第四話 教えてあげよう、この世界の真実をッ!
俺の名前は山田優斗。平凡な25歳を迎えたアラサーリーマンになる。はずだった…。赤信号なのに飛び出していった子犬をトラックからかばって死んでしまって目が覚めると、見知らぬ土地で横になっていた。
渡された手鏡を見るとそこに映っていたのは俺の顔だった…。スーツは地味だったから新調したって、ふざけんな!スーツ変えるくらいなら俺を俺以外の超絶イケメンに転生させやがれってんだッ!!....まあ、そんなこんなでいろいろあって、俺はクロノスの別邸に行くことになった。
「もう目を開けてもいいよ。」
そう言われ目を開くと、目の前には豪邸があった。
えぇ~~~ッ!!こ、これが…こ、こんなバカデカくそびえたつ建物が…別邸だとぉぉぉ!?俺が知ってるのとは遥かに違う。この建物はホワイトハウス並、いやそれ以上の大きさは持ち合わせていることだろう。
「あの~、そろそろいいかな?自分の足で立ってもらっても。」
…そうだった。俺、今自称神に小脇に抱えられてる状態だった…。
「まぁ君が望むなら、このまま私の自室まで抱えて運んで行ってあげてもいいy」
「いいって。自分で歩ける。」
―――そう言うと山田はクロノスの小脇から離れた―――
「またまた~、照れちゃってッ!!あ、バケツはもらうね。必要なかったみたいだし。」
「結局あれは、なんのためのバケツだったんだよ。」
「初めての瞬間移動ってだいたいの人は吐いちゃうんだよね。まぁあちらの世界で言う乗り物酔いみたいなものだよ。この間、妻と使用人を連れて花見に出かけた時に使ったんだが、久しく使っていなかったせいでほとんどの使用人が吐いてしまって。妻からは怒られ、吐瀉物の掃除を一人でするように言われてしまってねっ。あの時は本当に参ったよッ!HAッHAッHAッ!!」
この話を聞いている俺の方がきっとアンタ以上に参ってるよ。
―――クロノスが扉を開けようとハンドルに手をかけようとした時、扉が内側に開き、目の前には執事衣装の老人が立っていた―――
「おかえりなさいませ、御主人様。」
ドラマやメイド喫茶などのフィクションでしか聞いてこなかったセリフを異世界に来て実際に聞くことになろうとは…。
「シルヴァッ!.....今日はもう休んでいいと言ったはずだが。」
「なにを仰いますか!主が休むことなく行動なされているというのにのんびりしているわけには参りません。それに痩せても枯れてもこのシルヴァ、まだまだ現役で御主人様にお仕えしていく所存でございます故。」
「やれやれ…。そうだ、紹介しよう。私の屋敷で執事長を務めてくれている、シルヴァだ。シルヴァ、こちら今日から私の弟子になる山田君だ。」
「オイッ、弟子になるなんて一言も言ってないぞッ!」
「お初にお目にかかります、シルヴァです。」
「あ、どうも山田です。お邪魔します。」
「旦那様からお話は伺っております。とんだ災難でございましたね。お悔やみ申し上げます。」
「こら、シルヴァ!あまり滅多なことを言うもんじゃない、一応私の客人だ。第一、彼はこうして生きているではないか。」
「それもそうですね。少し不謹慎でした。不快になられたのなら謝ります。大変申し訳ございません。」
「いやいや、そんな!そもそも死んでしまったのは事実ですし、頭を上げてください。」
「そうでございますか。お心遣い痛み入ります。腕の方も仔細ないようで安心しました。紅茶の用意ができ次第お持ちしますので、旦那様の書斎でよろしいですか?」
「うん、よろしく頼む。…では私たちは先に書斎に行って待つことにしよう。」
腕の方も仔細ないようで安心した?俺の腕に何をしたんだ、全く.....。ろくでもないことしてやがったらただじゃおかねぇ。そんなことを考えながらクロノスについていっている。
