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(13)楽しい復讐の時間

1対多人数の喧嘩で勝つ、と言うのは正直あまり現実的ではない。

が、できるだけ勝算を上げる方法はいくらかある。


①狭い場所で戦う

古今東西いかなる戦いにおいても、囲まれたら終わると考えていい。だからなるべく背後取られない、閉鎖的な場所を選ぶのがいい


②一度に対処する人数を絞る

理想は各個撃破だ。かのボクシングチャンピオンも、街でチンピラ複数と戦った時は1人ずつぶちのめして行ったらしい


この2点において、内務室は都合が良かった。長いデスクが多いため、擬似的な路地ができるのだ。もちろんデスクを超えてこられたら終わりなのだが、そうなるまでにできることはある。


③自分を弱く見せる

相手の油断を誘うためだ。これは簡単だ。『アリア』は騎士なので、手ぶらでいればいい。そして私は、それで十分だ。


④…




ガゴォという鈍い音と共に、勢いをつけた私の回転蹴りが、1人の兵士のこめかみに綺麗に入る。いわゆるテンプルで、ここを叩くと脳震盪を起こしやすい。

そして狙い通り、その彼らの中で一番体格のいい兵士は、そのまま床に倒れると、動かなくなった。


「④!初手で一番強そうな奴をやれ!」


私は両手を構えて、ステップを踏む。

思った通り、ほとんどの奴らは即座には対応できなかった。兵士のくせに。戦う者のくせに。

すかさず、一番近場の奴の顎を蹴り上げる。これもヒット。そして顎への衝撃も、人間の脳を大いに揺らす。蹴り上げられた兵士は軽く宙に浮かんでから、地面に沈んだ。


「はは、お前ら油断したか?気を抜いてたか?こんなに上手くいくのか?逆に不思議だ、想定外だ!」


「う、うおおあああ!」と大声をあげて、ようやく彼らはスイッチが入ったようで、各々好きなタイミングで殴りかかってくる。

さて、ここからが正念場だ。

あの『小隊長殿』が人を蹴り倒すなんて、という若干の戸惑いが残りつつも、みな私を押さえ込もうと、律儀に擬似路地に沿って、飛びかかってくる。

「おお、こいや!」と私は叫び、その辺にある椅子やらゴミやら小さな屑やらを相手の顔面目掛けてとにかく投げつける。すると避けきれなかった先頭の目が「うう」と目を覆った。


「ギャハハハ!日の本の由緒正しき喧嘩殺法!!」


そして、鳩尾への正確なキック。ヒット。ジョンの時以上に上手くハマったのか、蹴りを受けた兵士は勢いよく後方へと飛んだ。ついでに列になっていた奴らも、巻き込まれて転倒する。

はは、まずいな、上手くいきすぎてるな、と私は思う。でも次の瞬間からその考えは消え失せる。


体が燃えている。

怒りと興奮が全身を駆け巡る。


「あんま調子乗んじゃねえぞコラ!」


と言うがなり声と共に、背中に衝撃を受ける。

おお、流石に少しは頭の働く奴がいたようで、いつの間にか背後を取られた私は、腕を回され、羽交い締めにされた。


「ほ〜ら、捕まえたぞ、アリアちゃ〜ん」


あ〜流石に10人(現7人)もいると、そういう奴も出ちゃうか〜と思いつつ、私は一度頭を深く下げてから、思いっきり持ち上げた。

後頭部にゴリッという感覚、私を押さえ込む腕に余裕が生まれる。私は拘束から抜け出し、そのまま後ろに振り返った勢いで、すで潰れている鼻に向かって、力を込めて右ストレート。「フガッ」とそいつは血で喉に息を詰まらせながら、美しい軌道で吹っ飛び、壁に激突した。

