表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷華、咲くとき  作者: 神山雪
第二章 光合成【2012–2013年、ダニー・リー】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/21

第三話 条件は六位以内

 私が彼を引き受けるきっかけを作ったのは、私の元教え子だった。

 二〇〇九年の世界ジュニアも終わった春、元教え子の長澤真一が私を訪ねてきた。彼はプロスケーターを経て、生まれ故郷である盛岡に帰郷して指導者に転身した。彼はそこで一人の生徒を育てていた。


 それが神原出雲だった。


 私を訪ねてきた真一は、シニアに上がった後の出雲のコーチを引き受けてほしいと申し出た。あの子は五輪の金メダリストになれる器だが、自分はまだ若く経験がない。あなたならば、正しく出雲を導ける。私はそう言い募る真一を意外な気持ちで見つめながら、一つの条件を出した。


「三年以内の世界選手権で、彼を六位以内に入賞させなさい。そうすれば、あとは私がオリンピックチャンピオンにする」


 言った私自身は、それは無理だろうと鷹を括っていた。傲慢に、強気で無理難題を押し付ければ、きっと真一は引くだろうと。それほどに、元教え子の手腕と、その生徒に期待していなかったのだ。

 経験の少ない若いコーチと、脆弱そうな少年。

 私の言葉に、真一は目を光らせた。釣り上げた、と言わんばかりの予想外の反応に驚きながら、元教え子を見つめ返す。


「それは本当ですか?」

「ああ。約束する。だが、そのためには、この条件を飲んでもらう」

「わかりました。なら、俺がそれまでしっかり育てます。だから三年後には、出雲を……俺の教え子をよろしくお願いします」


 躊躇いなく答える真一の姿が新鮮に映った。

 現役時代の真一の姿を思い出す。才能はあるのに、滑りや言動に自信のなさが纏わりついていたものだ。彼の世界選手権の最高順位は、引退試合の六位だった。真一本人は入賞したことに満足していたが、彼のポテンシャルから考えれば、もっと上を目指せたのに。私は彼の自信のなさを最後まで拭い去ることができなかった。

 どこか遠慮して一歩引いている。そんな彼が、力強く頷いて日本に帰っていった。

 真一にそこまで言わせる少年は、本当は一体どんな選手なのか。私はそこから少し、神原出雲という少年に興味が湧いた。


 そして真一は見事に約束を果たした。

 ならば今度は私が、元教え子の想いに報いなくてはならない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