30.事態は動く
ちょっとずつ進めます。
(禍津 明視点)
浮浪者の女から聞き込みをした後も、俺達は聞き込みを続けた。
ただ、得られる情報はどれも"獄落姉妹"に関する情報ばかりで、肝心の道化仮面に関する情報は皆無だった。
「……本当に、このまま続けて大丈夫なのか?」
時刻が12時を指した頃、俺はそう呟いた。
「面倒ではございますが、間違いではございませんよ~。……この調子で続けていれば、いずれ幸福は向こうからやって来る筈でございますから~」
「何だそりゃ……」
楽観的なエレジーさんの言葉を聞く度、俺の中にエレジーさんへの不信感を積み重なっていた。
と、そんな時だった。
「そんな事より明様……昼食はどうなされるか、お考えになられているのでございますか~?」
「いや、それは……」
「でしたら、そこのラーメン屋などお薦めでございますよ~?」
「……ニンニク、苦手なんだよな?」
「ラーメンに入っている程度であれば大丈夫でございますよ~」
「なら良いんだが……」
……そんなこんなで、俺達はラーメン屋で軽く昼食を済ませる事になった。
なお……
「ぶふぉっ!?……い、今時のラーメンってこんなにニンニクが入ってるんでございますか~!?」
「大丈夫なんじゃなかったのか?」
「これは予想外でございますよ~!」
……先程まで、ラーメンに入っている程度のニンニクであれば大丈夫だと言っていたエレジーさんは、その発言とは裏腹にニンニクに悶絶していたのだった……
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(エレジー視点)
……あれ、ここは……
ーごくん……ごくん
「ふふ、この血も美味しいな……」
「お嬢様、普通に怖いでございます……」
……ああ、また私は過去を思い出してたんでございますか~。
……にしてもラーメン屋のニンニク、知らない内に結構パンチが強くなっていたのでございますね~……
それでこの様な記憶を思い出すのも、皮肉でございますが……
「何だ?……別に直接飲んでいる訳ではないのだからそこまで気にせずとも……」
「寧ろ、メイドから少しずつ血液を分けて貰って、グラスに入れて飲んでる現状の方が逆に怖いでございますよ~?」
……これは私が塔に派遣されて数日が経過した頃の記憶でございましたか……
この時点で血液からしか栄養を摂取出来ない体だったお嬢様は、塔に左遷されていたメイドから少しずつ血液を分けて貰い、栄養の摂取を行っていたのでございます。
「そうか……む?……そういえば、エレジーは職務に取りかからないのか?……フレイヤやアイシャを始めとしたこの塔のメイド達は、今も熱心に職務に取り組んでいる筈だが?」
「え~っと、それはその~……働くのは面倒臭いでございますから~」
嘘でございました。
本当は、お嬢様の監視をしていたのでございます。
……とはいえ、怠け癖自体は生来のものであったからか、疑われる事はなかったのでございますが。
「……本当に、エレジーは全然仕事をしないな……」
「チクチクしないで欲しいでございますね。……面倒なものは面倒なんでございますよ~」
「……それなら、私とチェスで遊ばないか?……他のメイド達は勝負しても私を勝たせるばかりで、あまり面白くないのだ」
「そりゃ主人を負かす訳には行かないでございますからね~。……もし負かして癇癪を起こされでもしたら面倒でございますし~」
「主人、か……所詮、私は塔に幽閉されているだけの忌み子だというのにな……」
「お嬢様……」
この時点で私は、国王の病がお嬢様と無関係であると判断したのでございます。
理由は単純、ただの勘でございます。
「さて……辛気臭い話はここまでにして、早速チェスをするか?」
「良いでございますね~。……結構面倒ではございますが、私は手を抜いたりしないでございますよ~?」
「望むところだ」
それから私とお嬢様は、よくチェスで勝負をするようになったのでございます。
ちなみに、お嬢様は意外とチェスがお強く、今となっても私の勝率は半々というレベルだったのでございました。
……って、そんな事はどうでも良くて……
そろそろ、目を覚ましたいんでございますが……
……………………
……………
……
…
「……さん……エレ……さん……エレジーさん!」
「はひっ!?」
「……エレジーさん、ラーメンを全部食べ切った途端に気絶したから焦ったぞ?」
「も、申し訳ないのでございます……」
どうにか戻って来れたので良かったでございますが、まさか気を失うとは……
