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(17)一応選抜試験ですが、自分の修行もさせてもらいます

イーサンと現存する第七部隊のメンバーの大いなる働きよって、芋洗い状態になっていた志願者は整理されて、素性調査をして、まとめて、審査して、なんとか32人ほどまでに絞ることができた。

しかしそれ以上はどうも甲乙つけ難い、ということで、翌21日に第二審査行う!とし、今日のところは帰ってもらうことにした。

イーサンらはその日のうちに、残った32人の素性情報をまとめ、私に渡してくれた。軽く目を通してみると、私が口酸っぱく言ったのもあるが、身分や性別がいい感じにばらけていた。

「ここからは……やはり小隊長自身に…見ていただいた方が……よいと思います……」とイーサンは疲れ切った顔で言った。ひとまず今すぐ寝落ちしそうなイーサンは無理やり彼の宿舎に戻し、私は32枚の紙を抱えて、自分の部屋へと戻った。


「とはいえ、どう選べばいいんだ……」


そして灯りの近くで頭を抱えた。


「お前が好きなように隊を組むのだろ。好きなように選べばいいじゃないか」


すでに部屋にいて、灯りの元で本を読んでいた。

私はジョンを見上げる。


「それはそうなんだけど……ただ優秀な人なら性別身分問わずにしたかっただけで……」

「じゃあその『優秀』とやらはどう言う者だ」

「え、え〜…?」


私は腕を組んで、天井を見上げる。


「私より強い、とか……?」


ジョンは嘆息を吐く。


「獣かお前は」

「うるせえ、ぼけかす」

「だがイーサンはお前よりはおそらく強くない。奴は劣等か?」

「それは違う!」


私は体を前のめりにした。


「イーサンは違うところで私よりもできる!」

「なら単純に、ここはお前よりできる部分がある者を選べばいい」

「ぬう………わかるけど、それを見抜くのってむずくない?」


ジョンは少し黙った後、本を閉じてから言った。


「アリ、お前、志願者1人1人と戦え」

「戦え?!なにゆえ?!」

「1つは相手を知るためだ。ここは騎士団、姫様が仰られていた通り暴力装置だ。重要なのは相手の、戦闘上の性格。それをお前自身が受けて見抜け」


それは……正直、わかる。

対面することで、相手の癖や性格がわかることは、ある…!私はそれを、前世で何度も経験してきた。

私は俯き、顎に手を当てる。

確かに勝ち負けを度外視しても、この人にはこれは勝てない!と思うことはあった!だからそれを元に、対策を立てるわけで……ん?

私は顔を上げた。


「1つは、って言った?まだ何か理由があるん?」

「ある」

「そ、それは…?」

「お前自身の、修行だ」









「ということで」


翌日、選ばれた32人は再度兵舎中庭に集結した。

私はその1クラス分の人数の前に立って言った。


「今日は皆さんに、ちょっと私と戦ってもらいます」


どよめき。

志願者たちはお互いの顔を見合わせてながら、「どういうこと?」「あのエアリアルと?」と囁きあっている。

それらを静止すべく、私は手に持っていた木剣の鋒を、地面に突き刺した。


「もちろん模擬試合です!木剣を使います!私が3回!あなた達に剣を当てる前に!1度でも!私に剣を当てられたら、合格とします!!定員は16名です!!」

「あ、あの…」


志願者の1人がおずおずと手を上げる。


「も、もし誰も、ア…サマセット様から有効打撃を取れなかったとしたら……」

「もう一周やります!」


すると他の、今度はやや自信がありそうな者が言った。


「もし、16人以上が有効打撃を取れたらどうなりますか?」

「その者たちの中で、もう一周やります!」


私は喉を鳴らし、もう一度剣を地面に刺して、ここ一番の大声を出した。


「16人!!これに足らず、これを超えない数になるまで、何周でも、何度でも!!皆さんには私と戦ってもらいます!!」


…で、いいんだな?と私は少し遠くからこちらを見ているジョンに目線を送った。

ジョンは何か言う代わりに微かに頷いた。



ジョン師範代、曰く。

「お前は剣での戦いに慣れて無さすぎる。百歩譲って常人以上かもしれないが、他の近衛騎士、ましてはあのジョフリータウンシェンドには遠くを及ばない。『アリア』様のように!魔術を駆使した剣術を磨け!そのためには……」





「強制的にでも場数を増やせ、ってな……」


正直、32戦もしかしたら×αをするのは、相当にキツイ。

仮に私が、即座に3タテできたしても、それがいつまで続けられるかはわからないし、やればやるほど、審査自体は終わらなくなる。かと言って簡単に私が負けてしまっては、小隊長の名折れだ。

はは、こりゃ心身ともに削られる修行だな…と軽くジョンを恨みつつも、木剣を持つ私の手は震えていた。ははは。



そうして、模擬戦が始まった。



1人目、マークフィッシャー。面合わせの際に、審判役のイーサンが名前を呼んでくれるので、32枚の紙と照合が取れるようになっている。……と言っても、概要くらいしか覚えていないのだが、確か漁師の息子だ。この世界の地理にまだ詳しくないので、この近くに海があるのかは知らないが、その顔はよく焼けていた。そしてやはり家業は力仕事なのだろう。筋肉の盛り上がった腕から、袈裟斬りが繰り出される。

