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 いっそ清々しいほどのイクセルの心変わりぶりに乾いた笑いしか出なかったというのに、荷物を整理していると、愛されていた記憶の詰まった物たちが目につき、手に取る度に込み上げて来るものがあった。


 私を大切にしてくれていた記憶。


 何度も読んでボロボロになったイクセルからの手紙の束と、一度読んだだけで仕舞った綺麗なままの手紙の束との境界を眺め、()()が分かれ目だったなと、感慨無量ですらあった。


 季節は暖かくなってきたが、まだ冷える日があるので暖炉には火が入っている。そこに手紙の束を放り込むと、ボロボロだろうが綺麗だろうが関係なく、手紙はじわじわと燃えた後、一気に炎に包まれた。一瞬、大きく炎が弾けた後、火は弱まっていき、最後には崩れて燃えかすになって散っていった。

 煙が結構目に染みて、ポロポロと涙か溢れたのを皮切りに、体中の水分を出し切る勢いで泣いた。


 ドゥエルを返上して帰還するけどお前は出て行けって、どう考えても酷い。最後に期待させて滅多刺しにトドメを刺すのも酷い。こちらが離縁を願った時に委任状をくれなかったのも酷い。

 無視するのが一番酷い。

 心変わりしたのであれば、この結婚をきちんと精算すればいいのに、領地経営する()は欲しい、妻の実家の経済力は欲しいでは、都合が良すぎではないか。


 イクセルの委任状がないので、離婚の手続きはイクセルが行うことになる。()が離婚の手続きをする時は(イクセル)の委任状が必要なのに、イクセルが手続きする時には私の委任状は必要はない。

 貴族の夫婦は夫の気持ち一つで、離婚できるのだ。


 娘時代は父親の言うことを聞き、結婚すれば夫の言うことを聞く。そうしなければ貴族に生まれた女性は生きてはいけない。


 (しがらみ)


 もしも余命のことがなければ、平民になって自分の商会で馬車馬のように働くのも良いかもしれないと思っていた。実家に出戻れば、また父の選んだところへ嫁ぐことになるだろう。

 年かさになり子が産めるか分からない私の嫁ぎ先は、既に後継ぎがいる家の後添えが精々。

 はたまた、ここまでエクルンド領を立て直した経験を国のために生かせと、また何かしらの問題を抱える領地に行かされるのか。

 いずれにせよ、私の気持ちなど関係ないのだ。


 政略でありながら、エクルンド領でゆっくりと信頼と愛情を積み重ねていったような関係は、もはや奇跡だったのかもしれない。


 浅く長くため息を吐き出し、顔を上げた。涙と一緒に、最後のドロドロとした恨みと未練みたいなものも出ていった気がする。


 ようやっとまとめた荷物は鞄二つ。自分で持てるだけにして後は処分してもらう。


 この身体がいつまで持つか分からないけれど、私のために泣いてくれた人たちの幸せと、この地の、国の、守られるべき皆がいつまでも安寧であることを最期の瞬間まで願うことを決意して、私は十五年過ごした屋敷を一人で出た。


 家令は侍女や護衛をつけてくれようとしたけれど、一歩屋敷を出た瞬間から、子爵家とは縁を切るのがケジメというものだろう。

 整列し、礼をもって見送ってくれた屋敷の皆に別れを告げて、私は町で貸し馬車を借りて実家へと向かった。


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