46.特訓の対価
話の方向性に迷っています。
(禍津 明視点)
「うおぉぉぉぉぉ!」
「耐えろぉぉぉぉぉ!」
「ぐきゃぁぁぁぁぁ!」
「……死屍累々だな……」
真梨亜先輩達を追った先にあったのは、牢屋みてぇな場所だった。
「……こりゃ酷いぜ、ベイビ~」
「違法薬物に手を出した末路……にしては、何か耐えてる方じゃのう……」
「あァ……こいつ等、結構骨のある奴等だァ」
牢屋の中に居る殆んどの半グレ女子は、違法薬物の禁断症状に苦しんでいた。
……のだが、全員苦しんでいるにしては暴れる事なく、その場で蹲るばかりだった。
「骨のある奴等って、違法薬物……麻薬に手を出す奴等がか?」
俺としちゃ、快楽目的で麻薬に手を出した時点でな……
骨のある奴等って評価は違和感があった。
すると、それに対して……
「グハハハハ!……私達が麻薬を楽しむのは大抵が戦闘前……ドーピング用だぁ!」
「ん?……そ、その声は……」
ある牢屋から聞こえた、聞き覚えのある声……
その声の主は……
「グハハハハ!……ここに麻薬の禁断症状なんかに屈する様な雑魚は居ねぇぜ?……何せ、負けた奴は私が直々にぶん殴ってたんだからなぁ!」
「……獄落 金世か……」
……獄落 金世だった。
「グハハハハ!……麻薬で快楽に溺れる奴は2流どころ3流以下だ!……1流は、それを上手く制御出来なきゃ話になんねぇ!」
「……金世、お前がこいつ等をこの道に引き摺り込んだのか?……だとしたら、こいつらの人生を壊した自覚は……」
「グハハハハ!……こいつ等は私や銀砂の関係ねぇ所でこの道に入ってやがった。……麻薬を嗜むのだって、遅かれ早かれだったろうよ」
「……本当に、何というか……」
金世や銀砂、その子分の半グレ女子共は骨の髄まで裏社会に染まっちまってるんだろう……
ただ、裏社会の人間としては"好悪"の"好"に含まれる気もするが……
と、そんな時……
「ひぃっ!?……お、お前はエレジーじゃねぇか!」
突然、銀砂の声が聞こえて来たのだ。
「おや、銀砂でございますか~……また失禁したいのでございますか~?」
「ギヒャヒャヒャヒャ……勘弁してくれよ~!」
銀砂はよほどエレジーさんにトラウマを刻まれたらしく、前に見た時の威勢は完全に失われていた。
「……ま、冗談でございますよ~」
「ほっ……」
「……という訳で真梨亜様、治療の方を進めても宜しいでございますよ~?」
「ええ、分かりましたわ」
……どうも、先に真梨亜先輩による治療を進めるらしい。
そういや、真梨亜先輩の異能って何なんだ?
「なあ、真梨亜先輩の異能って……」
「そう気にせずとも、そこで見ていればすぐに分かりますわよ。……【聖女】、【神の祝福】ですの!」
ーゴ~ン!……ゴ~ン!……ゴ~ン!
真梨亜先輩が何か唱えた瞬間、その場に鐘の音が鳴り響いた。
その直後……
「うぐぐ……あれ?」
「うぎゃぁぁぁ……ありゃ?」
「……さっきまで感じてた苦しさが……無くなった?」
……先程まで麻薬の禁断症状に苦しんでいた筈の半グレ女子共から、突如として禁断症状が無くなったのだ。
「こ、これは……」
「……これが真梨亜の異能、【聖女】の力の一端じゃよ」
「せ、セイント?」
「要は聖女っぽい事は何でも出来るという破格の異能じゃな。……ある意味では、秀光の【聖騎士】と同系統とも言える異能かのう……」
「そ、そうか……」
聖女っぽい事は何でも、か……
弟の秀光に並ぶ、本当にチートな異能だな……
「……つっても、性格がアレじゃどうしようもねぇがなァ……」
「そんな事を言うでないのじゃ!」
「いやいや、アレが生徒3強の1人っつうのは世も末だろォ」
「ん?……生徒3強?」
何だ、またよく分からねぇ概念が出て来やがったぞ?
