41.ピエロ達の動向
道化には、個別の人格が存在しています。
(俯瞰視点)
とある町の裏路地にて……
「ハァ……いくら"吟遊詩人"が後方支援タイプの身体だったとはいえ、ここで失ったのはキツいでヤンスね……」
ソンブレロを被り、道化の仮面で顔を隠した怪人はそう呟いた。
「いやまあ、確かに除名したのもあっし等なんでヤンスけど……あの時はあれしか選択肢がなかったんでヤンスよ……」
怪人は1人、誰かと話しているかの様に呟き続ける。
「……とはいえ、"吟遊詩人"が最後に考えていた懸念も事実でヤンス……いくらこの身体なら対抗可能な相手でも、戦力差という意味ではマズいでヤンスからね……」
怪人は懸念点を挙げつつも、今の身体なら大丈夫という慢心もあった。
「この座長の身体……"黒幕"と、四大副座長の身体を中心とした計画……絶対に成功させるでヤンス!」
怪人は1人で結論に至り、そのまま裏路地を進んだ。
……彼若しくは彼女等が何を話していたかは、本人達しか知る由はないのだった……
同時刻、とある暴力団事務所
「姉貴、本当にやるんですかい?」
そこでは1人の女極道が、自身の姉貴分にそう問いかけていた。
「……あっしが望むは、裏社会による混沌で表社会を地獄絵図に変える事でヤンス……」
その姉貴分は死装束を着用した黒髪長髪の女性であり、その顔は道化の仮面で隠されていた。
「で、ですが……」
「……あっし等は無数の人格が寄り集まった意識集合体でヤンスが、身体によって微妙に性格が変わるんでヤンス……」
「へ、へい……」
「……その中でも血の気が多かったあっしは"極道"の名を与えられ、暴力団に所属するって役割を与えられたんでヤンス……」
そう言った姉貴分……"極道"と名乗った道化は、自身の目の前に置いてあった長ドスを手にした。
「あ、姉貴……何を……」
「ああ、誤解するなでヤンス。……別にお前を斬って捨てるつもりはないでヤンスよ。……あっしも長年この組に貢献して来たでヤンスから、今回の計画に乗り気になれない気持ちも人一倍分かるんでヤンス。……だからこそ、お前は計画に乗るんじゃないでヤンス……」
「……は?」
"極道"の言葉に、舎弟の女極道は呆然とする。
「……今回の計画において、あっしを含む副座長クラスが率いる部隊は捨て駒みたいなものでヤンスからな。……大暴れ出来るかも分からない内に、然るべき強者によって鎮圧されるでヤンス……」
「……それを分かっていながら、計画に乗ったんですかい!?」
「その反応は正しいでヤンス。……でも、極道という爪弾き者が社会に復讐出来るなんて機会、そうないでヤンショう……」
「それは……そうですが……」
女極道は迷っていた。
自身の目の前に居る道化は不気味だが、これまで何度も自分達のために尽くしてくれた人物だったからだ。
「皮肉なもんでヤンスね……あっし等は無数にして個であり、個にして無数の存在だった筈なんでヤンスのに……いつしか、その無数が個別の自我を持ち始めてしまったんでヤンスから……」
"極道"と名乗る道化はそう呟くと、静かに天を仰いだ。
「姉貴……」
「……幸いにも計画の実行日はまだ少し先……誰が計画に乗るか、よく考えるでヤンスよ……」
"極道"の目に燃えるは、社会に対する怨嗟の炎。
……極道という爪弾き者である自分達の恐ろしさを忘れた者達への、最大限の復讐であった……
同時刻、とある闇金融にて……
「チッ、"極道"の奴はこれだから……あいつ、潜入先に骨を埋めるつもりでヤンスか!?」
そこではヒョウ柄コートを着用し、道化の仮面で顔を隠した白髪の女性が文句を言っていた。
「あ、あの~……お金、貸して貰えるんですか?」
「ん?……トゴでヤンスが、それでも良いんでヤンスね?」
「は、はい!」
「ふふ、契約成立でヤンス!」
道化は金を借りに来た女性にトゴでの契約を提案し、無事にその契約を結んでみせた。
