39.詩人との決着
もう少ししたらキリの良い所まで行きますが、まだ次の作品に移る気はありません。
(廃ビル付近の物陰、"吟遊詩人"視点)
「ハァ……ハァ……何とか……逃げられたで……ヤンスけど……何だったんで……ヤンスか?」
あの男……
金村 冥堂とかいったでヤンスか?
早速、要警戒人物にしておくでヤンス……
『あ~あ、やらかしちゃったでヤンスね~』
『あの姉妹、今後の計画を考えると味方にしておきたかったでヤンスけど……ま、仕方ないでヤンス……』
『……にしても、冥堂の異能?は本当に何なんでヤンスか~?……案外、嘘だと思ったあの言葉が本当だったりして……』
『いやいや、あり得ないでヤンスよ~』
……他のあっしが好き勝手に喋る中、あっしはずっと考えてたでヤンス。
あっし等は麻薬を売り、金を稼ぎ、そして大事件を起こす……
そのつもりだったんでヤンスが……
「……少し、戦力の見直しが必要でヤンス……」
現状、あっし等が麻薬を売って人脈を広げてるのは半グレ、暴力団関係者、闇金の多重債務者、そして重度の麻薬中毒者でヤンスが……早くも戦力が心もとなくなったでヤンス。
……とはいえ、副座長クラスの身体で充分対処可能っぽいのは不幸中の幸いでヤンシた。
「……とにかく、ここはさっさと退散するに限るでヤンス!……のんびりしてたら、誰かしら追手が……」
そう、あっしが呟いた瞬間だったでヤンス。
「へぇ~……それは大変面倒な事になりそうでございますね~?」
「っ!?……そ、その声はエレジー……ど、どうしてここに居るんでヤンス!?」
あっしの背後から聞こえた声……
それは先程、銀砂が戦闘を開始した筈の相手で……
「そんなの、銀砂を倒したからに決まっているではございませんか。……もう説明するのも面倒でございますし、さっさと仕留めさせて貰うのでございます」
「ま、待っ……」
銀砂を倒した……でヤンスか!?
あ、あり得ないでヤンス!
銀製ナイフがある以上、たかが"No.9"に仕えるメイド程度が勝利を勝ち取るなんて……
に、逃げないと……
"あっし"は無数に居ても、この身体のあっしはあっし1人だけで……
「遅いでございます……【雷拳】でございます!」
ーバチバチバチ……ドゴッ!
「ぐはっ!」
ードサッ……
あっしはエレジーの【雷拳】を背中に受け、地に伏せたでヤンス……
……すると……
『あ~、もう駄目そうでヤンスかね~』
『うん、そうっぽいでヤンス!』
『となると……あれでヤンス?』
『そうするしかないでヤンス』
……他のあっし共が、余計な事を提案し出したでヤンス。
いや、それだけは辞めて欲しいでヤンス……
「いや……考え直すでヤンス……あっしはまだ……やれるでヤ……」
「おやおや?……何が始まったのでございますか?」
エレジーは分かってそうな顔をしながら、あっしを見下ろしていたでヤンス……
この糞メイドが……あっしの邪魔をしたのに……どうしてお前はそんな他人事になれるんでヤンスかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
『『『『『『『『"吟遊詩人"、本人を除く全会一致で除名でヤンス!』』』』』』』』
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ーピキピキピキ……
あっしに除名が言い渡されたのと同時に、あっしの仮面にヒビが入ったでヤンス。
「あれま……これでは情報が得られないではございませんか~。……面倒臭くなるでございますよ~」
「この……糞メイドが……覚えてろ……で……ヤンス……必ず……他の……"あっし"が……お前達を……絶望の……どん底に……」
ーパリン!
