28.エレジーの忠義
なかなか話が進みません……
(禍津 明視点)
ーごくごくごく……もちゅもちゅもちゅ
「ぷは~っ!……美味いでございますね~」
「……さっきから思ってたんだが、吸血鬼なのに血液以外も飲み食い出来るんだな?」
タピオカを飲み干したエレジーさんを見て、俺はそう質問した。
「え?……いやまあ、栄養は血液からしか摂取出来ないでございますが、飲み食いするだけなら普通の飲食物でも可能でございますからね~」
「そ、そうなのか」
逆に言えば、栄養は血液からしか摂取出来ないと……
結構不便だな……
「ま~、その栄養摂取も最悪数年に1度でも問題ございませんので、あんまり不便でもございませんが~」
「何だそりゃ!?」
コスパが良いってもんじゃねぇぞ……
本当に、カミラエルが味方で良かったと心から思う。
「ふふふ、良い反応をくれるでございますね~。……ま、諸々が不便なのは事実でございますから、誤解はしないで欲しいでございます」
「そ、そうだな……」
吸血鬼ってのは、無敵な要素も多いが弱点も多いと聞く。
例えば、日光に当たれねぇってのが最たる例だろう。
「お嬢様が吸血鬼の弱点を殆んど無効化しておられるので誤解されがちでございますが、私共は普通に弱点が据え置きでございます~。……一応、お嬢様が生きておられれば不死身ではございますが……その弱点も完全無効化とまではいかないのでございますよ~」
「……というと?」
「一例として、日光に当たれば一時的に灰になってしまうのでございます~。……他にもニンニクや特殊な十字架も苦手でございますし~」
「そこはそのまんまなんだな……」
死なねぇだけで、無力化はされちまう。
それが、カミラエルに仕えるメイド達の弱点か。
「その点では、今日が曇りで助かったのでございます~。……晴れていたら、日傘を差して目立つ羽目になっていたのでございますから……」
「俺を連れ歩く事に比べりゃ誤差だと思うがな?」
「それはまぁ……そうなのでございますが~……」
「……本当に、その判断だけは面倒臭がりなエレジーさんらしくねぇと思うぞ」
マジで、何で俺を連れて来たんだか……
目立つのが分からねぇかな……
「うぅ……そ、それはそうと面倒でございますが1つ報告しておきたい事がございます~」
「……話、逸らしたな……」
「わ、悪かったでございますね~。……じゃなくて、報告でございますが……私達、尾行されてるでございます~」
「えっ……」
尾行?
まさか、調査先の……道化仮面?とかいう奴にバレたのか!?
「あっ……心配せずとも、尾行して来ている相手は敵ではございませんよ~。……恐らく、ラヴィ様が差し向けた監視役でございましょう。……本当、面倒でございますね~」
「ラヴィ校長が差し向けた監視役?」
どうして……って、考えるまでもねぇか。
「本来、お嬢様や私共は元テロ組織の一員……面倒臭いでございますが、監視対象にされていない方がおかしいのでございますよ~?」
「まあ、そうでもなきゃ無罪放免って訳には行かねぇよな……」
「……ただ、相手から少し異質な感じがするのは気になるのでございますが……多分考えても答えは出ないし面倒臭いので、深く考えるのは辞めるのでございます~」
「それで良いのか……」
何というか、エレジーさんって話せば話す程に残念系美人って感じだな……
襲撃を受けた初対面時は、もっとこう淡々と命令をこなす冷徹系に見えたんだがな……
そう、内心で考えていると……
「……私はお嬢様の指示の範囲内では尽力いたしますが、その範囲外だとこんなものでございますよ~?」
「っ!?……心、読んだのか?」
「まっさか~。……ただ、その目を見れば素人でも何となく分かるでございますよ~」
「そんなに分かりやすかったか……」
……面倒臭がりで怠け者なエレジーさんだが、この辺は長く生きている実力者って感じがするな……
「今回お嬢様から下された命令は、道化仮面に対する調査……ラヴィ様の差し向けた監視役についてはどうでも良いのでございます~」
「一理ある……のか?」
「ま、他のメイド共であればそこも考えるのでございましょうが、私は面倒なのが大嫌いでございますからね~……お嬢様からの命令以外の仕事はしない主義なのでございますよ~」
「何となく、エレジーさんの事が分かって来た気がするな……」
主人の命令以外の事はしたくない、面倒臭がりな怠け者……
