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19/66

(19)例年通りになりそうでしたが、見栄とハッタリで何とかしました

ランカスター王家の直参たる七つの家、その一角たるラッセル家は子沢山の家系で、ラッセル家本家の子息子女だけでも6人いるほど。


「だからオレの家……バーナード家のような支流も生まれやすいのですが」


本家の末子、四男・エドワードラッセルは去年成人したばかりだった。まあ何かはやらせようと、武芸の覚えめでたかったのもあり、ラッセル家私設兵団の副統轄をさせることにした。


「のですが、内部で揉め事があった際、彼が大暴れをしたらしくてですね……止めにきた統轄役かつ三男のトーマスまで巻き込まれて、前歯が折れるほどの重傷を……」


と言う家庭内のいざこざがあった後、私設兵団に戻すわけにはいかず、かと言ってラッセル家の領地経営を任せるには若すぎる……結局家の中で飼い慣らし状態にするのか?と暗雲立ち込めていた中、一筋の光明かのようにジョージラッセルの近衛騎士引退の話が舞い込んできた。


「それで、近衛騎士団に入れることで、尊厳は保ちつつ、騎士団内で規律を学びつつ、部下への責任感も身につけつつ……ということで、エドワードラッセルは第六小隊の小隊長になったようです」



あの日、

私たちはエドワードラッセルによる暴行現場をなんとか丸く収め、しかしそれ以上は何も話さずすごすご帰ってきてしまった。あれはノーガードで突っ込むにはマズいものの類だ。流石の私でもそれくらいはわかる。

そしてその翌日の今日、私とイーサンは再度執務室に集まり、あの時廊下で大暴力を振るっていた男の子について、話していた(ジョンは「時期」がどうのこうの言って何処かをふらつくようで別行動)。イーサンはあの日以降大急ぎで現状確認をしてくれたらしく、だが内容が内容なだけに血の気が引いたようだった。


「ラッセル本家の四男の噂は前々から聞いていましたが、まさか騎士団に入るとは……」


私は天を仰いだ。


「いや詳しいね、イーサン」


イーサンはズレたメガネを直す。


「バーナード家はラッセル家の従僕ですからね、繋がりは強いですし、オレも元来はジョージ様への小隊配属の目的で騎士団に入りましたし……」


その言葉に「ほお?」と私が目線だけ向けると、イーサンは「いや、いや!い、今は第七小隊所属である誇りを公言できますよ?!」慌てて弁明し、またメガネをずらした。


「そうですよね……第七小隊なら、オレだって小隊長になれるとか、息巻いてた男ですものね…オレは……」

「ははは、そう肩を落とすなよ。なんならいつだってこの椅子を狙ってもいいんだぞ?」


私は笑いながら執務室の革張り椅子をぽんぽんと叩く。イーサンは眼鏡を戻して「しませんよ」と言った。


「しかしまあ……そのようなわけで、ある種四男坊の教育を騎士団に丸投げされたわけです」

「しかも小隊長職でだろ〜〜どうなってんだ、問題児よォ〜」

「ラッセル家は七家の1つですから、多少は……」


それは……

『アリア』も言っていたことを思い出す。自分が『サマセット』だから、小隊長になれた。『アリア』はそれに、常々恐縮していたが、あのエドワードという奴はそういう心を持ち合わせているとは思えない。


「てか何も考えてなさそうなんだよな〜〜早速部下?殴ってるしさ〜〜〜」

「それは………………小隊長も同じ………では……………」

「おっと、言うねイーサン君!」


私は体を元に戻し、イーサンを指差す。


「だが私は学んだ!先走って喧嘩をすると、後々ひじょ〜〜〜〜〜〜に面倒なことになる!後悔はまっったくしていないが、その分ほんと〜〜〜に大変な目にもあった!やはり『大いなる力には大いなる責任が伴う』と言うことだな!」


と、私は例のポーズをしてみたが、イーサンは「はあ」と曖昧な返事をするまでだった。そうか、このネタはこのバースでは通じないのか……と私はとても残念に思った。私は一つ咳払いをする。


「……が、言わんとしたいことはそう言うことだ。今や私も多少の力を持ち、それに対する責務もある。王都の守護者として、そこにはあのクソガ……ンン、第六小隊小隊長と上手くやることも含まれるだろう」


