「御二方」


 店主がカウンター越しに声をかける。


「こちらも商売ですから、何かしら注文していただきたいのですが」


 二人はここが酒場であることをすっかり忘れていた。

 勝手に店を賭博場にした挙句に他の客を追い出したのだ。このまま店を後にするなど立派な荒らし行為である。


「す、すんません。でも俺未成年なんで……」


 ナユタは心底申し訳なさそうに頭を何度も下げる。

 カシギはそれを不思議そうに見た後にカウンターテーブルへと腰をかける。円形の椅子をくるくると回転させて幼児のように遊んでいる。


「なにキミ、もしかしてこの国の出身じゃなかったりする?」


「え、なんで?」


「この国では飲酒に年齢制限はないからね。あ、じいさん! ワタシ、えーと、出来るだけ度数の高いやつで!」


 あまりにざっくりとした注文に、カシギの人間性が垣間見える。

 しかし飲酒が許されていようとも、今の右も左もわからないナユタは到底そんな気分にはなれなかった。


「良ければノンアルコールカクテルでもお作り致しましょうか?」


「じゃあせっかくだし、お願いします」


 ナユタは照れくさそうにカシギの隣の席に着く。


 なんだか大人の階段を上った気分だ。濃紅のTシャツと我武者羅の文字は全く大人びてはいないのだが。


「で、キミ本当の名前はなんていうの?」


 カシギは頬杖を突きながら質問する。


 ここにきてようやく名乗る権利を与えられたらしい。このままデゼスとやらの名前を借り続けることになるのかと思っていた。


「やっと聞いてくれたか。ナユタだよナユタ、覚えておけ」


「なるほど変な名前。ワタシはシャルフね。シャルフ・カシギ」


「わたくしはブレンです。どうぞお見知り置きを」


 店主(あんた)も名乗るのか。


「お、おう。よろしく」


 会釈を済ましたブレンはカシギにドリンクを差し出す。


「科学の国から輸入したウイスキーのロック割でございます」


「ありがとう!」


 カシギはグラスに口をつけ、運動後の水道水を飲むかのように勢いよく飲み干した。

 外見はナユタとほぼ同い年に見えるが、その所作は歴戦の酒豪である。


「しっかし、おじさん達も単純だよね。こんな弱そうな男があの絶望のデゼスのはずないのにね」


 カシギはナユタの背中を右手でバシバシと叩く。

 事実か否かはさておき、世の中に弱そうなどと言われて良い気分になる男は存在しない。

 ナユタは不愉快が眉間の皺となって表情に表れる。


「んで、結局そのデゼスってのは誰だよ。いきなりヒトを賞金首扱いしておいて説明しないってのはナシだぜ」


「え、知らずに騙ってたの!? いくら外の国から来たとはいえ、キミってちょーっと世間知らずなんじゃないかな!?」


 ナユタ自身は一度たりともデゼスなどと名乗ってはいないのだが、カシギの中では共犯になっているらしい。


 カシギは説教じみた非難をするが、そもそもナユタは世間知らずというよりも世界知らずである。だがそんな事情など汲み取ってくれるはずもない。


「俺、断片的な記憶喪失なんだよ。つーわけで、色々説明頼んでいいか」


 ご都合主義な言い訳だが、こうでもしないと聞きたいことを話してはくれないだろう。


「別にいいけど、情報だってタダじゃないよ?」


 カシギは指で輪っかを作って対価を要求する。

 とんだ守銭奴に会ったものだとナユタは頭を抱えた。しかし話を聞いておくのは早い方がいい。いつ先程のような蛮族が現れるのかもわからないのだ。


「わかったよ。俺の取り分は二割でいい。その分質問には答えてもらうからな」


「まいどありっ!」


 カシギは舌をぺろりと出して、あざとく笑った。


「色々聞きたいことはあるんだが、まずここは何処なのか教えてくれ。右も左もわからないんだ」


「そのレベルなのね。なるほどなるほど」


 このレベルで悪うございました。


 カシギの言動一つ一つに神経を刺激されるも、その度に深呼吸して平静を保つ。


「ここは超大国フラクシオンだよ。といってもただ土地が広いだけの変哲もない王国なんだけどね」


 カシギはグラスに残った氷を全て口に含むと、ガリゴリと噛み砕く。どこまでも品がない。


「ああ、もしかしてさっき福音の儀で見たあの緑髪の女の子が王族だったりするのか?」


 不死を付与する福音の儀にて、玉座に佇んでいた少女。いくら彼女の持つ祝福が人々にとって有用なものでも丁重に扱われすぎだと思っていたが、彼女が王の一族だと言われれば納得もいく。


