14.とある忌み子の復讐譚
(※タグにガールズラブを追加しました。)
今回の話に登場する人物が"姫様"ではなく"お嬢様"と呼ばれる理由は、単純に王族としては居ない存在として扱われているからです。
(??視点)
目の前に広がるのは、凄惨な光景……
地に伏せ、体から血を流す私のメイド達……
あちこちで上がる火の手……
私が何をした?
【吸血女王】なる異能を持って生まれた私は、幼い頃から塔に幽閉されていた。
そこまでは良い。
だが、小国の王であった父が病死し、王位を兄が継いだ時から全ては狂った。
あの愚兄は私が邪魔だったらしく、兵士を率いて塔に攻め込んだ。
次々と殺される私のメイド達。
家族でさえ信じられなかった私が絆を育めたメイド達が、兵士に抵抗して串刺しにされていった。
どうして、私を守る?
投降してしまえば、殺されずに済むのに……
「はっはっは!……お嬢様を守るために死ぬのなら本望でございます!」
ードドドドド!……ボォォォォォォ!
熱血な性格だったメイド……フレイヤは、多くの兵士を巻き込んで火だるまになった。
「ひっ!……こ、怖いでございますが……お嬢様のためならこの命!」
根暗な性格だったメイド……アイシャは、愚兄配下の将軍と相討ちになって果てた。
「あ~あ……ごふっ!……お嬢様……逃げ切れたら休みが欲しいでございますね……なんて、もう無理そうでございますけどね……」
面倒臭がりな性格だったメイド……エレジーは、私を庇って槍を何本も受けて……私の目の前で死んだ。
「くっくっくっ……どいつもこいつも、そんなに愚妹が大切らしいな……お陰で折角の配下が何人も死んだぞ!」
愚兄が何か喚いていたが、私にはどうでも良かった。
「私が……何をした?……私をずっと幽閉していたお前達が、更に私の大切な者達を奪う理由は何だ!」
思わず、心の底から声を上げた。
それに対し、愚兄の答えは……
「そんなの、俺様にとって邪魔だからだが?……お前の異能は俺様の覇道の妨げになり得る。……つまりまあ、その異能を持つだけで、俺様にとっては"悪"な訳だ」
「……は?」
そんな理由で、私は虐げられたと?
そんな理由で、私のメイド達は私を守って……
そんな理由で……私は全てを奪われる?
そんなの……受け入れられるか!
「愚兄の言いたい事は分かった。……だから何だ?」
「ぐ、愚兄だと!?」
「それが私を虐げる理由になる訳がない……なってたまるか!」
「こ、こいつを早く殺せ!……愚妹を守るメイドはもう居な……」
その時、私の脳裏にとある技の名前が浮かんだ。
私は、何の躊躇もなくそれを唱えた。
「【死の行進】……」
そう、告げた瞬間だった。
ーむくり……
「なっ!?」
「……エレジー?」
さっき死に絶えた筈のエレジーが起き上がり、愚兄へ向けて歩き出した。
それだけじゃない。
ーむくり……むくり……
「……な、何なんだ!」
「……アイシャに……フレイヤまで……」
死んでいた筈のメイド達が、次々に起き上がり始めたのだ。
特に、炎によって焼死体となっていた筈のフレイヤに至っては、生きていた頃と殆んど変わらない状態まで肉体が再生していた。
ーむくり……むくり……むくり……むくり……むくり……
「なっ……ど、どうなって……」
「……クラネア……リズラ……アドリー……」
いつしか、死んでいた筈の私のメイド達は全員立ち上がっていた。
ただし、全員私の様に色白な肌になっていたが。
「こ、殺せ!……どうやったか知らないが、どうせどいつもこいつも既に死んで……」
「……えるでございますね……」
「ん?」
「死んでた筈なのに生き返ってるとは、燃えるでございますね!……【火炎操作】にございます!」
ーボォォォォォォ!
「へ、陛下!……各所の炎が急に我が軍を襲い始めました!」
「なっ……」
最早、愚兄は『なっ……』しか言えなくなっていた。
「ひひっ!……【氷脚】でございます!」
「面倒臭いでございますが……【雷拳】でございます!」
「な、何だこのメイド共は……うわぁぁぁぁぁ!」
「さ、刺しても止まらな……うわぁぁぁぁぁ!」
私のメイド達は、次々に兵士達を蹂躙していった。
一応、兵士達も異能は持っていた筈だが……刺しても燃やしても止まらないメイド達相手には分が悪かった。
だが、愚兄だけは違った。
「はっ……はははははははははははは!……そうだ、最初からそうすれば良かったのだ……」
「愚兄……何を言っている?」
「お前は俺様の異能を知らなかったなぁ!……俺様の異能は【覇道の魅力】、全てを魅了し配下にする異能だ!」
「へぇ……だから何だ?」
この愚兄は……
ここまで来て希望を失わないのは現実が見えていないのではないか?