イーサンは唾を飲み込み、背筋を正した。


「年に一度の千秋祭、新第七小隊のデビュー戦としては十分な舞台ですね」

「はは、言うじゃないか、イーサン君!」


私は椅子から立ち上がった。


「よぉーし、仕切り直しだ!第六小隊に乗り込むぞ。今度は可愛い分隊長たちも提げてな」




第六小隊内務室。


「商業区北方面東方面といったら、それはもう商業区の中心部だ。つまり我々第七小隊および第六小隊は商業区の治安を任されたに等しい。イーサン」


私の呼びかけに反応し、イーサンは第七小隊と第六小隊の面々が分かれて座る長机の上に、王都の地図を広げた。私は丸まった地図の中に手を入れ、払うようにして広げる。

……意外だったのは、第六小隊小隊長エドワードラッセルがすんなりと話し合いに応じてくれたこと、そして彼が引き連れてきた数名の部下たちは皆エドワードに従順かつ統制が取れていたことだった。いや、私はこの現象を知っている。前世でも何度も見てきた、いついかなるグループにおいても発生しうる、弾圧と粛清による恐怖政治だ。

私は先日文字通り顔を潰されていた者がここにいないのを確認しながら続けた。


「王宮の真北に位置する、レッドローズサーカス。まずはここを要所とし、サーカスから伸びる4本の大通りを巡回警備するのが妥当だと思う。ただこの周りだけだと東の……細民街方面は手薄になってしまう。なので、サーカス周囲を含めてだが、第六小隊と協力し、手分けして商業区全域を漏れなくカバーしたい……と言うのがこちらの考えだが、そちらのご意見をいただけるだろうか」


私はエドワードに顔を向ける。

寸分の狂いもなく背筋を伸ばして着席する部下達とは対照的に、彼だけが居住まいを崩して座っているのが異様であった。エドワードはへらりと笑うと、「ご意見〜」と手を上げた。


「戦力分散は愚策だと思いま〜す」


戦力、分散……愚策か……?と思っていると、イーサンが割って入ってきてくれる。


「それは…戦術論の話でしょう。今回は警備が主目的なので、愚策とも言えないと思いますかな」

「え〜そうかなあ」


エドワードは前のめりになると、楽しそうに地図の、レッドサーカスの部分に指を押し付けた。


「おれ的にはここさえ護っとけばいいと思うけど?付け加えるなら、ここから王宮方面への直通路と西側へに通路かな〜だってほら、千秋祭の中日には王族のパレードがあるわけじゃん?」


それから王宮からレッドローズサーカスを通り、東の神殿方面へと指で線を引く。


「神殿周辺は別小隊が担当してるから、おれたちの仕事はそこまで王族が安全に通過できること、でしょ?なら、サーカスを中心にこのルートを護っとくのが、妥当、だと思うけど、第七小隊のご意見は?」


私は奥歯を噛み締めた。


「……確かに、ラッセル小隊長の言い分は」

「あはは、エドって呼んでって言ったじゃん」

「エドワードラッセル!小隊長の!言い分は的を得ているが、それでは市井でトラブルがあった場合に対応できなくなる。千秋祭には毎年沢山の人が押し寄せるが故に、問題も起きやすいと聞くが、第六小隊のご意見は!」

「ほっとけば?」

「…………は?」


エドワードは「そもそもさ」と地図から指を離した。


「この議論って『起きうる危機』に対する文字通り机上の空論なワケ。まあ任務の性質上そうするしかないにしても、それに怯えてすぎて兵を分散するのは愚策ってのがおれの意見、ね?」


と、空中で指をくるくる回しながら、エドワードは続ける。


「じゃあさ、仮に商業区全般で満遍なく問題が起きたとしてさ、その中で一番に護るべきはどこ?決まってんじゃん、王族でしょ。俺たち近衛騎士だよ?千秋祭は王族の祭りだよ?そりゃ、貧民同士での問題くらい毎年起きてるだろうけど、でも毎年千秋祭は『問題なく』終わってんじゃん。なら例年通りでよくねって話。はは、おれ新任だからよく知らんけど」


いや、私もこの世界の1年生だから知らんが…!と言い返す言葉を欠いて、最初にゾーンディフェンス案を提示したイーサンを見た。しかしイーサンはいつものようには手助けに入れず、ただ居心地の悪そうな顔をしていた。私は、「ああ、例年『は』そうなんだな」と胸が締め付けられた。

