12.アヤノのカミングアウト
息抜きの筈が、こっちのアイデアばかり湧いて来ます。
(禍津 明視点)
「ハァ……」
あの相談の翌日……
俺は、未だに自分の思いに答えを出せていなかった。
彩ノ進……いや、アヤノの事は可愛いと思うし、女子だったら間違いなく告白していた。
だが、彩ノ進は男だ。
ただでさえその壁は大きいのに、ここは男女比が狂った貞操観念逆転世界ときた。
……まあ、碌な事にならないよな……
とか思っていると……
「明、今大丈夫かな~?」
「ん?……って、彩ノし……ごほん!……アヤノか……」
突然、彩ノ進もといアヤノが話しかけて来た。
「お、ちゃんとボクの事アヤノって呼んでくれるんだ?」
「ま、まぁな……」
アヤノ呼びで呼ばれた事により、アヤノは少し機嫌が良くなっていた。
しかし、次の瞬間には少し表情を暗くして……
「……今、ちょっと良いかな?……あ、用事があるなら別に行って良いよ?」
「いや、特に用事はないが……」
「だったら、向こうの人が居ない場所で話そっか?」
「そうするか……」
アヤノの雰囲気からして、重い話なのは分かった。
……まあ、明らかに苦労してそうだしな……
「……はは、ありがとね……」
「何か、らしくないな……」
「別に良いでしょ?……ボクだって、こうなる事はあるの!」
「そ、そうか……」
そんなこんなで俺達は人が居ない場所まで移動した。
そして、アヤノが本題に入った。
「……あのさ、ボクって変わってるよね?」
「そうだな。……明らかに普通の男子じゃないが……」
「でもさ。……ボクが変わってるのは格好だけじゃないの。……ボク、性自認は男なのに恋愛対象も男なんだよ……」
「えっ……これはまた、ややこしいな……」
性自認は男性で、恋愛対象も男性……
格好も相まって、まだ性自認が女性と言われた方が納得も出来たんだが……
「ちなみに、女装してるのはただの趣味だよ。……ボクの恋愛対象が男性なのとは、特に関係ない……」
「……な、何が好きかは人それぞれ自由だと俺は思うぞ?」
「ははっ……慰めは要らないかな……」
「……そうか……」
……俺は何故、アヤノからカミングアウトを受けているんだ?
そして、どう反応するのが正解なんだ?
……正直に言って、こういうのは俺からすると特に気にしない話題だったりする。
別にアヤノの恋愛対象が男性だからって気持ち悪いとは思わないし、縁を切りたいとも思わない。
……でも、アヤノにしてみればそうも行かない。
この男性の数が10人に1人の世界……と聞けばそこそこ居る様に感じられるが、男1人につき9人の女性を割り当てなければ釣り合いがとれない世界とも言える。
しかも、大抵の男性は傲慢に育つか臆病になるかの2択で、俺みたいな一般的な感性の男性はそう居ない世界だ。
……そんな世界で恋愛対象が男性など、許される筈がないのだ。
「い、一応何とか精子提供はしてるから、ボクも社会的な立場は保証されてるけど……でも、多分誰かと結婚するのは厳しいかな……」
「あ~、それで俺に何を求めてるんだ?……未だに俺にカミングアウトした理由が分からないんだが?」
俺はアヤノの話が切れたタイミングで、アヤノが俺に何を求めているのかを聞いた。
「……明は、ボクの話を聞いても気持ち悪がったり、恋愛対象の矯正を強いたりしないの?」
「しないが?……今の話を聞いて気持ち悪がるなら、初めて会った時点で気持ち悪がってるだろうし、恋愛対象の性別なんてそう簡単に変えられるものじゃないだろうしな」
「……ボクが性的に君を狙うとは思わないの?」
「そ、それは……狙われても嫌な気はしないな……」
アヤノは恋愛対象が男性と言う割に、ちゃんとした距離感を保っている。
この世界の女性陣は一部を除いて男性相手に猪突猛進な感じなのに、だ。
「へ、へぇ~。……つまり、ボクもワンチャンあるって事かな?」
「ん?……ワンチャン?」
……あれ?
