表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/66

(27)いいとこ見せたいのですが、空回りしました

兄妹喧嘩はよくしたけれど、肉弾戦になったのは主に3つ上のマオ兄で、5つ上のレイ兄からはどちらかと言えば叱られるの方が多く、むしろ私を褒めてくれたりもした。

確かに私が小学校に入学した時には6年生で、この時レイ兄は空手で全国に名を馳せていたくらいだったから、記憶の中のレイ兄はいつもデカく、兄と言うより保護者の側面が強かった。

レイ兄がずっと先にいるから、私は新しい環境でも怖くなかった。

私は前十字靭帯を切った時も、既に家を出ていた身であるにも関わらず、よく私に会いに来て、励ましてくれた。


にも関わらず、私は塞ぎ込んだまま、死んで、もう会えないわけだけど。


そのことを考えると泣き出してしまいそうになるから、これまであまり思い出さないようにしてきた。

だけどこんな異世界で、厳しくも優しかったレイ兄と同じ名前の人が急に現れて、私の心は波立たずにはいられなかった。

完璧に違う人であるにも関わらず、その向こうにレイ兄の姿を重ねずにはいられなかった。


私は一つ、深呼吸をする。

そして追憶をやめ、閉じていた瞼を開ける。


目に第七小隊内務室と、そこに集められた第七の面々が映る。

今の私はアリアサマセットだ。

そう心に言い聞かせ、皆に「商業区爆破事件の調査命令が出たこと」と「第四小隊と合同で任務に取り掛かること」を発表した。

皆からは「おお第四と!」「ハミルトン小隊長の隊か…!」と好感触な返答が返ってきた。どうやらレイハミルトン小隊長は、私だけではなく他の小隊隊員からも信頼に厚いようだ。

私は自分事のように嬉しくなった。


「ハミルトン小隊長は、我々が先の祭の件で、街に明るいことを買ってくださっている!光栄なことだ!早速皆で街へ…」

「いやいやいや、ちょっと待ってください!」


そう息巻く私を止めたのは、やはりと言うべきかイーサンだった。


「我々にも、既に通常任務があります!今だ重要な箇所には割り振られていませんが……全員で出払ってしまうのはどうかと…」


私は「あ、そうか……」は盛り上がった肩を落とし、赤面して椅子に座った。

千秋祭にて職務復帰した第七小隊には、祭後『通常任務』が与えられていた。

やることはいわゆる『王宮警備員』の仕事で、王宮内外の巡回や、出入りする人や物資にチェック、一部貴族屋敷区画の警備である。加えて、罹災した街の復旧作業などもあり、それらは私がぶっ倒れていた間からすでにイーサン主導で始まっていたようだ。