遺言を言い切る事すら出来ず、あっしの仮面は壊れたでヤンス……
そして、次第にあっしの意識は無に呑まれて……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(エレジー視点)
「……割れてしまったでございますね……」
銀砂を倒した私は明様や冥堂様の方に向かおうとしたのでございますが、この"吟遊詩人"とやらが廃ビルの外を走っているのを察知して、急いで捕まえに来たのでございます。
……が、肝心の"吟遊詩人"は他の人格から見捨てられたらしく、最終的にその仮面は粉々に割れてしまわれたのでございました。
「ふむ……肉体の方は生きておられるでございますが……期待は薄いでございましょう。……何せ道化仮面の身体は、彼若しくは彼女の熱心な狂信者が肉体を差し出しているのでございますから……」
この話は"異能の夜明け"内でとても有名でございました。
何でも、自身に反目する者を身体にすると低確率で人格ネットワークの内部から崩壊させられる危険を孕んでいるのだとか……
なので、こいつは自身を信奉する者しか身体にはしないらしいのでございます。
「……にしても、人格ネットワークを内部から崩壊でございますか……その方が面倒な手間をかけずに済みそうでございますが……並の人間だと、逆にそのネットワークに呑まれかねないのでございますよね~」
実際、この吟遊詩人らしき女性は信者とはいえ呑まれたのでございましょうし……
「……ああ、そういえば明様も大概マズい事になってた筈でございましたね……命の危険がなかったので放置したのでございますが、ここでマイナス印象を与えるとこの後に予定しているアレに差し支えてしまう気が……」
私はお嬢様より何倍もドライでございますが、それでこの人生における大きな岐路を台無しにするのは駄目でございますし……
ハァ……面倒でございますが、見に行くとするでございますか……
「ふふふ♥️……明様、どうか私を嫌いにならないで欲しいでございますね~」
打算だけとはいえ、私にとっては好都合な男……
ここで逃すのは得策ではございません。
「そうと決まれば、面倒でも行くでございます~」
そうして私は吟遊詩人の女性を肩に担ぎ、明様のもとへと走ったのでございました……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(禍津 明視点)
「グハハハハ!……惜しいなぁ、もし体が動けばお前をボコした後に性的に襲ってたんだが……」
「いきなりどうした!?」
しばらく金世の監視をしていた俺だったが、突然金世から放たれた言葉に思わず反応しちまった。
「グハハハハ!……私達みてぇな戦いに生きる女にとって、男ってのはその程度の存在なんでなぁ!……所詮は子種を持ってるだけの存在、恋愛なんて二の次どころか前提にすらねぇ!」
「ま、マジかよ……」
この世界の女性は、影華やカミラエルみてぇな例外を除けばいかにハイレベルな男とくっ付けるか悩んでる様な奴等ばっかりだと思ってたんだが……
「これに関しちゃ、銀砂や子分共も同意件だぁ。……グハハハハ!……つっても、これまでボコして犯した男はどいつもこいつも表に居られなくなったあらゆる意味で弱い男共でしかねぇ……当然、好ましい子種を持つ奴なんて居なかったなぁ……」
「……だろうな」
この世界は基本的に、男性であれば成功が約束されたも同然の世界だ。
異能、遺伝子、頭脳、技術……そういった何かしらの能力があれば、問答無用で重用され大切に扱われるからである。
そのため、裏社会に居る男性の大半はあらゆる意味で男として終わってる奴等ばかり……
いやまあ、たまに組織の幹部格やボス格に座っている優秀な男性も居るっちゃ居るのだが、そんな男性が犯された日にゃ組織が総員全力で報復して来るので、金世が襲える程度の組織じゃそんな男性居る訳もねぇ。
「……グハハハハ!……でも、お前はなかなか見込みがあったなぁ!……次会ったら今度こそボコして子種いただくからなぁ!」
「俺としちゃ、2度と会いたく……うん、会いたくねぇがな」
「グハハハハ!……そう言うなって……ああ、そういやあのエレジーとかいう女もお前の子種狙ってそうだったがなぁ?」
「……嘘だと言ってくれよ……」
金世から子種は見込みあるとか言われた上に、エレジーさんに狙われてる可能性もあるとか……
俺、こんなモテ方は嫌だぞ?
「グハハハハ!……ま、強く生きるこったぁ!」
「他人事だからって……」
……この時の俺は知らなかった。
この少し後にやって来たエレジーさんから、あんな話を切り出されるなんて……
ご読了ありがとうございます。
エレジーは結構打算的です。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。