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「来たか。不運の子」


「不運」


「笑っちゃうくらい不運」


「巻き込まれたとも言うな」


「あの男の望みはそなたを守ること」


「最初から呆れるほどにずっと変わらない」


「変わらない」


「そうそう、ずっと、それだけ」


「早くあの子が目覚めてさえいれば、そなたの人生は違ったものになっただろう」


「まったくもってそう」


「目覚めさえすれば、神を降ろして魔物を殲滅(せんめつ)できるのに」


「頑なに認めない」


「認めない」


「自分の傲慢や強欲さを認めない」


「頑な」


「だから目覚めない」


「己の『わがまま』が取り返しのつかないことになると自覚さえすれば覚醒できるのに」


「そう」


「そうすれば『前世』の(ごう)(ほど)けるのに」


「頑なに認めない」


「いつも悪いのは他人」


「自分は悪くない」


「業は業のまま」


「だから覚醒しない」


「でもこれで思い知る」


「そうだ」


「どんなにわがままを言っても離れなかった男の最愛は死んだ」


「死んだ」


「あっさり死んだ」


「男を待って待って、死んだ」


「死んでここに居る」


「居る」


「あの子がわがままを貫いて男の邪魔をしたから、男は間に合わなかった」


「邪魔した」


「必死に邪魔した」


「得られなかった親の愛を」


「得られなかった友の愛を」


「得られなかった永遠の愛を」


「男に求めたあの子はとても愚か」


「男の心には妻しかいなかったのに」


「執着しても心は縛れない」


「妻に会いに行く男を邪魔しても男の心は妻のもの」


「邪魔がなければ間に合ったかも」


「それはどうかな」


「朴念仁には違いない」


「現実はひとつ」


「最愛は死んだ」


「そなたは死んだ」


「神の力がその手にあるのに」


「最愛の妻は死んだ」


「もう取り返しはつかない」


「男は恨む」


「恨むだろ」


「男は狂う」


「狂うだろ」


「あの子はやっと気付くだろう」


「気付くかな」


「さすがに気付くだろう」


「自分のわがままが取り返しのつかないことを招いたと」


「ようやく気付く」


「長すぎ」


「前世、王族でありながら己の欲のために国を滅ぼした贖罪(しょくざい)がようやく始まる」


「何万という命が失われて」


「世界はバランスを失って」


「魔物の世界が生まれた」


「あの子のせい」


「この世界の魔物を殲滅すること」


「あの子の魂を永久に()く苦しみの代わりに科した贖罪」


「でも、己の欲が取り返しのつかないことになると認めなくては覚醒しない」


「覚醒しなければただの人」


「わがままなだけの人」


「約束果たせない」


「自分のせいで取り返しがつかないと、己への失望と怒りがなければ覚醒しない」


「約束」


「自らを省みなければダメ」


「早く覚醒してほしいな」


「待ちくたびれた」


「誰が降りる」


「誰があの子に降りて魔物を殲滅する」


「ワシが」


「楽しそう」


「私よ」


「いや、この俺だ」


「ただの神の器(ドゥエル)ではない」


「神ごと顕現できる稀有な咎人(とがびと)


「わがままと癇癪が強すぎて親から捨てられた子」


「大人になる前に死んではやり直すのにまた面倒」


「やがて目覚めると天啓を与えた」


「神殿に保護されて余計に怠惰で傲慢になった」


「筋金入りで笑っちゃったわよ」


「何を守り何を(ほふ)るか自覚が必要」


「戦場に向かわせた」


「男と出会った」


「全く脈がない」


「面白いほど妻一筋」


「あの子は必死に初めて努力した」


「でもわがままはそのまま」


「男はあの子に自分の罪を自覚させる鍵となる」


「この世界を魔物の脅威から救ってはじめて罪は許される」


「もうすぐ」


「男の絶望がようやくあの子の心に刺さっただろう」


「我々は男の献身にどう報いるか決めよう」


「そうだ」


「狂ったままは可哀想ね」


「今までどんな聖人君子もあの子には匙を投げたのに」


「ワレがあの男に『妻を守るため』あの子の側にいろと囁いてやったからな」


「そんなことしてたのか」


「人質みたいじゃない」


「妻のために妻を蔑ろに」


「ひどいな」


「何事にも犠牲は必要だ」


「報いてやろう」


「最愛をその腕に戻せばいい」


「死んだ身体に魂を戻すのはできない」


「できない」


「では輪廻の輪へ行くしかない」


「それは新しく生まれるだけ」


「巡り合わせる」


「いいね」


「いいね」


「少しずつ我らの加護を与えよう」


「いいわね」


「近くに生まれる命がある」


「あるね」


「まだ魂は入っていない」


「だって()()にいるからね」


「そなたをこの世で一番大切に育ててくれる家族だろう」


「記憶はどうする」


「覚えていると苦しむ」


「だから皆忘れる」


「覚えてないと『同じ』ではないだろう」


「そうだ」


「あの男の最愛は『同じ』でないと意味がない」


「狂ったまま」


「あの男に愛想を尽かしているんじゃな~い?」


「なら覚えていない方が良いだろう」


「でも男は狂ったままになる」


「記憶がなくても『最愛』ならいいだろう」


「だめだろう」


「ちゃんとフラれるだけ」


「楽しむなよ」


「褒美にならんぞ」


「そなたはどうだ?」


「そうだ選ばせればいい」


「すべてを忘れてまた男に愛を乞われるか」


「待て待て、歳の差すぎるだろ」


「そうか? 一万歳くらいはアリだろう」


「神基準やめろ」


「趣旨がずれてきたな」


「皆が集まるとうるさい」


「まとまらない」


「でも世界のことを決める時は集まるキマリ」


「そろそろ決めろ、眠たい」


「妻を守るために神の声に従った男の献身へどう報いる」


「結果、妻放置で死んじゃった。可哀想~」


「やめなさい」


「早く決めろ」


「そなたは、記憶を持ったまま『そなた』として生まれたいか」


「そうね選べばいい」


「そうだな」


「あの子が執着する男の最愛であるそなたの死が世界を救うきっかけになる」


「男の絶望はあの子では癒やせない」


「やっと気が付く『自分のせい』だと」


「やっと覚醒する」


「あ」


「覚醒したわ」


「俺がゆく」


「あ」


「ずるい!」


「まあアレ(戦いの神)が適任じゃろうて」


「そうね、見てましょうよ」


「そなたは救われた世界で次の人生をただ幸せに生きればいい」


「あの男を選んでもいい」


「選ばなくてもいいわよ」


「見ていてひどかったしな」


「身ぐるみ剥いで離縁しても仕方がないほど」


「ひどかった」


「だが必要だった」


「巻き込まれて不運だが、相応の救いを」


「我々は魔物の世界に直接手が出せない」


「人は良くやった」


「良く耐えた」


「ようやく終わる」


「そなたはただ自分のためだけに選べばいい」


「そなたの手を引くために残っていたそこの魂も、そなたの子として生まれるために共に行く」


「さあ」


「ほれ」


「選べ」


「心のままに」


「選ぶがいい」


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