第三話 転生しても俺のままッ!?それなりに期待してたんけどッ!!
前回までのあらすじ
俺の名前は山田優斗。平凡な25歳を迎えたアラサーリーマンになる。はずだった…。赤信号なのに飛び出していった子犬をトラックからかばって死んでしまって目が覚めると、見知らぬ土地で横になっていた。
神を自称する、俺が死ぬことになった原因を作ったクロノスという顔だけはいい腹立たしいヤツが言うには俺が元いた現世に帰ることは叶わないけど、もう一つの願いのほうは叶えたという。何のことか全然心当たりのない俺に差し出された手鏡を見て、俺は絶賛何も言えない状態に陥っていたのであった…。
俺はしばらく開いた口が塞がらず、声もでなかった。頭の先からつま先のてっぺんまで、これ…まんま俺じゃねぇかッ!いやいやいや、こういう異世界転生系って向こうの現世とは似ても似つかない顔とか体つきとかで転生するのがお約束じゃないの!?街の奥様方が釘付けになるくらい顔の整った美青年、村一番の頼れる怪力自慢のマッチョメン、種族の違いなど気にせず誰にでも分け隔てなく接する人望の厚い魔物とか。
なのに…生前の頃、風呂の鏡で、会社のトイレの洗面台でッ、あらゆる鏡と自分の姿が反射して映る場所でッ!散々見てきた俺じゃねぇか……。正直、少し期待していた。この男がもし本当に神様なのだとすれば、美青年になって世の女性たちをオトしていく世界線が、いやそれ以上も望めたのかもしれない。今となっては虚しい妄想となって終わってしまったが。
.....っていうかこれ死んだ時の姿じゃねぇかッ!一体どの面下げて、この姿で転生させたのだろうか。
あれっ、でもなんだろう…俺のスーツって、こんなに締まりのある色合いだったっけ…?
「おぉッ!その反応!!どうやら気づいてくれたみたいだ。流石に死んだ時のスーツのままだと君を見るときいちいち私が心苦しい思いをしn……き、君があまりにも不憫だと思ってね。私の方でスーツは新調しておいた。なぁに、礼には及ばない。君を不慮の事故で死なせてしまったお詫びの一環としてのサービスと受け取っておいてくれ。それに元々着ていたスーツもパッとしない色味のものだったからちょうどよかったじゃないか。黒の上下セットアップに青色のネクタイという、なんてパッとしないコーデ!!そこでダークブルーの上下セットアップに変更し、さらにダークブルーのベストをそこに追加。ネクタイの色はダークレッドにして全体的に大人の紳士っぽさがアップ!…とのことだ。ちなみにこのスーツのコーディネートからしつらえまで全て私の妻が担当してくれた。出来上がるまで私はというとわが屋敷の使用人のメイドたちとティーp」
――クロノスが言い終わる前に山田は彼の頬をつねり、引っ張り、こねくり回した―――
「えーーっとぉ、つまり何ですかぁ?服装のグレードアップでせっかくSランクを狙えたかもしれないのに顔がこんな平凡に作られたせいで結局Dランクどまりのモブでしかいられないってことじゃないですかコノ野郎ォォォ!!!」
「何も平凡な顔だからってそこまで言うことないじゃない。自分の顔だよね?…あと、頬から手、離してくれない?喋りづらいし、地味に痛いから。」
――言う通り山田は離してあげた―――
「人として現世に顕在した今、よーーーっぽどの事情がなければ、作り直すことは不可能だよ。…それにこうなることを望んでいたのはほかでもない、君自身じゃないか?何を今更。」
「はぁ?俺が望んでたって、んなわけ…」
「いいや!望んでた!もう少し厳密に言うと君自身の魂が望んでいたことなんだ。とはいえ、どちらも君であることには変わりないのだから君の望みであることには違いない。転生の手続きについても、さっき話した死報転共局にて行う決まりなんだけど、大変だったんだよ。アラサーリーマンデビュー後からやり直したい、アラサーリーマンデビュー後からやり直したいって、まるで呪詛を唱えてるみたいにそれしか言わないもんだから受付の担当の子、困っちゃって困っちゃって.....。それを引き継いで、こうしてお客様のご要望にお答えしたというのにぃ!!なによっ!!その態度!!私がアンタになにしたっていうのよッ!?」
「唐突な被害者ヅラやめろ。あと、お前の飼い犬庇って死んじまったんだから実質お前に殺されたようなもんだろ、調子乗んなクソが。」
「…キミよくそんな不遜な態度と言葉遣い続けられるよね。こっちも一応、神なんだけどな~!割となんでも無茶通せる神なんだけどな~!!」
なんでも無茶を通せるのなら今すぐにこの顔をイケメンにしてもらいたいもんだッ!
「で?これからどうすればいいんだよ?」
「ん?」
「ん?じゃねえよッ!異世界に転生させてくれたってのはいいよ。もうどうせこれ以上つっついてもしょうがなさそうだし。せめてこの世界の仕組みくらいは教えてもらいたいもんだけど。まさか、生き返らせておしまいじゃないよなッ!?」
「まあまあ、そう焦らない焦らない。確かにせっかく生き返らせたのに何も教えず放置してその辺の低級魔物によくわからないまま殺されてしまうのは面白くないね。…け~どぉ~!!そんなに不遜な態度や言葉遣いばかりの人に教えるのもな~!そりゃ、ほぼ私の責任で死なせてしまった手前、あまり強くは言えないけどさ~。ッ!私ッ神なの!!一応!!お願いするときくらい礼節ちゃんとしてくれたってよくないッ?」
はぁ~ウッザ。こっちをチラチラ見ながら言いやがって。
「あ~~~ッもう!!分かった分かりました。何も知らない無知なワタクシめにどうぞ知識をお与えください。これでよろしいでしょうk」
「君ッ!!」
流石に怒らせたか?
「……なぁ~んだ、そういう言葉遣いもちゃんとできるんじゃないか。まぁ、そこまで言われちゃしょうがない。私が一から十まで、手取り足取り、徹底的にこの世界のことから魔術のいろはまで叩き込み、最強魔術師として花開くようにお手伝いしようではないか!!」
そんなに頼んだ覚えはないけどそういうことにしておこう。じゃないと話が進まない…。
「さて、ではこの世界について説明を……。いや、どうせなら場所を変えよう。屋敷は人が多いだろうから…。よしっ!別邸にしよう。」
「別邸?ここで話せはいいんじゃないの?」
「今からこの世界のこと、魔法と魔術の説明と実演をしようとしているのね?それらをするのにここは向かない訳。なぜかというのも私の別邸に行って話を聞いてたら分かるはずだ。それに空間を展開するのもなかなかしんどいんだよ.....。そんなに長々と使ってらんないってぇ。まぁとりあえず別邸行こ?」
――そういうとクロノスは山田を小脇に抱え、指パッチンでソファを片付けた―――
「じゃあ、これ持って顔の下で構えてて。それからジタバタしないでね。落としたら探すの大変だから。あと喋らないように。ちゃんと目的地にたどり着けないかもだし、最悪舌噛んで死なれても困るし。」
「舌噛む可能性あるって…。お前、今から何するつもりd」
――山田が言い終わる前に突如クロノスの足元から紫色の魔法陣が現れ、目も開けられない程の眩い光が下から輝きはなっていた―――
「魔法空間、解除」
「瞬間移動!」
次回更新は5月13日を予定しております