29.エレジーの秘密と聞き込み調査
少しずつ、エレジーの過去を書いていきます。
(エレジー視点)
あれは、いつの話だったでございましょうかね~……
「エレジー、貴女に任務を与えます」
「ふあぁ~……またでございますか~?」
当時の私は、とある任務を与えられていたのでございます。
……その任務を与えたのは、当時の私を育て上げた暗殺メイド部隊の長……レドメスという名の老メイドでございました。
「ハァ……この度、貴女に与える任務はあの忌み子の監視です」
「何でまた、こんなタイミングでそんな面倒な事をするのでございますか~?」
「こんなタイミングだからです!……先日、国王陛下に病らしき兆候が見つかりました。……ですが、あれはきっと呪いでしょう。……あの忌み子が、国王陛下を呪ったに違いないのです!」
……当時としては珍しくなかったとはいえ、このレドメスという老メイドはとても迷信深い性格をしていたのでございます。
勿論、暗殺メイドの長として、情報を精査する上では迷信を持ち出さない等の分別は出来る性格だったのでございますが、国王に病らしき兆候が見つかった途端にこうなるのはやはり愚かな人でございました。
「……そんな面倒な事をしたって根拠は何でございますか~?」
「根拠?……あの忌み子の異能なら呪いだって使えるでしょうし、あんな仕打ちを受けているのですから呪っても不思議ではありません!……しかし、現時点では確固たる証拠もなければ、あの忌み子を暗殺出来る手段があるかすら疑わしいという……」
「まあ、姫様の異能はとんでもなく面倒臭いでございますしね~……」
「姫様?……あの忌み子は王女ではありません!……非公式の場とはいえ、その失言は無視出来ませんよ!」
お嬢様は姫……王女だと認められていなかったのでございます。
生まれた当初こそ、その肌の白さは病か突然変異だと思われていたらしいのでございますが、異能が分かった瞬間に公的には病死扱いとなり、塔に幽閉されてしまったのでございます。
曰く、王家から生まれた悪魔……忌み子だとして……
「も、申し訳ございません……ですが、それなら私に何を……」
「……あの忌み子を監視し、呪いの証拠か殺せる弱点を探るのです。……幸い、貴女は他のメイドに知られていない私の最高傑作……左遷された他の落ちこぼれメイドに紛れ込ませる事など簡単です」
「その任務、面倒ではございますが確実に遂行いたします……」
「国の存亡のため……頼みましたよ?」
こうして、私はお嬢様が幽閉されている塔へと派遣される事になったのでございました。
そして、この任務が……私の今後を大きく左右するのでございました……
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(禍津 明視点)
「………………………」
「エレジーさん?……路地裏、着いたぞ?」
「あっ……そうでございますね~」
「……エレジーさん、何を考えてたんだ?」
タピオカ店を出て路地裏へとやって来た俺たちだったが、何故かエレジーさんが心ここにあらずといった状態になっていた。
「少し、昔を思い出していたのでございます~。……今となっては私しか知らない昔の話を……」
「……そ、そうなのか……」
エレジーさん、本当にマイペースだな……
ただまあ、最悪の場合は俺だけでも対処可能だが。
と、その時……
「あぁ?……あんた等、何者だぁ?」
「早速お出ましか……」
俺達の目の前に、1人の不良が現れた。
「失礼して申し訳ございません~。……私達、少しお話を聞きたくて……」
「話だぁ?……この私に何を……」
「この周辺で、道化の仮面を被った不審者を見たりは……」
「……あぁ、知ってるぜ。……もっとも、無料では言えないけどなぁ!」
「なっ……やっぱりそうなるか……」
不良は道化の仮面を被った不審者を知っているとはしつつ、見返りに情報料を求めて来やがった。
その直後……
「へぇ~。……ちょっと面倒でございますが、ボコボコにされたいのでございますね~?」
ーぞわっ……
「「っ!?」」
……エレジーさんは静かに、背筋に悪寒が走る程の殺気を不良にぶつけた。
すると案の定……
「や、やっぱ無料で教えてやる!……そいつはリラとかいう楽器を持った吟遊詩人みてぇな服の女だったぜ!」
