47.体育祭に絡む思惑
話の視点があちこちに飛びます。
(禍津 光華視点)
「はっ!……今、お兄様の貞操が危機に晒されている様な気が……」
私が体育祭に向けた走り込みを終えて休憩していた時、お兄様の貞操が危機に晒されているという予感がしました。
「……光華さん、いったい何を言ってるんだい?」
「明の貞操の危機って……そんな事まで分かっちゃうの?」
秀光先輩とアヤノ先輩は、信じられないといった表情で私を見ました。
「……仮にそれが本当だとして、何か出来る事があるんすか?」
「くっ……確か今日もエレジーさんが一緒に居た筈ですが、あの人?を信じられるかというと……」
「冷静になるっす。……取り敢えず、貞操なんて今更っすよ」
「いえ、そういう訳には……」
……ただの勘違いなら良いんですが……
お兄様の危機に関する事で、私の勘が機能しなかった事なんて……
「……まあ、明君に何かあったとしても僕達はエレジーさんを信じるしかないさ。……それより、体育祭で注意する事なんだけど……」
「うぅ……」
私は何て不甲斐ないのでしょう……
お兄様に危機が迫っているかもしれないのに、何かする事も出来ないなんて……
「……殆んどの種目は、身体能力や異能をある程度鍛えておけば何とかなるけど……最後の全員参加型しっぽ取りは厳しくなるだろうね……」
「全員参加型しっぽ取り、ですか……」
そもそも、この国立異能力専門高校の体育祭は学年対抗式……
全生徒が学年ごとに3つのチームに分かれます。
そして、そんなチーム分けで行われる全員参加型しっぽ取り……
ほぼ乱戦になるのは確実でしょう。
「この種目で特に注意しないといけないのは、生徒3強と呼ばれる3人の3年生さ」
「生徒3強……ボクもちょっとしか知らないかな」
「うん、そうだろうね……内訳としては、僕の腹違いの姉こと金霊院 真梨亜姉さん、図書室を守る番人こと木葉院 本江先輩、そして生徒会長の土壺院 寂子先輩……って感じだよ」
「……3人とも、出自は有名な旧華族ですね……」
金霊院、木葉院、土壺院……
どの家も、この国では有名な旧華族の一族です。
「うん……僕の家を含め、全員が五行院と呼ばれる特別な旧華族の出身さ」
「そっか……あ、そういえばボクの記憶が正しい前提の話なんだけど……今の内閣総理大臣の一族にあたる水清院家も、五行院の1つなんだったっけ?」
「そうだよ。……とはいえ、残り1家の火業院家に関しては100年程前にお家断絶になっちゃってるから、実際はもう5つじゃないんだけど……って、話が逸れたね」
……秀光先輩の話に出て来た火業院家は100年程前、民衆に対して圧政を敷いた事によって反乱を起こされ、お家断絶になったと聞いた事があります。
だから何って話ですが……
「……で、本題は何ですか?」
「それなんだけど……今言った3人は幼少期からの幼馴染みで、仲が良いのさ」
「となると……乱戦では連携をとられて不利だという事ですか?」
「そういう事だよ」
……強者同士が連携をとる事程、厄介な事はありません。
特にこの話し方から察するに、3人とも秀光先輩以上の実力者なのは確実でしょうし……
「この全員参加型しっぽ取りで1年生か2年生が3年生に勝つためには、真梨亜姉さんの【聖女】、本江先輩の【本の世界】、そして寂子先輩の【砂姫】という、3つの強異能に打ち勝たないといけない……」
「……秀光先輩は、3年生に勝つためなら1年生と2年生が協力する必要があると言いたいんですか?」
「その通りさ。……僕の見立てでは、そうでもしないと勝負にならないからね……」
「……そこまで言いますか……」
お兄様を打ち倒した秀光先輩ですら、ここまで警戒するとは……
……この体育祭、本当にお兄様に活躍を見せられるんでしょうか……
「……本当なら明君や影華さん、それからカミラエルさんも加えて作戦会議がしたかったんだけど……それは後日かな」
「え、本当にそのメンバーだけで良いの?」
「……これでも3人に刺さりそうな強異能の持ち主を選んだ結果さ。……他の生徒じゃ、肉盾にするのも厳しそうだし……」
「へ、へぇ~……ボクが言うのも何だけど、かなり厳しそうだね……」
……勝利だけが全てではないとはいえ、ここまで言われると何としてでもお兄様に良い姿を見せた上で1年生チームを優勝に導きたいと思わされますね……
「……一応言っとくと、3年生チームを全員脱落させるまで、しっぽ取りにおける1年生と2年生の同盟は続けるつもりだよ。……これはどうにかして、各々の学年全員に伝えておかないとね」
「そうですね……」
「なら、その役割はアタイに任せるっす!」
