2.トラウマと兄妹関係
何かもう、ヤケクソです。
(禍津 明視点)
あれはいつの頃だったか……
「あ、そろそろ漫画の発売日か……にしても、光華も影華も言い過ぎだろ。……いくら俺が男だからって、近くのコンビニに行く位なら……」
当時の俺は前世の記憶も思い出していない上、この世界で男性がどれだけ女性から狙われているか知らなかった。
だから、普段なら家族の誰かしらが買って来る漫画を、あろうことか自分で買おうと外出してしまった。
そして当然の如く、事件は起こった。
「ま~、こんな所に男の子が!……私にも運が回って来たのね~!」
「っ!?」
見るからに不審者な女性が、俺の前に現れたのだ。
勿論、俺は異能を使って抵抗しようとした。
しかし……
「【蛇の目】!」
ーピクッ……
「う、動けねぇ!?」
向こうに異能を使われちまった俺は、何故か全く身動きが出来なくなっていた。
「ふふふ、私の異能……【蛇の目】は相手の動きを止められるの。……さあ、これで君は私のものよ!」
恐怖で心臓の鼓動が早くなる。
ああ、こんな事になるなら外出しなければ……
そんな事を考えていた直後だった。
「っ!?……お兄様、大丈夫ですか!?」
「チッ!……兄さん、面倒事は起こさないで欲しかったのです!」
俺が家に居ないと気付いた光華と影華が、俺のもとに駆け寄って来たのだ。
「あらぁ……これはマズいわねぇ……」
「……なるほど……奴の異能は恐らく、見た生物を停止させる能力なのです!」
「つまり?」
「私達か兄さん、どちらかしか見れないのです!」
「……バレちゃったらしょうがないわねぇ……」
ーぎゅっ……タッタッタ……
そう言った不審者は、俺を抱き抱えて逃げ始めた。
……この時、俺はとても嫌な気持ちだったのは今でも覚えている。
だが……
「お兄様、今助けます!……【魔術百科】、【スティール】!」
ースポッ!
「っ!?……男の子が私の腕から消えた!?」
俺は光華の異能により、不審者の腕から光華のもとへと飛ばされた。
そして、その直後……
「ふぅ……これなら遠慮なくあの女をぶちのめせるのです!……【兵器錬成】、【テーザー銃】なのです!」
ーバチッ!……ビリビリビリビリビリビリ!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
影華が異能で作り出したテーザー銃を用いて、不審者を鎮圧した。
……今思い返せば、そもそもこの世界にもテーザー銃があるのは驚きだな……
「ふん……精々相手が動けなくなる程度の威力に抑えたので死にはしないのです」
「……いや、それでもやり過ぎだと思いますよ?……まあ、お兄様を拐おうとした時点でやり過ぎでも全然構いませんが」
「じゃ、警察に通報するのです。……ところで、これ正当防衛で行けるのです?」
「そんなの、私は知りませんよ」
……結局、この後に駆け付けた警察によって不審者は逮捕され、俺は念のため病院に連れて行かれた。
結果、俺の方は特に異常無しだったのと、妹達の行為は正当防衛として認められたので事なきを得たのだが、それがトラウマになった俺は前世の記憶を思い出すまで、引きこもりとなってしまったのだった……
そして話は戻って現在……
「はい、異常はありませんね」
「え?……お兄様は階段で足を踏み外して頭をぶつけたんですよ!?」
「ええ。……ですが奇跡的に頭の表面から出血してるだけで、内部に異常は見られません。……骨にヒビも入っていませんし、内出血も見つかりませんでした」
「……兄さんは昔から頑丈なのですから、そうだと思ったのです」
……病院で診て貰った結果、頭部の表面から出血してるだけで、他に異常は見つからなかったという話を聞く事になった。
どうも、俺は昔から頑丈らしい。
いや、記憶はあるが自分目線だとそう感じないもんなんだよなぁ~。
「……ぐぬぬ、ここでお兄様に命の危険や後遺症も残らない程度の異常が見つかれば、堂々と介護出来たのに……」