私はそれを、受け止めた。

ガンッ!という木と木がぶつかる鈍い音。そして、模擬戦見ていたギャラリーから小さく「え…?」声が上がった。

その人は多分、私が飛んで避けると思ったのだろう。

先の決闘裁判で、あれだけ避けに避けて、しまいにはエアリアルだなんて渾名も流布しちゃって、きっと私はひらひらと、まるでピーターパンのティンカーベルのように、飛び回って戦うと、そう思われていたのだろう。

だが、ここは泥臭く行く。

そういう約束なのだ。


ジョン師範代、曰く。

「なるべく避けるな。受け止めろ。どこをどう使えば、自分より強い力に耐えうるかを学べ」


いつか、ジョンが私の蹴りを平然と受け止めたように。

どこに力を、感情を意志を、込めるか瞬間的に判断する!

重要なのは、剣を支える腕、それ以上に、自身を支える足腰!

そして衝撃を逃した足を動かすと、体を横にスライドさせて、前がかりになるマークフィッシャーの力を受け流した。「あ」と顔のマーク。私はそれを尻目に、剣を持ち直しつつ、彼の肩に振り下ろした。


「アリアサマセット小隊長!1ポイント」


小気味のいいイーサンの声で宣誓。「おお…」と静かに湧くギャラリーの中、私は肺で固まった息をゆっくり吐き出した。


師範代、曰く。

「打撃を受け流すなら相手の、弾き返すなら相手と自分両方の流れを考えろ。これらを繰り返し、自在に操れ。それが読心術であり、身体強化術だ」


いや読心術は初耳だが、いわばこれまで幾度か経験してきた、殺気を読む、読まれる、はその一つなのだろう。

しかし……

私はもう一度深呼吸をする。


「疲れるな、こりゃ」


曰く、

「あと、あと先考えず足を出すな。剣の訓練にならん」


はいはい師範代様、と内なるジョンに悪態をつくと、私は次のセットに向けて、剣を構え直した。


「では、2セット目、はじめ!」







結果的に、

模擬戦1周目では2人の合格者が出た。2周目では1人。3周目は0人だったが、4周目にもなると、流石に疲れが出てきてしまい、一気に4人合格者が出ると、3人、4人、2人と7周をして、ようやく選抜16人が決定した。


「以上を持って、第七小隊入隊試験を終了とする!」


すでに太陽は地上に近づき、夕日に暮れる中、イーサンが高らかに宣言する。

勝ち抜け方式ではあったので、周回人数が減っていっていたはものの、私は今日、一体何戦したんだ…?だめだ、計算できない。頭も体もわやわやになっていて、これくらい平気ですよ?我小隊長ぞ、という顔して立っているのが精一杯だった。キツすぎるだろこの修行。おえ、久しぶりにゲロとか吐きそう。

それを見抜いてかイーサンが心配そうな顔で「小隊長、大丈夫ですか…?」と手を差し伸べてきた。しかし私は手をかざしてこれを断り、今日集まってくれた志願者たちに向けて、今出せる精一杯の声で伝えた。


「みんな今日はありがとう!!私も大変勉強になった!!」


私はすでに集まってグループになっていた合格者たちに向けて話す。


「まずは合格した君たち。おめでとう。そして、まあこんな、あんまり剣が上手くない小隊長だけど、これからよろしく!私を存分に助けてくれ!」


それから、落選して悔しそうな顔をしている者たちに告ぐ。


「今回選考から漏れてしまった君たち。見ての通り私はボロボロだ。君たちも十二分に強かった。できればこれからも、剣術に励んでほしい。貴族階級の人たちは是非とも他部隊に応募してみてほしいし、平民の人たちも……諦めないでいてほしい」


そして、兵舎中庭からも見える王宮を見て、私は言った。


「そう遠くない未来、ヴァージンクイーンがきっとこの国を変えてくれる」


それは、聞く者が聞けば不敬にさえあたるであろう、ある種の予言だった。

しかしその場にいる者は誰1人私を咎めることはせず、ただ私が志す方向を、皆一様に見ていたような気がする。

少なくとも私でさえ、この小さな輪の中でだけだができたことを、あの傲岸不遜でありながら公明正大を両立する人が、叶えられないはずがない。

それをここにいる人たちは、信じてくれた気がする。


「まあでも、私が騎士長になった暁には騎士団自体は……」


とまで口にしたところで、あなや私は糸がきれたように、地面に崩れおち、胃から迫り上がってくる酸を「オゲェェ」と、地面の上に吐き出した。

「しょ、小隊長?!?」とイーサンや他の部隊員が大焦りで、私の元へと駆け寄ってくる。

しまらねえ、なんてしまらねえラストだ、と思いながらも、私はかろうじて残存するエネルギーで、握りこぶしを作った。


どうだこれで、ようやく私も、小隊長だ。

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