4.明vs秀光
主人公vsナルシストイケメン!
(禍津 明視点)
「ふむ、まさか僕と戦う事になるとはね……どんな結果になろうとも、お互いにベストを尽くした戦いにしよう」
「……その余裕の笑み、絶対に崩してやるからな!」
何か三下みてぇな台詞吐いちまったけど、どうせ俺が勝てるし良いだろ。
……何だろうな、俺って普段ならここまで荒れねぇ筈なんだが……相手がナルシストなイケメンだからイライラしてんのか?
そう思っていると……
「「「「きゃ~!……秀光様、頑張って~!」」」」
……周囲から黄色い声援が聞こえて来て、俺はよりこいつに勝って泣き顔を拝んでやろうと決心した。
……その直後だった。
「お兄様ぁぁぁぁぁ~!……頑張ってくださぁぁぁぁぁ~い!」
「光華!?……そういや、全学年って言ってたな……」
何処からか聞こえる光華の声援に背中を押された気がした俺は、少し気持ちを落ち着かせて武音子先生に向き合った。
「……お、覚悟は決まったかァ?」
「ああ。……それで、何処で戦えば良いんだ?」
「向こうの戦闘用スペースだァ。……その中じゃ死ぬ事はねぇから、相手を殺す気でやってみろォ。……で、本来なら死ぬレベルのダメージを負った方が敗けってルールだなァ」
「……分かった」
「望むところさ」
そうして俺、秀光、そして審判の武音子先生を合わせた3人で、戦闘用スペースへとやって来た。
戦闘用スペースは透明な壁で四方を囲まれた空間だが、中はかなり広かった。
「じゃ、禍津 明と金霊院 秀光の勝負を開始するぜ?……戦闘開始だァ!」
武音子先生のかけ声と同時、先に動いたのは……
「【禍神招来】!……秀光、俺に負けても恨むんじゃねぇぞ!」
……俺だった。
俺は全身に黒い影を纏うと、そのまま秀光のもとへと駆け出した。
「ふむふむ、興味深い異能だね。……僕の相手として様々な意味で相応しいよ」
「何をゴチャゴチャ言ってんだ!……【闇爪】!」
俺は影を両手に集中させ、怪物の腕を模した装甲を作り出した。
そして、そのまま秀光に襲いかかるも……
「ふぅ……【聖騎士】、【防魔の大盾】さ!」
ーギィィィィン!
「なっ……防がれた!?」
秀光の前に金色の大盾が出現し、俺の攻撃を防ぎやがった。
いや、俺が言うのもアレだがこの異能、滅茶苦茶強い筈なんだが!?
「ふむ……やはり異能の強さに対して筋力が見合っていないね……筋トレする事をオススメするよ」
「う、煩い!……【顎】!」
「グルァァァァァ!」
俺は影から目の無い怪物の頭部を召喚すると、それを秀光に対してけしかけた。
……が、
「先に聞いておきたいんだけど……この子って殺したら取り返しつかなかったりする?」
「え?……いや、消滅しても普通に俺が無事なら再生可能だが……」
え?
秀光の奴、何を言っているんだ?
しかし、その意味はすぐに理解する事となる。
「それなら遠慮なく行かせて貰うよ。……【悪殺の剣】さ!」
今度は金色の剣を出現させた秀光は、それを自身に向かって来る【顎】に振りかぶり……
ーザシュ!
「グルァ!?」
ーサラサラサラサラ……
「ハァ!?」
秀光はたった一太刀で【顎】を両断してしまった。
いくら会話を挟んだとはいえ、【顎】を一撃で葬り去るなんて……ど、どうなってんだよ!?
「ふむ。……他の者たちなら何も出来ずに負けていただろうけど、僕はそんなに甘くないのさ!」
「……な、何なんだよ……【闇爪】、【顎】!」
「グルァァァァァ!」
再度【闇爪】と【顎】で攻めてみるも……
「【防魔の大盾】、【悪殺の剣】!」
ーギィィィィン!……ザシュ!
「グルァ……」
「何で……何で勝てないんだよ!」
俺の攻撃は尽く防がれ、秀光にダメージは一切入っていなかった。
「何で?……それは君が努力を怠ったからさ!」
気付けば、秀光は完全に俺の懐に入っていた。
「なっ……」
「さて、少し痛むよ?」
ーブンッ!……ドゴッ!
「うぐっ!?」
秀光は俺の腹部に、スマートな動きで蹴りを入れた。
瞬間、俺の胃の内容物が口まで来たのが分かった。
「おや?」
「うげぇぇぇぇぇ!」
ーベチャベチャベチャベチャ!