「リラ……竪琴の一種か……」
「吟遊詩人みたいな道化……ミスマッチが過ぎると思うのでございますが~……」
「私もそう思ったが、普通に不気味に感じて逃げたからそれ以上は知らねぇんだ。……他の情報なら、向こうにある橋の下に住んでる浮浪者が知ってるかもな」
「そうでございますか~……」
結局、その不良からはそれ以上の情報は得られなかった。
……にしても、リラを持った吟遊詩人みてぇな服装をして道化の仮面を被った女って……
確かに怖いとしか言えねぇな。
「では、向こうにあるという橋の下に向かうとするのでございます~」
「……何というか、毎度敬語が変な事になってる気がするのは気のせいか?」
「日本語は不慣れなんでございますよ~」
「それにしては上手い気もするが……まあ、気にする程でもねぇか」
そうして俺達は、次なる目的者候補のもとへと向かった。
そうして十数分後……
「ぶへへへへ……お、良い男が居るじゃ……」
「しばくのは面倒でございますが、明様は渡さないでございますよ~?」
ーゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
「っ!?……も、申し訳ねぇ……ぶへへ……」
橋の下に到着した俺達を待っていたのは、全身が汚れた中年の浮浪者女性だった。
……が、俺を狙うかの様な発言をした直後にエレジーさんの殺気を食らい、即座に態度を変えた。
「さてと……貴女に聞きたい事がございまして~」
「ぶへへ……何だい?」
「吟遊詩人の様な道化の女について知らないでございま……」
「おお、知ってる知ってる!……ちょっと前の深夜にこの近くを通ってな?……見た目が不気味なんで立ち去るのを待ってたんだが、あれを追ってるなら諦めるのを進めるぜ……ぶへへ……」
「どうしてでございますか~?」
浮浪者の女は、吟遊詩人の道化を諦めるべきだと言った。
その理由は……
「その道化と一緒に居た奴等もヤバい奴等でな?……そいつ等も少し前に他所から入って来たんだが、何でも前の町で"獄落姉妹"って呼ばれて恐れられてた凶悪な半グレ姉妹なんだとか……ぶへへ……」
「ご、"ごくらくしまい"?」
「そ~だ!……地獄の"獄"に、没落の"落"って書くんだとよ!……ぶへへ……」
"獄落姉妹"……
吟遊詩人の道化と行動を共にしてやがった、凶悪な半グレの姉妹らしいが……
いったい、どんな奴等なんだ?
「噂はどんなものだったのでございますか~?」
「ん?……何でも傷害、強盗、麻薬に強姦……挙げ句の果てには殺人まで犯した札付きの悪だって噂だ……ぶへへ……」
「ふむ……ですが、それだけでは普通の犯罪者と何も変わらないでございますよ~?」
「いや、充分変わるだろ……」
傷害、強盗、麻薬に強姦……その上に殺人まで犯してる可能性が高い奴なんて、そうそう見つからねぇと思うが……
「ん~……何というか、そうだけどそうじゃねぇって言うか……あの姉妹、姉はゴリラみてぇなゴリマッチョで、妹はチンパンジーみてぇな細マッチョって感じで強そうなんだよ……ぶへへ……」
「……ゴリラは分かるとして、何でチンパンジーを例えにしたんだ?」
「ぶへへ……知らねぇのか?……成体のチンパンジーって結構筋肉ある上に狂暴なんだぞ?……逆に、ゴリラは見た目の割に大人しくて……」
「ゴリラやチンパンジーの雑学を聞きてぇ訳じゃねぇんだが……」
とにかく、その"獄落姉妹"とやらが強そうな相手なのは分かったが……それでも半グレでしかねぇ。
あんまり俺やエレジーさんが苦戦する相手でもねぇだろう。
「……この方から得られる情報はこれ位でございますか~。……あ~、面倒臭いでございます……」
「何というか、いまいちゴールまでの道のりが遠く感じるな……」
その後、俺達は様々な相手から情報を入手し、調査を続けて行った。
……が、"獄落姉妹"をただの半グレだと侮っていた事を後悔する事になるとは、この時の俺は考えもしていなかった……
ご読了ありがとうございます。
エレジーだけは落ちこぼれメイドではありませんが、周囲にはそうだと言っています。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。