9.不穏な影
ひとまず、この回を区切りとして、別の作品の更新に移ります。
(禍津 明視点)
「ふふふ~ん♥️……ふふふ~ん♥️……私がお兄様の第1夫人だなんて♥️……信じられないですよ~♥️……」
「……光華、取り敢えず食事中は口より手を動かした方が良くないか?」
告白のアレコレを終えた俺達は国産黒毛和牛のローストを食べていたのだが、光華は料理よりも俺に告白された事の方が嬉しかったらしく、未だに上の空であった。
「それはそうなんですが……やっぱり、こんな女性は嫌ですか?」
「いや、そういう訳じゃねぇし、全然好きではあるが……」
「……ふふっ、お兄様ったら♥️」
「うぅっ……」
あ、これ下手すりゃ尻に敷かれちまいそうだ。
……でも、それでも良いって思えちまうんだから恋って不思議だよなぁ……
「……それでお兄様、今後はどの様な女性を彼女にするつもりですか?」
「いきなり話す話題じゃねぇな。……まあ今のところは他に彼女を作る予定はねぇけど……」
「ハァ……お兄様はあまり女性に興味があるタイプではないですしね……」
「そうなんだよなぁ……」
基本的に、この世界の男性は大きく2つの性質に分類される。
1つは傲慢で女性を物扱いするが、その分彼女を多く作る俺様気質なタイプ。
もう1つは女性に過度な警戒心を抱いて、全く彼女を増やさないか、1人も作らない臆病なタイプ。
前世の記憶を取り戻してマシになったとはいえ、俺はどちらかと言えば後者に当たるので、多分あんまり増えねぇと思うんだよなぁ……
「……まあ、私としてはちゃんとお兄様の事を好いている方なら無下にはしないつもりです。……ただ、あの秀光という先輩の代わりとしてすり寄って来る者達は容赦なく追い払いますが……」
「確かに、今の俺ってそういう目で見られてそうだもんな……」
そもそも、秀光を狙ってる女性の殆んどは顔や地位、性別等の付加価値だけで秀光を判断しているミーハーにしか見えねぇ。
勿論、そこからちゃんとした恋愛に発展するなら何も言う事はねぇんだが……多分、そう上手くは行かねぇんだろう。
「……秀光先輩と言えば、影華の事も心配ですね。……今頃、秀光先輩を狙う者達から嫉妬の視線を向けられている頃でしょう」
「影華がそんなの気にすると思うか?」
「……思えませんね」
「だろ?」
影華は禍津家で最も我が道を行く性格をしている人物なので、俺達が心配する様な事は起こらねぇ筈だ。
とまあ、そんな事を話しながらも俺達は料理を口に運び……
「……やはり、高級なだけあって美味しいですね」
「光華と恋人同士になって最初に食べる料理としては満点じゃねぇか?」
「ふふっ、そうですね」
こうして俺達は、国産黒毛和牛のローストを少しずつ食べながら、雑談を続けたのだった。
……そういや、秀光と影華は今頃どうしてるんだろうなぁ……
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(禍津 影華視点)
「ん~!……やはり高級なだけあって美味いのです!」
私は今、高校の食堂にて秀光先輩から高級ディナーを奢って貰っていたのです。
……これ、本当に私が食べて良いのですよね?
「……でも、国産黒毛和牛のローストか~……まさかとは思うけど、明君達にも同じの出したかい?」
「ギクッ!……な、何の事じゃ?」
白のエプロンとコック帽を着用したラヴィ校長の分身体こと、ラヴィ・リンスゥ・シェフはそうしらばっくれたのでした。
「慌ててるのが何よりの証拠さ。……いや、別に良いんだよ?……値段だって、本当の高級料理店で食べるのに比べたら安いくらいだし……」
「まあまあ。……私は気にしないのです。……それより、兄さんと光華姉さんのデートはどうなったのです?」
「……上手く行ったとだけ言っておくのじゃ」
ほう、なるほどなるほど……
「それは良かったのです。……あ、テレビ使っても良いのです?」
「別に良いのじゃが……何か見るのかのう?」
私は食堂にあるテレビを使っても良いか聞いて、使用許可を得たのでした。
「ふふ、私が見たいのは"機械武神バルティックサンダー"というアニメなのです!」
「バルティックサンダー……確か、登場人物達が巨大なロボットに乗って戦うアニメだっけ?」
「そうなのです!……そのアニメに出て来るロボットや宇宙船のデザインがまた最高で……いつか私の異能で錬成したいと考えているのです!」
「へぇ~……影華さんにも熱中出来るものが有ったんだね」
って、こんな事を話してる場合じゃないのです!