「……光華姉さん、頭沸いてるのです?」
……うん、光華の言葉はいつ聞いてもヤバい。
それでも命の危険や後遺症が残らない程度と言う辺り、きちんと良心も存在してるのだろう。
「ははは……光華、あんまりそういうのは……」
「あっ……お兄様、ごめんなさい……」
「……兄さん、これを野に放っておくのは危険なのでそろそろ貰ってやるのです……」
「俺の意思は!?」
いくらこの世界が兄弟姉妹間での異性結婚を認めているとはいえ、それはそれだろう……
ちなみにそういった近親婚がOKになった理由としては、男性が少ないが故に行われる人工受精では誰が兄弟姉妹であってもおかしくないため、寧ろその結果に起こる遺伝子異常をどうにかする方向に科学が進んだ結果OKになったのだとか……
……何度聞いても狂ってる話だな……
「……良いんですよ。……例え私の気持ちがお兄様に受け入れられなかったとしても、私がお兄様をお慕いする気持ちに変わりはないんですから……」
「何も良くない気がするのは私だけなのです?……兄さんに受け入れられなかったらスッパリ諦めるべきなのです!」
「それは個人の勝手ですよね!?」
「光華姉さんの場合、何かやらかしそうで怖いのです!」
……おい、クソ神……
俺をこんな世界に放り込んで、いったい何が見たかったんだ?
「取り敢えず治療はしたので、後は経過観察ってところですね。……何かあったらまた来てください」
「は、はい……」
この世界の病院は治療系の異能持ちが居るので、診察と治療もスムーズに終わった。
それと男性を相手にする医者や看護師は、男性相手に発情しない様に訓練されているので、当然襲われる事もない。
……ただ、そんな平穏がつまらなく感じるのは何故だろうな……
そして数分後……
「はぁ……家に着きましたね……」
「光華姉さん、いい加減シャキッとするのです!」
「だって~!……ほら、私も影華も春から強力な異能力者専門の全寮制高校に行く訳ですし、そうなると高校に通わず引きこもってるお兄様とは離れ離れになってしまいますし……」
「もうこの激重ブラコンは!……だから現実を見るかさっさと告れと言っているのです!」
……そう、今の俺は高校に通う年齢でありながら通っていない状態なのだ。
不審者の件もあって引きこもりになった今世の俺は、強力な異能力者が入学を強制される全寮制の高校への入学を男性特権で蹴っているからな。
……ただ、前世を思い出したらトラウマの影響も軽くなったし、通ってみるのも悪くはないと思える。
ちなみに高校に通っていれば2年である。
「……俺も通うか……」
「「っ!?」」
「な、何だその反応は!?」
「や、やはりお兄様は頭を強く打たれて……」
「……でも、異常はなかった筈なのです!」
そりゃまあ、今朝まで引きこもってた奴が高校に行くとか言い出したらこういう反応になるよな……
「……単純に行きたくなっただけだ。……トラウマも少しはマシになったしな」
「お、お兄様……」
「兄さん……」
今まで2人には苦労をさせちまったし、今後はどうにか2人を助けて行けたら……
とか思ってたんだが……
「……お兄様が引きこもり卒業なんて!……これじゃあ、私が一生お兄様の面倒を見る事で私に依存させる計画がぁぁぁぁぁぁ~!」
「光華姉さんが壊れたのです!?……兄さん、責任を取ってどうにかするのです!」
「……どうしてこうなるんだろうな……」
……いずれは光華の想いに向き合わないと駄目なんだろうが、今はちょっと向き合いたくねぇ……
それと影華は光華の事を俺に押し付けて来るし……
……どちらも俺程ではないにしろ強い異能持ちな訳だが、それにしても2人とも高校生活は大丈夫なのか?
そんな事を考えつつも、俺は何事もない今世の日常へと戻るのであった……
ご読了ありがとうございます。
次回より、高校生活開始です。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。