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自戒の旅路  作者: 東西南北


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1話

「もういい加減にしてくれ!これ以上の身勝手なことをするならパーティから出てってもらうぞ」


 青年は怒鳴りつけるようにして対面に座る白髪の男に言葉を放った。

 場所は多くの人が集う酒場。店内は昼間とは思えないほどの客の数で埋まっている。怒鳴る青年を含めて、彼らのほとんどが冒険者だ。

 建物の中にいることもあって、青年の言葉は店内にいる多くの人の耳に届いていた。だが、当の二人はそんなことは気にとめていない。


「好きにしろよ」


 怒鳴る青年とは対照的に、落ち着いた様子の男はスッと椅子から立ち上がった。他には何も言うことはなく男はその場から去っていった。

 その後ろ姿を見つめる青年は特に言葉をかけようとはしなかった。側に立っている仲間たちも誰一人として口を開くことはなかった。


「これで、5回目か…」


 そう口にする男は、つい先ほどクビを告げられたとは思えないテンションだ。こういった時には、怒ったり悲しんだりするものだが、今の彼はそんな感情を一切滲ませていない。

 今、男が考えているのは次に何をするか。

 とは言っても、深く考え込むほどの選択肢は男の頭にはない。

 酒場を出た流れで、男はある場所に来た。

 そこは、多くの冒険者が集う場所である冒険者協会。建物の大きさが、冒険者という存在の大きさをそのまま示していた。事実、掲示板には多くの依頼の紙が貼られており、冒険者という存在の必要性が目に見えて分かる。

 掲示板の前では、何人もの冒険者が依頼を吟味していた。

 そんな彼らのことは気にもせず、男は掲示板から一枚の依頼紙をとった。とった紙を受付にまで持って行くと、一言だけ。


「これを受ける」


 そう言って依頼紙を、バンと豪快な音をたてて差し出した。豪快な音にはピクリとすることもなく、受付をする女は受け取った依頼紙の内容を確認する。

 男が手にした依頼は討伐任務。男は何の討伐任務なのかを見ることはせず、報酬額の高さだけを見て依頼の紙を手に取った。

 無論、報酬額の高さは依頼の難易度も示している。

 そんな高難度な依頼を受けようとする男に、受付の女はハッキリと告げる。


「申し訳ありませんが、貴方の今の等級ではこの依頼を受け付けることはできません」


 等級とは冒険者としての資質を示すもの。それは単に実力だけを示すのではなく、その者の人となりを冒険者協会が総合的に評価したものである。

 等級は一から九で分類されていて、数字が低いほど等級が高い。

 受付嬢からの指摘を受けて、男は依頼紙に目を向けた。そこには、討伐する対象、報酬額のほかに必要な等級が記されている。

 男が受けようとしている依頼の必要な等級数は第三等級。

 その数字を見て、男はすんなりと納得はしていなかった。


「おい、俺は三等級はあるはずだ。さっさと手続きをしやがれ」


「いえ、今の貴方は第九等級です。三等級なのは、貴方がフィンラルさんのパーティーに所属していた時だけです」


 フィンラルとは、先程まで男が酒場で言葉を交わしていた青年のことである。

 だが、男にとってフィンラルの話は気に留めることではない。問題なのは、男がパーティーから脱退したのは、ついさっきの出来事であること。あまりにも情報が伝わるのが早すぎる。

 その思いが男の表情に出ていたのだろう。受付嬢は、男に向けて丁寧に説明を始める。


「私がパーティー脱退について知っているのは、二日前にフィンラルさんから貴方をパーティーから除名するとの申し出がありましたので、協会としてこれを受理しました」


「パーティーに所属してなくても、俺個人として三等級はあるはずだぞ。それくらいの依頼はこなしてきた」


「先程も申し上げた通り、貴方個人としての等級は九等級です。たしかに、貴方が達成してきた依頼は数多く、それだけを見れば三等級には認定されていたでしょう。しかし、貴方の器物損害や暴力沙汰などの数えきれないほどの問題行為の数々。それらを総合的に評価した結果、協会は貴方を第九等級と認定しました」

 

 受付嬢の言葉に男は何も言い返さなかった。冒険者協会が決めたことに異議を唱えても意味がないことは嫌というほど理解しているからだ。

 しかし、何もせずに帰るような気分でもない男は再び掲示板の前に立つ。

 今回はそれぞの依頼の内容をよく見て、一枚の依頼紙を手に取った。

 男は手にした紙を再び受付嬢に差し出した。


「これを受ける」


 受付嬢は受け取った紙を同じようにじっと確認していた。

 依頼の内容は薬草採取。しっかりと九等級の者でも受けられる内容だ。

 確認を終えると、受付嬢は一言だけ告げる。


「お気をつけて」


 それは任務か開始した合図でもあった。

 その一言を聞くと、男は冒険者協会を後にした。目的の場所は王国から少し離れた森の中。

 男にとっては、たかが薬草採取。特に準備をする必要などない。目的の森を目指して男は歩き出した。

 男が、すんなりと九等級の依頼を受けることにしたのは冒険者協会のシステムにある。たとえ、今は最底辺の等級でも相応の数をこなせば等級は上げられる。ましてや、最底辺の九等級は簡単に等級が上げられると言われている。その話を知っている男からすれば、受付嬢に文句を言うよりも依頼を数多くこなして直ぐに等級を上げたほうが早いと考えた。

 だが、男は肝心なことを理解していなかった。

 男が等級を上げていくには、己の人間性を改める必要があることを。

 男の名はギルザーム。

 再び一からスタートすることになった男の旅路は吉と出るか凶と出るか。その行く末は、まだ誰も知らない…。

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