第五話 何事もまずは慣れることが肝心
俺の名前は山田優斗。平凡な25歳を迎えたアラサーリーマンになる。はずだった…。赤信号なのに飛び出していった子犬をトラックからかばって死んでしまって目が覚めると、見知らぬ土地で横になっていた。
クロノスの別邸に招かれた俺はこの世界のことと魔術のことについて聞くだけのつもりだったのに訓練をする流れになっていて....。
「うんどう?別に俺は話聞くだけでいいけど…。それにこういうのってだいたいぶっつけ本番でもどうにかなるんじゃ…。」
「はぁ、これだから人間は……。あのねぇ!魔法ってのは奇跡の力だ。しかしそれ故に正しく理解せず、なんとなくぅ~だとか感覚でぇ~みたいな感じで使われがちなんだよ!現にこの世界の人間もそうだ。正しい歴史を理解しようともせずに…。まぁそんな訳で私が転生させた上に体も少しイジらせてもらったことだし、そこまできたらもういっそのこと面倒見られるだけ見てあげようという訳だ。それにウォーミングアップは必要だろ?君だってもう若くないんだから。」
……神様にだけは言われたくねぇ。
――クロノスの別邸地下――
「さて、ここが訓練の場所だ。私が別邸として引き継ぐ前のここは元々血の気が多い神の邸宅だったそうで、何かにつけて戦の用意をしていたらしい。」
「じゃあ、訓練なんかも外でやればよかったんじゃないか?牽制の意味も込めて。」
「最初のうちはそうしてたみたいだけど、訓練している兵が失踪したり、魔獣が出まくってたりで仕方なく地下に作らざるを得なくなってしまったみたいよ。まぁ失踪って言ってもその多くは脱走だったみたいだけど。」
そんなにハードだったのか…。
「さて、お話はこのくらいにしておいて。まずは魔法の使い方をお教えしよう。基本的に空想上で思い描いたことを実際の事象として起こす。それが魔法だ。例えは、この何の変哲もない地面に手をかざし頭の中でこう思い描く。【リンゴのなる木を生やせ】そうしてかざした手を下から上にあげる。すると…。」
――先程まで芽すら生えてなかった地面からリンゴのなる木があっという間に生えてきた―――
いやどういう事?意味が分からな過ぎて思考が働かない…。.....そりゃ、俺がもといた世界の常識は通用しないと思っていたけど、通用しないどころか無価値同然だとは思わないじゃん!!
「さて、じゃあ実際にやってm.....あれ?もしもーし、もしも~し!…流石にいきなりこのレベルは理解が追いつかなかったか。」
.....分かっていたならもうちょっと理解が追いつくレベルで教えてくれよ.....。
「まぁ、こんなことは神にしかできない芸当だと思ってくれていい。人間の場合、大気中に漂う魔素と自身の生命エネルギーを合わせる事によって魔法や魔術が使える。しかし、神の場合は大気中に漂う魔素を必要とせず、自身の生命エネルギーのみで魔法や魔術を使うことができる。ま、神様特権って奴かな。」
「…なぁ、生命エネルギーと寿命って直結してるのか?だとしたらそんなばかすか力使ってたら危ないんじゃ…」
「それについては大丈夫。消費しているのはあくまでエネルギーであって生命力そのものを消費している訳じゃないから、どんなに枯渇してたとしても一日休めば元通りさ。人間はね...。」
「人間はって…それってどうゆう…」
「ハイッ!ご歓談タイム終了!訓練に戻ろうか。」
そう言ったクロノスの横顔はどこか寂しげだった。
「流石に何もない地面から木を生やすのは初心者には難しすぎたから、まずは頭に手頃なサイズの物を思い浮かべてみようか。」
手頃なサイズの物を思い浮かべろって言われてもな....う~ん....。そうだ!リンゴがあった!リンゴにしよう。
「思い浮かべたようだね。では、神経を集中させて…思い浮かべた者を手のひらにイメージさせて....。」
しばらく手のひらを凝視しながら神経を集中させていると
ポンッ
という音と共に手のひらの中にリンゴが落ちてきた。
「!!やった、やったぞ!リンゴが作れたぞ!」
と喜んでいるとリンゴは消えてしまった....。
「そんな....。せっかく作れたのに....。」
「そりゃ、魔法で作った偽物だし魔法を使ったことのない人間の使う魔法なんだから。ただ、初めてにしては上出来だと思うよ。みんな形を捉えるのに苦労するんだよ。」
「....なぁ、俺は魔術師になるんだよな?今って魔法のこと教わってるみたいだけど魔法を使うのが魔術師なのか?」
「いいや、魔法はあくまでも自分のためだけに使うもの。魔術は自分や自分以外の他者にも使うもの。要するに手段としての魔法や魔術。今、魔法を使ってもらったのは魔力に少しでも慣れてもらうため。魔術師としてはここから。」
そういうと、リンゴを手のひらに出してきた。
「リンゴを出してきたのはいいチョイスだったね!果物を好んで食べる魔獣も多いからね。このリンゴだって武器になる。こうやって投げて…。」
リンゴが空高く飛んでいく。そうやって脳天に落とすのね。確かにちょっとしたダメージにはなりそうd
「いいタイミングだと思ったら手を握る。」
ドカーーーーーンッ!!
「空中で大爆発!まぁあんなに爆発力は必要ないとは思うけど。これだって立派な魔術だ。それでね…」
....俺はただ唖然としていた。
まずここから生きて出られるのだろうかと、ただそれだけを考えながら…。
来週からは月一不定期更新にさせてもらいます