もうイーサンが小隊長やればよくね?とも思うが、現場はさておき、小隊全体の判断とケツを持つのが私の仕事だ。

私は腕を組む。


「となれば、この特例にはそう多くの隊員は使えないわけか」

「ですがもちろん小隊長自身は、調査にかかるべきだと思います。なので、小隊長に加え、1分隊か、もしくはその半数を割くのが良いかと」


私は「うーん…第四側はどうだかわからんが」と頭をかいた。


「分隊の半分くらいにしようか。皆の負担も避けたいしな。だか可能であればメンバーはローテーションしてほしい」

「調査隊としては特選はしない、と言うことですか?」

「うん。この事件については、色んな視点が欲しいんだ」


「……そんな気がする」と私は独り言のようにそう呟いた。

すると私の言語化できない意図を汲み取ってくれたのか、イーサンは「それならばこうしましょう」と体を前のめりにする。


「調査1日につき3人、内1人は必ず分隊長をつけます。次の日は別分隊に同じ様にし、回していきます」

「うむ。だが何で必ず分隊長を入れるんだ?」

「情報を小隊長だけではなく、分隊長にも集積させるためです」


私は「おお確かに!」とイーサンを指差した。


「私だけだったら、100パー忘れそうだ!」

「い、いや違…!小隊長を貶したいわけではなくてですね…!」


イーサンは慌てたように咳払いをし、メガネの位置を直した。


「実地調査時だけでなく、情報分析時も多角的視点は必要でしょう。それを毎回小隊全員集めずとも、小隊長と各分隊長間で完結させるためです」

「なるほど、簡潔で判断しやすいかもしれない。……みんな!」


私は他の面々に顔を向け、問いかけた。


「私はイーサンの案がいいと思うが、みんなはどうだろうか?」


すると、「問題ないと思います!」「流石バーナード分隊長!」「ずっと警備してるのも息詰まるしな〜」という声が次々上がった。イーサンは恐縮し、その背中をアンドリューがバンバン叩いている。この小隊は直近トラブル続きだった影響か、ほんの数日の平穏な日常でさえ持て余してしまっているようだった。


「よしッ!ではそれでいこう。君たち、街での調査が楽しみだからって、通常任務の手は抜くなよ〜!」


と私が少しおどけて見せると、「ずっと街に出れる小隊長には言われたくないですね〜」というツッコミが入った。

私は「言うじゃないか。その通りだ」と笑う。


第七小隊がこうなのは、実のところ半分くらいは私のせいなのかもしれない。


「諸君、今一度気を締めていこう」


と、言った具合に小隊内での話はまとまり、通常任務との兼ね合いを見て、調査隊メンバーのローテーションも決まった。



そしていよいよ、第四小隊と合同の、連続爆破事件調査初日を迎える。



初日はピーターテイラー分隊長と2人の隊員、そして今回は何故か付いてきたジョンを加えた、計5人で出ることになった(ジョンに来た理由を問いただしたが「お前の従士だからだろ」以上の答えは得られなかった。肝心の時にはいないくせに)。

近衛騎士兵舎の前でレイハミルトン小隊長らとの合流を待つ間、私は緊張を隠せずにいた。イーサン案に5000%賛成はしていたのにも関わらず、目線はあちこちへと泳ぎ、この人数で人選で、そもそここの方法で合っているのか、不安になっていた。

なのでレイハミルトン小隊長が6人ほどで現れた時は、心底ホッとしてしまった。

しかしよく考えれば、4〜6人はそれこそ分隊の人数なので妥当であり、私は数ミリでもイーサンを疑った自分が、恥ずかしくなった。


「さて、どこから調査を始めようか。爆発は商業区全体で起こったと聞くが」


というレイハミルトン小隊長に、私は「はいッ」と手を挙げた。


「こちらにいるピーターテイラーはメインストリートにある仕立て屋の倅であり、当日もその近辺に配備されていました!」


ピーターは一歩前に出ると、肩をいからせ、緊張した声色で言う。


「せ、僭越ながら、本日は私が案内させていただきます!」


すると、レイハミルトン小隊長は「それは助かる!」と嬉しそうな顔をすると、真剣な目をして続けた。


「だがテイラー君、緊張しなくてもいい。身分がどうであれ、今君は俺より街に詳しい。忌憚ない意見を言ってくれ。代わりに俺は質問ばかりしてしまうだろうがな!」


そう言って朗らかに笑うレイハミルトン小隊長に、ピーターの強張りは多少緩和されたようで「はいッ!」と勇んだ返事をした。

それを見た私も、何となく頬を緩めていると、横からジョンに「なにか今日お前おかしくないか?」と口を出されたので、「るせえ」と、とりあえず肩を殴っておいた。

……いずれにせよ。私たちはそれで一丸となり、兵舎を出て、商業区へと向かった。



商業区で爆発が起きたのは4カ所。内1カ所は火事で潰れてしまった(もとい潰した)ので、他の3カ所を見て回ろうと言うことになった。

とは言え、すでに危ない瓦礫などは撤去されていたため、半壊した建物のみを残した現場は、意外と綺麗でスッキリしていた。

「こ、これで何かわかりますかね…?」と私は不安を漏らすと、レイハミルトン小隊長は「完璧ではないが、十分だと思うぞ」と言って、建物へと入っていった。


「壊れ方から言って、爆弾は建物のかなり内部から爆発したのだろう。だが全壊はしないよう、むしろ柱などは避けている……結果を知っているから言えることだが、爆発は破壊よりもアピールを目的としていそうだな」