「……ふむ、やり過ぎてしまったか……」
俺は思わず、その場で吐いてしまった。
その結果、戦闘用スペースの床には俺の吐瀉物が撒き散らされる。
「ハァ……ハァ……い、嫌でも分かっちまうよ……確かに俺は、引きこもってたせいで肉体面が疎かだ……」
「……分かってくれたかい」
「そして秀光、お前がこれまでかなりの努力を積み重ねて来たってのも分かっちまったよ……」
今の蹴りは、異能由来のものじゃねぇ。
かといって、生まれつきの脚力とは思えねぇ。
……多分、かなりの努力を重ねた結果だろうな。
「……そこは気付かないで欲しかったね。……僕は生まれついての天才で、最初から何でも出来たって事にしたいんだから……」
最初はいけ好かねぇナルシストかと思ったが、それは違った。
……秀光は、尋常じゃねぇ量の努力を重ねた末に強大な力を手にしたのだと……
「ははは……やっぱり、あのクソ神は転生させる奴を間違ってやがる……いや、寧ろあいつ的にはこの醜態が見たかったのか?」
「ん?……いったい、何の話だい?」
「秀光には関係ねぇよ。……ただ、自分がいかに小物だったか理解しちまっただけだ……」
ああ、もうこりゃ勝てねぇかもなぁ。
でも……
「お兄様ぁぁぁぁぁぁ!」
「……あの激重ブラコンな可愛い妹の手前、負ける訳には行かねぇんだよ!」
こうなったら、全力の……最終手段を使うしかねぇな。
あ~あ、この技はそもそも使える場所がなくて、まだ試せてねぇんだけどなぁ……
「……良いね、その顔は気に入ったよ」
「ありがとよ。……【禍神顕現】!」
ーゴボゴボゴボゴボゴボ……
俺の影から、黒い泥の様な物が溢れ出した。
直後、俺の意識は闇に包まれた……
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(禍津 影華視点)
これは……マズそうなのです。
何せ……
「グルァァァァァァァァァァァァァァ!」
口が大きく裂け目が無い顔、5mを越える身の丈、鋭い爪が生えた巨大な手、先端が鋭く尖った尻尾……
兄さんの影から顕現し、兄さんを呑み込んだ存在……異能の名前から察するに恐らく禍神というのでしょうが、荒々しい様子の禍神は明らかに制御出来ているとは思えない動きをしていたのですから。
「ふむ、これは少し焚き付け過ぎたかもね……【防魔の大盾】!」
ーブンッ!……ギィィィィン!
兄さんを焚き付けていた秀光という男性の先輩は、冷静に禍神の攻撃を防いでいたのですが……いまいち決め手に欠けるといった印象なのでした。
「お兄様ぁぁぁぁぁぁ!……もう良いですからぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
光華姉さんがそう叫んだのですが、禍神は見向きもしなかったのです。
……これ、どうするのが正解なのです?
そう思っていると……
「これは……僕も本気を出さないとね。……【聖騎士・具現化】!」
ーキラキラキラキラ……
秀光先輩が【聖騎士・具現化】と告げた瞬間、秀光の背後に巨大な金色の鎧騎士が現れたのです。
鎧騎士は自身と同じ金色の大盾と剣を持っていて、身の丈も禍神に並ぶ程のサイズだったのです。
「ふぅ……さて、来ると良いさ!」
「グルァァァァァァァァァァァァァァ!」
禍神は容赦なく、爪による攻撃を巨大聖騎士に仕掛けたのですが……
ーギィィィィン!
禍神の攻撃は、巨大聖騎士の大盾によって簡単に防がれてしまったのです。
「僕の聖騎士に、その攻撃は効かないさ。……いくら異能が優れていても、核となっている本体が弱いと話にならないからね」
そう呟いた秀光先輩は、静かに手を挙げたのです。
……それに連動するかの様に、巨大聖騎士もまた剣を持っている手を挙げ……
「グルァァァァァァァァァァァァァァ!」
「……じゃあ、勝負は僕の勝ちという事で」
ーブンッ!……ザシュ!
「グギャァァァァァァァァァァ!?」
ーサラサラサラサラ……
振り下ろされた巨大聖騎士の剣により、禍神は胴体を袈裟斬りにされて消滅したのでした。
そして巨大聖騎士も姿を消し、その場に残ったのは……
「う、うぅ……」
「やあ……明君、大丈夫かい?」
「な、何とかな……」
「それは良かった」
何事もなかったかの様にたつ秀光先輩と、その場に突っ伏した兄さんなのでした……
ご読了ありがとうございます。
引きこもってたチート級異能力者と、努力して来たチート級異能力者では、後者の方が強いのは当たり前の事でした。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。