2話
「はぁ~、よかったんですか?言われた通り対応しましたけど」」
ため息交じりの女の声。声の主は、数分前まである冒険者の対応をしていた受付嬢。
ここは、冒険者協会の建物内の一室。
室内には、数分前のことを話す受付嬢と、椅子に座ってその話を静かに聞く老婆の二人。
「いいのさ。今回を含めてパーティーから五度の除名。いくら何でも多すぎるとは思わないかい」
「たしかにそうですけど、九等級にまで落とす必要はあったんですか?会長」
彼女の言う会長とは、目の前の老婆のこと指しており、ここでの会長とは何かを説明する必要もない。
この老婆こそが、冒険者協会の会長リム・カルラ。老婆と言っても、彼女を一目見て正確な年齢を言い当てあられる者は多くないだろう。それほどまでに、彼女の外見は年齢と不相応なのだ。金色みがかかった髪は、目の前に立つ受付嬢の髪に勝るとも劣らない艶があり、顔などには目立ったシワが見られない。それゆえに、実は会長の正体は魔女ではないかと噂する者がいたりいなかったり。
それに加えて、元冒険者ということもあって、彼女が纏う雰囲気が只者ではないと告げている。
目の前で話している受付嬢も内心では緊張しているが、必死に表に出さないようにしている。
「アイツが五回もパーティーを除名されることになったのは、全てアイツに問題があるからだ。だが、アイツはそんなことは理解していないし、する気もないだろう」
「ええ、それは本人を見ていれば分かります。私が気にしているのは、彼を九等級とした理由です。たしかに、彼は人間性に問題がありますが、それを加味しても彼が達成してきた依頼の量を考えれば、三等級くらいはあってもいいんじゃないでしょうか」
彼女は決して、だれか個人に肩入れするつもりはない。だからこそ、出来るだけ誰に対しても公平であろうとする意志が強い。それが、危険と隣り合わせな冒険者に対する彼女なりの礼儀のなのだろう。
ただ、その意思も全ての場で貫けるわけではない。それ故に、彼女の中でモヤモヤとしたものが拭いきれていない。
そんな彼女の気持ちを察せないほどリム・カルラは鈍くはない、
「アイツの問題行為は君が知っているものが全てじゃない。協会ですら把握していない行為は数多くあるだろう。ただ、君の言い分は理解できる。アイツは戦うことにおいては有能な人材だ。そんな人材を協会として無駄遣いするのはどうかと言いたいのだろう?」
「ええ、協会としては危険な討伐任務に挑んてくれる人が一人でも多いに越したことはありませんから」
「私もそう思うわよ。ただね、アイツは人として歪と言っていい。だからこの際、アイツを成長させるべきだと思ったわけよ」
その言葉を聞いた受付嬢は、他に何かを言うことはしなかった。決して、会長の本意は口にしたことが全てではないことを彼女は理解している。これ以上のことを聞く必要はないだろうと思った受付嬢は、話を次の話題へと移した。
そうして二人の話し合いはかれこれ一時間ほど続いた。
―協会の一室で二人が話し合いをしていた頃―
「クソっ、どこにあんだよ」
そう言いながら、ギルザームは地面を蹴った。
薬草採取の依頼で森に来たりひとだったが、森の中に入ってから既に一時間は経過していた。
一時間経過しての採取量はいまだゼロ。
今回の依頼で採取するのは、ミズミソウとユズノクラゲという二種類の植物。それらの植物をそれぞれ状態のいいものを十本ずつ持ち帰って依頼完了となる。
依頼の紙には、それぞれを探すうえで参考になる絵が描かれている。また、大半の冒険者は事前に下調べをして、それぞれ植物の特徴を理解してから依頼に臨む。そのため、この程度の依頼なら長くても一時間、早い者なら二十分ほどで達成する。
つまり、一時間が経っても一本も見つけられずに森の中を歩き回っているギルザームは、薬草採取においては九等級冒険者以下と言える。
それもそのはず、二種類とも今いる場所には生息していない。
そんなことを知らないギルザームは、それらしき植物を見つけたら絵を見て確認するのを繰り返していた。
気が付けば辺りは暗くなっていた。
近くにあった大きな木にもたれかかるようにして座ると、空を見上げた。暗くなる空を見てギルザームは思う。「俺は今、何をしてるんだ」と。
少なくとも、ギルザームのしたかったことはこんなことではない。死と隣り合わせの危険な任務、高額な報酬。そのためにも、この退屈な依頼をやりきなけらばならない。
それは頭では分かっている。だが、感情はそうはいかない。
今すぐにでも強い敵と戦いたい気持ちではあるが、強い敵を倒したところで、協会の依頼でないならば大した金にはならない。金にならないことに命をかける気はギルザームにはない。
ただ、何かをしないとこのまま森で何日も過ごす羽目になる。
それだけは避けたいギルザームは何かいい方法はないかと必死に考える。
そんな時—
「…けて」
かすかに聞こえた女の声。
情人なら聞き逃しそうなだが、五感の鋭いギルザームにはハッキリと聞こえていた。
聞こえた声から方角と距離を推測したギルザームは、すぐにその場所へ向かった。元居た場所から北東方向へと走った。
ものの数秒で着くと、そこには倒れこんでいる冒険者らしき女と、それを囲う魔獣たちがいた。
そんな光景を見てギルザームはとっさに閃いた。
「おい、生きてるのか」
ギルザームは女の方へと視線を送った。
助けが来たことに気づいた女は、顔を上げて頷いた。そして、じっと自分のことを助けに来た男を見つめる。
女は自分を助けてくれたことへの感謝を吐露した。
これが、彼女にとってギルザームとの最初で最悪の出会いとは知らずに。