「いや、あの人は王族じゃないよ?」


「違うのかよ。あんなに偉いですオーラ出してたのにな」


「いいえ、ナユタさんの考え方もあながち間違いではありませんよ」


 会話に割り込んだブレンは円錐形の小さなカクテルグラスを差し出した。中ではライトグリーンとクリムゾンの液体が渦巻いて混ざっている。


「フラクシオン特産のメゼッドチェリーという果実から作ったカクテルです。カクテル言葉は『洗脳』。マッドな色合いにピッタリでしょう」


 ナユタはそれを一口含むが、美味しいのかよくわからない。不味くはない。不味くはないのだが、独特な酸味と甘味が衝突して弾けてしまいそうだ。


「ワタシそのフルーツ嫌ーい」


 余計なこと言うな。


「確かに癖の強いカクテルではありますが、リピート率が最も高いんですよ」


 確かに、この鼻の奥を撫でるような感覚は中毒性があるのかもしれない。


「んで、あの女の子は結局何なんだ。祝福がチートの一般人かよ」


「いいや? 一般でも人でもないね」


「……人じゃないのか?」


「神様、だね」


 カシギはニヤリと口角を上げた。ナユタにはその真意がわからない。


「神様? 神様っていや羽が生えてたりする老人ってイメージなんだけど」


 容姿だけに限ればあの少女よりも今目の前にいる店主の方がよっぽど神様らしい。


「ナユタ、古い。古いよ、その感性」


 やれやれと言わんばかりに首を振るカシギ。いつの間にかカシギの前には空のグラスが一つ増えている。

 酔っているからこうも腹の立つ言い回しが出来るのか。


「フラクシオンはね、ほんの二十年前までは豆粒みたいに小さな国だったの。でも今となっては世界五大大国の一つになってる。なんでだと思う?」


 ナユタも話の流れを汲めない阿呆ではない。その答えは考えるまでもなかった。


「あの子の祝福のおかげ、ってことか」


「大正解! 不死の力によって無限の兵力を得たフラクシオンはあっという間に周囲の国々を制圧して統合しちゃったわけ」


 具体的な成果を聞くととんでもない力である。不死(アンデッド)など一人いるだけでも恐ろしいというのに、それが集団になって国に攻めてくるなんて、一種の災害(ハザード)だ。


「なるほど、そりゃ神様なんて言われちまうわな」


 笑うに笑えずに、下手な愛想笑いをする。世界は非常とはいえ、侵略された国が不憫だった。

 ナユタのグラスも空になったころ、カシギは先程のポーカーで使ったトランプを懐から取り出した。


「さて、ここらで少しワタシと勝負しようか。ここの代金の支払いを賭けてね」


 カシギは唐突に、なのに既決のことかのように賭け事を提案する。ナユタはカシギに言葉を発させた時点で会話の主導権を手渡していたのだ。


「いや、俺の質問タイムなんだけど……」


「そんなのは後でいくらでも聞いてあげるから大丈夫だよ。ほら、神経衰弱でもしようよ」


 そんなことを言い、慣れた手つきでトランプを切った後、無造作にトランプをばらまいた。

 気持ちの悪いことに、十秒ほど宙を舞ったトランプは全て裏向きのまま床やテーブルに伏された。


「ナユタに先行は譲ってあげるね! あ、ジョーカーは抜いてあるから!」


 そもそも神経衰弱は先行が不利なゲームだろ──そんなことを思いながら足元に落ちた2枚のカードを同時にめくる。


「ハートの2とスペードの4。はいはっずれ!」


 カシギは意気揚々と煽ることに心血を注いでいる。大体一手目は完全なる運でしかない。ここからが神経衰弱のメインゲームではないか。

 ナユタは小声で文句を漏らしながらカードを裏向きに戻した。


「あーあ、せっかく先行譲ってあげたのになー」


 カシギは目の前のカウンターテーブルのカードをめくり、ナユタに見せつけた。

 ダイヤの4。


「あれ、ドコかで見た気がするなー? ドコだろうなー?」


 運の良い奴め。しかしワンペア取られた如きで狼狽える俺では無い。


 カシギは椅子から立ち上がり、ナユタの真横まで歩くと──そのまま通り過ぎた。


「──は?」


 ナユタの足元にはスペードの4がある。カシギはわざわざその数字を読み上げていたのだから認知していない訳でもない。


「あったあった! これこれ、()()()()()♡」


 カシギが店の隅から拾い上げたカードは紛れもなくハートの4。

 まるでそのカードがどこにあるのか知っていたかのように選んでみせた。


「あー、でも」


 カシギはカードが最も密集している店の中心部へと歩くと、何枚かの重なったカードの底から一枚抜き出してみせた。


「クローバーの方でも良かったね」


 クローバーの、4。

 ナユタは鳩がマシンガンを食らったように口をぽかんと開けていた。


 カードに細工があるのかと近くのカード二枚を見比べてみるが、これといって差異はない。

 結局カシギのターンは過半数の十四ペアを揃えるまで続いた。


「これでワタシの勝利は確定、っと。どう、まだ続ける?」


「続けるも何も、どうせ俺の番は二度と来ないんだろ」


 ナユタは初めからこの賭けに乗り気ではなかったが、それ以上に白けてしまった。

 ナユタは途中から完全に興味を失くし、先程飲んだメゼッドチェリーのカクテルの二杯目を嗜んでいた。


「ちょっと拗ねないでってば。ちゃんと種明かししてあげるからさ」


 カシギは散らかしたトランプを放置したまま元の席へと戻る。

 いくらこの店を荒らせば気が済むのだろうか。


 カシギは指で輪っかを作って右目に当てる。


裏表同然(リバーシブル)。ワタシの祝福だよ」


「はあ」


「色々制約のついた透視みたいなものだよ。おかげでカードを使ったゲームじゃ負けナシってわけ」


 なるほど、だからポーカーでもあんな無謀な賭け方が出来たわけか。なるほどなるほど。


「……ズルじゃね?」


 非常にシンプルなイカサマである。それにも関わらず所持金を掻っ攫われたあの男達が不憫でならない。


「高度な駆け引きと言って欲しいな」


 カシギの身勝手な主張にナユタは納得出来ない。あとポーカーに関しては審判(ブレン)がいたのにも関わらず咎められていないのが余計に酷い。


「ごめん、くださいっ」


 突然に出入口の重い扉がゆっくりと開かれ、ドアベルが音を鳴らす。


 その声が女性だったことに若干の安心感を覚えつつも、この店に来る人間というだけで警戒してしまう。


「……おやおや、珍しいお客様ですね」


 ナユタは恐る恐る振り返る。


「えっ、なんで──」


 カシギが先に声を上げた。


 振り向いた先にあったのは、膝に手をつき息を切らす、緑髪の『神様』の姿だった。

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