イッテェ、クソ、やっぱ顔面は硬えェ。私の拳の方が砕ける。が、まだ大丈夫。

そしてもう一度前を向いた時、今度は私の顔面めがけて拳が飛んできた。振り返りの勢いもあって避けることができず、私はこれをまともに食らってしまう。


「いい加減にしろよ、ビッチ」


鼻の頭が熱い。体勢だけはなんとか保てたものの、目がチカチカとして、頭も若干ぐらつく。


「無事で済むと思うなよ、ああ?」


鼻からの息がしづらくなり、指で鼻を摘むと、掌の上ににべっとりと血がついた。

その時になって初めて、あ、鼻血出てら、と気づいた。


「あは」


まずいな。


「はは、いいなあ」


やられるかもしれない。


鼻血は止まらない。頭が熱い。残っている6人のクソ野郎どもは明らかに動揺しているようだっだが、またすぐに襲いかかってくるだろう。


「いいじゃないか」


私は顔を上げ、構え直した。

流石に自分でもわかった。

私は笑っている。


「よお、これからだろう?なあ?」





ここで、私の記憶は一度、ぶつりと消える。





次に気がついた時には、兵士の1人に馬乗りになって、そいつの顔面をひたすら殴っていた。


私はおもむろにその辺に転がっている椅子を手に取ると、その足を兵士の口の中に突っ込んだ。いみじくも歯で抵抗してきたので、頰をぶっ叩いて、喉の奥まで飲み込ませる。


「どうだ?おい、どんな気持ちだ?どんな感じだ?無理やり突っ込まれるってのはよ、なあ」


そいつはフガフガしながら、足をばたつかせ、なんとか椅子を掴んで、口の中から出そうとする。

だが、全体重をかけて、私はそれを阻止する。


「痛いよな?痛いよな?そうだよな?痛いんだよな?」


息が続かないのか、兵士の目に涙がたまり、次第に虚ろになっていく。

だが私の手は止まらない、止められない。

それでも、いいんじゃないか?

そうだよな、ねえ『アリア』。コイツ、もう死んでもーー。


その時、私の目に何かが覆い被さった。

急な暗闇。

そして誰かの腕が私の首に周り、ヘッドロックされる。

咄嗟に、やばい!誰か起きて…!と背筋が冷えたが、次の言葉を聞いて、全身の力が抜ける。


「落ち着け」


そして、先ほどとは異なり、すっと波が引くように緩やかに、私の意識はなくなった。


「眠れ」






目を覚ますと、どこか外の、壁に寄りかかる感じで座らされていた。

空はまだ暗く、前世では見れなかったほどのド派手な星空が、隙間なく瞬いている。

何もかも、晒し出して、明るみに出すように。


なんだ、どこだ、ここ、と、立ちあがろうとすると、全身痛くて上手く立ち上がれず、地面に尻餅をついてしまった。痛い、クソ、どこもかしこも痛い。


「起きたか」


横から声がした。

ので、そちらのほうに、痛みを伴いながら顔を向けた。


「……ジョン」


兵士に馬乗りになる私の頭に、布か何かを被せ、耳元で何かを呟いたのは、ジョンだった。


「……なんでいるんだよ」

「あの、メガネの奴に連れてこられた」

「ああ…イーサンか」


彼には特にやるとは伝えていなかったが、まあ心配して、様子を見にきてくれていたのだろう。

それで、ブチ切れている私を見て、その辺をほっつき歩いてたジョンを見つけ出して、助けを求めたのだろう。

顔を拭って、手を見てみると、多少血はついたが、鼻血は止まってるようだった。


「アリ、お前な……」


代わりに透明な水滴が、掌の上にぼたぼたを落ちてくる。


「あれほど、我慢しろって何度もい……」


ジョンは、私の顔を見て、その先の言葉を失った。

私の目からは止めようと思っても止められない涙が、次々と溢れ出し、拭っても拭っても、何度も私の頬を流れ落ちた。ついでに血と混ざった鼻水なんかも出始めて、「ふぐ、ううう、ぐふ」といろんなものが漏れ出る。