そろそろ始まる頃合いなのです!
ーパッ
『続いてのニュースです』
「あ、まだ早かったのです」
私とした事が、時間を見間違えるとは……
まだ"機械武神バルティックサンダー"が始まるまで数分残ってて、今はニュースの真っ最中だったのです。
ただまあ、何もする事もないですので、暇潰しとしてニュースを見ていると……
『本日未明、都内にて反政府組織"異能の夜明け"による同時多発テロ未遂事件が発生しました。……本件は既に沈静化に成功していますが、"シングル"の姿が見えなかった事から陽動か、若しくは下級構成員の暴走の可能性も……』
「また、"異能の夜明け"が事件を起こしたのかい」
「……連中もしぶといのです……」
"異能の夜明け"……強い異能力者が世界を統べるべきだという思想を持つ、分かりやすい悪の秘密結社。
中でも"シングル"と呼ばれる構成員は、"異能の夜明け"内での実力が高い上位9人の最高幹部を指しているのです。
とはいえ、政府側も"異能の夜明け"相手に何も出来ていない訳ではなく、"シングル"の"No.3"を寝返らせる事に成功したと公表しているのです。
もっとも、"異能の夜明け"側は"No.3"を取り返す気満々らしく、未だに"シングル"の"No.3"の座は名前が変わっていないと言われているらしいのです。
「……ここが"異能の夜明け"に襲撃されるのも時間の問題かもね」
「……その時はその時なのです」
「楽観的だな~」
「秀光先輩こそ、言葉の割には余裕そうなのです」
……というより、ここがラヴィ校長の支配下にある間は大丈夫そうなのですが。
「……まあ、もし襲撃があったら……僕が真っ先に戦線に立つつもりさ」
「じゃ、頼んだのです」
「はは、その時は惚れて欲しいな~」
「考えておくのです」
……そんなどうでも良い話をしながら、私達は料理を食べ進めたのでした。
しかし……出来る事なら何も起こらないで欲しいと、この時の私は内心で考えていたのでした……
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(俯瞰視点)
とある廃墟にて……
「それで今回の一件、どう処理するザマス?」
そこでは謎の黒い影が、パソコンのリモート会議画面を開いて喋っていた。
すると……
『あれは雑魚共が勝手にやっただけでごじゃる!』
『でも、警察や政府はそう思わないアル!』
『ほんと、陽動としては充分なんでヤンスが……』
『オデ……アバレル……ヨテイ……ナイ……』
『ケケケケケ!……燻ってるだけだった無能な働き者共に、たんまりと兵器を与えた甲斐があったゲス!』
『お前がこの一件の黒幕でありんすか!』
『ご主人様ご主人様!……この件、どうするのが正解だと思いますガル?』
大した進展もなく、話が停滞するばかりだったリモート会議だが、その混沌は突然終わりを迎えた。
『……今回の件、このまま陽動として使おうぞ……』
『『『『『『『「……はっ!」』』』』』』』
語尾が特徴的な人物からご主人様と呼ばれていた人物が意見を唱えた瞬間的、他の者達が大人しく従った。
『……"No.9"……お主なら……どうする?』
「わ、私ザマスか!?」
『……そうだ……ただでさえ……"No.3"が……政府に……奪われているのだ……こちらも……攻勢に入らねば……』
「……それで私ザマスか……」
『左様……"シングル"の末席……その力を……示せ……』
そう告げられた黒い影こと"No.9"は、しばらく悩む素振りを見せた後に口を開いた。
「分かったザマス!……【吸血女王】の異能を持ち、"No.9"の称号を冠するこの私、カミラエル・レッドブラッドにお任せくださいザマス!」
こうして"No.9"を冠する者……カミラエル・レッドブラッドは行動を開始した。
……その魔の手が国立異能力専門高校に伸びる事を知る者は、この時点でカミラエルを除き誰も居なかったのだった……
ご読了ありがとうございます。
私は基本、どんな作品でも敵幹部を出さないと気が済みません。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。