27.エレジーとの調査開始
エレジーをいかに他のメイドと差別化するか……
それが問題です。
(前話から更に数日後の土曜日、禍津 明視点)
「さて、今日も今日で暇だな……」
光華もアヤノも体育祭に向けた特訓で会えない中、俺は1人でぶらついていた。
普段から校内に建つ寮で暮らしているため、休日も学校の外に出る事はあまりねぇ。
なので必然的に、学校の敷地内を目的もなく歩いていたのだが……
「おや?……そこに居らっしゃるのは明様ではございませんか~」
「うげっ……エレジーさんか」
偶然にも、エレジーさんと出会っちまった。
「"うげっ"とは何でございますか~?……まあ、面倒臭いので深くは掘り下げないでございますが……」
「……本当に面倒臭がりだな……」
思えば、俺が知っている限りでエレジーさんが真面目に働いてたのって初対面の襲撃時ぐらいで、それ以降は碌な記憶がねぇな……
と、そんな事を考えてると……
「……そういえば、明様って今日は暇でございますか~?」
「ん?……ひ、暇じゃねぇが?」
本当は暇だが、ここで暇と答えたら十中八九面倒事に巻き込まれる気がするので誤魔化す。
……が、エレジーさんには見抜かれたらしく……
「うん、暇なんでございますね~?」
「いや、そんな事は……」
「そういう面倒な言い訳は要らないでございますから、今日1日私に付き合って貰うでございます~」
「問答無用かよ!」
結局エレジーさんの目を誤魔化す事が出来なかった俺は、そのままエレジーさんに引っ張られる事しか出来なかった。
……まあ、暇だったし付き合ってやるか……
そして十数分後……
「さて……変装もバッチリでございますし、何処からどう見てもただのカップルでございます~」
「そ、そうだな……」
あれからの道中でエレジーさんの事情を聞いた俺としては、本気で帰りてぇって思った。
しかし、エレジーさんがそれを許さなかった。
……ガチでバトルすれば何とかなったかもしれないものの、そこまでやるメリットもないのでそのまま一緒に来た訳だが……
「かなり面倒でございましたが、これもまた一興でございますね~」
「……ほんと、服装が変われば印象も変わるってのは本当なんだな……」
今のエレジーさんは薄手の黒いパーカーに黒のズボンという何処かサブカルっぽさを感じさせる服装をし、頭には黒いキャップ帽を被っていた。
……普段のクラシカルメイドな服装も良いが、こちらはこちらでなかなか良いものだ。
「ふふ……このまま私に惚れても宜しいのでございますよ~?」
「……その心は?」
「お嬢様に義姉面をしたいからでございますけど~?……まあ、本当に惚れられても大変面倒でございますが~……」
「……本っ当にエレジーさんは……」
襲撃時は気怠そうにしながらも淡々と命令をこなす系のメイドかと思っていたが、今となってはただの面倒臭がりにしか見えないな……
何処までも、メイドという職業には向いてねぇんだろう。
「……ここだけの話、私だって少し前まではこうではなかったのでございますよ~?……お嬢様や他のメイド共々、一般人も寄り付かない廃墟を拠点としていた頃はここまで怠ける余裕なんてなかったのでございますから……」
「……それもそうか……」
つまり、カミラエルが国立異能力専門高校に編入して生活に余裕が出来た結果、自由に怠けられる様になったのだと……
終わってるな……
「……とはいえ、その結果がこのザマでございますからね~。……他のメイド共は学校の警備を手伝っていたりするのに、私だけがサボっていた訳でございますし……」
「ああ、そういや今はカミラエルのメイドも学校の警備に加わってるんだったか……」
現在、カミラエルのメイド達は国立異能専門高校の警備に協力している。
完全にカミラエルやメイド達を信頼しても良いのかは分からねぇが、この協力自体はとても心強い。
……当のカミラエルが影華に惚れてるので、疑う必要はねぇのかもしれねぇが……
「ま、こんな話は終わりにして早く行くとするでございますよ~。……出来る限り、カップルっぽく見える様にするでございます~」
「……その件なんだが、俺は軽い変装だけで良かったのか?」
俺がしている変装は、服装を変えて伊達眼鏡とマスクを付けただけの軽いものだ。
……エレジーさんは今の服装でも目立たねぇのかもしれねぇが、俺は男ってだけで結構目立つぞ?
