38.冥堂の強さと詰めの甘さ
前回に続き、作者の別作品を知らないとノリで読む事になる話です……
(金村 冥堂視点)
あれは数年前の事……
「良い?……冥堂の能力は、風斗の能力と違って俺チャンと司チャンの能力が変な風に混ざり合っちゃってる訳よ」
「は、はぁ……」
……かつて、俺っちは親父から能力の手解きを受けていた。
親父は一見するとチャラチャラしてるが、誰よりも頭が回る賢い男だ。
「寧ろ、冥堂の場合は司チャン要素が強過ぎるとも言えるっしょ。……近付ければ耐性持ち以外は無条件で洗脳出来る俺チャンと違って、"魅せる"行程が必要な所とかモロにそれっしょ!」
「そ、そうだぜ……俺っちは魅せねぇと、相手を洗脳出来ねぇ……」
俺っちの能力は、とんでもなく不便なものだった。
相手を洗脳する前に魅せなきゃならねぇんだから。
「ま、冥堂の歌声と演奏スキルがあれば、そこは最悪何とかなるっしょ。……問題は、洗脳が効かない相手が出て来た時っしょ」
「洗脳が効かない敵?」
「……何も、洗脳耐性持ちの話をしてる訳じゃないっしょ。……冥堂の能力を考えたら、その歌声や演奏に心惹かれない奴だって必ず現れる……」
「それは……」
音楽の好みは千差万別。
全員が全員、俺っちの音楽に魅せられる訳じゃねぇって親父は言ってた。
「だから、攻撃系の能力も伸ばしておくっしょ!」
「ハァ?」
「……司チャンだって、本来は洗脳系だったのに何故か攻撃系主体の能力に発展させれた訳だし?」
「お袋を参考にって……あの人感覚派だろ!?」
お袋は誰よりも格好良い、王子様みたいな男装の麗人だ。
その能力は美しさを兼ね備えつつ、どういう原理で攻撃が放たれてんのかサッパリなもんだったが……
「いやまあ、確かに俺チャンも司チャンの能力に関しては理屈で考えるのを諦めちゃってるけど……同じ様に感覚で掴んで行けば何とかなるっしょ!」
「ま、丸投げかよ!」
「とりま、俺チャンと柔道でもして体を鍛えるっしょ!」
「警察官のジジイが親父に直伝した柔道なんてやってられっか!」
親父は警察一家の出身で、ジジイや伯父貴は真っ当に警察官をしてた。
……そんな中で親父だけは警察官にならなかったが、別に正義感がなかった訳じゃねぇ。
逆に、凡人よりも正義感に燃えてたレベルだ。
「……良いからやるっしょ!」
「嫌だぁぁぁぁぁ!」
……今となっては、これも良い思い出。
俺っちが強くなれたのも、家族から鍛え上げられたからだからな……
……………………
……………
……
…
ージャァァァァァァン!
「センキュ~!」
「「「「「「「いえぇぇぇぇぇい!」」」」」」」
演奏と熱唱を終えた俺っちに、半グレ女子共は熱狂の声を上げた。
ここまで感化させりゃ、無力化としちゃ充分だろ。
……が、まだ1人残ってやがる。
「……ぐぬぬ……」
「さっさと降参してくれねぇか、ベイビ~?」
"吟遊詩人"と名乗った道化は悔しそうに歯噛みしながらも、俺っちに感化されず立ち尽くしていた。
「所詮は麻薬ジャンキーの寄せ集めでヤンスか……詩の良さを理解していない愚人共め……」
「おいおい……確かに歌詞については同意するが、そっちの詩の内容だって大した事ねぇぜ、ベイビ~」
「なっ!?……言ったでヤンスね!」
「そりゃ言うぜ!……金村家最弱の俺っちにここまでされてる時点で、お前は大した奴じゃねぇからな!」
……身も蓋もねぇ事を言うと、俺っちは金村家で最弱だ。
親父みてぇに賢くねぇし、お袋みてぇに格好良く相手を倒せる訳でもねぇ……
風斗の姉貴にも要領の良さで負けてるしな……
「言ったでヤンスね……だったら本気で行かせて貰うでヤンス!」
ーポロロン♪
「おうよ、そう来なくっちゃな!」
ーギュイィィィィィン!
"吟遊詩人"と俺っち、それぞれの楽器の音が鳴り響く。
「嗚呼、その男は酷く震え……」
「その技はもう俺っちに効かねぇぜ、ベイビ~!……【魂の波動】!」
ージャァァァァァァン!……ブワッ!
"吟遊詩人"が詩を歌い始めたのと同時に、俺っちは【魂の波動】という衝撃波を"吟遊詩人"にぶつけた。
……俺っちと"吟遊詩人"の間には大勢の半グレ女子が居たが、俺っちの技は標的以外にゃ当たらねぇから問題じゃなかった。
「くはっ……」
ーダンッ!