「……"闇金"さん、本当にありがとうございます……」
「は?……10日で5割の違法利息でヤンスよ?……これまで何人も返済出来ずに内臓売ったり人体実験のモルモットにされてるんでヤンスよ?」
「それでも、私達みたいな人間は正規の消費者金融で金を貸して貰えませんから……」
「……そうでヤンスか……」
"闇金"と呼ばれた道化は、何とも言えない複雑な気分になった。
「では、可能な限り返済出来る様に頑張ります!」
ータッタッタ……
「……ほんと、個別の自我なんて持ってても良い事はないでヤンスよ……どうせ今回の債務者だって、金を返せないんでヤンスから……」
そう呟いた"闇金"と呼ばれた道化の背中は、何処か寂しげだった……
同時刻、とある洋館にて……
「"極道"は怒り、"闇金は"哀れみ……"歌姫"も自身の懐刀たる"吟遊詩人"を喪ったとなれば、いよいよ副座長クラスで勝ち組人生を過ごしているのがあっしだけでヤンスね~!」
そこではボロボロの白衣を着用し、道化の仮面で顔を隠している痩せ細った老婆が思いっきり楽しみの声を上げていた。
「ケケケケケ……"闇医者"は相変わらず人が悪いゲスね~」
「"No.4"様にだけは言われたくないでヤンスよ」
"闇医者"と呼ばれた道化に声をかけたのは、"No.4"と呼ばれたペストマスクの女性だった。
「ケケケケケ……ただ、今回は派手に動き過ぎたゲスな。……近い内に、粛清役が派遣されるゲスよ」
「望むところでヤンス!……あっしの医術で、死を望む程の苦痛を……」
「……死を望む、ゲスか……あいつに限って、それはないゲスね……」
「ん?」
「こっちの話ゲス。……じゃ、私はこれで……」
結局、"No.4"は大した話をせずに、その洋館を出て行った。
「ハァ……あの人、過激派トップの割に報連相を全くしてくれないでヤンスね~。……さて、それじゃあ他の人格が売った麻薬で中毒者になった奴等から、治療費をふんだくってやるでヤンスかね~」
そうして最悪のマッチポンプが行われる中、その中心人物たる"闇医者"は楽しそうに笑うのだった……
同時刻、とある廃ホテルのショーステージにて……
「……"吟遊詩人"、貴女の記憶と恨みはあっしが引き継ぐでヤンス……冥堂にエレジー、絶対に許さないヤンスよ……」
赤いドレスを身に纏い、道化の仮面で顔を隠したオペラ歌手の様な女性は、静かに怨嗟の声を上げていた。
「あっしが紡ぐは、甘美な喜びの歌……甘く喜ばしい歌の中で死に絶えるが良いでヤンス……」
彼女自身もまた、"吟遊詩人"の除名に賛同したにも関わらず、その恨みの矛先を冥堂とエレジーに向けていた。
「……この"歌姫"、至高の恨みを最高の歌へと昇華させ……懐刀の仇を討ち倒すでヤンス!」
……"歌姫"と名乗った道化はひたすら恨みを募らせ、熟成させていった。
1人の黒幕と4人の副座長……
彼若しくは彼女等が企む計画は水面下で着々と進みつつも、それが実行される日はまだ少し先の話。
そして、水面下で動く者がもう1人……
同時刻、とあるビルの屋上……
「……ふむふむ、これが"No.0"様が予測した対戦カード、アルか……こりゃ頼むのが大変そうアルな~」
黒の女性用道士服を着用し、黒髪を頭上で2つのお団子にして纏めている女性がそう呟いた。
「取り敢えず、カミラエルに結果を聞くついでに……少し様子も見に行くアルか……」
道士服の女性こと胡蘭は、そう呟いた直後に屋上から立ち去った。
……なお、彼女の国立異能力専門高校訪問が新たな騒動の幕開けになるのだが……この時点では、当の本人を含め誰も予想だにしていなかった……
ご読了ありがとうございます。
この"無数の道化"編は前中後編に分かれていて、今は前編です。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。