何か、アヤノの目が獲物を狙う肉食動物のそれになったんだが……
「他の男性みたいに傲慢でも臆病でもなくて、ちゃんとした女性となら上手く接してくれる。……こんな男性、優良物件でしかないよね?」
「……ひ、秀光とかどうだ?……あいつも結構良かったり……」
「秀光は駄目。……家柄がハードル高めだし、何よりボクには眩し過ぎるからね……」
「なるほどな……」
いったい、女性陣やアヤノには秀光がどう見えているんだろうか。
何気に気になるな……
「というか、嫌な気はしないんじゃなかったの?」
「嫌な気はしないが……少し考えさせてくれ。……俺も今、アヤノに対する思いが何なのか考えてる最中なんだ……」
「ふ~ん……ボクの事は嫌じゃないのに、それを受け入れかけてる自分に対して思うところがあるって感じに見えるけど?」
「うっ……」
やはり、アヤノはどう見ても可愛い女子生徒にしか見えない。
でも男だ。
こんな可愛い娘が男なんて信じられないが、普通に男なんだよなぁ……
「ま、ワンチャンあるって知れただけでも御の字だよね。……という訳で明、自分の思いに答えが出たらしっかり頼むよ?」
「……とか言って、平気そうに無理するのは辞めろ」
「ははっ……やっぱりバレちゃった?」
「……当たり前だろ。……俺にアヤノの苦しみは分からないが、少なくともこんな話をした程度でどうにかなるものだとは思えない。……本当なら、俺も早めに自分の思いに答えを出して、アヤノに寄り添うべきなんだろうが……」
この貞操観念逆転世界では、男性が優遇されるとはいえそこにアヤノの様な者は含まれない。
俺の意思ではないとはいえ、言ってしまえば生産性がない訳だからな。
それでも何とか精子提供している内はギリギリ含まれるだろうが、その内アヤノの事を知った者から同性愛が遺伝すると言われる可能性も残っている。
……俺はいったい、どうするのが正解なんだろうな。
とか考えていると……
「えっと……明?……何でナチュラルにボクに寄り添う事が確定してるのかな?」
「ん?……そりゃ、付き合うにしろ付き合わないにしろ、見捨てるなんて出来ないからだが?……付き合えば恋人として、付き合わなかったら友人……場合によっては親友として、一生寄り添ったって……いや、アヤノにしてみればそういう相手と友人関係を続けるのもキツい可能性が高い訳か……考えなしだったな、すまん……」
「いやいやいや!……何か明って、ボクが考えてたよりも重い?」
「そうか?」
いやまあ、確かに会って1週間程度の奴がずっと寄り添うとか言ってたら重いか……
……え?
もしかしなくても、俺って重い?
「ハァ~……話聞いてくれてありがとね……答え、待ってるよ?」
「分かった……」
そうして、俺達の会話は幕を閉じた。
……さて、これを踏まえてどうするかだな……
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(禍津 影華視点)
「ああ、お兄様……私が一時的に大人しくしているとはいえ、やはりお兄様成分を摂取出来ないと……」
「光華姉さん、ステイなのです!……というか、お兄様成分って何なのです!?」
また光華姉さんが変な事を言っているのです……
そもそも、今は兄さんにアヤノ先輩への思いの答えを出させるとか何とか言って大人しくしてるのは光華姉さんの筈なのですが……もう禁断症状出てるのです?
「ああ、お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様……」
「怖いのです!」
こりゃ、今日の放課後は兄さんと光華姉さんを会わせるしかないのですね……
そう考えながら、私は現実逃避をするのでした……
ご読了ありがとうございます。
アヤノは女装好きで性自認は男性で同性愛者という、非常にややこしいキャラです。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。