「随分と丁寧な言葉遣いをするのだな。私の対応とは大違いだ。一応これでも私は神で彼よりも年上だというのに…」
「うるせぇ、俺は被害者でお前は加害者だ。被害者と加害者という俺が圧倒的優位な関係性ではお前が神だろうがなんだろうが知ったこっちゃないねッ!」
「なにその理論……」
「つーか、神が従えてる使用人は普通の人間なんだな。もっとこう、異物だと思っていたから少し驚いた。」
「君は一体どんな想像をしているんだか.....。それにあれは人間ではない。妖精だよ。」
「妖精?あんな普通の高齢者が?小さくないし、羽根も生えてないし、女の子でもないあれが妖精!?」
「まぁ驚くのも無理はないか。君が生きていた現世だと妖精というものはだいたい女の子という設定で物語に登場して刷り込まれているみたいだからな。妖精にも性別はある。神にだってある。もちろん人間にだって。そういう意味では神も人も、妖精さえも同じ生き物なのかもしれないね。」
そんなことを話しながら廊下を歩いていると、一つの扉の前で立ち止まった。どうやらここらしい。
「さあ、どうぞ。入って入って。少し机の上が散らかってるけど気にしないでくれ。」
そう言いながら扉を開けて俺を部屋の中へ招いた。中に入ると、部屋を囲むように本がぎっしり詰められているが、中の椅子や机の配置は社長室や校長室みたいな感じで書斎感はあまりなかった。
「自室とは思えないよね?まあ座って。ここで仕事の話なんかもするからね。この方がいいと思ってね。」
「神様も仕事するんだな。年中遊んで暮らしてるもんかと思ってた。でもなんの仕事があるんだよ。」
「なにその神に対する雑解釈。主に現世の不具合を修正したり、転生者を導いたり、死者の魂を仕分けしたり…。それぞれの持ち場によってやることは変わってくる。ちなみに私はこう見えても偉い立場だけど比較的フットワークが軽いほうだから手広くやっているのだ!!」
にわかには信じられない。
コンッコンッ。ガチャッ。
「失礼します。紅茶をお持ちしました。」
俺が部屋に入って来客用の椅子に腰かけてからまだ一分と経ってないぞ!?流石はベテラン執事といったところか.....。
「....さて、紅茶も来たことだし話を始めようか。この世界について。」
「この世界は君のいた世界と世界観も価値観もまるで違う。最初は戸惑うこともあるだろうけど、それは時が解決してくれるだろうからそんなに気にすることもないだろう。今、君が一番気にするべきことは君のいた世界とのもう一つの違い。魔法が使えるという点だ。この世界では火、水、風、雷、土魔法、そして聖なる波動や邪なる波動、無からなる波動の五つの属性から外れた魔法で成り立っている。基本的には五つの属性魔法さえ習得できさえすればなに不自由のない暮らしが保証される。…と言いたいところなんだけど、さっきの熊といいああいう異常が各地で発生しているようだから一応五つの属性外魔法も習得してもらうことになるからそのつもりで。」
「…興味本位で聞くんだけど、その異常って、なにが原因なんだ?」
「ひとえにこれだ!って断定はできない。いろいろな事象が重なり合わさってこんなことになっているわけだし、魔法が使える分向こうの世界より文明レベルは落としているはずだから負荷はそこまでかかっていないはずだ。なのになぜ....」
どんどん難しい話になってきている。....そりゃ目の前の神様だって考え込むレベルだ。俺なんかの理解が追いつく話なわけないよな。聞いた俺が馬鹿だった。
「あの、俺から聞いておいてなんだけど、話をさっさと進めてもらえませんか?」
「おっと、そうだった申し訳ない。まあ、難しい話は追々話していくとして、その新しい体に慣れることも兼ねて、少し魔法の訓練と洒落込もうじゃないか。」
次回本編更新は5月27日を予定しております