「アピール、と言いますと…?」

「爆発が起きたのは王族のパレードの日だ。人々の目を、パレードではなく街に向けたかったのだろう……本懐のためにな」


私は小隊長会議での、ジョフリーの意見を思い出す。


「つまりやはりは王族……体制への攻撃だと……?」


レイハミルトン小隊長は「……ううむ」と曖昧な返事をしつつ、ピーターの方を向いた。


「ここは千秋祭当日、無人であったというがそれは本当だろうか?」


するとピーターはピシッと体とレイハミルトン小隊長へと向けて、答えた。


「はッ、ここは通常洋菓子店ですが、千秋祭時は外に屋台を出しており、皆そちらに出払っていたようです!」


加えて他の者からも「夕刻には店舗に戻っていましたが、昼間は無人でした」という報告を受ける。

……そういえば、火事になった建物も無人であったとイーサンが言っていた気がする。その事をレイハミルトン小隊長に話と、彼は「なるほど」と腕を組んだ。


「今回死者が出なかったのは、爆発のほとんどが無人の建物内で起きた故、だからだろうか?まだ全てを見て回ったわけではないから、断定はできないが……」

「それであればッ、他の現場にも行きましょうか!」


そう勇んで腕を振り上げる私を、レイハミルトン小隊長は軽く宥めるように「はは、そう急くな。サマセット君」と言って、組んだ腕を解いた。


「来たばかりだ。まだ考えることはあるだろう……例えば、何故、無人の建物ばかりで爆発が起きたか」

「それは……」


今度は私が腕を組んで、首を傾げる。


「犯人は……街の人は傷つけたくなかった?とか……」


すると、レイハミルトン小隊長は「……ほう」と目を少し見開く。


「何故、そう思う?」

「ええ…?ううん……犯人の目的はあくまで王族だから、一般人には……混乱はさせても、できるだけ、危害は与えたくなかったから…でしょうか……」


レイハミルトン小隊長は黙っていた。

私は焦って「も、もちろん、これを仮にクーデターとするなら、ですがッ!」と付け加えたが、その声は青空へと無情にも消え去り、代わりにレイハミルトン小隊長に低く柔らかい声が返ってきた。


「……君は、向こう側の心情を考えるのだな」

「エッ!?す、すいません、ただ思いついたことを言っただけで、深い意味は……」

「いや、少し驚いただけだ」


レイハミルトン小隊長は微笑む。


「……俺は単純に、犯人は千秋祭時の街の状況をよく知っているから、だと思った。無人の場所や時間を狙えるわけだからな」

「あ、確かに……」


私は何を言っているのだろう、と、下を向いた。心臓がぎゅうと縮んで重くなり、足元が少しだけぐらついた。

レイハミルトン小隊長は、私の肩に手を置くと「恥じることではない」と本当に優しい口調で言ってくれたが、私はその顔を見上げることはできなかった。


それからレイハミルトン小隊長は、ピーターらと街の状況を知る方法や、知っているとしたらどう言う人物かについて話し合っていた。私が輪に入らずとも、ピーターはしっかりと受け答えをしており、それは本来誇らしい光景であったはずなのに、今はなんだか、自分の無力感の方が大きく、彼らの存在が遠くに感じ、上手く事を把握することができなかった。