「う~ん……明様を女装させるのも考えはしたのでございますが、彩ノ進様とは違って男らしい体型の明様は逆に目立つ結果にしかならないのでございます~」
「……考えはしたのか……」
……この世界では、外出時だけ女装して性別を隠す男性も少なくはねぇ。
そもそも、男女比が1:9というのは全ての年齢を総合した時の割合だ。
近年はどんどん女性比率が大きくなっており、俺達の世代に限定すれば男性が数十人に1人の割合になっているのだとか……
そのため、俺みてぇな若い男はそれだけで目立ってしまう訳だ。
「ハァ~……やはり、1人で調査するべきでございましたかね~?」
「当たり前の事を言うな」
「酷いでございますね~。……あ、あそこでタピオカが売られてるでございます~……まだ生き残ってるタピオカ店が有ったんでございますね~」
「……先が思いやられるな……」
カミラエルは、どうしてエレジーさんに調査を任せたんだか……
俺はカミラエルの判断を疑いつつ、この世界における流行が廃れてもしぶとく生き残っていたタピオカ店にエレジーさんと共に入るのだった……
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(金村 冥堂視点)
「……おいベイビ~、あいつ等タピオカ店に入ってったぞ?」
『何じゃと?……まだ生き残りが居ったのか……』
俺っちは今、ラヴィに頼まれて明って奴とエレジーって奴の監視をしながら、ラヴィと電話で話していた。
……って、たかがタピオカ店で生き残りって……
「……にしても、こうして監視なんかする必要あるのかい、ベイビ~?」
『当然じゃろ。……エレジーは未だ、監視対象に指定されておる者の1人なのじゃからのう……』
「じゃ、俺っちがやる意味は?……あの武音子って奴に頼めば良かったじゃねぇか、ベイビ~?」
『武音子も未だ監視対象のままじゃわい!……監視対象に監視役させる馬鹿が何処に居るんじゃ!』
うおぉ……
ややこしい事になってるな~。
「ハァ……で、あいつ等が動いてる先で何かトラブルが起こるってのはマジなのか、ベイビ~?」
『マジじゃよ!……少なくとも、カミラエルの奴はワシが聞いておるのを知っててあんな事を話したんじゃろうからなぁ……』
……国立異能力専門高校の敷地内において、ラヴィが覗けねぇ場所はねぇ。
普段は生徒のプライバシーを守るためにそんな事はしてねぇが、監視対象のカミラエル一味に対してはその限りじゃねぇ……らしいぜ。
「……とはいえ、あの明って奴も中途半端なモテ方してるなぁ、ベイビ~?」
『そうじゃのう。……未だに明に本気で惚れておるのが光華と彩ノ進……明の実妹と女装男子だけなのじゃから……』
難儀してるなぁ……
少なくとも俺っちならノーサンキューな状況だぜ。
「んで、今度は怠け者な吸血鬼メイドってか?……また極端な相手に行ったんだなぁ、ベイビ~」
『まだ分からんがのう。……今回は偶然出会っただけじゃし……』
「い~や……あの2人は確実にそういう流れになると予想するぜ、ベイビ~。……俺っちの両親の友人にも、ハーレムを築いてる男が居るんでな……」
『……何が似ておるのかは知らんが、流石にあのメイドとは……』
ハァ……これだから……
見てりゃ分かる、明はエレジーを悪くねぇと思い始めてる筈だからなぁ……
「さてと……それじゃ監視を続けるか、ベイビ~」
『……本当に大丈夫かのう……』
そうして俺っちは2人の監視を滞りなく続行した。
……いや本当、俺っちは何してるんだろうなぁ……
ご読了ありがとうございます。
明&エレジーwith冥堂による秘密調査という名目のデート、開始です。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。