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 私が愛されて愛されて、それはもうとにかく愛されながらすくすくと育っている間に、時代は大きく動いた。


 長きに渡る魔物たちとの戦いに、ついに終止符が打たれたのだ。


 成し遂げたのは、ある女性ドゥエル。


 その女性ドゥエルは、ドゥエルに覚醒前に神の愛し子として神殿に保護され、やがて前線で活躍していくうちに覚醒し、その身に戦神を降ろした。

 戦神と同化した彼女は、その身ひとつで魔物たちが這い出てくる(くら)い穴の向こうにある魔物の世界にまで乗り込み、その全てを殲滅(せんめつ)したと言われている。


 その女性ドゥエルの覚醒は二十歳のとき。

 師たるドゥエルが最愛の妻を(うしな)い嘆く(さま)がきっかけだと言われている。


 イクセル・ドゥエル。

 女性ドゥエルの師である。


 イクセル・ドゥエルは、前線以外で使うことを厳しく禁じられているドゥエルの癒やしの光を、病気の妻のためにただ一度使うことを国王に願い出た。


 イクセル・ドゥエルが十年に渡り前線で活躍したことを(かんが)みて、国王は周辺国と協議し、ただ一度、前線以外で癒やしの光を使うことを許可した。


 しかし、イクセル・ドゥエルの妻は、夫を待つことなく息を引き取る。

 イクセル・ドゥエルが到着したほんの数分前のことだったという。


 死んだ者は生き返らない。

 どんなに癒やしの光を降り注いでも、イクセル・ドゥエルの妻が目を開けることはついぞなかったのである。


 慟哭。


 その魂が削られるほどの師の嘆きを目の当たりにした女性ドゥエルは、ドゥエルに未覚醒だった己の無力を嘆き、それが魔物たちへの怒りに転換され、神を顕現させるほどの(ドゥエル)に覚醒した。


 そうして、戦神を顕現させた女性ドゥエルは、神の圧倒的な力をもって魔物たちを殲滅したのだった。


 国を越えて大陸中が歓喜に沸いたが、女性ドゥエルは己を英雄視することも神格化することも許さず、名を残すことも禁じた。

 もっと早くに覚醒していれば救えた命もあったのにとの深い悔恨からだという。


 魔物の世界から這い出てくる魔物がいなくなったことで、前線は解放された。しかし、既に大陸中に散らばっている魔物たちは消滅することなく存在し続け、魔物たちとの戦いはこれからも続いていく。

 女性ドゥエルは、偉業を成し遂げたことを驕ることなく、大陸に残っている魔物を狩るための旅に出て、今もなお戦っているという。


 これが国の公式発表。

 前世を覚えておらず、神様たちの話を聞いていなければ信じていただろう。

 イクセルとシャルロッテの艶めいた仲については一切触れず、ただの師弟として語り継がれている。

 あれだけ国中で噂になっていたのに、情報操作が鮮やかなものだ。


 私は本当にすくすくと育った。

 身体の年齢に引っ張られるのか、生まれたばかりの頃はあんなにハッキリしていた()の意識は少しずつ溶けていき、数年で精神も年相応になった。

 前世を覚えてはいるのだけれども、最近まで思い返すこともなくなっていた。


 私は今日、十八歳になった。


 王都の学園に五年間通い、先月卒業したばかりだ。

 友人たちに囲まれて切磋琢磨した、本当に楽しい学生時代だった。

 前世は学園には通わなかったので、全てが新鮮だった。


 イクセルとは今世で一度も会っていない。

 会いにも来ないし、探しているのに見つからないのだ。


 イクセルは結局ドゥエルを返上しなかった。

 身体がもつ限り、ドゥエルであり続けて残った魔物たちと戦うことを選んだという。

 エクルンド領を王家に返し、領民の生活が落ち着いた頃に、彼は表舞台から姿を消した。


 シャルロッテと共に行動しているのかと思った時期もあったが、それは違った。


 この国ではあまり知られていないが、シャルロッテは二年前にドゥエルを返上し、二つ隣の国の男性と結婚した。

 イクセルに未だ執着して共にいるのであれば、他の男と結婚するはずがない。

 なぜ知ったかというと、結婚相手が母の生家の侯爵家の子息で、母の甥、会ったことはないが私の従兄にあたるのだ。


 私はシャルロッテと結構近い親戚になってしまったのだった。


 母は、「うちは、なんというか、色々囚われない貴族らしくない自由な家なのよね……」と呆れていたが、反対とか抗議とかはしなかった。

 その国の王家に連なる侯爵家の子息が、ドゥエルとはいえ他国の平民と結婚することは他では考えられないことだ。

 国が離れていることもあり、直接関わることもない。

 目くじらを立てることもないと母は判断したのだが、母以外(祖父父兄兄兄)がキャンキャンとうるさかった。

 鮮やかに黙らせる母の手腕が素晴らしく、私は本当に母を見習いたい。


 イクセルは私が生まれ変わったことを神から聞かされている。

 でないと、ここまで徹底して姿を消すはずがない。


 だが、生来、イクセルはうっかりしているところがあった。


 うちの伯爵領も、私が小さい頃は今よりも魔物がまだ出た。そのたびにどこかから現れる男性が退治し、速やかに去っていくというのだ。その頻度は他領より遥かに多く、もしかしたらうちの領に住んでいるんじゃないかというくらいだ。