「ああ、明や1年生は知らんじゃろうが……生徒3強とは、この国立異能専門高校で最強とも言える3人の生徒に付けられた名称じゃ」
「さ、3人の最強生徒?……ちなみに、そこに秀光は入ってたり……」
「生徒3強は全員が3年生なのじゃ」
「えっ……マジか……」
秀光ですら、3強じゃねぇって……
「まァ、基本的に3人とも3年以外に名が通ってねぇからなァ。……図書委員会の委員長を務める引きこもりオタク女に、地味な生徒会長を務める胡散臭いエセ関西弁女なんか、他の学年に名が通る訳ねぇんだよなァ……」
「……残り2人も何かアレだな……」
……この国立異能力専門高校の生徒会は、フィクションの生徒会と違ってかなり地味な裏方職だ。
だからまあ、生徒会長なんか覚えてねぇんだよな……
ついでに変なルビが付いてる図書委員会も意味不明だし……
何というか、強い生徒って割にどいつも変な組織に入りがちなんだな……
「……何か、失礼な事を思われている気がしますわ」
「ギクッ!」
「……まあ良いですわ。……とはいえ、禁断症状は定期的に来ますので、この治療も定期的に施しますわよ」
「それで頼むのじゃ」
「面倒臭い仕事を受けてくれて、本当にありがたいのでございます~」
……あれ?
俺を鍛えるって話、何処に行った?
「……ところで、俺を鍛えるって話は……」
「グハハハハ!……何だお前、今よりも強くなりてぇのかぁ!」
「話に入ってくんな!」
「グハハハハ!……私は良いと思うぞ!」
「だ~か~ら~!……金世は話に入って来るんじゃねぇよ!」
あ~もう……
本当にこいつはもう……
「ほ~……なるほどなるほど、明様はこういった方でも話が出来ると……これは使えるでございますね~」
……何だ?
エレジーさんが、変な事を……
「え、エレジーさん?」
「……ああ、ちゃんと明様の特訓は行うでございますよ~?……ただ、そのついでに武音子様のブランク解消も行うというだけで……」
「ま、まさか俺に武音子先生と戦えって言うんじゃねぇよな?」
それはぶっちゃけ無理な気が……
「そんな無茶な事は言わないでございますよ~。……明様の特訓は私と冥堂様で担当させて貰うのでございます~」
「……だったら、武音子先生のブランク解消は……」
「勿論、"獄落姉妹"に頼むつもりでございますよ~」
「っ!?」
武音子先生のブランク解消を、"獄落姉妹"に頼むって本気か!?
いくら何でも正気とは思えねぇぞ?
「……ふふふ、その反応はある意味では正しいでございますが……"獄落姉妹"のお二人はどうされたいでございますか~?」
「グハハハハ!……断るぜ!」
「ギヒャヒャヒャヒャ……姉貴と同じくだぁ……」
「ほう……その心は?」
エレジーさんからの要求を、"獄落姉妹"は断固として断った。
「グハハハハ!……その武音子って女は私が見る限りじゃ全盛期から腕がだいぶ鈍っちまってる……戦りてぇなら全盛期の状態になってから出直して来なぁ!」
「ギヒャヒャヒャヒャ……その武音子って戦うメリットがねぇなぁ……心も強そうだから、私が求める表情にはならねぇだろうし……」
金世は全盛期から鈍った今の武音子先生と戦うつもりはねぇらしく、銀砂に至っては自分の望む表情が得られねぇって理由で断りやがった。
……が、エレジーさんはまだ切り札を残していたらしく……
「……であれば、こういった条件はどうでございますか?……もしお二人が武音子様のブランク解消にご助力していただければ、報酬として明様の子種を差し上げるとか~……」
「ハァ!?……エレジーさん、何を言って……」
俺の子種を差し出すって……
そんなの、俺が認める訳ねぇだろ!
「おや、ご不満でございますか~?」
「当たり前だ!……そもそも、光華達が許す訳が……」
「そこはご安心を。……後から誤魔化す手段なんていくらでもございますよ~」
「何一つよくねぇよ!」
駄目だ……
なまじ俺に恋慕を抱いてねぇ代わりに、こんな事を平気で言いやがる……
エレジーさんを彼女にしたの、失敗だったか?
「そこまで言わなくても良いではございませんか」
「言うに決まってるだろ!……というか、俺なんかの子種なんて欲しがる訳が……」
「グハハハハ!……その話、乗ったぜ!」
「ギヒャヒャヒャヒャ……悪い話じゃねぇのは認めてやるよ……」
「そっちも乗り気なのかよ!」
いよいよ駄目だ……
場が混乱して来た……
……現に真梨亜先輩達、下手に話に首突っ込みたくねぇからか黙っちまったし……
もうどうしろと……
こうして話の方向が混迷し出して来たところで、俺は完全に途方に暮れるのだった……
ご読了ありがとうございます。
エレジー、明の子種を交渉のテーブルへ置く事に躊躇しません。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。