情けない。私、レイ兄に似ている人の前で、無意識にカッコつけようとして、空回ってる。


この後、メインストリートの他現場を一通り周り、やはりどこも爆発時は無人だったことから『犯人は街の状況に精通している』説が強くなったところで、この日の調査を終えた。

短くなった日が暮れる前に兵舎へと戻り、正面のところでレイハミルトン小隊長と第四の面々と別れた。

レイハミルトン小隊長と随分話し合った影響か、ピーターは夕方だというのにまだやる気に満ち溢れており、「早速今日のことを調書にまとめましょう!」と提案してくれたが、「すまない、少し休む」と言って、調書作成はピーターに丸投げし、私は自室に戻ってきてしまった。


そしてベッドに倒れ込む。

なんて、無力なのだろう、私は。


「力が欲しい…」


私はベッドのシーツを固く握り締める。


「うううう、ぢがらがほじいよ〜〜〜〜!!!!」


そしてカバッと起き上がり、一緒に戻ってきたジョンの方を向いた。


「なんか、なんかないかなあ!ジョン〜〜〜〜!!」


ジョンは私の奇行に動揺することなく、着ていたローブを脱ぐと、椅子に座った。


「今回の様なケースで、お前の様な獣が抜きん出るのは難しいだろうな」

「ぞんなごとは、わがっでるんだよ〜〜〜!!」


私はまた、ベッドにうずくまる。

そんなことは、わかっているのだ。

私はいつも考えるよりも先に行動してきたから、今回みたいにじっと留まって、思考を巡らすことには、きっと本当に向いていないのだ。

そんな私には協力者は得られても、先導することなんて無理なのだ。


「ぢがらがほじいよう……」


しかもあの、レイハミルトン小隊長相手にそんなこと。

せめてイーサンの目みたいに、魔術でなんかこう上手く……ん?魔術?


「ジョン!!!!」


私はベッドから飛び起きる。


「なんか魔術でなんかできないかなあ!?こう、必殺技みたいなさあ!」


すでに本読みの構えに入っていたジョンは、眉根を寄せて顔を上げた。


「ひっさつ技…?なんだそれは」

「読んで字の如く!『必ず殺す技』!!」

「そんなものはない」

「もちろん『殺す』は比喩!なんかこう、大技みたいなもんだよ!めちゃ効果のあるさ!」


すると、ジョンは更に顔を顰め、開きかけていた本を閉じた。


「……仮に魔術にその『必殺技』とやらがあるとして、魔術の外枠に触れた程度のお前が、それを使えると思うのか?お前は前世において、武術の修行をしていた身でありながら、そんなことが起きると、本当に思うのか?」


なかった。


そんなうまい話はない。

そんなことは、魂に染みて、わかっていた。


私ががっくりと肩を落として、そのまま、ぼすん、と尻を沈めた。

ジョンはため息を吐き、少し声のトーンを下げて、諭す様に言った。


「何事も基礎がなければ成り立たない。わかるだろう、アリ。お前は魔術に長けた『アリア』様の体にはいるが、「意志と感情が魔術」と定義したお前自身の魂には、まだ土台がない。だから………………いや」


ジョンは急に押し黙って、何か考え始める。


「……………お前だからこそできる、『大技』があるかもしれない………」

「マジで!?!?!!?」


一筋の希望を取り戻した私は、それに縋り付く様に光速で顔を上げた。

ジョンも険しい顔は、それがまだ仮説に過ぎないことを示していたが、それでも私はその説を聞きたかった。

ジョンは口を開いた。


「先に言っておくが、お前の不足を補うものではないぞ。使い様によってはあるいは、程度のものだ」

「それでもいい!聞かせて!」


なんでもいい。

今はなんでもいいから、今以上の力が欲しかった。

靴底をガンガン床に打ち付ける私に降参したのか、ジョンはついにその言葉を言った。


「デュアルだ」





一応ブルスカアカウントがありまして、そちらで更新ポストなどしてます

https://t.co/YrR7qkmi8z

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