「うう、うあ、ぐふ、うう」


しばらくの間、ジョンは何も言わず、遠くの方を見ていたが、やがて頃合いを見て口をを開いた。


「……怖かったのか」


違う。


「…ふぐ、ッ…うえ…」


私は顔をゴシゴシと擦って、言った。


「……ッぐ、うぐ、悔し、かっ、た…!」


それでもまだ涙は出た。


「……悔しかった、悔しかった、悔しかった…!!『アリア』は……『アリア』は……ッ!!あんな奴らに…!なんで……なんでだよ、うう、悔しい、悔しい…!」

「……『アリア』様でも」


ジョンは『アリア』に心を寄せるような、私を鎮めるような声色で言った。


「多勢に無勢ではなす術なかったんだろう。その点、お前は、素手でも戦えた、と言うだけだ」


そして自らにツッコミを入れるトーンで付け足した。


「……いや、それでもアレは異常だが」

「…ッ…異常…?異常か……ふ、はは、なんかもう、トんでたからなあ……だけど」


私は色々なものでぐちゃぐちゃになった、拳を握った。


「……おかげで『魔力の流れ』を、なんとなくは掴めた、気がする」


ジョンが、目を見開いて私を見つめる。

私は頷き、再度顔を擦ってから、喉を鳴らすと「自分の解釈で言うぞ」と付け加えて、言った。


「魔の力は多分、感情とか意志の力だ。こいつの顔面をぶちのめしたい、ぶっ飛ばす!!…て、蹴ったりしたら、『思っていた以上に本当にそうなった』。流石の私でもあんなには力はでない。多分、別の力が働いていたんだと思うんだ……よし、やってみる」


そう言って、私はその場に立ち上がる。もちろん体全部が痛い。どうにも意識がトんでいた間、私自身も色々ダメージを受けていたらしい。

そりゃそうか、と思いつつ、痛む体を無視して、ぐいっとしゃがみ込む。それから、飛ぶッッ!と思いながら、地面を思いっきり蹴った。

すると、私の体は3mほど飛び上がった。

ジョンが驚いた顔が、私を見上げている。

そのまま私の体は地面に落下し、地面着地時の衝撃で、足から全身にかけて激痛が走った。


「っっっってええええ〜〜〜〜着地のこと全然考えてなかった〜〜〜」


両足を押さえながら、ゴロゴロと地面を転がる私を見て、ジョンはいつも通りのため息を吐いた。


「お前……本当に馬鹿なんだな」


そしてほんの、少しだけ口角をあげて、私に手を差し伸べた。


「獣並みだ」


私は「そうだな」と笑うと、差し出された手を取り、体を起こした。


獣だから、自室じゃなくて、星空の下に連れてきてくれたんだな。


「お前の理解が、正確かはわからない」


ジョンは私が腰を落ち着けたのを見計らってから、言った。


「だがお前がそれで、掴めたならそれでいい。前にも言ったが、言い方はなんでもいいんだ。『力』も『流れ』も、言葉よりも前にある」

「うん……」


と雰囲気的に頷いたが、我慢できず私は素直に思ったことを言った。


「……待てよ。『術』って言うなら、ある程度体系化されてないとそうは言わんだろ。言葉なしにどうやってそうするんだよ」


するとジョンは「お前はめんどくさい引っかかり方をするな」と心底めんどくさそうな顔をした。


「もちろん、他者に伝えるために言葉はある。それらを集めた体系もあるし、方法論もある。だがそれらは理解を促すもので、こと『魔術』においては理解に到達するものではない。言葉の積み上げの中で、あくまで自分で直観し、理解するほかないんだ」

「……いやいや、そうやってジョンの言い方が回りくどいから、私がめんどくさいことを言い出すわけだが?」


ジョンは眉を吊り上げたが、咳払いをしてこれを収めた。


「『魔術』……というか『魔』を言葉で説明しようとすると、どうしてもそう言う言い方になるんだ。それだけ原始的で根源的な、懐の深いものなんだよ、『魔』は」

「う〜んこの、哲学って感じィ〜〜」


追求を放棄して、私は星空を仰いだ。


「なんかイーサンとかも普通に魔術で〜とか言ってんのに、もうちょいこうさ……待て、イーサン!」


私はジョンの方を向いた。


「イーサンはどうした?!」


ジョンは眉を寄せた。


「……イーサン?」

「ほら!メガネの!ジョンに私のこと教えてくれた!」

「ああ、あのメガネの小さい奴か」

「小さい?!小さいか?!!…それはよくて、イーサンは?!」

「目がいい奴だったな」

「そうじゃねえよ!イーサンは今どうしてるって話だよ!」

「それなら、今は片付けをしているんじゃないか?お前が暴れ散らした後の」


あわわわわ。

正直あまり覚えてないが、色々ぶっ壊した気がするし、そもそもぶん殴った10人のクソどもをその後どうするか何にも考えてなかった!!

のをイーサンに全部押し付けてしまっている!!


「戻んなきゃ!!」


「ジョン、行こう!」と私は立ち上がり、ギシガシ痛い体を根性で動かして、第七小隊の内務室方面へと走り出した。

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