3話
魔獣の数は三体。
「クドウルフか」
三体の魔獣はクドウルフといい、二足歩行で移動する狼型の魔獣だ。この魔獣を討伐するのに求められる等級は六等級。
倒れている女の冒険者の装備を見て、彼女が魔法使いだろうと予想したギルザームは、説明がなくても状況は察するに容易かった。
何といっても、このクドウルフという魔獣は素早さに特化した魔獣だ。
そのため、魔法使いとの相性は最悪というのは冒険者間でもよく聞く話の一つになっている。高いレベルの魔法使いならともかく、六等級の魔法使いがソロで挑むには荷が重すぎる。ましてや三体ともなれば尚のことだ。
ただ、彼女が死んでいないことはギルザームにとって幸運なことだった。
ギルザームが倒れている冒険者が生きているのかを確認している間に、三体の魔獣は、倒れこんでいる冒険者から、ギルザームへとターゲットを変えていた。
当然、その視線をギルザームは感じ取っている。
「俺に喧嘩を売ってるつもりか。犬畜生どもが」
魔獣たちからの視線に、ギルザームは己の殺気を返した。
その殺気を受け取った魔獣たちは、すぐさま動き出してギルザームを取り囲んだ。流石は森で暮らすという魔獣だけあって周囲の岩や木々などの自然の物を利用しての立ち回りは見事なもの。
話に聞いたことはあっても、ギルザームがクドウルフと戦うのはこれが初。それだけに、少し期待感も持っていた。話に聞いていた魔獣はどれほどのものなのかと。
とっさに自分を取り囲んだ魔獣たちの動きを見て、「たしかに早いな」と感心するギルザーム。
そんな余裕そうしているギルザームに、魔獣たちはさらに殺気を強めた。
三体の魔獣は示し合わせることなく一斉に標的へと切りかかる。クドウルフの鋭利な爪による攻撃が酸方向から襲い掛かる。
周囲の木々には、クドウルフの爪の鋭利さを物語るかのようにくっきりと跡が残っている。
その攻撃を、ギルザームは軽々と躱していく。死角からの攻撃であっても、足音や植物の擦れる音によって位置を把握し、掠ることなく全ての攻撃を躱している。
これだけ余裕があってもギルザームが攻撃をしないのは、クドウルフを観察するため。初めて相対したクドウルフが他にどんなことが出来るのを純粋に楽しみにしていた。もしかしたら、自分を驚かせる凄い何かがあるかもしれないと期待感を持って。
ギルザーム自身はそのつもりはないが、そんな様子が魔獣たちの怒りを頂点にまで引き上げた。
三体の魔獣は一度攻撃の手を止めて、少し距離をとった。
「?」
魔獣たちの突然の行動に、ギルザームは疑問を持ちつつも興味を抱く。
三体の魔獣は、それぞれ両手の爪を前に出して最大の速度で一直線に標的へと向かっていった。
「なんだ、速いだけか」
がっかりしたギルザームは、垂直に跳んで攻撃を躱した。跳んだ際、頭が地面に向くように空中で体の向きを変えると、その状態で素早く二本の剣を抜いて振るった。
円を描くようにして振るった剣は三体の魔獣の首を捉えていた。
魔獣たちは躱す暇もなく、ボトっという音とともに三つの頭が地面に転がり落ちた。
ギルザームは剣を鞘に納めると、倒れてる冒険者の側に寄った。
彼女は、クドウルフにやられた傷のせいで意識を失ってしまっている。
だが、ギルザームは傷薬を持ち合わせていない。とっさに倒れている冒険者のカバンを漁って、傷薬らしきものを取り出した。その傷薬を直接傷口にかけると、徐々に傷口が塞がっていった。
かなり質の高い傷薬のようだ。
傷口は塞がっていも女はまだ目を覚まさない。
待つことになりそうだと感じたギルザームは、近くの木にもたれかかりながら眠ることにした。
静かな森の中で二人の冒険者がぐっすりと眠る。
二人ともすぐには目を覚ますことはなく、辺りも段々と明るくなっていった。
「んんっ…」
先に目を覚ましたのは、倒れていた女冒険者。
長くて赤い髪が特徴の彼女は、六等級冒険者のリズレット。彼女に残っている最後の記憶は、魔獣たちに殺されそうになり誰かに救けを求めたときの記憶まで。そこから先のことが分からない彼女だったが、周りを見て察した。彼女の近くには、自分を殺そうとしていた三体の魔獣の死骸。その近くには、眠っている見知らぬ男の人。
そういえばと、思い出したように傷口を確認した。衣服には出血した痕跡が残っているが、傷口はきれいに消えていた。
それを見てホッとするリズレット。
一息つくと、近くで眠るギルザームの側に近づいた。そこにいたのは、白髪で整った顔立ちをした男の人で。身に着けている物は多くはないが、一目で冒険者だと判断できるような恰好。リズレットは、彼が死にそうな自分を救ってくれた恩人なのだと近くで見てハッキリと理解した。
そんな彼を起こすのは申し訳ないが、どうしても感謝がしたいリズレットはあたふたしていた。
あたふたするリズレットの気配を感じ取ったのか、ギルザームの目がゆっくりと開いた。
「ヒッ⁈」
ギルザームの赤く鋭い瞳孔に、思わず驚いてしまうリズレット。
だが、一秒でも早く感謝をしたかったリズレットは、すぐに落ちつきを取り戻した。落ち着くと、丁寧に感謝の言葉を並べだす。
「あの、今回は命をすくってくださり、あり…」
「オイお前、金をよこせ」
「……へ?」
思わず漏れてしまったリズレットの呆気に取られたような声。
まさか、自分の感謝の言葉を遮って聞こえてきた言葉が恐喝まがいの言葉とは。しかも、その言葉を発したのは自分の命を救ってくれた恩人。
その瞬間、リズレットは悟った。
救けてもらう相手を間違えたかもしれないと。