今後ニンニク入りラーメンを食べるのは控えるべきでございますね……
私はそう反省しながら、また聞き込み調査に戻るのでございました……
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(禍津 明視点)
ラーメンを食べ終えた後、俺達は再度聞き込みを続けたのだが、これといった収穫もないまま夕方になってしまった。
しかし、ここで事態は急展開を迎える。
「……おうおう、姐さん達を嗅ぎ回ってる野良犬ってのはお前等の事かぁ?」
「っ!?」
「おっと、ようやくお出ましでございますね~?……面倒な聞き込み調査をし続けた甲斐があったのでございます~」
俺達の前に現れたのは、何十人もの半グレらしき女性で構成された集団だった。
「あぁ?……何を言ってんだぁ?」
「いえ、何でもございません」
半グレ共は俺達を取り囲む様に立ってやがる。
……逃げようと思えば逃げられそうな戦力差だが、ここは敢えて逃げずに留まる。
「……お、俺達をどうするつもりだ?」
「勿論、捕まえて姐さんの前に連れてってやるよ!」
「や、辞めろ!」
「辞めないなぁ!」
それっぽく反応すれば、半グレ共は自分達が優位なのだと勘違いする。
「……明様、抵抗はお勧めしないでございますよ?」
「分かってる……ここはこいつ等に従うか」
諦めた感を出しているが、これは既定路線だ。
……エレジーさんから事前に何か言われた訳じゃねぇが、目的と合わせて考えればここから何をするかは察する事が出来る。
「じゃ……ちょっくらボコしてから行くかぁ!」
「いやいや、姐さん達からは無傷で連れて来いって言われてんだろ!……全力の相手を潰すのが、姐さん達の趣味なんだから……」
「そ、そうだったそうだった……うっかりしてた」
「頼むぞ?……この2人ボコして怒られるのお前だけじゃないんだからな?」
てっきり、ボコボコにされてから連れて行かれるのかと思ってたが……"姐さん達"の正格のお陰で余計な傷を負わずに済んだな。
とはいえ……
「……エレジーさん、もしかしてここまで折り込み済みだったりするか?」
「ん?……一応、賭けではあったのでございますけどね~?……でもまぁ、普通に考えて何処の誰とも知らない相手に嗅ぎ回られてたら、遅かれ早かれ行動に移すだろうと確信していたのは本当でございますがね」
……エレジーさんは賭けだと言いつつも、ほぼこうなる事を確信していた口振りだ。
となると、聞き込み調査は情報収集とは別にこのためにもやっていたって事だったのか……
「おいテメェ等!……さっさと姐さん達の所に連れてってやるから、覚悟しとけよ!」
「……明様、お覚悟は決まったでございますか?」
「ああ、勿論だ」
エレジーさんの言葉から、間延びした感じがなくなった。
つまり、ここからはお遊びが通じる相手じゃねぇって事だな……
「……では、向かうとするでございますか」
「ハァ……何でこんな事をしてんだか……」
俺達はそんな事を呟きながら、半グレ共に連行されて何処かへと向かわされた。
……何故、俺はこんな事をしているのかと疑問に思わされたが……まあ、考えるだけ無駄だな……
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(俯瞰視点)
とある廃ビルの一室にて……
「グハハハハ!……私達を嗅ぎ回ってる怖いもの知らず共って、いったいどんな奴等なんだろうなぁ?」
「ギヒャヒャヒャヒャ!……ま、私達の足元にも及ばねぇだろうなぁ!」
自分達が負けるとは欠片も思っていなさそうな2人の女性が、そんな会話をしていた。
と、そんな2人に対し……
「ハァ……そうやって何でも楽観視するのも駄目でヤンスよ?」
……吟遊詩人の様な服装をし、道化の仮面を被った女性がそう苦言を呈した。
「煩いなぁ……お前、潰したって良いんだぞ?」
「姉貴の言う通りだ!……確かに私達はお前から武器や麻薬を買ってるが、あんまり私達を支配しようってんなら容赦は……」
「……普通の忠告でヤンスよ。……あっしとしても、ここで顧客を失うのは痛手でヤンスから……」
「ふん!……どうだかなぁ……」
忠告をする道化の女と、その忠告を一蹴する2人の女……
そんな3人が、この直後に明達の壁として立ち塞がる事になるのだが……そんな事、この時点の3人は知る由もなかったのだった……
ご読了ありがとうございます。
ハァ……アイデアが行き詰まる……
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。