「くっくっくっ……お前のメイド共はどうも不死兵となっている様だが……それを全て俺様の配下にすれば解決ではないか!……お前は以前試した時に俺様の異能で配下に出来なかったが、メイド共はそうも行かないだろ!」
……この愚兄は、王の器ではないな。
ここに来て逆転出来ると思っているのもそうだが、そんな異能があるなら最初に試すのが普通だろう。
なのに、今の今まで使わず、悪戯に兵士を死なせた。
……正気を疑うな……
「さあ、お前達!……俺様の配下となれ!」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
私のメイドに向けて配下になれと迫った愚兄。
メイド達はしばらく黙って愚兄を見続けると……
「……ん?……ど、どうして何も言わな……」
「「「「「「「「「「この糞ボケがぁぁぁぁ!……絶対にお断りでございます!」」」」」」」」」」
「え、何で……」
「【火炎操作】でございます!」
「【氷脚】でございます!」
「【雷拳】でございます!」
「【断糸】でございます!」
「【毒液生成】でございます!」
「【破壊音波】でございます!」
「【酸生成】でございます!」
「【探視】でございます!」
「【宝石生成】でございます!」
「【怪光】でございます!」
愚兄に向けて、メイド達が一斉攻撃が飛んだ。
中には攻撃用でない異能も混じっていたが……まあ、拒絶の意思としてなら充分だ。
……それにしても、全員の異能が強化されている。
本来なら、どのメイドの異能も名前の割には使えない異能ばかりだったのに……
「……な、何が……って、うわぁぁぁぁぁ!」
そうして全員の攻撃が終わった後、愚兄の周りに有ったのは配下の兵士達の亡骸だった。
しかし、愚兄はまだ生きている。
いや、生かしてある。
「愚兄よ。……私を"悪"だと罵ったな?」
「い、いや……"悪"じゃない!……だから……」
「だから……何ザマス?」
「ざ、ザマス?」
愚兄、お前が私を"悪"というなら……"悪"を貫いてやろう。
……いや、貫いてやるザマス。
「ふふ、悪役らしい喋り方ザマスよね?……愚兄が望んだ事ザマスよ?……私が"悪"だというのは……」
「そ、それは……」
「じゃあ、そろそろ愚兄も死ぬザマス」
「待て!……待ってくれぇぇぇぇぇ!」
本当にこの愚兄は……最期まで無様ザマスね。
「待たないザマス。……【万死の呪い】ザマス……」
ーブスッ!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
【万死の呪い】は、その名の通り1万回死ぬのと同じ痛みを体験させてから殺す呪いザマス。
そんな呪いをナイフに込め、私は愚兄をナイフで刺したザマス。
結果……
「……死んだザマスね……」
愚兄は惨めな悲鳴を上げた後、糞尿を垂れ流して死んだザマス。
……それを経ても尚、私の心に変化は全くなかったザマス。
「お嬢様……」
「……お前達は、本物ザマスよね?」
「はい。……正真正銘、お嬢様のメイドでございます」
それは私も実感出来たザマス。
私の目の前に居るのは、私と苦楽を共にしたメイド達なのだと。
「……今の状態は?」
「どうも、吸血鬼としてお嬢様の眷属になっておりますね……」
「……全員ザマスか?」
「はい……」
それは……
でも、蘇生出来たのは奇跡ザマス……
それ以上を望むのは……
「それで、お前達は私に今後も仕えるザマスか?」
「当然でございます!」
ーこくり
……全員が頷いたザマス。
「本当に……なら、当分は身を隠すザマスよ」
「え?……この国の民の皆殺し等はしないのでございますか?」
「しないザマスよ!……別に、民に罪はないザマスしね!」
「……本当に、お嬢様は……」
メイド達が生暖かい視線を向けて来たザマスが、関係ないザマス!
そのまま私達は身を隠し、歴史の裏で暗躍を続けたんザマス……
……………………
……………
……
…
ーぱちっ
「ん?……懐かしい夢だったザマスね……」
そうして、私……カミラエル・レッドブラッドは目を覚ましたザマス。
さて、今日は作戦実行の日……
上手く穏便に勧誘を済ませたいザマスね。
ご読了ありがとうございます。
【吸血女王】の能力は、死者蘇生から呪い、数多の攻撃能力等、多岐に渡ります。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。