「ふむ……じゃあ、よろしく頼むね」
「分かったっす!」
こうして、私達の軽い作戦会議は幕を閉じ、走り込みが再開されました。
……絶対、お兄様に良い姿を見せるという覚悟を胸に刻んで……
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(禍津 影華視点)
「う~ん、悩むのです……」
『ん?……まさか、まだどんなパンジャンドラムにするか悩んでるアルか?』
私がパンジャン選手権用のパンジャンドラムで悩んでいると、通話を繋いでいた胡蘭からそう聞かれたのです。
「そりゃ悩むのです!……そもそも、どのタイプのパンジャンドラムにするかすら迷っている状態なのですから……」
『あ~、そこからアルか~』
「……平均的なバランスタイプの"通常型"、相手にぶつかって諸共破壊する"突撃型"、自爆して爆弾を相手にぶつける"発射型"、硬さと攻撃を捨てて素早さを取った"速度型"、素早さと攻撃を捨てて硬さを取った"防御型"、全てを捨てて撮れ高に走った"芸術型"……最後のは論外としても、どれにするかまでは決められないのです……」
『……私みたいにどれか1本って訳じゃないのが厳しいアルね~』
う~ん、悩ましいのです……
……あ、そういえば……
「話は変わるのですが、国立異能力専門高校の体育祭って興味あるのです?」
『本当にガラッと変わったアルね……まあ、ない事もないアルよ』
「なら、来ると良いのです!」
『……本気で言ってるアルか?』
いやまあ、その反応になるのも分かるのです。
でも……
「本気なのです!……私の大切なゲーム友達なのですから、こういう行事にも呼びたいのです!」
私は本気なのです!
……ついでに、秀光先輩やカミラエルに会わせたら面白い反応しそうって理由もあるのですが。
『……まあ、考えとくアル』
「ありがとうなのです!……じゃ、私は私でどんなパンジャンドラムにするか考えるのです!」
『……頑張るアルよ~』
こうして私は胡蘭を体育祭に招待しつつ、パンジャン選手権用のパンジャンドラムを考えるのでした……
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(俯瞰視点)
同時刻、国立異能力専門高校の女子寮の一室……
「でゅふふふ……某が今日お勧めする本は、この"夜蝶は沈み百合は咲く"という作品でござる……」
そこには1人でパソコンに向かい、誰かに対して本の紹介をする女性が居た。
「……って、今日の配信も誰1人見てくれないでござる……やっぱり、某にVtuberは厳しかったんでござろうか……いやいや、そんな事は……」
その女性……木葉院 本江は、そんな事を言いながら本の紹介を続けた。
……誰にも見られぬ配信を続けながら……
同時刻、国立異能力専門高校の女子寮の別の一室……
「……もうすぐ体育祭、憂鬱やわ~」
そこには、体育祭が近づくのを嘆く1人の女性が居た。
「生徒会長の地味な裏方職で目立たん様にしとったのに、これやとまた目立ってまう……」
その女性……土壺院 寂子は、そんな事を言いながら物思いに耽った。
……自身が目立たぬ方法を考えながら……
同時刻、何処とも知れぬ場所にて……
「おっほっほっほ……あの面倒な穏健派共が、好都合な事に"No.8"に釘付けになっているでごじゃる……」
そこには烏帽子と直衣を着た不気味な男が1人、座っていた。
「ならば、ここで麿が手柄を立てるのもまた一興……【式神召喚】、【後三・裏玄武】でごじゃる!」
ーシャラ~ン……
「「裏玄武、ここに参りました……」」
「……カメ」
「……シュル」
男が何やら札を投げると、その札が2つの人影に変わり男の前に跪いた。
「おっほっほっほ……これ、お主等に命を下す」
「「はっ!」」
「近く開催される国立異能力専門高校の体育祭……要人も多く招かれるその場で、分かりやすく派手に暴れるが良いでごじゃる……」
「「はっ!」」
男の意図が不明な命令を聞いた2つの人影は、何の反論もせずにただ承諾した。
「……何かを成さずとも良い……ただ、あそこの警備がどれ程のものか……確かめるだけでごじゃる……」
そう語った男……"異能の夜明け"の"No.7"は静かに微笑むと、それ以上は何も語らなかった。
迫る体育祭と、それに関わる各々の思惑……
だが、誰1人としてその全貌を捉えている者は居なかったのだった……
ご読了ありがとうございます。
読みにくくて申し訳ない……でも、片手間の趣味なので好きに書かせてください……
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。