そうか、すまんなイーサン、そのアイディアの源泉はきっと、私だ。


「千秋祭は!」


私はエドワードに向き直る。


「今や民の祭り、民の楽しみだ!ならばその『問題なく』の中には、市井の民の安全も入っている!ならばそれを護るにが、我々の勤めではないのか」


エドワードは頬杖ついて、言った。


「理想論?」

「違う、未検証事項だ」

「あはは、詭弁じゃん。頭硬いんじゃないの、アリアちゃん。物事はもっと単純だよ」

「は…単純……?」


エドワードは頬杖を納め、ぐいとテーブルを乗り上げて、私に顔を近づけてきた。


「力があるか、ないか。それだけ。護るも、護られるも、ね。はは、俺たちにとっては当たり前だよね?アリアサマセットちゃん」

「それは……」


そうなのか…?

実際『アリアサマセット』がそう、なってしまったように、実際に私がそう、してきたように。


私は地図を思いっきり叩き、その場に立ち上がった。


「結構!」


音に驚いて目を見開くエドワードを私は見下ろし、地図を握りしめながら大見栄を切った。


「ならば商業区ほぼ全域の守護は、この第七小隊が承ろう!!第六小隊はそのちっさい所をチマチマ護っていればよろしい!!」

「……何それ」


エドワードの片眉がぴくりと脈打つ。


「どう考えてもキャパ溢れてるでしょ、できんの?」

「できる!!!!」


そして私は横に並んで座る、第七小隊の分隊長たちに言う。


「君たち!!できるよねえ!!!!!」

「できます!!!!」


と間髪入れずに声を張り上げたのは、元鍛冶屋のアンドリュースミスだった。それに釣られるようにして、ピーターテイラーとパトリシアビーチャムも「できます!」「できますわ!」と言い放った。


そうだ、ここにはいないアイツが言っていたじゃないか。

力がある、ないも重要だ。

だがもっと重要なのは、力をどう使うかだ。


「と、言うことだ。はは、実に豪胆だ。我が第七小隊の分隊長たちは、な」


そして、その力には責任が伴う。


「さて、そうであれば我々お暇させていただこうか。これから我々『は』忙しくなるからな。失礼した!!」


そう言い切ると、私は分隊長たちに「行こうか」と声をかけ、第六小隊内務室の出口へと向かった。イーサンは慌てて、私がくしゃくしゃにした地図を回収し、他の者たちもガタガタと音を立てて、席を立ち上がり始めた。


正直、

あ〜〜〜またやっちまったな〜〜〜〜とも思いはしたが、やはり後悔はしていなかった。どうしてもあの考えには、承服できなかった。そしてまた、やっとまったそのツケを払う羽目にはなるのだが、今の私には、このような私の後ろをついてきてくれる仲間がいる!

そう、私の後ろには、後ろから、後ろ。


殺気。


私は咄嗟に右側にスライドし、頬のすぐ脇ににゅっと飛び出してきた男の腕を横目で見た。

これは、流していいやつだ。

私はその腕を掴むと、体をさらにスライドさせつつ、その腕が元々進もうとしていた方向へと、ただ少し意志を込めて引っ張ってやった。その腕に引っ付いた上半身、つられた下半身が、導いた方向へと吹っ飛んでいく。

そしてバキャーン!と派手な音を立てて、エドワードラッセルは頭から壁に突っ込んでいった。


おお、対人でもちゃんと流れをコントロールできた…!まあ素手でだけど、咄嗟だったし……何にせよ修行の効果が出てるぜ……!


「………狡いッッ!!!」


自分の中だけで感極まっている私を他所に、エドワードはすでに立ち上がり、私を指差して睨みつけていた。


「狡いぞ!アリアサマセット!!向かい合えよ!!!」


私はこれ見よがしにため息をついた。


「奇襲かけといて狡いも何もあるかクソガキが。言わなかったか?我々は忙しいんだ……いや、すまない、こう言ったほうがいいな」


私はぐいとエドワードラッセルに向かって一歩踏み込んで、言った。


「雑魚に構っている時間はない」


その後もエドワードは私に向かって何かを言っていたが、聞こえないふりで我が第七小隊の元へと、分隊長たちと共に晴れやかな気持ちで足を進めた。

最高の気分だね。ガキ負かすのはね、ははは!

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