25.近付く体育祭と怠け者メイド
……元々、次の攻略ヒロインは写美にするつもりでしてが、違うヒロインを差し込む事にしました。
(禍津 明視点)
影華との夜の密談から数日後、放課後前のHRにて……
「さァ~て、そろそろ体育祭の時期になるがァ……全員、体は仕上げてるかァ~?」
「「「「「「勿論!」」」」」」
「返事が良いなァ。……ま、体育祭は女子が男子に良いところを見せる絶好の機会だからなァ……こうなって当然かァ……」
「「「「「「その通り!」」」」」」
体育祭……
前世じゃそれ以上でも以下でもない、普通のイベントでしかなかったが、この貞操観念逆転異能世界じゃ少し事情が違う。
この世界における体育祭は、女子が男子に自身の身体能力や異能を披露する絶好の機会であり、この時期になると女子生徒は誰よりも活躍して男子の視線を集めようと躍起になるのだ。
……それこそ、影華の様な男子に全く興味がない女子生徒以外は……
加えて、今年は女子生徒だけが躍起になっている訳じゃなく……
「ふむ、ここで僕が活躍すれば……影華さんからの好感度も少しはマシになるかもしれないね……」
「ボクだって……今回は明を骨抜きにするために頑張っちゃうんだから!」
……男子生徒である秀光とアヤノも、体育祭に対してやる気満々になっていた。
「……この調子じゃ、光華もやる気に満ち溢れてそうだな……というか、また俺がロックオンされちまいそうだ……」
普通なら嬉しいんだろうが、俺に群がって来る女子生徒は殆んどが"俺"を見ちゃいねぇ。
大抵は、秀光の代わり……代用品だ。
だからこそ、"俺"を見てくれる光華やアヤノの事は大好きなんだがな。
「あァ~……まァ、全員頑張れやァ」
「「「「「「頑張ります!」」」」」」
武音子先生ですらドン引きする程の熱量を上げる女子生徒達の様子を見る限り、また俺を狙う奴が現れてもおかしくないな……
「……取り敢えず、体育祭は来週だァ。……それまでに練習し過ぎて、体を壊すんじゃねぇぞ!」
「「「「「「分かっています!」」」」」」
来週、か……
……ハァ、今から体育祭が憂鬱だな……
その後、HRが終わった放課後……
「お兄様、大変申し訳ございませんが来週の体育祭が終わるまでデートはお預けにさせてください!……完璧な活躍をしたいもので……」
「あ、ボクも体育祭まで特訓に専念したいかな……」
「それなら僕も、影華さんに良いところを見せるためにも特訓しておこうかな。……カミラエルさんに負けるのも嫌だしね?」
「ハァ?……私だって、お前に負けず絶対に影華に良いところ見せてやるザマス!」
「別に、アタイは新聞部として体育祭当日も学校新聞用の写真を撮るつもりなんすけど……それはそれとして皆さんの特訓の様子をそういう記事用の写真に残しておきたいっす!」
「そ、そうか……」
皆と合流した俺だったが、どうも光華、アヤノ、秀光、カミラエルの4人は体育祭に向けた特訓をするつもりらしく、写美は特訓をする皆の写真を撮るのに専念するのだとか……
つまり、来週の体育祭当日までは一緒に居れないという訳だ。
「ん?……兄さんは特訓しないのです?」
「……俺としてはわざわざ特訓する程、体育祭に情熱を持てなくてな……」
「ああ……私と同じなのです……」
「だろうな……」
俺は特訓するつもりはない。
そこまでの情熱を、体育祭に持てていないんでな。
「……とはいえ、私もしばらくは一緒に居れないのです」
「何でだ?」
「そろそろ、パンジャン選手権の時期なのです!」
「……なるほど、もうそんな時期か……」
パンジャン選手権……
影華がプレイしている兵器作成ゲームにおいて、ある物好きが年一で開催している謎の祭典……
皆が自作のパンジャンドラムを持ち寄り、レースをするのだとか……
前世の世界でも似た様な事をしている人は居たが、そういう物好きはどの世界にも居るんだな……
「取り敢えず、今年も優勝は私が貰うのです!」
「……"喝采のshadow flower"なんて異名を貰っちまうレベルだもんな……今回も楽勝そうか?」
"喝采のshadow flower"……
例の兵器自作ゲームにおける影華のプレイヤーネームである"shadow flower"に、そのゲームにおける異名として"喝采"が付けられたものだ。