"吟遊詩人"は衝撃でぶっ飛び、壁に勢い良くぶつかる。
「……俺っちと違って、そっちの引き出しは限られてんだろ?……ぶっちゃけ、これじゃあ弱い者イジメしてる気分だぜ、ベイビ~」
……"吟遊詩人"の使える技は、さっきから見せてるので全部なんだろう。
取り敢えず、半グレ女子共が使えなくなった今となっちゃ制圧は簡単だ。
「……物体生成に洗脳、おまけに衝撃波でヤンスか……ほんと、何なんでヤンスか?」
"吟遊詩人"が困惑する気持ちも良く分かる。
俺っちがそっちの立場なら、同じ反応をするだろうからな。
「……言っても信じられねぇぜ?」
「何を根拠に……」
「じゃあ聞くが……かつて俺っちの両親が学生の頃、異世界に勇者として召喚されて能力……もといスキルを授かったとか聞いて信じるか?」
「……は?」
「そんで俺っちの能力はあくまでも両親のスキルが上手い感じに遺伝しただけ……なんて嘘みてぇな話、お前は信じるかって聞いてんだ、ベイビ~!」
「……そ、そんなのあり得ないでヤンス!……いくら私が敵だからって、真面目に答える気がないんでヤンスか!?」
ほ~ら、思った通り信じてねぇ。
これだから言う気になれなかったんだよ……
「……全部本当さ、ベイビ~」
「ほ、本当って……そんな小説や漫画みたいな話があり得る訳ないでヤ……」
「ま、信じねぇならそれで良い。……何せ、俺っちはただお前を倒すだけで良いんだからな……っつう訳で俺っちの音楽で潰れちまえ!……【魂の重み】だぜ、ベイビ~!」
ージャガジャガジャガジャガ!……ゴゴゴゴゴ!
「ぐっ!?……まさか、重力操作まで使えるんでヤンスか!?」
俺っちが【魂の重み】と唱えてエレキギターをかき鳴らせば、たちまち"吟遊詩人"に対して過度な重力な付与された。
「……そういや、親父とお袋が初めて出会ったラビリンスも、本体を叩くまで無限に分身体が湧く奴だった上に道化の仮面を被ってたらしいが……多分、こいつ程楽じゃなかったんだろうな……」
ージャガジャガジャガ……ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「ぐっ……ぐふっ……い、いきなり何を言ってるんでヤンスか?」
親父もお袋も凄い人達だ。
今の俺っちはおろか、風斗の姉貴ですらあらゆる面で届かねぇ程には……
そんな2人だからこそ、過去に相対した敵だって凄かった筈なんだ。
「……俺っちはよぉ、これでも親父やお袋に追い付こうと努力して努力して努力して……努力しまくってここまで来てんだよ、ベイビ~!」
ージャガジャガジャガ……ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「だから何でヤンスか!」
……俺っちは、今まで親父とお袋に追い付こうと努力して来た。
何か格好良さそうという理由でロックを始め、何か格好良いという理由でビジュアル系っぽい格好を始めた俺っちは、この見た目の割にビジュアル系ロックについて欠片程も理解してなかった。
それでも、2人に追い付くためにロックを模索して能力の幅を広げ、ここまで強くなったんだ。
「だから何だ、だって?……ベイビ~の異能は半グレ女子共の助けありきな補助タイプ……そんなんで、ここまで努力して来た俺っちを倒せるなんて思うなって事だぜ、ベイビ~!」
ージャガジャガジャガ……ゴゴゴゴゴゴゴ!
「うっ……うぐっ……」
ーピキピキピキ……
「あ?」
俺っちの重力攻撃で身動きがとれねぇ"吟遊詩人"だったが、次第にそいつが立っている床にヒビが入り始めた。
その次の瞬間……
ーピキピキピキ……ガシャァァァァン!
「うわっ!?」
俺っちの重力攻撃に耐え切れなくなった"吟遊詩人"の足元の床が、大きな音を立てて崩れた。
「チッ……視界から消えちまったぜ、ベイビ~」
俺っちの能力は、必中の代わりに標的を視界に入れておく必要がある。
……つまり、俺っち達が居る2階から1階に落ちちまった奴は俺っちの視界……つうか重力攻撃から逃れちまった訳だ。
「ふぅ……ほんと、俺っちは何処まで行っても詰めが甘いぜ、ベイビ~」
こりゃ、そのまま逃げられちまうだろう。
俺っちはそれを理解しつつ、どうエレジー達に言い訳するか考え始めていたのだった……
ご読了ありがとうございます。
冥堂は何だかんだ甘い人間です。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。