何なら主人の命令でも日頃の仕事はサボりまくるっていう矛盾した行動も取ってやがるので、行動する基準がいまいち分からねぇが……
「……日頃の仕事は私以外がやっても回るのでございますから、わざわざ私が面倒な仕事をする必要もございませんよね~?」
「だからナチュラルに心を読むな!……って、主人の命令にそんな反応で良いのかよ!?」
「生憎、私は他のメイド程お嬢様に忠誠は誓っていないのでございますよ~。……あくまでも、お嬢様は私の命より大切な親友というだけで……」
「ゴッリゴリに重い感情は抱いてんだな……」
忠誠ではなく友情……
普段は下に付いて忠誠を誓っているに振る舞っていても、内心では友人として仕えてるって訳か。
「もっとも、こんな不敬な事はお嬢様や他のメイド共に言えないでございますから、未だに表面上は忠誠を誓っているって事にしているのでございます。……多分、お嬢様には既に見抜かれてるのでございましょうが……」
エレジーさんの考えも分からなくもない。
ただ……
「……俺は、それも1つの忠誠の形だと思うぞ?」
「え?」
エレジーさんは忠誠じゃねぇと言うが、それも立派な忠誠の形だ。
「エレジーさんはカミラエルを大切に思ってて、そのためなら何だって尽力するんだろ?……まあ、よくサボっているのは大きなマイナスポイントだが……」
「それでも、主人であるお嬢様を友人などという対等な関係として見るなんて~……」
「だとしても、主人を上に立ててるんなら問題はねぇ筈だ」
エレジーさんにしてみれば、臣下が主人を友人と思っているなど忠臣失格な考えなのかもしれねぇが、主人と臣下が友人関係だったなんて例は山程存在する。
それを受け入れられず、自身は他のメイド程の忠誠を誓っていねぇと考える辺り……下手すりゃ1番拗らせてる可能性すらあり得る位だ。
……他のメイドの事が何も分からねぇので、もっと拗らせてる奴が居る可能性もあるが。
「で、ですが……私は面倒臭がりで、怠け者で、お嬢様をいつも困らせていて~……」
「そこは改善すべきだが……いくらエレジーさんがサボり魔だからって、こんな調査に駆り出す程度には頼りにされてる訳だろ?……何より、普段からメイド達の司令塔的なポジションを任せられてる訳で……」
「それは実力の高さ故でございます~。……忠誠の高さは関係な……」
「カミラエルが忠誠心のねぇ奴に、そんな役割を任せると思うか?……俺はカミラエルについて碌に知らねぇし、カミラエルに仕えるメイド達についても同じレベルで知らねぇ。……でも、エレジーさんを含めたメイド全員に忠誠を誓われてるんなら、きっと悪い主人じゃないんだろ?」
「うっ……」
きっと、カミラエルはエレジーさんの内心に気付いてやがる。
エレジーさんですら俺の考えを読めたんだから、エレジーさんの主人であるカミラエルが付き合いの長いエレジーさんの考えを読めねぇ筈がねぇからだ。
「だから何だって話でもねぇが。……エレジーさんは自己肯定感が低い訳でもなけりゃ、その事に負い目を感じてる訳でもねぇからな。……ただ、それも忠誠の一種だと、言っておきたかっただけだ」
「そうでございますね……ふふ、ここで明様の性格を見定めるつもりでございましたが、これなら問題なさそうでございますね~」
ーじゅるり
「ん?……何で俺を見て舌舐めずりした?……エレジーさん、何を考えて……」
何故かエレジーさんが舌舐めずりをしたのを見て、俺は背筋に悪寒が走るのを感じた。
「さて、お楽しみはここまでにして調査開始でございますよ~。……まずは近くの路地裏で不良や浮浪者、そして運が良ければ半グレや暴力団関係者なんかに聞き込みをするのでございます~」
「え?……それ本当に俺大丈夫?」
「面倒ではございますが、これもお嬢様から受けた命令の範囲内でございますし~……何より実力で脅せば済む分、そこまで面倒な仕事ではございませんよ~」
「き、基準が狂ってやがる……」
こうして俺は、エレジーさんに連れられてタピオカ店を出て路地裏へと行く羽目になった。
……ただ、何故かエレジーさんが魅力的に見えて始めて来たのは、自分でもチョロいなと思うのだった……
ご読了ありがとうございます。
実際、エレジーのそれは確かに忠誠なんですが、本人が友情を感じてるばかりに拗れています。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。