なお、異名の由来はどんなパンジャンに対しても喝采を上げていたからだとか……
何をやってるんだと言いたくなった。
「……ただ、今回は歴戦の猛者ばっかり参戦してるので、いつもみたいに簡単に優勝とは行かなさそうなのです」
「そ、そうか……」
「そうなのです……それでも、5年連続優勝の座は誰にも譲らないのです!」
うん、影華もしばらくは一緒に居れなさそうだな……
……となると、まあ1人でぶらつくか……
「じゃ、体育祭当日を楽しみにしとくか……」
そうして俺は皆と別れ、1人で校内を歩き始めたのだった……
それから数分後……
「zzz……zzz……zzz……むにゃむにゃ……怠いでございます~……」
「えっと、確か……何って名前だったか……」
校内をぶらついていた俺は、物陰で居眠りする1人のメイドを見つけた。
カミラエルに仕えてる黄髪のメイドで……名前が全く思い出せない……
……というか、そもそも名前を聞いたかすら定かじゃない。
「zzz……zzz……ん~?……おや、貴方は……」
「あ、起きたか……」
「えっと……明様でございましたか?」
「ああ、そうだ」
向こうは俺の名前を覚えていたらしいが、俺は全く分からない。
「ん?……さては、私の名前を知らないのでございますね~?」
「……うっ、それは……」
「まあ、無理もないでございます……」
「そうか?」
名前を知られていないのに対して、こんな反応を返せるとか……
どうも、負けた気になるのは何故だ……
「私の名前はエレジー。……お嬢様に仕えるメイドにして、メイド達の指揮系統を務める"吸血三連星"の末席に座る者でございます。……あ~、説明するの面倒臭かったでございます~……」
「……とことん面倒臭がりだな……」
こんなのが、俺が正常に扱える範囲での実力と互角の実力を持ってるとか……
やはり、伊達に吸血鬼として長くは生きていないのだろう。
「ハァ……そういえば、明様がここに居るとなると……もしや、今は放課後でございますか?」
「そうだが?」
「マジでございますか……メイドの仕事、完っ全にすっぽかしているでございます……」
「それは……俺からは何も言えないな」
「うわぁ……お嬢様に怒られるの面倒なんでございますよね~。……あ、そうでございます!」
「ん?」
エレジーさんはメイドとしての仕事をすっぽかしてしまったらしく、カミラエルに怒られるのを回避しようとして何かを思い付いていた。
「明様、少し手伝って欲しい事が……」
「やらないぞ?」
……悩んだ結果に出した結論が、俺に手伝って貰うってどうなんだ……
「そんな~!……すっぽかした分の仕事を今から片付けるのは、いくら何でも面倒でございますよ~!」
「メイドなんだったら、まずすっぽかすなよ……」
「うっ……それはそうでございますが……」
「そもそも、そんなんでよくメイドになれたな?」
こんな性格で、よくメイドになれたものだ……
そう、俺が考えていると……
「そりゃ、私を含めお嬢様に仕えているメイドの最古参組は暗殺メイドの落ちこぼれが左遷させられた結果でございますし……」
「……え?」
「おや、知らなかったのでございますか?……かつてのお嬢様は忌み子として塔の中に幽閉されておりまして……そんなお嬢様に仕えていた私共は、忌み子の世話係として塔に左遷させられた暗殺メイドの落ちこぼれに過ぎないのでございます」
「そ、そうだったのか……」
忌み子と、その世話係として左遷させられた暗殺メイドの落ちこぼれ……
……あんまり聞くべきじゃなかったかもな……
「さてと……この感じですと明様は手伝ってくれなさそうでございますし、面倒臭いでございますが仕事に戻るといたしましょうか……」
「あ、ああ……」
そうしてエレジーさんは、日に当たらない様に影を渡りながら何処かへと立ち去ってしまった。
……何か、関わらなくても良い事に関わっちまった気がするのは気のせいだと信じてぇな……
ご読了ありがとうございます。
吸血メイド達はカミラエルが生きている限り不死身ですが、それはそれとして日光に苦手意識を持っています(浴びても別に死にません)。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。