 痕跡を残しまくりだろう。


 イクセルは、罪滅ぼしのような気持ちで、身体が持つ限り魔物を退治して生きていこうとしている。

 でも、絶対に私の目には入らず、耳にも入らないように息を潜めて生きていくことも決めているようで、会いに来ることは一切期待できない。


 私が死んで十八年。イクセルがドゥエルになってから実に二十八年もの間、ドゥエルを務めた人は過去にいない。

 シャルロッテが魔物の世界で魔物を殲滅して以降、新たなドゥエルは出現していない。魔物単体であれば兵士が複数でかかれば退治できることをふまえると、神はもう力を貸す必要がないと考えているのかもしれない。

 まあ、あの神様たちの考えることなど、想像するだけで恐ろしいが。


 シャルロッテがドゥエルを返上した今、イクセルが最後のドゥエルだ。


 ただ、私がそれを知ったのはつい先日のこと。


 私が折に触れて探していたのに、祖父が父が兄たちが、絶対にイクセルのことを私の耳に入れないように徹底していたのである。

 私もまさか伯爵領とは考えず、旧エクルンド領を中心に探していたので見つかるはずがなかった。


 家族には前世のことは話していない。話したところで、シャルロッタはもう死んで、私は生きている。

 だが、私の言動から薄々にでも察していると思われる。なぜなら、私を溺愛している家族は私の大抵のお願いは聞いてくれてきたが、昔から、イクセルのことになると最大の障害となってきたからだ。

 もう私とは関わらせてはなるものかと、私がイクセルのことを調べ出すと、先回りして情報を握りつぶしたり偽情報を掴ませたりしてきたのだ。

 そのせいで、私はイクセルはよっぽどうまく逃げ回っているのだとずっと思っていたのだが、蓋を開けてみれば、想像よりもずっと近くで守ってくれていた。


 それがイクセルの答え。

 探し続けてきたことが私の答え。


 イクセルは私に会うことを望んではいないが、私を守ることは一貫してブレなかった。


 生まれ変わってたくさんのことを経験して、前世にプラスされた人生経験からいっても、イクセルに会わなければならない。

 いい加減、お互い想像でウジウジしていないで、はっきりと対面で決着を付けよう。


 というわけで、これから会いに行ってイクセルの首根っこを押さえてくる所存。


 父たちは母が抑えてくれる。母からは、伯爵領にいたら落ち着いて話もできないだろうから、大きな商会がある王領にでも行きなさいと、背中を押してもらった。


 私ももう十八歳で立派な成人だ。父というよりも兄たちの妨害にあって婚約者もいない。したがって自分で結婚相手を探してもいいだろう。


 私が前線にまで会いに行った時にシャルロッテと旅行に行っていたことと、シャルロッテを連れて帰るから部屋を明け渡せの手紙と、私を無視したことについては、それはもうとことん突き詰めるけれど。

 私が結婚相手(イクセル)に望むことはたった二つ。罪を犯しただの許されないだの歳の差だのは関係ない。


 愛してくれているなら、側にいて。

 愛しているから側にいさせて。


 愛しさも苦しさも喜びも悲しみも、共に分かち合って、笑って泣いて喧嘩して抱き合って手を繋いで、死ぬまで側に。


 それを分からず屋に分からせるまで、もう諦めたりしない。

 分からせた後は、美しく栄える王領(エクルンド)で時間の流れを取り戻して家族を増やし、ゆっくりと暮らすとしましょう。



読んでくださり、ありがとうございました!


これにて本編のシャルロッタ視点は終わりです。

鬱々したお話にも関わらず、たくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです。お付き合いくださり、ありがとうございました。

m(_ _)m


ポイントやいいねマークもたくさんありがとうございます。日間総合1位をいただいた上に長くランキングに入れていただき、心から感謝いたします。

見切り発車で始めた連載の励みにとてもなりました。

゜+。:.゜(*゜Д゜*)゜.:。+゜

誤字報告も過去一番、皆様に直していただきまして……ありがとうございました!


本編は終わりですが、視点を変えたお話を予定しています。

だって、イクセルとシャルロッテ、ほぼ出てきてませんので(^-^;。

準備ができてから投稿しますので、番外編は間があきます。


それでは、番外編か別のお話でまたお会いできますことを願いまして。


ありがとうございました!


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